「ふぅん…、この店ってそんな商品売ってたのね」
銀髪の美女が冷たい声音で男に話しかける。男が振り向くのと同時に女性はひょい、とマミの手から剣を取り上げる。
「この剣、どこかで見たことあると思ったら、この間の剣士さんが置いて行った奴じゃない。魔物が落としたけど、あまりに軽くて人間用じゃないって愚痴ってたやつよね」
美女は剣の切っ先を男に差し向けて、にこりとほほ笑む。
「じゃあ、今度溶かして違う剣に叩き直すんで下取りしましょうか?って言ってたの、どこのお店の人だったかしら?」
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「だめじゃない。急にいなくなっちゃあ。あなたみたいなうぶな見た目のコ、すぐああやって商売人に騙されるんだから、気をつけなきゃだめよ?」
「はい…ありがとうございます。モッチィさん」
マミの手には、先ほどまで持っていた剣とは異なるものが握られていた。城下町に散見されるセントシュタインの兵士たちが持っているものと同様な剣。いわゆる、兵士の剣として支給されるのであろうモノである。
マミに剣を売りつけようとしていた男は、モッチィに問い詰められた後、マミに謝罪し、詫びとして新しい剣を渡すことになった。
「生半可な剣渡したりしたら、ルイーダに言いつけるわよ?」
どうやらこの一言が強烈だったらしい。後でマミが聞いたことなのだが、ルイーダの酒場は世界中でも知る人の多い有名な酒場であるそうだ。様々な冒険者が集い、情報が行き交うこの酒場において、悪評が流れるのは店の死にも値する。それ故、彼女の脅しは効果があった。男はすぐさま店の奥から新しい剣を持ってきたのだった。
単純に、端正な顔をしたこの美女の怒気に気圧されただけかもしれないが。
「さ、今度はちゃんとついてきなさいよね。」
そういうとモッチィはマミの腕を掴み、路地を駆ける。丁寧に舗装された広い道の両脇に所狭しと露店が立ち並んでいる。男女様々な人の声が、行き交う人を引き留めようとしている。頭上には色とりどりの旗がはためいており、ウォルロ村の落ち着いた雰囲気とは対照的ににぎわっていた。
モッチィが不意に、ある店の前で立ち止まる。こじんまりとした店だった。食べるものがあるのだろう。中からは甘そうなにおいが漂っている。
「…やっぱり、いたわ。」
彼女が店の中をドア越しに見渡すと、ある一点を見つめてそうつぶやいた。マミがその方向を見やると、丸机を向かい合って座っている二人の人間が見えた。
一人はマミよりは黒に近いが、茶髪の男性。くせっけと思われる髪の毛はところどころはねている。大きめのガウンを羽織っている彼に近い机側には、マミの背の高さはあろう程度の杖が立てかかっている。眠そうな黒い瞳、が正面に座っている人間をじっと怒気をはらんで睨んでいる。
正面に座っているのは目が覚めるような金髪をしている人間。金髪は照明に照らされて透き通るほどであり、それらの束が丁寧に一つに纏めて頭の上で結わえられている。後姿からでははっきりとはわからないが、女性だろうか。華奢で小さな背中からは少し幼さが感じられた。
彼らの雰囲気は決して穏やかとはいいがたい。ドア越しに見ても数年来の仲というわけではなさそうであることがマミには見て取れた。
「だ、か、ら!!!俺にはお前の分の金を払ってやる義務なんてねえし、そもそもこっちだって金欠だって何度言ったらわかる!」
「そんなこと言ったってお金がないのはしょうがないじゃん!それともおにーさんはこんな年下の子供が飢えそうになってるのを見て見ぬふりできるほど冷たいやつなの!?」
「お前が泣きついてさえ来なけりゃこっちだって無視してたわ!!!いいから食った分の金の返済の目処ぐらい立ててみやがれ!」
むしろ険悪だ。聞いている限り、おそらく金銭のトラブルであろう。金を貸した方であると思われる茶髪の男性が机を拳でたたく。村でもよく見た光景であるが、こうした喧嘩はそうそう簡単に納められるものではない。しかし金髪の子はあくまでも飄々とした態度を崩さない。
「お知り合い…ですか?」
マミが、隣で笑みを浮かべているモッチィに問いかけた。先ほど「いたわ」、と言っていたくらいだ。もしかしたら、彼女の知り合いなのかもしれない。
「いいえ?ただ、二人ともこの前見かけて気になってた人たちではあるわね。腕が立ちそうなんだもの。」
モッチィはマミにとってなんとも掴めない人間だ、という印象を抱かせる。神秘的な見た目も相まって、何を考えているのかまるで分らない。いい人なのかも、悪い人なのかも。
変わった人だ。と思ってマミが彼女のことを見つめていると、モッチィはその視線に気づき微笑みかえす。その笑みも一瞬のうちにして真面目な顔にかき消される。
「さて、上手くいくかしら?マミはどう思う?あの2人。」
問いかけられたマミは、2人の方に目を向けた。