「ネジ止めよしっガタツキ無しパーツの紛失全くなーしっと」
指差しで作業確認をして今回もミスがなかったと満足し、うんと頷いた。
日は傾いてきているが頼まれた時刻には間に合った。
修理も終わったことだし依頼主に報告しないとな思っていると、ちょうどこの屋台の持ち主であるミスティアさんが小屋の窓からひょっこりと顔を出して、庭で行っている作業を見に来たところだった。
「あれ修理屋さん終わったんですか?」
「終わりましたよ。ちょうど報告に行こうかなって思ってたんです」
心配そうな顔をしていたが、修理が終わったことを聞きほっとため息をついて安心している様だった。
「よかった直って、これが無いと仕事ができないから大変なんですよ」
「そうでしたか、だったら急いで直しに来たかいがあったってもんです」
駆け付けサービスの特徴を活かせてこちらとしてもかなり気分がいい。
今回のご依頼は前述の通り屋台の修理。なんでも、コンロの火力が落ちてきたらしい。ミスティアさんは仕込みやらで忙しいらしいので彼女の家まで来てほしいとのことだった。
ミスティアさんが小屋から出てきて、修理の終わった屋台の様子をなんだか嬉しそうに眺めている。一通り屋台を見た後に、紙にまとめた修理内容を確認してもらった。表情を見るに価格と質、どちらにも満足してもらえたようだ。
そういえばさっきから屋台の仕込みなのか、とてもいい匂いが庭まで漂ってきている。
幻想郷に来て間もない身の俺は、人里にある美味しい飲食店を開拓すべく日々、様々な店を転々としている最中だ。その中で屋台と言われれば興味が沸くのも当然だと思う。
「そういえばミスティアさん、この屋台ってどんなメニューがあるんです?」
「えっとね、八目鰻がうちのおすすめかな。冬だったらおでんもやってるよ」
「やつめうなぎ?」
「だいたい鰻だと思ってくれれば合ってる、体にも良くて結構美味しいよ」
珍しい料理を出す屋台なんだろうか、八目鰻・・・そういえばテレビでも紹介されていたことがあった気がする。たしか、見た目が気持ち悪くてヌメヌメした粘液出すやつ、ゲテモノ食いは嫌いではない。むしろやってみたい気さえする。
「それは気になるな、是非とも行ってみたい」
「うーん、人間はあまり来ないんだけどな・・・でも修理屋さんならいっか」
「では今度お邪魔しよっかな」
「来るときはちゃんと護符忘れないでね、場所が場所だから妖怪がよく出るんだよ。修理屋さんが来てくれるんだったら腕を振るっちゃうぞ~」
そう言い、ミスティアさんは言葉の通りブンブンと腕を振り始めた。
確かに人里でこの屋台は見たことがない。まぁ誰か妖怪に聞けば分かるだろう。結構な酒好きが多いし、屋台にも詳しいかもしれない。
「そういえばお兄さんってカッパの修理屋の人だよね?」
腕を振り終わったところでミスティアさんが話しかけてきた。
「えぇ、だいたい二週間ぐらい前から働いています」
「川崎 詩音さん・・カッパの人たちみたいな名前ではないし、人間が働きに行くような事務所でもない・・」
修理に来たときに渡した名刺をポケットから取り出して名前を見ると何やらブツブツと言い始めた。
「もしかして外の世界から来た人だったりする?」
「えぅっ!?あ、はいそうですけど」
思わず変な声が出た。幻想郷に迷い込んだ初っ端に妖怪に襲われ、更には外の世界から来た人間は殺されやすいと説明を受けた。博麗の加護は受けているとはいえ、どうも妖怪から「外から来た人?」と聞かれるのは心臓に悪い。冷や汗が出始め、明らかに目が泳いでしまってる。相手は客だ、気づかれてしまっては失礼になる。平常心・・・・・平常心・・・
一方でミスティアさんはもじもじしながら口を開けた。
「あの、よかったらですけど明日、外の世界の料理とか教えてもらえませんか?」
「えっ・・・・料理、ですか」
動揺が収まらないせいでよく聞き取れなかった。え、なに料理?俺を料理するとかそんな話だったり?
