背後に迫るドラキーを、マミが振り向きざまに一体屠る。切断面から生々しく臓器が見えるが、一瞬にしてそれらは光と変わり背景に溶け込んでしまう。
「あと1匹…」
ドラキーは残り1匹になりつつも、なおキィキィと耳障りな鳴き声を発し続ける。声でマミを錯乱させるつもりなのだろうか。しかし一体しかいない今、どれだけ喚こうが、彼女が切るべき相手を間違えることはない。それなら、死を恐れるが故の悲鳴なのだろうか。
たしかに己が身を守るためという理由で、他の命を絶っていいわけではない。理解はしている。常々、そう思っている。それでも。
「これ以外に、方法がありませんので。」
剣を振りかぶり、死を目の前にしたドラキーと目があった。彼女は表情を変えなかった。わずかに申し訳なさそうに目を伏せ、すみません、と、一言だけ呟いて眼前の敵を亡き者とする。
ごろりと音を立てて亡骸は遺跡の床に倒れる。それを眼下に収めたマミが剣を下ろし、ほんの少し荒れた息をつこうと、吸った息は
「ぐっっっ⁉︎」
何処からともなく現れた4体目の大蝙蝠の突撃により強制的に吐き出された。
キィキィキィキィキィキィキィキィ
マミがよろめいた体を立て直し、突撃された腹部を片手で抑えながら、辺りを見る。突撃してきたドラキー、そのほかに2.3体が自分を囲んでいる。五月蝿い鳴き声に頭が割れそうだ。上を見上げると少し高い上空でもう何体かドラキーが飛んでいる。
痛みで目から涙が出てくる。微かに滲んだ視界で確かめられるだけで10体のドラキーが自分を狙っていた。
「みみ、が…!」
呟いてマミは理解する。あのドラキーの鳴き声は決して、自分の死を恐れていたものではないのだと。他のドラキーに危機を知らせ、自分を囲ませるための囮としてのものだったのだと。聴覚を、自分から奪うための作戦であったのだと。
『誰だって死にたくないのは同じだ。魔物の命を断ち、生死を争う以上常に自分の命をかけていることを忘れるな。無慈悲でいろとは言わぬ。ただ、命のやり取りとは、情けをかけて生きていられるほど甘いものではないことを心に留め置くことだ』
不意に、師の言葉が頭をよぎった。生死を争う戦い。ひらけた草原でスライムを蹂躙し、ズッキーニを倒していた時とは違う。相手は明らかに自分を殺そうとしており、そして自分もまた、明確な敵意を持って相手を殺そうとしている。
自分の身を、守るために。
半ば自暴自棄になりつつマミが剣を振る。敵は見えていない。それでも、振らなければ迫る敵の突撃を避けることはできない。運良く一体を地につかせたが、これもいつまで持つか。
「………に……きてくだ……い」
「ー?」
「…やく……こちらに……てく…さい」
幻聴だろうか。マミの耳に声が届いた。人の声だ。耳鳴りのような声に混じって、壮年の男性の声がする。こちら?どこだろうか。ほんの少しマミがその声に反応して辺りを見回すそぶりを見せると、突撃して来るドラキーをかわさせるように腕が何者かにぐいと引っ張られた。
こっちです。
そう言われたような気がした。
鳴り響く鳴き声と、何度もぶつかられた痛みでマミはもう何も考えられてはいなかった。腕を引かれた方向にはしる。蝙蝠を振り切るように。男性の背中を見据えてはしった。