かつて呼ばれていた名は   作:なめこしいたけ

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父と娘に3

幽霊当人に昇天したいなどと言われてしまっては、マミに拒否する理由はない。結局サンディの言いだしたマミを天使と認める方法は、リッカの父であるリベルトを昇天させる、というものに落ち着いた。

 

「確か、確かですね。この辺に埋めてしまったと思うんです」

 

幽体としての生活も長いのだろう、マミの背後を自在にふよふよと浮き、話しているのは当のリベルトだ。同様にふよふよしている桃色の光がサンディである。

 

「ホラホラ、なにぼさっとしてんのよ!その茂みとか、掘ってみなって!」

 

「ぼさっとなんかしてないですよ。それに、私にはあなたに指示されるいわれはないのですが。」

 

宿屋の裏の高台。ここからは滝を挟んで反対側には流れ落ちる水流を透かして天使像を見ることができる。あまり人目はつかない。隠し物をするにはうってつけである。おあつらえ向きといっては何だが、壁に密集して育つ膝丈ほどの茂みが、何かを埋める姿さえうまく隠してくれそうにみえる。

 

現在マミが探しているのは、リベルトの未練と思しきトロフィーである。曰く、彼が宿王になったときいただいたものを、この村に来た時に封印したのだそうだ。宿王から決別するために。宿への思いを断ち切るために。リベルトはあまり多くを語らない。ただ、未練の心当たりがあるのだと告げただけだ。

 

「直にわかりますよ。私が語らずとも。」

 

サンディは無理にでも聞き出そうとしたが、彼がきっぱりと「語るまい」然としているためか、そのうち聞きだすのをやめてしまった。なにせマミが守護天使見習いになる前の話だ。彼女もリベルト生前のことはわからない。しかし本人がこういっているのだ。何はともあれトロフィーを探し出さねば事態が動かない。

 

心当たりだという茂みの下の土を掘り返し始めて30分ほどがたっただろうか。存外早くそれは見つかった。何年も土の中にあったとは思えないくらい保存状況は非常に良い。見つけたトロフィーを手に取り、リベルトに見せると彼は破顔、という言葉の通りに柔らかな笑顔を見せた。心の底からの懐かしさをしみじみと思い出すように、触れられないはずのトロフィーの表面を撫でる。ぽつりと、「やっぱり、楽しかったなぁ」と漏らす。

 

マミがその表情を眺めていると、柔らかな笑顔のままリベルトは続ける。

 

「あの娘は、昔から私と一緒に宿を切り盛りするのが大好きだったんですよ。村にはいないお客様といろんな話をして、疲れた体を癒して、最後ににっこりと笑顔を交わして見送るのが大好きだっていつも言ってたんです。私もその口でしてね。現役の頃は村に来るよりもたくさんの人と会えるんですよ。それがもう毎日楽しくて、楽しくて仕方なかったですね。あの娘はまだこれ以上の宿の楽しさを知らない。私なんかの背を追って、縛られるようにこの村にとどまっていては得られない楽しさと喜びを、私は経験させてあげたい。」

 

勿論、娘が自分の後を継いでくれるほど嬉しいことなんてないですから、それもあるんですがね。そう言うとリベルトは滝を眺める。

 

「このトロフィーを見せれば、あの娘も私が本当に宿王だったことを理解ってくれるでしょう。そしてこの村に来た意味も、きっと教えてもらえるはず。」

 

マミが手に持つトロフィーには、リベルトという文字がきちんと刻まれていた。まごう事なき彼が宿王である証だ。

 

「リベルトさん、私は、リッカさんがこの村を本当に離れたくないのかもしれないと思うと…説得するのが躊躇われてしまうのですが、それでもあなたは本当にリッカさんがセントシュタイン に行くべきだとお思いですか。」

 

リベルトが僅かに考え込む。そうですね、と間をおいてからすぐに話し始める。

 

「あの娘は私の子です。今は知らない事ばかり周りに言われて混乱しているから、マミさんにはセントシュタインに行くことを押し付けてしまうように思われるかもしれませんが…。自分の道を、自分で決められない程ヤワな子に育てた覚えはありませんので。」

 

このトロフィーは、あの娘に事実を受け入れてもらうために死ぬ前に私が渡したいと思っていたものなんですよ。と彼は続けた。

 

「行きましょうマミさん。これが父として最後にできる、あの娘への贈り物です。…私の唯一の未練です。」

 

 

***

 

 

部屋を覗くと、リッカは茫然自失とした様子で椅子に腰掛けていた。

 

「帰って来てから、ずっとあの様子でな。夕飯を作り終えたらすぐ休ませようと思ったのじゃが」

 

リッカの祖父がマミ達の後ろから声をかける。夕飯を作り終えてから、ゆうに2時間は経過しているだろう。それからずっとこのままだというのだから、相当混乱しているのだろう。いや、混乱と言うよりは、

 

「単に心の整理をするきっかけが欲しいだけだと思いますよ。」

 

父たるリベルトが呟いた。良くも悪くも、あの子はまっすぐだから。とも。さっすが、パパだねー!とサンディが叫ぶのも無視して、マミは扉に手をかける。キィ、と小さく音がして、リッカがゆっくりとマミの方を向く。

 

「…まみさん。」

 

 

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