などと考えていたがどうやら違うようだ。
「あのね、私って料理好きなんだけど。あまり外の世界の料理は知らないのよね、だけど外世界の人って少ないからか、なかなか聞ける機会が無いんだよね。だから教えてほしいなって・・・・・」
「あぁ、外の料理ですか」
なんだ普通の料理の話か。よかった。
「だめ・・・・ですか?」
幻想郷に来る前は大学生。一人暮らしでよく自炊をしていたため、料理はできる。むしろ格安レシピとかの研究もしていた。
「いやどんな料理があったかなって思い出してただけだよ」
「つまり・・・」
「俺でよければお教えしますよ」
「やったー!」
跳ねて喜ぶミスティアさんを見て、なんだか微笑ましい気分になった。
「待ってますよー」
この日は、ご機嫌なミスティアさんに見送られて一日が終わった。
* * *
さて翌日、調理器具とか必要そうなものは揃ってるからと言われたので向かう足取りは結構身軽だ。
「修理屋さん、こっちです」
ミスティアさんの家は人里から離れた場所にあり、人の目線を気にする必要はないのだが、手を振りこっちと呼ばれるのはこっ恥ずかしい。
「わざわざ出向かなくてもいいのに」
「それだけ楽しみだったってことです」
「そこまで期待されても俺は趣味程度だからな・・・・」
「十分ですよ、ほら修理屋さん・・・うーん、こう呼ぶのも変だな・・・川崎さん・・詩音さん・・・・これだね、詩音さんって呼んでいい?」
「お好きなようにどうぞ」
「じゃぁこれからは詩音さんって呼びますね。詩音さんこっちこっち」
俺の呼び方は決まったらしい。それにしても――
「ミスティアさんの家ですよね・・・?」
「そうだよ?あっ食材なら大丈夫。自分でも何度か挑戦してみようかなって思ってて種類だけは揃えているから」
いや、そうじゃない。料理を教えてほしいと行ってきたのはミスティアさんの方という口実はある。しかし女の子の家という要素にどうも抵抗がある。
「どうしたんですか詩音さん?」
「・・・・・えっとね、どんな料理がいいかなって考えてただけだから」
「ふふん・・・楽しみだな~」
こんな様子見せられてはな・・・・・あぁもう、考えなくていいや。
厨房はずいぶんと広く、調理器具とかも想像以上に揃っている。さすが料理が仕事の人って感じだな・・・
「さて、何を作ろうか」
早朝に人里で開かれている市場に行ったらしく、食材も豊富な種類がある。これなら制約なく自由に作れるな。っと、その前に一つ聞いておかなきゃ。
「ミスティアさんって食べれないものってあります?」
「えっとね、鶏肉は食べれないかな。あっ卵は大丈夫だよ」
鶏肉が使えないか・・・昨日聞いておけばよかった。まっレシピが多少変化するだけで問題はないか。
「鶏肉がだめね、じゃ始めよっか」
* * *
昼ごはんには少し遅いかな。しかしミスティアさんが非常に要領のいい人だったので教えながらにしても、一人で料理するときよりは短い時間で完成した。
食卓についたことですし、ではっ
『いただきます!』
きれいにハモったな。
「うわっ!このパエリヤって料理すっごく美味しい。お米が主役なのかなって思ってたけどトマトとか貝類がとってもいい味付けでよく具材が合わさってる。一度も味わったこと無い味だよ!」
一品目から非常に高評価。これは嬉しい
「こっちもスープは野菜に塩気と胡椒がいい感じに合わさって美味しい!」
スープの方も高評価。よかったよかった。パエリヤの方は湖の魚で代用できるかは不安要素ではあったがうまく行ったようだ。
それにしても美味しそうに食べてるな。心から喜んでるって感じ。元気をもらえるってこんな様子のことなんだと、なんとなくだが分かった気がする。
