夕焼けが綺麗に見えることだけが取り柄の寂れた町、社会現象となった少子化が進んで街からは次々と人がいなくなっている。その街に一つだけの娯楽施設である映画館に若い人影があった。
つまらない街で四人の青年たちはいつも夢を語り合った。
(世界で1番強くなってやろうぜ、じゃあ俺はこの世で一番BIGな漢になってやるよ、いやその身長じゃ無理、じゃあ俺はどうしよっかな、兄ちゃんについて行こっかな、やめとけやめとけ…)
彼らには夢があった。身の程知らずなぐらい大きな夢が。なんでもできると思っていた。四人は自分と仲間を信じていた。
3月24日。彼らは少しずつ貯めたなけなしの金を持って東京に出た。それぞれの夢と希望を胸に。そのとき彼らは無敵だった。今なら全てを手に入れられると思っていた。それがどれだけ甘いことか!
東京で出会った5人の少年たちは田舎で育った四人のことなど眼中に無かった。虫を殺すかのように、あくまでもいつも通り、どんな手を使ってもナワバリに入る奴らは容赦なく潰そうとするのだ。
「毅?つーよーしー!!…あれ?どこ行ったんだろ?」
ジャンは不思議に思った。お花摘みに行くって言って、ここで待っててくれと頼んだはずだ。なのに相棒の姿がどこにも見当たらない。
真面目とは言えないしフラフラしているところはあるが、人を置いてどっか行くような男じゃあない。はて?
チッ、
毅は大きな舌打ちをした。こんなはずじゃなかった。タイマンじゃないのかよ、ふざけんな。
目の前には今さっき一騎打ちを申し込んできた小柄で猫っぽい顔つきの少年。たしかにこんな細っこい奴(まぁ俺も細いが)とタイマンはやりにくいとは思った。思ったがこれは無いだろ。
猫顔の少年を取り囲むように出てきた男達。ざっと数えても6~7人はいる。それもなかなかガタイのいいのが。
ムカつく。これが都会かよ。
喧嘩歴はなかなか長いと自負していた彼もこんな卑怯な手を使われるのは初めてだった。いや彼の地元の不良が馬鹿正直だっただけだが。
……
「っ…毅!!大丈夫!?」
端正な顔もボコボコに殴られ、全身にあざをつくった彼の姿を颯が見つけた。ジャンが毅がいないのはおかしいと颯たちに連絡したのだ。
毅がのした3~4人の男たちはそこに転がっていたが、猫顔の少年の姿は無かった。
美しい顔も台無しなぐらい包帯で巻かれた毅はことの経緯を3人に話した。猫顔の少年の取り巻きと戦ったこと、さすがの古川毅でも7人は辛かったこと、ジャンがいれば余裕だったこと。
「…その猫顔の子、俺見たかもぉ。うん、なんか派手な子達と一緒だったよ?」
颯が手をくるくるさせて話す。
5人組だったらしい。黄色、青、緑、橙緑、紫のアッシュを入れた四人の少年と一人の青年。紫アッシュで猫顔の少年なんてそうそういないだろう。きっと毅を卑怯な手でリンチした少年だ。
「たくさん取り巻きがいたってことはこのへんの頭ってことでしょ?じゃあそいつら倒しちゃえば俺たちがてっぺんじゃん!」
くしゃっと笑って三人を見上げながら言う玲於。身長は誰よりも小さいが最年長で頼れる男だ。
町外れの廃業したパチンコ屋が四人の溜まり場。包帯まみれの毅とその面倒を見る玲於が残り、ジャンと颯は5人組の
情報を集めることになった。
「いいか?ここは都会で夜でも明るいからってやりすぎちゃだめだぞ!4時には1度ここに戻ってくるように!行ってこい!」
ハーイ! おちゃらけて返事をしたジャン。真面目に頷く颯。
ジャンがここまで真剣に人から話を聞いてるの久々に見たなぁ、いや、初めてかも。遠くから颯は思った。相棒がやられたことに怒っているのか、いつもヘラヘラしているジャンには見えなかった。俺も頑張んなきゃ、颯は気を引き締めて目の前の人と向き合った。
……
4時。何度も時間を確認した。中にいる玲於兄ちゃんに聞いても4時だって言ってた。おかしい。ジャンがいつまでたっても来ない。毅がやられたばかりだから不安になる。兄ちゃんに探してくると伝えて颯は走り出した。
「ねぇ金髪のお兄さん、何コソコソ嗅ぎ回ってんの?」
振り向くと緑のアッシュで金属バットを持った少年がいた。その隣にいたのは紫で猫っぽい少年。
見つけた。
毅を卑怯な手で傷つけた奴。相棒を傷つけた奴。許さない
気がつくよりも先に殴りかかった。緑が動いたのが見えた
……
「ジャン!!」
薄暗い路地裏でしゃがみ込んだ金髪。間違いない、ジャンだ。颯は自分を責めた。毅の時もジャンもいつも間に合わない。俺は何をやってたんだろう
「ッ…はやて…?ごめんな、俺毅と世界一強くなろうって約束したのにな…来てくれてありがとう。ほんとごめん」
ジャンの口元からは血が流れ、白い身体のあちこちに赤が散っていた。謝らないでよ、謝るのは俺の方だよ、自らの痛みよりも相棒への無念に締め付けられるジャンの苦しさが颯を黙らせ、満身創痍な身体を支えながらゆっくりとジャンの相棒が待つところへ帰ろうとさせた。
帰ったら青い玲於がいた。コンビニの袋を下げて窓やらドアやら調べてる。なにやっとんのかね
そんで俺たちの方見たら見たで変な顔すんのね。
「お前達どうしたんだよ!そんな…また無茶したのか!?やりすぎんなって言っただろ!」
バタバタしながら俺の方心配するとか忙しいヤツめ。
毅が居なくなった。
俺が買い出しから帰ってきた時ドアが壊れてて窓も開いてた。毅は窓際に居たし何も言わずにフラッといなくなれるようなケガじゃない。誰か来たんだ俺の留守を狙って。手負いの毅を仕留めきる為に。どこまで卑怯なんだよ!
