かつて呼ばれていた名は   作:なめこしいたけ

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黒騎士6

満月が輝いていた。湖に反射する光も相まってか、あたりはかなり見通しが良かった。

 

そろそろ、来る時間だろう。誰が言った訳でもないが4人に緊張が走る。魚を焼く為に焚いていた火がぱち、ぱちというかすかな音を立てて消えていった。わずかに吹く風がすすを巻き上げた。

 

「…10時です」

 

「誰だ……キサマ達は……?」

 

10時の方向、高台の頂きから声が降ってくる。マミが方角を示したと同時に他の3人の構える向きが揃う。言葉は褒めているように聞こえるが、声は低い。体躯の良い黒馬に全くと言っていいほど同じ色の鎧兜をまとった騎士がまたがっている。一度軽く紐を引くと馬は嘶き、高台を身軽に飛び降りてくる。馬と騎士に施された黄色の角のような装飾が満月の光を照り返し不気味に輝く。

 

「私はマミです。問う前に名を名乗ってください。姫君はここにはいらっしゃいません、あなたは…」

 

「姫君を出せッ!我が麗しの姫をッ!」

 

なぜ、という理由を聞くための言葉は黒騎士の声にかき消された。声とともに抜かれた槍がマミを襲う。

 

「な、にしてんの、マミ!」

 

ギィン!という金属の擦れる音が響く。レイがマミの前に割り込み剣で槍を弾く。馬の上から繰り出される槍をすべて避けきるのは難しい。下から扇を描くように剣を振り、槍を力で弾ききっても、相手の体勢を崩すには及ばない。

 

「話が通じる相手じゃないわよ!良いから距離を取りなさい、狙うなら馬よ!」

 

モッチィが叫び馬の背後に回り込む。一直線に獲物に向けやりを構える。矛先は黒馬の後ろ足。何よりも、騎士が気づくよりも早く。疾風が如く。地を蹴る。

 

飛び出したモッチィの姿は、槍が馬に届く前に湖に向かって吹き飛んだ。メラを打つ機会を待っていたハイローズが声を上げる。

 

「モッチィ!!!!」

 

騎士が正面のマミとレイに対し槍を振るう間、馬は背後を警戒していたのだろう。モッチィが馬の足に届く刹那、狙っていたはずの後ろ足が彼女の肩を蹴り飛ばした。

 

ばしゃん!と水しぶきが上がり。湖に彼女が転がり落ちる。

 

「マミ、相手に集中して!」

 

レイが湖を向くマミを鼓舞する。黒騎士の背より幾分も長い槍がとめどなく降ってくる。一人では防ぎ切ることは不可能だ、どちらか一方でも欠けるわけには行かない。

 

「ちっ…メラ!」

 

湖の方から人が上がってくる気配はない。どこまで飛んだのかもわからないが、湖の手前はそれほど深くなかったはずだ。今は敵の猛攻を抑えるほうが先だ。ハイローズが撃ったメラはまっすぐに馬に乗る騎士へと飛ぶ。

 

一瞬の爆発音の後、レイとマミが槍の範囲外まで離れる。火球は騎士の頭部の鎧を吹き飛ばし、彼の顔を顕にさせた。

 

「いっ…!」

 

レイが顔をひきつらせる。そこにはおおよそ人の顔というべきものがなかったからだ。むせたように咳をする騎士の頭部には一つのしゃれこうべが乗っていた。

 

首をふるとかすかに骨の擦れるカラカラ…という音がする。

 

「あなたは…?」

 

マミが怪訝そうに騎士を見る。

 

「よくも…姫君はドコだ…ドコだァ!!」

 

「ぎゃーーーー!どくろ、どくろだ!!!」

 

レイが叫び、剣を振る。デタラメな太刀筋がやりをすり抜け馬の左足をかすめる。馬が前足を上げて大きくいなないた。

 

「今だ、レイ、マミ!下がれ!!!」

 

ハイローズの声に従い、マミが下がる。レイの足が若干すくんでいるのを見て、半ば引きずるようにマミがレイを引っ張った。

 

「我相対すは魔の者なり、火よ、滅したまえ!メラ!」

 

マミたちが引いた分前に出る形となったハイローズが、黒騎士に向けてもう一度メラを放つ。先程よりも大きめの火球が黒騎士ではなく、馬全体を包み、黒騎士もまた距離を取ろうと後ろに下がっていくのが見えた。

 

「っげほ、まだ、水…冷たいのね。冷えそうだわ」

 

背後からモッチィの声が聞こえた。マミとハイローズがその姿を見て同時に胸をなでおろす。

 

「モッチィさん!聞いてよ、あいつドクロだよ!」

 

モッチィは一瞬驚いた顔をしてすぐに前を向いた。馬に蹴られた両肩の服は破けている。少し見える肌が痛々しく腫れているが、ホイミ、と彼女が唱えると傷は癒えていった。

 

「なんにせよ、敵であることに変わりはないわ。」

 

見なさい。服を絞りながらモッチィが騎士の方を見やる。4人の視線の先では彼女と同じように黒馬にホイミをかける黒騎士の姿があった。

 

「回復まですんのかよ……。」

 

「どうしますか、また突っ込みますか。」

 

「…俺に考えがある。3手に別れよう。」

 

 

 

「あんな魔物、俺が燃やし尽くしてやる。」

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