「聞こえてますよ」
「はっ!聞こえてるように言ってんだよ。地獄耳が!」
2人組の内、若干の金髪を逆だたせたほうの青年が叫ぶ。隣に立つ背の高いほうの青年はこくこくとうなづいて叫んだ青年の言葉を肯定する。
「何お前、まだこの村にいんの?天使だなんだって、大方どっかの旅芸人がこの村の恩恵にさずかろうとか言って騙ってるだけだろ?」
「天使はいますよ。いつもあなた達のことをずっと見ているんです。」
「またこれだ。」
「ニードさんはな、お前が守護天使だって言い張るのが気にくわないんすよ!」
ニード、と呼ばれた金髪の青年が溜息をつきながらマミににじり寄る。背の低いマミは必然的に見上げる形になるが、怯むことなく彼を見返した。
守護天使の頃からずっと、彼は問題児だった。
村長の息子にして、リッカの幼馴染。年下の子をからかったり、大人達へ悪戯を仕掛けたりしては、その度にリッカに叱られるという流れを幾度も見て来た。実害を出すことは少ないため、マミの方もあまり彼に対して干渉することはなかったが、目に余る行為の数々に、後始末に追われるマミが辟易していたこともまた事実である。
そんなマミの心中を知ってか知らずか、ニードは自村の天使に向かってさらに言葉を重ねる。
「リッカもリッカだよな。こんな素性のわかんないやつをさ、天使と同じ名前だからって贔屓しやがって」
「ニードさんはな、リッカさんがお前ばっかり構うから気にくわないんすよ!」
「ばっ、お前、聞かれてたらどうすん………ぁ。」
ニードが後ろを振り向くと、少し離れたところからリッカが口をへの字に、手を腰に当てて彼のことを睨みつけていた。
「こら二人とも!うちのマミさんに何してるの!?またいじめてたりしてないでしょうね!」
マミにとっても聞き慣れた説教の声が遠くから飛んでくる。
「しっ、してねーよ!ちょっとこの村のルールを教えてただけだって!ほら行くぞ!」
ニードはそそくさと隣の青年を促し、怒るリッカの隣を通り過ぎて走り去って行く。
ふう、と息を吐きながらリッカがマミに大丈夫?と問いながら歩いてくる。表情は完全に幼い妹を心配するもので、マミはほんの少しだけ口を尖らせた。
「……心外です。リッカさん。私、あのような人たちにいじめられるほどヤワではございません。」
「あはは、つい…マミさん、小さいから…っ。でも、出歩けるくらいには元気になったんだね。よかった!」
「はい、おかげさまで。何かご用ですか?」
「ううん、ちょっとどこにいるのか探してただけ。色々落ち着いたら戻って来てね。」
首を縦に振りマミが返事をする。そして再びその目を像へと戻した。
守護天使像。各々の村、国、町に1つは存在し、そこを守護する天使の名が記されている像。
外見は統一されているためお世辞にも自身にそっくりだとはいうことができないが、台座に彫られているのはまごうことなき自分の名であった。
突如天使界を襲った紫の閃光と衝撃の後、地上へ落とされたマミが目を覚ました時には既に光輪と天使の翼が消えていた。幸か不幸か、落下先は自分の守護するウォルロ村であることがわかり、傷が癒えて以降はこうして像を眺めては村を歩き回っていたのだった。
「………。」
無言のままマミが像に触れる。
「………。」
目を瞑ってしまうと、天使界が襲われたあの時の光景が脳裏に蘇る。
師匠はあの後どうなっただろうか。
カリナは?
ラチェット様は?
天使たちは皆死んでしまってはいないだろうか。
最悪の事態を想像し、マミは首を振る。
(そう簡単に訳もわからず死んでいるはずがない。)
まだ自らの状況もよく掴めていない中、自分にできることなどほとんどない。今は祈るしか、ない。
誤字修正ありがとうございました 訂正させていただきました2020/5/21