かつて呼ばれていた名は   作:なめこしいたけ

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セントシュタイン6

「異論がないようで何よりね。それなら、自己紹介を始めてもいいかしら。」

 

モッチィが満足げに椅子を引き腰を下ろす。円卓を4人が囲む形になった。

 

「私はモッチィ。僧侶をしているわ。」

 

彼女はマミにしたのと概ね同じような自己紹介を手短に済ませる。記憶がないことも、サポートが得意であることも。ひと通り話すことが済むと彼女は次を促すように隣に座る茶髪の男に話を振る。

 

「ほら、今度はあんたの番よ。名前くらい名乗んなさいよ」

 

「…んな馴れ合いやってられっかよ。こちとら金さえもらえりゃそれでいいんだ」

 

茶髪の男が紹介を拒否する。不穏な空気が漂う中、モッチィが飄々と黒騎士が書かれていたのとは違う紙を取り出した。

 

「ま、別にあんたが自己紹介しなくてもいいんだけどね。こいつの名前はハイローズ。職業は魔法使い。つい最近この街に来たばかり。好きな食べ物は特にないが、出身の…」

 

「まてまてまてまてまてまて!!!!おまえ、その紙なんだよ!めちゃくちゃ個人情報じゃねぇか!」

 

紙に書いてあることをすらすら読み上げるモッチィの前でハイローズと紹介された男が椅子を弾き飛ばすほどの勢いで立ち上がり、自己紹介、否、一方的に行われた自分の説明を中断させる。気怠げに細められていた黒目が今は見開かれている。

 

指をさされても依然として堂々とするモッチィが紙をひらひらさせてハイローズを煽る。

 

「ルイーダの酒場の情報網なめるんじゃないわよ。これがあんたの情報。間違ってるとこある?そしたら直すけど」

 

「そういう問題じゃないわ!…あーくそ、いいよ、自己紹介だろ。こいつが今言った通りだ。俺はハイローズ。魔法使いだ、魔法なら任せろ。ただ、体力はねぇし取り柄といや観察眼くらいだから前衛の方はおまえら次第だ。」

 

ハイローズが心底嫌そうな顔のままよろしく、と告げ癖のついた髪をかきながら力なく席に着く。その姿を横から見ていた金髪の子が慌てたようにモッチィから紙を取り上げた。

 

「僕の紙もあるってことだよね!?やめてよ、もう…!」

 

僕はちゃんと自己紹介するよ。だからこの紙はもらっていいよね?とモッチィの返事も待たずに彼女の持っていた紙が破られる。

 

「僕はレイレッシュ…あー、いや!長いし、レイって呼んでよ。 僕はレイ。この前15になったばっかです!すごい力持ちなわけじゃないけど、戦士をやってます。剣の扱いなら得意だよ。」

 

快活そうにレイが立ち上がり自己紹介をする。声を出す度に頭で1つに結わえられた金色の髪が揺れる。明るい声だった。よろしくねとマミとモッチィの手を交互に握り笑う。

 

ええと、とマミは悩んでいた。果たしてレイが少年なのか、少女なのか。店内の灯りに透けた金髪はさらさらと流れて端正に整った顔にかかる。よく見ずとも映える碧の瞳がくるくると大きさを変えてこちらを向いている。

 

「男だよ、そいつ。お前も女相手にほいほいボディタッチなんかするもんじゃねえぞ、その内ぶん殴られるぞ」

 

ハイローズが頬杖をつきながらマミに答えを教えた。

 

「そ、うなんですか。レイ…さん。それにハイローズさんも。よろしくお願いしますね」

 

「ハイローズは一々うるさいなぁ、もう!男ってバレなきゃ一緒にお風呂とか入れたかもしれなかったのに…」

 

「入れさせるわけないでしょ、バカね。次はマミの番よ」

 

つめたくモッチィがレイをあしらう。3人が同時にマミの方を向いて紹介を待つ。マミの後ろでは姦しくサンディが喚いていた。

 

「あんた天使であることはちゃんと隠しなさいよネ!そういうの、自分で言っちゃうヤツ、マジヤバだから!!」

 

わかってますよ、とはマミももう言わない。あの信心深いウォルロ村で天使と言っても半信半疑だったのだ。信じてもらえるはずがない。天使であることは極力隠し、旅の芸人ということにしろと、セントシュタインに来るまでサンディに口酸っぱく言われ続けていたのだ。

 

「私はマミ、と申します。つい先日ウォルロ村から参りました。旅芸人として、この街に訪れました。」

 

4人の中で最も背の小さいマミが深々と頭を下げ更にちいさくなる。

 

「で?」

 

これからどうすんだよ。ハイローズが先を促す。

 

「4人が集まったとこで黒騎士に関する情報はない。そもそも「求ム」だ。一回城まで赴いたほうがいいんじゃねえのか」

 

「わかってるわ。だから一旦こうしましょ。明日の昼、城門前で集合。それまでに各々旅の支度を済ませてくること。装備とか、道具とかね」

 

ハッとした顔でレイが上を向けた手のひらをモッチィに向けてまっすぐ伸ばした。金がないから寄越せ、そう言う意味だろう。

 

ちゃっかりしてる奴だぜ、と言うハイローズを横目にモッチィが懐から小袋を取り出した。

 

「そうくると思って。これはあんたの分よ。利子は、と言いたいところだけど今日は初回だから勘弁してあげるわ。黒騎士を倒し終わったら2倍にして返して頂戴ね。」

 

「やった、さすがお姉さんだね!」

 

レイの手には幾分か多めにみえる袋が手渡される。いくら装備をゼロから買い足すとしても多いだろう。レイが食べ物などにお金を使ったとしても十分な装備が用意できると見越しての量だろうか。それにしても多い。レイは、黒騎士退治が終わった後にきちんと2倍額を返すことができるのだろうか。

 

…どいつもこいつも、ちゃっかりしてる。

 

頬杖をつきながらハイローズが呟いた。

 

 

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