どこまでも続く白の上に私は立っていました。
白。
白?
そもそも白とは一体何なのでしょう。
そう思ってしまうほど、あたり一面には白一色が広がっていました。
境目はございませんでした。目を凝らせば遠くの方が歪んで、皺があるようにも見えましたが、私の目でははっきりと捉えることはかないませんでした。ただの思い違いかもしれません。
「ここは…?」
どうして私はこんなところにいるのでしょう?私はセントシュタイン国王の一人娘、フィオーネです。こんなところに来る用事など、ありましたでしょうか。
私は考え始めます。
そうです。あのお方々の後を追い、ルディアノ城までやってきたのでした。
黒騎士様―彼を見た時から私の心はざわついていたのです。はじめは恋かと思い違いをするほどに。目が合った時の胸の高鳴りが理解できなかったのです。
今ならあれが何の高鳴りなのか、わかります。
私はダンスを踊るように、くるりと後ろを向きました。ふわりと、いつものではない白いドレスが舞い上がり、後ろに立つ彼を歓迎する笑みを向けました。
「ありがとう、白百合の姫の子孫よ。」
声をかけて来たのは、この白い世界に似つかわしくない、黒一色の騎士でした。
「いいえ。今は私がメリアです。騎士様。レオコーン様。………お久しゅうございました。」
私の口がひとりでに動きました。レオコーン、と心の底から再会を懐かしむような声が出て驚きました。目頭が熱くなっているのがわかります。
私が?
いいえ、私ではありません。そもそもくるりと身をひるがえした時から、この体は私のものではありませんでした。
今の私は、意識だけが”彼女”と繋がっているだけの、ただの魂のようでした。その証拠に、私には何一つ分からないこの黒騎士を見つめている、”彼女”は私の体でぽろぽろととめどなく涙を流しています。
(メリア姫。今この体はあなたのものです。ご自由に、お使いください。)
私は”彼女”に向けて心の中で語り掛けます。伝わったのでしょうか?何分、このように自分自身に語り掛けるということは経験したことが無いので、勝手がわからないのです。
こんなことを考えていると、”彼女”が私に声をかけてくださいました。
(ありがとう、私の血を継ぐ姫よ。)
この”彼女”と”黒騎士”の関係はわかりません。城を狙った黒騎士のことも。私に寸分たがわずそっくりな”彼女”のことも。私には何一つわかりませんでした。それでも、これだけは私の体が知っていたのでしょう。
”彼女”と黒騎士を会わせなければならない、ということだけは遠い世界の意思としてつながっていたのでしょう。私は”彼女”の感謝の言葉を聞くと、眠りに落ちたように意識が遠のいていきました。
遠のく意識の裏で聞こえてきた会話は、きっと二人のもので間違いはないはずです。
「私はずっとあなたのことを待っていました。―――レオコーン。」
「ああ…、メリア姫、私は、私はあなたのことを…ルディアノの、ことを…守ることが…」
「顔をあげてください。ああ、レオコーン………あなたに、あなたにもう一度会うことができて本当に良かった」
「姫…」
「顔を………見せてくださいますか?」
「なりませぬ、姫よ。私はご存知の通り、すでに魔に堕ちた身。あの女にとらわれ、ほねばかりが残ってしまいました。今は甲冑で隠れていますが、このような禍々しきを放つものをあなたにお見せするわけにはいきません」
「あなたが。あなたが魔に堕ちたなどありえませんわ。私を探して、ここまで来てくださった今のあなたの姿を、お願い。よく見せて。」
「っ……」
「ふふ、あなたはどんな姿になっても変わらないわ。優しくて、正義感に溢れた、私の騎士様。」
「姫こそ………私のことをずっとお待ちになっておられたのですか」
「ええ。…ずっと、あなたにこうして、触れたかったんですもの。」
「これからは、ずっと、ずっと一緒にいます。約束します。未来永劫、あなたと共に。」
「ええ。……ええっ………………ずっと、一緒にいましょう?レオコーン…」
あのとき戻ると約束し、踊ることのかなわなかった婚約の踊りを。
死ですら、呪いですら分かつことのなかった誓いを。
時を超えて、今
「「あなたを、愛しています」」