TOS-R×TOZ(+TOB)   作:柚奈

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“  ”の夢

 

・試練

 

 導師になって倒れたスレイを宿まで運んでくれたのは、イズチから追いかけて来たロイドだった。

 勝手に黙って出てきたことを怒られるかと思いきや、ミクリオが怒られたのは無茶をしたことに対してでイズチを出たことではなかった。

「ミクリオは、スレイを助けたかったんだろ? それを悪いなんて言わないさ。ひとを助けるのに、理由なんかいらないんだから。自分で決めたんならやればいい」

「『人に頼るな己で歩け』、だね」

「そういうことだ」

 ニッと笑ったロイドにぐりぐりと頭を掻き回される。ロイドの身長はスレイよりも少し上だがほとんど同じくらい。スレイよりも小さなミクリオでは、ほとんど抵抗らしい抵抗なんて出来ないのだ。

 それを見ていたライラが微笑んだ。

「仲がよろしいんですのね」

「ああ、家族だからな!」

 からりと笑って、しかし眠るスレイを見て、ロイドがライラに向き直る。

「ライラ、スレイは………大丈夫なんだよな?」

「はい。天族と契約すると皆こうなりますが、命に別状はありませんわ。私の力とスレイさんの力が馴染めば自然と症状も落ち着く筈です。スレイさんほどの霊応力なら、三日ほど休めば目覚めるかと」

 自然に治り、もう後に引くこともないのだ、と言われて、ロイドはようやく表情を緩めた。

「そっか。ならいい」

 ミクリオはそれに覚えがある。まだスレイが小さかった頃、高熱で一晩魘されていたときと、同じ顔。

 が、その表情はすぐに消えて。

 

「じゃ、起きたときに旨いもんでも食わせてやるか! おーい宿のおじさーん!」

 

――――――

 重なった。

 忘れられない、後悔の話。

――――――

 

 

・器

 

(………やっぱり穢れが多いんだなぁ)

 レディレイクの街を歩きながら、ロイドは胸の内で呟いた。

 

 スレイが寝込んで、二日目。

 一日目はスレイを宿屋に運んで、アリーシャが手配してくれた部屋で休ませながら、ミクリオに詳しい経緯を聞いて。

 二日目、ロイドは手持ちの宝飾品を幾つか売って金を作った。ガルド硬貨は元の世界と似たようなものだったのだが、ロイドのそれはこの世界では“古銭”に分類されるらしく、使えないことはないが面倒で。細工物ならイズチでもやっていたから、それを金に換え、その金でアイテムを買い揃えたのだ。

 しかし戻るとミクリオと約束した時間までにはまだ少しあって、ロイドはその間に街を見て回ることにした。

 建物は立派である。流石は都。水路が町中に張り巡らされた作りは、どこか港町パルマコスタを思い出す。

 しかし街の雰囲気は全く違う。

 パルマコスタには活気があった。流石にあの惨劇の直後は人々の顔も暗かったが、それでもあの二度目の旅の時には復興を果たして元気な声が響いていたものである。

 が、この街には、それがない。

(なぁ。オリジンは、穢れは大丈夫なのか?)

(問題ない)

 胸の内に呼び掛ければ即座に帰る返事。これも最初は毎回驚いたものだが、今となっては慣れた。

(穢れって天族にとっては毒になるんだろ。だったら精霊にも毒になるんじゃないか?)

 ロイドには穢れが見えている。この世界に来たときから見えていた。それを見たときには嫌な感じがした。………魔族と対した時のような。

 精霊にとって魔族は天敵であり、魔族の障気は毒となる。それは精霊の王オリジンでも例外ではない。

(それも、問題ない。今の私はお前と契約し、それに基づきお前に宿っている状態だ。その為か、穢れの影響はかなり軽減されている)

(そっか。大丈夫なら良いんだ)

 そしてそれきり、オリジンの声は聞こえない。オリジンはロイドの方から呼び掛けなければ話し掛けてこない。

 元の世界でもそうだった。ロイドがオリジンの力を借りたのは大樹を蘇らせたあの時だけ。

 

 その他のことは自分の力で切り開く。それがロイドの生き方だから。

 

―――――――――

 正確に言うならばオリジンはロイドの『エターナルソード』に宿っている。

 エターナルソードの力はロイドの持つ二本の剣と、エターナルリング、そしてロイドが揃わなければ発揮されない………つまりはその四つまとめてオリジンの器。

 

 ロイドが受けてる加護はオリジンと、マーテル(大樹)の加護の二つ。だからなのか、ロイドはスレイ並みに穢れがないし、穢れが多くても狂ったり思考が誘導されたりはしない。

―――――――――

 

 

・スレイの夢

 

