「少しくらい笑顔で手向けたところで、不謹慎にはなりはせぬぞ。」
「不愛想であることは自覚しております。」
師匠のところに戻ると開口一番、そんなことを言われた。別に不謹慎であるから笑わないというのではなく、単に笑いどころが分からずに詠唱を続けていたら淡々と終わってしまっただけのことなのだが。それに、感情を考えながら作るぐらいなら、いっそなくたっていい。なくたって困りはしないのだから。
「…どうだ。綺麗だったろう」
私が答える間もなく師は続ける。
「綺麗というのも、変な話なのかもしれないがな。魂が出すオーラはひときわ大きく輝いている。お前がその手に抱えている星のオーラも、そう見えるだろう。」
私の腕の中には、先ほどの男の感謝の気持ちから生じた星のオーラが輝いていた。先ほどの成仏する男の光に負けじと劣らずの輝きを放っている。これを綺麗ということこそ不謹慎なのではと思いつつも、私は師の言葉に深くうなづいた。確かに、とてもきれいだった。
「どうする。一度天使界に戻るのか。」
「はい。星のオーラも集めたことですし。」
「そうか。ではな、ウォルロ村の守護天使マミよ。達者で………」
師の言葉が途中で途切れた。いや、正確には、かき消された。
空を走る黄金色の大きな乗り物の立てる笛の音に。
「なんだ、天の箱舟がやけに慌ただしそうにしているな」
突如空に現れたその大きな乗り物は天の箱舟と言われ、不定期に空に現れては笛の音を響かせて消えていく。ぽっぽー、という耳に響く高い音は私が幼少のころから焼き付いている。名前も姿も見て取れるのに天使たちの中の誰もがその乗り物に乗ったことはない。私たちがその乗り物に乗ることができるのは、女神の果実が実ったとき。すなわち私たちの使命が終わったその時であるらしい。アの箱舟に乗りたいと夢見て、志半ばにして天使としてのいっしょうを終えた者もいるとかいないとか…。
それにしても師匠の言う通り、これほどまで長く天使たちの目の届く範囲であの乗り物が空を徘徊しているのは見たことがない。ぽっぽーとなるあの笛の音も、いつになく楽し気に聞こえる気までしてきた。
「気が変わった!マミよ。やはり私も天使界まで同行させてもらうぞ。」
師はそういうやいなやすぐに翼を広げた。私が飛び立つのを待たずして師の背中はどんどん小さくなっていく。
何かが起こるのだろうか。
もしや、女神の果実が…?
胸の中で膨らむ期待と、ほんの少しの不安感を覚えながら私はすでに豆粒のようになってしまった師匠の背を追うのであった。