ヤミにひそんだ 魔物を狩りに 黒バラの騎士立ち上がる。
みごと魔物を 討ち滅ぼせば しらゆり姫と結ばれる。
騎士の帰りを待ちかねて 城中みんなで うたげの準備。
「北ゆく鳥よ伝えておくれ。ルディアノで待つしらゆり姫に黒バラ散ったと伝えておくれ。北ゆく鳥よ伝えておくれ、黒バラ散ったと伝えておくれ。」
風が心地よく吹く草原でモッチィがわらべうたを口ずさむ。
「…全部覚えてきたってのか、随分なことだな」
「ええ。結構、重要な歌だと感じたから」
口淀むことなく歌いきったモッチィに向けて、ハイローズが驚きの表情を向ける。
4人はフィオーネ姫が教えてくれたわらべうたに従って、北へ向かってきていた。しばらく城下町で探ってみたものの、ルディアノの事が詳しくわかる本や記述にめぼしいものはなく、結局歌に従うしかなくなってしまったのだ。先日黒騎士と戦った湖の近くで北への道は途切れており、様子を探るためにマミとレイが先に偵察に行っていた。
「それにしても北ゆく鳥っていうフレーズだけで北に向かうとはな。…あまりに無計画すぎる」
「でも、あなたも見たでしょう?この国の北の方、ほとんど開発されてなくて地図も詳しくないの。なにかがあってもおかしくないわよ」
「…まあな」
いくら北の方は森が広がっているとはいえ、手つかずにも程がある地図しか残されていなかった。未踏の地というには大げさだが、モッチィの言うことにも一理あるだろう。
「あら、二人ともおかえり。どうだったかしら。」
先の道の様子を見に行ってきたマミとレイが戻ってくる。
「手入れされた小麦畑が広がっていました。道という道はなさそうでしたが、迷うことはないと思います。」
「うん。でも麦の背丈がね、大きいから魔物が飛び出してくるのが怖いなって思ったよ!」
なるほど、とハイローズが返してゆっくりと立ち上がる。
「黒バラっていうのは、あの黒騎士のことなんですかね」
荷物をもちながらまだ歌を口ずさんでいるモッチィにマミが尋ねる。モッチィは少し首を傾げて悩んだように見せる。
「なぁに?死んでる人間だと怖いな、とか思うの?レイみたいね」
「たしかにレイさんは怖がりだとは思いますけど…!」
彼は黒騎士がドクロだったことを随分引きずっていた。普段からおちゃらけているわりにそういった類の話は大の苦手らしい。夜になるとそれを面白がったハイローズがちゃかしたようにおばけの話をするので、城下町を出る頃にはわざわざ教会に行って祈りを捧げてきたらしい。
「そうではなく…死んでいるのに、魂ではなく骨として生かされているのは、道理から外れているような気がしませんか」
死した人間は本来なら成仏するか、もしくは生前の想いにより霊として彷徨うはずだ。その魂を天へ導くのが我ら天使の役割であり、勤めでもある。だがあの黒騎士が既に死した人間と一致するのであれば、肉体を持ち、危害を与えるように世界へ関与しているのはおかしいのではないか。まるで…
「そうね。…まぁ、彼も自分が死者であることを自覚した感じもなかったし、同一人物というには早すぎるかもしれない。でも、あなたは自分がしたいと思ったことをしたんでしょう?」
「…」
まるで彼の黒騎士が魔物みたいだと感じたことはバレてしまっているらしい。
「はい。私は、彼が人間であると判断したからこそ殺さない決断をしました。」
「なら、本当のことを確かめるまではその決断を信じなさい。」
なにしてんのー、行くよー!!というレイの声が二人の会話を割いた。行くわよ、というモッチィについていくようにマミも歩き始めた。
***
麦畑の方に向かうと、実にいろいろな種類の魔物と遭遇した。
