かつて呼ばれていた名は   作:なめこしいたけ

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黒騎士4

(辺りの魔力、辺りの魔力…ふわっとしたものを集めて…集めて……!?)

 

「集めたあとは放つのよ!詠唱とか気にしなくていいから、とにかく身体から離しなさい!」

 

(そうだ、撃たなきゃ。ええと…先程教えてもらったこの呪文の名前は…)

 

「っバギ!!!」

 

少々上ずった声でマミが呪文を唱えると、正面にまっすぐ伸ばされた両の手のひらから人間の子供サイズの竜巻が巻き起こった。竜巻は一直線に地に生える草を刈り取って飛び、マミから少し離れた魔物(剣と盾を携えた水色の魔物、ハイローズ曰くウパソルジャーというらしい)の横をかすめて消滅した。

 

「上手いこと外したわね。これは逆に見事だわ。」

 

倒しそこねたウパソルジャーの背中から槍を一突きしてモッチィがとどめを刺した。

 

「なんとも、難しいものなのですね…」

 

話は少し遡る。

 

***

 

「この世界にまだ呪文を知らないやつがいたとは恐れ入ったな」

 

見通しの良い草原で3人が座りながらマミを見た。

 

「存在としては知ってはいますが、てん…いえ、私の知人にそれを使う人はいなかったので」

 

天使は基本的に武器を使って戦うことのほうが多い。魔法を用いるものは人間に比べると格段に少ないだろう。その分人より身体も強いし、翼だってある。一説には、翼や光輪に魔力を使っているから魔法を使いにくいという話もあったはずだ。…といった話は彼らには言えないのだが。

 

「…なるほどな、よく見てろ。」

 

ハイローズがメラ、と小さな声で唱えると彼の右手には握りこぶし大の火球がぼぼぼ、と音を立てて出来上がった。

 

「お前はさっき魔法、といったし、これらを扱う奴は主に魔法使いと言われるが、学術的にはこれは呪文ってやつだ。攻撃のために用いたり、人によっちゃ生活に利用したり。誰かを治療するために唱えたりする。」

 

「私みたいに回復専門の呪文を得意とする人間は僧侶って呼ばれてるわね。レイみたいな魔法を使わないで戦う人は戦士とか、武闘家とかまあいろいろな呼ばれ方があるわ。」

 

「そんで、俺が使う呪文はメラっていうやつだ。さっきウパソルジャーにとどめを刺したやつな。飛距離とかよく見とけよ」

 

彼が草原に落ちている大きめの岩に向かって手を向けると、とどまっていた火球は一直線に岩に飛んでいき、ぶつかって四散した。おお、という喝采の声がレイの口から溢れる。岩に衝撃を与えた音が響いたからだろうか。魔物の息遣いが岩の向こうからした。マミがぴくりとして岩の奥を覗こうと首を伸ばす。

 

「さて、と。どうやら魔物がいるみたいだな。おい連携素人、金髪馬鹿。メラは一直線にしか飛ばせない。だから俺がいるところから直線状にいなければ巻き込まれることはない。分かったな。ひとまずそれを踏まえて魔物と戦ってくれ、そうでないとこちらもうまく動けない。」

 

マミのそんな様子が目に入ったからだろうか、ハイローズが気怠そうに膝に手をついて立ち上がる。

 

(私があっちを見ただけなのに、よくわかりましたね)

 

マミが彼の指示に頷き、剣を手に取る。金髪馬鹿はひどいでしょ、少なくともマミよりはきちんと動けるもんねー。レイが文句を漏らしながら彼らの動きに従う。最後に腰を上げたモッチィがマミの肩に手を置きささやく。

 

「良いこと、教えてあげる。」

 

***

 

「いいなー、いいなー。マミも呪文使えてー」

 

舗装された道を歩きながらレイが剣を前後に振って無防備に歩く。あぶねえよ、とハイローズに諌められるのも気にしてはいなさそうだ。彼は先程マミがバギという呪文を唱えたことに少々の羨ましさを募らせているらしい。

 

「お前も試してみればいいだろ。戦士じゃ、厳しいかもしれないが」

 

ぐちぐち言い続けるレイに嫌気が差したのか、ハイローズが吐き捨てるようにレイに言った。それがさー、とレイが口をとがらす。

 

「僕ね、なんか魔力がうまく使えないんだよ。そういう体質なんだって。どっかの誰かさんが言ってたんだー。」

 

どっかの誰かさん、とは誰だろうか。案外、適当なことなのかもしれない。ずんずん先を進むレイの背中からはその様子を窺い知ることができないが、どうやら彼は呪文を使うことができないということか。マミは先程竜巻が放たれた自分の両手を見る。その様子を横から覗き見るモッチィが微笑ましそうにフフ、と笑う声が聞こえた。

 

「そんなに自分の手を見ても魔力がなければただの手よ。まあ、ああいうのはセンスもあるけど、努力のほうが大事って、どっかの誰かさんも言ってたわ」

 

まぁ、覚えてないんだけど。と記憶喪失の女性が茶化した。

 

『なんでもいいんだケドサ、その竜巻、アタシにぶつけるのだけはやめてちょーだいよネ』

 

ひらりと担ぐ袋の中からサンディが飛び出てきた。

 

「善処はしますよ。きちんと避けてくださいね。」

 

『ヒドッ。方舟、動かせなくなっちゃってもしらないかんね!』

 

ニードやリッカ、ウォルロ村の人たちと同様に彼女の姿は3人の目にも映らないようだ。そのことをきちんと確かめてから(存外用意周到である)、サンディはちょくちょくマミの前に姿を表すようになった。彼女いわく、袋の中は狭いし、ヒマらしい。袋の中でする作業も見つけたらしく、時間が空いたら見せてくれるとのことだった。

 

太陽が空高い位置にある。ちょうど正午を回った頃だろうか。あともう数刻もすれば着く、というモッチィの言葉とともに、遠くに木が点々と生えているのが見え始めた。約束の場所、エラフィタ湖が近づいている証だろう。大した前触れ無く襲いかかってくる魔物たちをあしらうのにも慣れてきたが、朝から動いているのだから仕方ない。彼女らの服の下は少しだけ汗ばんでいた。

 

「早く着いたら、食事でもとるか」

 

そういえば、と言わんばかりにつぶやいたハイローズの提案に元気に返事をするレイの足取りが少しだけ早くなった。

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