かつて呼ばれていた名は   作:なめこしいたけ

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ルディアノ王国3

「ようこそ、エラフィタ村へ。こんな真夜中に大変だったねぇ、お嬢さん、大丈夫かい?」

 

宿屋の婦人は夜中にも関わらず快く受け入れてくれた。手狭ではあるが、一日体を休ませる分には何も問題はないだろう。もしかしたら、城では得られなかった情報もあるかもしれない。翌日、折れてしまったモッチィの槍をハイローズが調達してくる間、レイとマミは村を散策することにした。

 

「今日も晴れてていい天気だね!マミ!」

 

「ええ、本当に」

 

青空が広がる村の真ん中には巨大な、それこそ天まで届いてしまうかと思われるほどの大樹がそびえていた。この村の至るところに、桃色の花を一面につけている木が生えているが、それらとは全く比にならない。木の真下から空を見上げれば、空の青をすべて覆い隠してしまうような大樹だった。

 

「…なに、してるんですかレイさん」

 

「なにって登ってるんだよ!この樹の上から村を見たらきっときれいだよ」

 

少し目を離した隙にレイはするすると大樹の枝に足をかけていく。マミはその様子を下から見上げ、枝をそっと掴んでみる。

 

『飛ぶってことしか知らないアタシたちには、ワカンナイね』

 

ひらりとサンディが舞い、一緒にレイを見上げる。木登りなど、したこともない。する必要がないからだ。登るくらいなら飛んだほうが圧倒的に早い。いつの間に、こんなに地上に慣れてしまったのだろう。見上げることに不安もなくなりつつある。

 

綺麗、か。

 

「…っ」

 

『お、登ってみるの?マミ、イイネ!アタシと競争しようヨ!』

 

マミが掴んでいた枝にギュッと力を込める。勢いをつけて地面を蹴ろうとしてーーー

 

「こら、なにやってるんだい。それはこの村の御神木だよ、降りなさい。」

 

『ヤバ、なんか来ちゃったよ…』

 

杖をついた老婆が叱りながら近づいてくるのが見えた。

 

「え、神木!それはまずい!」

 

ひゅっと身軽に飛び降りてきたレイが頭からいくつもの花を散らしながら老婆に近づく。

 

「僕たち、この村に夜来たばかりでさ。ごめんね、おばあちゃん」

 

「申し訳ございません、大切な木とも知らず無礼な真似を。」

 

登ろうと一瞬でも考えたマミも同罪とばかりに謝り、頭を下げる。あまりに真摯に謝罪されたため、老婆の方も少々毒気が抜かれたのだろうか。レイの頭についた花を撫で落とし、笑みをこぼした。

 

「わかってくれればいいさ。あたしはクロエっていうんだ。そうだ…暇なら、ちょっとお話に付き合っておくれよ」

 

 

***

 

 

「…ほう、じゃあマミさんたちはそのルディアノって国を探しに北へと向かうのかい」

 

「はい。なにかご存知ありませんか」

 

クロエと名乗った老婆は問い直す。

 

「わらべうたは、もう聞いたんだっけね」

 

うん、と返事をしたレイがうろ覚えながらも歌詞を告げると、懐かしむような目をしたクロエが頷いた。

 

「それはあたしが知ってるわらべうたと同じだね。そのうた、ルディアノわらべうたって言うんだよ。この村で古くから伝わる歌でね」

 

名前にルディアノって付くぐらいだ。きっと、北に行けばなにかあるだろうね。気をつけていくんだよ。とクロエが言う。

 

「それにしても。…待つ方の身にもなってほしいものだねぇ」

 

「待つ方、とは?」

 

「ゆりのお姫様のこと?ちゃんと鳥は伝えてくれたのかな、黒騎士が死んだこと」

 

どうなのかねぇ、と返しながらこれは年寄りの独り言だけど、と彼女が続ける。

 

「必ず帰ってくると約束した男が、いつまでたっても帰ってこなかったら、あんたたちはどうするかい」

 

「約束されたのであれば、待つべきだと」

 

「うん、ぼくも待つかもしれないな」

 

「知らないところで死んでしまったとしても、待つかい?二度と、戻らないとしても。」

 

うーん、とレイが考え込む。

 

「…そう考えると、約束されて待つ方というのは不憫なのかもしれませんね」

 

待っている方は信じて待つ。たとえ自分が知らぬうちに約束が破られてしまっていたとしても、気づかない限り待つだろう。仮に待ち人がもう戻らないことを誰かから伝えられたとしても、そのことを信じきれるかどうかは定かではない。

 

約束をした時点で、次の再会は約束が守られたとき以外にありえないのだ。

 

「あたしはそう思うよ。約束する方はいつだって勝手なのさ。守れない約束を反故にするのは、いつだって待たせる側のほうだ。裏切ってたり、死んでしまったりね。」

 

「おばあちゃん、誰かを待ってたことがあるの?」

 

あまりに寂しそうに語る老婆の顔をレイが覗き込む。クロエはそういったレイの顔を一瞬だけ見て、すぐ前に咲く桃色の花に目を向けた。風がたくさんの花を巻き上げていく。どうだかね、忘れてしまったよ。と老婆がつぶやくと、遠くの方から「クロエちゃーん」と人を探すような声がした。

 

「あら、ソナちゃんとの約束の時間になっちゃったわね。ふたりとも、付き合ってくれてありがとうね。」

 

去り際に、レイとマミの頭を笑顔でぽんぽん、となでた。こっそり、誰にも聞こえないように耳元で

 

「あんたたちは誰かをずっと待たせるようなことはしないんだよ、よい旅を。」

 

小さな願いを落としていった。

 

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