「お、起きたな」

 部屋に入ってくる人を見て、スレイは目を丸くする。

「え、ロイド!? なんで―――ってアレ夢じゃなかったのか?!」

 アリーシャに三日くらい寝込むね、と言って、気を失う―――直前に。開いた扉からロイドによく似た人が入ってきた気がしたのだが。

「なんではないだろ? スレイが心配だったからに決まってる。で、もう体はいいんだな?」

「あ、うん、もう平気」

「よかった」

 ミクリオがそれとなくライラを促して部屋を出ていく。

 二人きりになって、ロイドは言った。

「スレイは、これからどうするんだ?」

「―――」

「スレイがどうしてイズチを出たのかは、ミクリオに聞いた」

 アリーシャに危険を伝えるため。あのキツネ男を止めるため。“視”えないアリーシャではわからない危険を、“視”える自分なら、と思ったから。

「お前は、どうしたい?」

 改めてロイドに聞かれて、スレイは考える。

 

 ロイドは何時だって、スレイに色々教えてくれた。

 例えば料理はロイドに教わった。剣の手入れもそうだ。ミクリオとケンカしてサークレットを壊してしまったときはロイドに教えてもらって手伝ってもらって直したものだ。

 喧嘩したら見守ってくれて、隠し事をしたら怒ってくれて。一緒に遊んで、笑って。色んな話を聞かせてくれて、………そして何時でも、スレイとミクリオの意思を尊重してくれた。

 何がしたいのか、どうしたいのか。

 

「………オレの夢は、昔から変わらない」

「あぁ」

 イズチで、人間はロイドとスレイだけ。天族の杜にとって、穢れを生む人間は災いの元だ。

 

 ―――この地に災いをもたらすだけだ、人間は

 ―――オレも、人間だよ

 

「オレは夢を叶えたい。そのために導師になった。だから、」

 導師になることで、人と天族を救えるなら。人と天族の共存に繋がるなら。世界が少しでも、変わるのなら。

 

「オレは導師として、頑張りたいんだ」

 

 ………ロイドは笑ってスレイの頭をかき回して。

「そっか。なら、スレイがしたいようにすればいいさ」

 自由に、自らの思う道を生きよ。お前の人生を精一杯。

「うん!」

「けど一つだけ忘れるな」

「?」

 一人でなんでもできるわけじゃないんだってこと。

 

 

―――――――――

 ロイドはラタ騎士から数年後。そこから更にスレイたち育ててるので、ちょっと大人っぽくなってます。

 まあ色んな人に憎まれたり嫌われたり上手くいかなかったり。エクスフィア回収の旅でロイドはミトスの苦労を思い知ると思うのです。

 そして『ロイドがどうしたいのか』を大切にしてくれた仲間たちの有り難みをよくよく思い知ると良いのです。

 ほんっとうにシンフォニアは仲間に恵まれたからこそのあの結末ですからね!

 

 っていうかこう言うこと言ってくれそうな人がいないんだよ! どうしてみんな「スレイがどうしたいか」じゃなくて「どうするべきか」を聞くんだよ! スレイが物分かりよすぎるのは『天族の中でただ一人の人間』というのが大きく影響してると思います。

―――――――――

 

 

………………………

・アリーシャの所に付いていくロイド。アリーシャには改めてお礼を伝える。ロイドの霊応力はかなり高い。

・アリーシャの家で遺跡のことを聞いて向かうスレイ達だが、ロイドは別行動をとる。

・街を歩いてたらミクリオを発見。隣に座って話をする。

………………………

 

 

・だからこそ

 

「………なるほどなぁ」

 ミクリオとスレイのケンカは、昔は日常茶飯事だった。

 言い合いになって、互いに意地を張って、引っ込みがつかなくなって。けれど夜は普通に同じ釜のご飯を食べ、一緒の家で眠る。数日経ったらいつのまにか元通り、なんてこともあったっけ。

 大きくなるにつれて二人は議論はしてもケンカはしなくなった。互いのことをよく知っていて、互いを思いやっているからこそ、お互いに相手の言い分も分かるから。

 だから本当に―――本当に久しぶりのケンカである。

 スレイの力になりたいミクリオと、ミクリオを巻き込みたくないスレイ。危険なことは分かっている。大変なことも知っている。辛いこともよくわかる。それでも相手だけには、そんな思いをしてほしくないから。

(コレットも、こんな気持ちだったんだな)

 最初の旅に置いていかれたロイド。

 旅の時、大切な時にはいつもいつも間に合わなかった。旅立ちの日も、再生の旅業の終わりも、コレットの病気が分かったときも。

 でも、それでも。

「スレイが僕のことを思ってくれているのは分かってる。だとしても―――いや、だからこそ、僕はスレイの隣にいたい。その為の力が欲しい」

 互いのことは互いが一番知っている。

 スレイは導師の宿命にミクリオを巻き込みたくないから、ミクリオは導師なんて関係無く夢を追いかけて欲しいから。

 スレイの夢は人と天族の共存。そんなに単純じゃないことは分かっているのだ。だって街に来て半日も経たずしてそれがどれだけ難しいことか、スレイは身に染みてわかっている。

