「ほかの人に迷惑かかるからやめなさいって、何度も言ってるでしょう?モッチィ」
ルイーダが落ち着いた声音でモッチィと呼ばれた女性に説教をしている。先ほど追われていた銀髪の女性、モッチィは聞く耳も持たない様子で目を細めている。リッカもマミもルイーダを怒らせたことはなかったので静かに怒気を発している彼女にほんの少しおびえていた。
「別に誰かを傷つけるつもりなんてないもの。いざとなれば私が前に出るし、回復呪文のホイミだってかけられる。なーんにも、心配いらないじゃない?そんなことより。」
女性はマミのほうに向きなおる。
改めてみるときれいな女性だった。身長はルイーダと同じくらいだろうか。マミが隣に立つと頭一つ分高さがずれる。戦っているときは気づかなかったが、瞳の色は珍しい紫色をしている。目は決して小さくない。しかしパッチリ開いているかといえばそうでもない。どちらかといえば切れ長の目だ。照り映える銀髪と、飄々とした態度に一種の神秘性を感じさせる。身体つきもよく、非の打ち所がない女性とは、まさにこの人のようなことをいうのだろう、とマミは思う。並大抵の人であれば不気味と称されてもおかしくない紫の瞳が彼女の神秘的なまでの美しさをさらに引き立てる。
「あなたの名前を聞いてもいいかしら。私はモッチィ。僧侶をしているわ」
「あ、えと、私はマミといいます。」
モッチィの容姿に暫し見惚れていたマミは返答に少し戸惑ってしまった。そんなことも気に留めず、モッチィはマミの名前を再度口にする。「ふぅん…」と何かを品定めするようにマミの姿をじっくりと眺めつつ、自己紹介を始めた。
曰く、彼女は記憶喪失だったらしい。セントシュタイン城下町の入り口付近の花畑の中で眠っているのを、地震が起こったのとほぼ同時期にルイーダに発見されたそうだ。自分の名前と申し訳程度に覚えていた回復呪文以外、何も覚えていなかった、と彼女は語る。出身もどうやらこの地方ではなく、見分を広めることも兼ねて時折こうして城下町付近を一人で散策しているそうだ。
「あとは…。そうね、趣味は歴史書を漁ることかしら。槍の使い方は誰かに倣ったのかしらね。体が覚えているような気がするのよ」
とても記憶をなくして数週間の人間とは思えない。マミが何と声を掛けたらよいか悩んでいると、モッチィは「これはこれで楽しくやってるのよ」とほほ笑む。
「おしゃべりもいいけど、そろそろ着くわよ。準備しなさい」
「そうそう、ルイーダ。あなたこれからその子連れて宿屋行くんでしょう?そしたら、マミは私と行動しても問題ないわよね?」
え、とマミが異論を唱える間もなくモッチィは話を進める。
「なにかするつもり?」
「ええ、少し。そろそろ働かないと、と思って。」
ルイーダは少し考えてから、問題ないわね、と返した。この間にマミの意思は全く介入していない。マミは隣で緊張の面持ちでいるリッカのことをちらと見やる。ここまで来たのだ、自分だって彼女のことを見届けたい。そう思ってマミが開こうとした口は、
「じゃあ、決まりね。私でも城下町の案内くらいはできるのよ。ちょっと、私についてきてくれないかしら。」
モッチィに対する肯定の返事を述べただけになってしまった。