俺のPHSが鳴った。俺の番号を知ってるのは3人しかいないよな、毅だ
反射的に電話に出た。毅いまどこにいるんだよ。嫌な予感がする。だめだ、冷静になれ、俺。
「ごめん玲於…あいつらに追われてるんだ、情けねぇけど動けないわ、助けて。もうダメかも」
毅が弱音を吐くなんてありえない
「わかった助けに行くから。どこにいるんだよ毅」
毅が息を吸う音を最後に電話が切れた
玲於のPHSが閉じると同時にジャンがフラフラのまま駆け出して行った。支えてくれていた颯の腕を振りほどいて。
「ジャン!」
「ジャン待て!」
玲於がジャンを追いかけるように走り出した。
「颯はここで待ってろ!毅が帰ってくるかもしれないから!」
兄ちゃんに言われたら待ってるしかない。俺はまた何も出来ないのかな
目の前には小さな奴が二人。それだけなら毅は勝てただろう。2対1ぐらいなら経験がある。もう1人、頭一つ分大きな青年が問題だった。アンバランスな二重でじっとこっちを見て何も喋らない不気味な青年だ。
「そろそろ諦めてくれないかな?そんな体でよくここまで逃げたよ。えらいえらい。」
大きく口角を上げて喋る。いや口角が上がっているのは元からか。正直小学生みたいな顔を殴るのは趣味じゃないんだけど。まぁそんなこともあるか。都会すごいな。
高架に逃げた俺はもう逃げ場所がない。ここから一直線に走ったところで捕まる。こっちはボロボロなんだよな。
どうするか。今度は本当に足や腕の1本や2本持ってかれるかもな。笑い事じゃないわ。
頬を伝う冷や汗が傷口に染みる。その間も3人は距離を詰めてくる。あ、やばい
「毅!!」
下に走り込んできた相棒は俺と同じぐらいボロボロで、ろくに手当てもされてなかった。
ほんと馬鹿やな、そんなんで来て助けられるとでも思ってんのかな、嬉しいけどさ。階段上がってくる時点で俺はボコされるしお前だって瀕死やん。HPないやん。マジかよ。
毅!!
毅が体を預けるように高架から落ちてきた。ジャンが受け止めに行こうとしたけど足が崩れた。あぁ嘘だろ、毅、
ジャンの体を押しのけた玲於のダイブ。玲於が下敷きになることで毅と地面の直撃は避けられたものの玲於のダメージも大きく、ゴホゴホと咳き込んだ。
高架の上に残された3人は面白くなさそうな顔で玲於たちを見つめていたが降りてくる様子はなかった。
……
おかえり。
颯は泣きそうな顔でそう言った。
玲於兄ちゃんもボロボロだ。毅も包帯取れてる。ジャンだって走れるような怪我じゃ無かったでしょ。俺のせいだ。俺がもっと早く動けてたら。ごめんなさい兄ちゃん。どうしよう。ごめん。
「颯〜?まーた変なこと考えてるんだろ?兄ちゃんが先に動くのは当たり前だから気にすんな!な!」
玲於兄ちゃん、ごめん。
「そうだよ颯、気にすんなって。俺達がヘマしただけだよ。次は勝つしな?」
ごめん、ありがとう、二人とも。
俺たちはもう故郷を捨てたんだ。戻れない。ここで生きていくしかないんだ。そうだよな。4人揃えば出来ないことなんてないんだよ
その日の夕焼けは不思議と故郷と重なって見えた。