「これは…」
マミが呟いた。隣ではがっくりと肩を落としたニードが岩々を見上げていた。
峠の道を少々進んだ先には、確かに異常事態が起こっていた。先の地震によるものだろう、土砂崩れが起きており、とても人が通れそうなほどの様子ではなかった。お世辞にも広くて通りやすそうとは言えない道だというのに、脇にそびえる山から落ちてきた岩石によって、通行可能な範囲は完全に塞がれてしまっていた。
「なんだよこれ…こんなん、俺たちでどうにでもできるような感じじゃねえじゃねえか!せっかく峠の道を通れるようにして村のヒーローになるっていう俺の計画が…」
「ニードさん、そのようなこと考えてたんですね」
「っ!それは……ああもうちくしょう!」
ニードが図星を突かれたのか、焦った勢いで近くの岩をひのきのぼうで殴る。ずず…という不穏な音とともに衝撃で崩れた小さな岩が土砂崩れの山から転げ落ちて来た。
「うひゃっ」
なんとも情けない、高い声を出してニードが飛びのく。
「ーーーー」
「ちょっと、静かにできますか?」
「あ?」
その様子を眺めていたマミが何かを聞き取った。
「なんか聞こえるのか?」
ニードが尋ねると、マミがうなずく。
「男性の声です。人数は多いでしょう。おそらく、数十人程。金属の擦れる音がするのですが…」
「反対側はセントシュタイン城がある。たぶんそこの兵士だろ。」
「なるほど。大きな声を出せば、あちらに届くと思います。」
「よっしゃ、おぉーーーーい!!!!ウォルロ村のイケメン、ニード様がここにいるぞぉーーーー!!!」
マミの耳に土砂の向こうで、ざわざわと騒ぐ声が届いた。人がいるのか?ウォルロ村の者だということだ。と口々にしている男性たちの声の後に、静かにしろ!という趣旨の号令が響く。
号令はニードにも聞こえたようで、声が届いたという感触を得たのか、嬉しそうに声を上げる。しばらくの沈黙の後、マミが耳をすませずとも聞こえる声で号令をかけた男と思しき男性がこちらに向けて話しかけてくる。
「ウォルロ村の者だろうか!我々は城から遣わされた兵士であり、現在この土砂の撤去作業にあたっている!!作業は数日で終わる見込みである!」
おお、とニードが顔を明るくする。
「こりゃ大ニュースだぜ!」
「村の人々も喜びますかね」
「喜ぶにきまってらぁ!!兵士のおっさんたち、ありがとな!頑張ってくれよ!!!」
応援の声をかけ、ニードが意気揚々とその場をあとにしようとする。少々生をおいて、岩の向こうの声が少々悩んだように詰まった声で二人を止める。
「つかぬことではあるのだが…。そちらの村にルイーダと名乗る女性が訪れてはいないだろうか?」
「ルイーダ?そんな女がウォルロ村に何の用だってんだよ?」
ニードが引き返そうとした足を止めて聞き返す。
「その…、地震の前から婦人が姿を消したらしいとの通達を受けていてな…」
男性が言うには、そのルイーダという女性は地震の後でウォルロ村に行くと話していたらしい。目的が何かはわからないそうだが、女性は城下町でも有名な宿屋の酒場を切り盛りしている。あまり長い間店を空けられて、客足は引き、従業員もいぶかしんでいるそうだ。そうそうやわな女性ではないらしい。帰ってこないのだとすれば、村についているのではないかとのことであった。
マミがニードと目を合わせる。そのようなよそ者の女性、私のほかにいましたでしょうか?という目線を彼に送ると、彼からは首を横に振るしぐさが返ってきた。
「そのような女性がいらっしゃったような記憶は残念ながらございません。何か手掛かりのようなものはないのでしょうか?」
知らない、それもほかの地方の女性とはいえ、守るべき人間の一人だ。女性が一人で外に出て、本当に無事であるようには思えない。マミはルイーダと呼ばれた女性が心配になり、男性に問いかけた。
「もし心当たりがあるようなら、私が助けに行きたいのですが。」