緑色の羽を奇妙に羽ばたかせる蛾や、おおきなきづちを携えた魔物、猫がローブを羽織ったような魔道士もいた。
「かたづいたね~」
泡立ったような毒を持つスライムを剣で一突きして、レイが息をつく。麦畑の案山子のそばでモッチィはやれやれというようにレイに声をかけた。
「今度は毒もらったりしてないわよね」
「バッチリ!体液浴びなきゃ良いんだもんね、慣れてきたよ」
マミの方も木づちを持つ魔物、ブラウニーにとどめを刺し、合流しようとする。夕暮れに近づいてきた。輝いていた麦も夜が近づくにつれて段々と見えづらくなってくる。魔物の格好の隠れ場所になるだろう。注意しないと…
「バカ、モッチィ後ろだ!!!!」
戻ってくるレイを迎えようと槍をおろしたモッチィに向かってハイローズが大きな声を上げる。
「え…」
モッチィが身を翻す。本能的に構えたのだろう、槍は背後から襲う影の持つ鎌に二つに切られ、槍もろとも、構えていた足を薄く裂かれてしまう。
「動いた、あれは、生き物なんですか…!」
モッチィを襲ったのは案山子だった。なんの変哲もない、布でできた案山子のように見えたもの。私達が油断する好きを伺っていたのか、カラスよけかと思われた光り物の鎌がモッチィの血で濡れている。
とどめを刺そうと鎌を振りかぶる魔物の足元に牽制の火球が飛んでくる。ステップを踏みながら鎌を持つ魔物はそれを軽快に避け、レイの方に駆けていく。
「ーーーっわ」
レイは年の割に身長は小さくない。大きめとも言えるその背丈を幾分か上回る案山子が彼の上から襲いかかった。振りかぶられる鎌の力はそんなに大きくないのだろう、剣で鎌を弾き返して入るものの、そもそものリーチが違いすぎる長さを見極めるのが難しそうだ。下手に避けては、先のモッチィのように鎌を掠めかねない。
「マミ、お願い!」
怪我をしたモッチィのところにはハイローズが向かっている。魔物を前後で挟むように、マミがレイのもとへ走る。
勘付いた魔物が一周円を描くように鎌を地面に水平に回した。マミがその鎌を飛んで避け、そのまま鎌の上に着地する。上から振りかぶり、魔物が鎌を持つ腕を断つ。腕ごと鎌が地に落ち、魔物が無防備になる。
「レイさん」
「ありがと、刺さんないでね!」
レイが腕を失い驚く魔物に正面から剣を突き刺した。本物の案山子に剣を突き立てたときも同じような感触なのだろうが、直後から湧いてくる光に、やはり魔物であることを感じさせた。
あたりに今度こそ魔物がいないことを確かめてからマミとレイがモッチィのもとに駆け寄ると、あまり怪我の具合が良いとは言えない彼女が自分で回復魔法をかけていた。
「マミ、お前モッチィのことを背負って行けるか」
ハイローズが尋ねる。マミが頷く。彼女一人程度、背負うには問題ない。彼いわく怪我は悪くはないが、このまま北を目指し続けるには得策ではないとのことだ。幸い人慣れた道が出始めており、人里が近いことがわかっている。日付を超える前に彼女を休ませることになった。
「ごめんなさいね。…私のせいだわ」
「かまっちっていう魔物だ。夜になると活発に動き始める。案山子がいる畑の時点で存在を疑うべきだった」
悪い、と小さな声だが謝る彼がマミには珍しく映った。
「大きな怪我でなくてよかったです。背負いますよ、モッチィさん。気になさらないでください、一人だったら、あなたはここで野垂れ死んでいたかもしれないと思えば、私達がいてよかったです。」
「……ふふ、ありがとう」
一人だったら、かまっちも倒せない。怪我をしても治してもらえない。改めて目の前の女性を見てマミは考える。
協力は、案外悪いものでもない、と。