 溢れる穢れにミクリオは具合を悪くした。これだけ沢山の人がいるのに誰も天族が見えていなかった。それどころか街の中に憑魔が居た―――街の中で、憑魔が産まれた。そして世界中がこんな状況なのだ。

 浄化するのが、導師の使命。

「それを手伝いたい、一緒にやりたいと思うのは、そんなに悪いことなのか………?」

「悪くはないさ。だってスレイのためなんだろ?」

 こくん、と頷くミクリオ。

「………けどな、悪くはないけど、それだけじゃダメなんだ」

「ロイド?」

 ロイドを見上げてくるミクリオの頭をポンポンと撫でて、ロイドは昔を思い出す。

「昔………もうずっと前に、俺も幼馴染みを助けたくて手伝いたくて、追いかけて旅をしたことがある。一緒に行くって言ったのに、巻き込みたくないからってあいつは俺を置いていったんだ」

 今でも目を瞑れば思い出せる。あの夜のこと。

「巻き込まれるなんて思わなかったのに。そんなの覚悟してて、それでも良いって思ってたのに―――私が頑張って世界を救うから、ロイドは平和になった世界で幸せに暮らしてくださいって」

「それは………」

 スレイはそこまではっきり言わない。でも。

「結局俺はあいつを追いかけた。けど旅をして、危険なことも沢山あって、俺は分かってる気になってただけで、何も知らなかったんだって思い知った。俺は弱くて、覚悟してたつもりでも何度も折れそうになった。その度に仲間が支えてくれたから乗り越えられたけど」

 子供の遠足ではない。気を抜けば死ぬぞ。油断するな。―――思えばあの言葉はロイドへの忠告であり、教えだった。あいつはいつだって事実しか口にしなかった。………何度、後になってから気付いて悔やんだか分からない。

「覚悟って、そういうことじゃないんだ。何があってもそれでもやる、っていうのは口で言えば簡単だけど、本当にやるのはすごく難しい。間違えないなんてのも絶対に無理だ」

 間違えないと誓っても間違えたように、繰り返さないと決めて努力していても同じ結果になってしまったように。

「なぁミクリオ。お前はスレイのためなら何でも出来るか?」

「僕に出来ることなら」

「―――なら、スレイの為に人を殺せるか?」

 ミクリオは絶句した。答えない。答えられない。それくらい、ミクリオも純粋で素直で、それくらいミクリオはスレイを大切に思っている。

「………ごめんな。けど分かっただろ? 誰かのためにってだけじゃ、結局それは最後の最後で責任を相手に押し付けることになる。………だからそれじゃ、ダメなんだよ」

 誰かのためにと動いても、それは結局自分のエゴだ。だから究極のところまで行き着くと誰かの【ため】ではなく誰かの【せい】になる。

 誰かのために動くのは悪いことではない。それ自体は悪いことではない。でも本当に相手を思うのならば、だからこそ。

 

「ミクリオはどうしたい。どうして、スレイを助けたい?」

 

 

 しばらくして、ミクリオが顔をあげた。

「ロイド。ありがとう」

 晴れやかな笑顔だ。悩んで沈んでぐだぐだしているより、ずっといい顔。

「礼を言われるようなことしてないから、気にするな」

「やっぱり、ロイドは凄いな。あんなに悩んでいた自分がバカみたいに思えてきたよ」

 答えはずっと出ていた。それに妙な屁理屈がくっついて素直になれなかっただけ。自分ではどうにも出来なかったことを、ロイドと話せばあっという間に答えが出た、と。

 ミクリオは、そう言うけれど。

「俺は、凄くなんてないさ」

 違うのだ。知らなくて、分からなくて、それだけしか見えていなくて。だからそれをがむしゃらにやって来ただけ。分からなくなったときも仲間がそれを支えて教えてくれただけ。

 ―――ロイドは弱い。強くなんかない。

「でも、だからこそ、強くなりたいって思うんだ」

 

 この先どんなことがあってもその覚悟を忘れない。

 砂漠の夜の、教えを忘れない。

 

 

―――――――――

 スレイとコレットって似てるよなぁってふと思ったり。

 

 もしかしたらスレイが地下水道であんなに怒ったのは、『ミクリオは穢れがなくなった世界で幸せに暮らせるのに、どうしてそんな苦労をするんだ』ってことなのかなーって。

 スレイにとってミクリオは幸せで楽しかった“夢”の象徴で、だからこそ導師の宿命には関わって欲しくなかった。だからこそ、幸せな世界で夢を追いかけ続けて欲しかった。

 スレイは導師になったから、もう夢を夢では終わらせられない。ただ夢だからと追いかけられない。だから、ミクリオだけは、なんて思ってしまったのかな、と。

 

 二人とも似た者同士ですよねー。

―――――――――

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