「詩音さんは食べないんですか?」
「あっそうだね、ちゃんと食べるよ。ミスティアさんがすっごい美味しそうに食べるからつい見いちゃったよ」
「・・・・・っそうですか、せっかくこんなに美味しい料理ですよ冷めちゃう前に食べないともったいないですよ」
「確かに暖かいうちに食べないとな、いただきますっと」
本日二度目のいただきます。うん確かに美味しく出来てる。湖の魚に合わせて少し調味料の配分を変えればもっと良くなるだろう。
そうれはそうと、今度はミスティアさんの手が止まることが多かった気がする。指摘はしなかったけど。
『ご馳走さまでしたっ』
二人合わせて食材に感謝の挨拶。これぞ日本の文化って感じ。
「さて食器は洗っておくから屋台の準備に行ってきていいよ」
「いや、私がやりますよ料理を教えてもらったことですし。それに仕込みなら夜に終わらせてるので時間もありますし」
「でもなんか悪い気がするんですよね。お客さんですし」
「なら二人でやりましょうかそのほうが早いし」
「それならあまり気にしなくていいから、そうしましょうか」
結果二人で台所に移動。
ミスティアさんは空の木箱を持ち上げ移動させ始めたので、なにをするんだろうと思ったら流し台の前に置いた。
あぁ、身長的に台使ったほうが作業が楽なのね。
* * *
食後はミスティアさんが淹れてくれたお茶で一息つく。
皿洗いも終わって帰ろうとしたら、せっかくですしゆっくりしてってくださいと言われ止められてしまった。まぁ今日は他に仕事の依頼が無いお言葉に甘えようかな。
「お茶菓子、このくらいしかなかったけどどうぞ」
「別にここまでしてもらわなくてもいいのに」
「お料理教えてもらったお礼ですよ」
「・・・それなら頂こうかな」
「お口に合えばいいけど・・・」
「大丈夫すっごい美味しいよ」
このお茶にしろ添えられた団子にしろ、高級品ではないんだろうかと思うほど美味しい。
「ふふっ、よかった」
「・・・・・っ」
頬杖をついて穏やかな笑みを向けるミスティアさんに思わず心拍数が跳ね上がり視線をそらした。多分、ミスティアさんと一緒に食べている事もこの美味さの秘訣だろう。
当の本人は気づいてないようで小首を傾げてる。
お茶菓子の甘い匂いに、穏やかな雰囲気。それにミスティアさんの子供っぽさが抜けないながらも透き通った声を聞いていると、なんだか寝てしましそうだ。
適当な世間話を続ける中、ふとミスティアさんが質問してきた
「そういえば詩音さんっていつから幻想郷にいるの?」
「あぁ、一ヶ月ぐらい前だよ。それ以前は大学にいた」
「大学?」
「あぁ、勉強するところだよ」
幻想郷には寺子屋以外の学校はないんだっけか
「じゃぁ、寺子屋と一緒か」
「だいたい合ってる」
「それなら、詩音さんは元の世界に戻ったりしないの?」
「戻る方法を知らないってのもあるけど、此処の方が面白そうだからってのが一番の理由かな」
「おもしろい?」
「そうっ!人だけじゃなくて妖怪も暮らしてる。それぞれの価値観があって色んな関係の仕方がある。暮らしの仲間と見たり、食料として見たり、商売相手と見たりって。これが面白くない訳がない!前の世界では絶対に体験できない感覚だよ」
「つまり、幻想郷が気に入ったから居続けるってこと?」
「そういう事だね、此処は本当いい所だよ」
「妖怪が怖くないんですか?」
「襲われた事もあるし多少はね。でも妖怪だから怖がるってのはやりたくない。ミスティアさんみたいないい妖怪いるっても知ってるし」
「さっそく幻想郷が好きになっちゃったんですね。あっもうこんな時間だ、屋台の準備とか始めなくちゃ・・・すいません詩音さん今日はこのくらいで」
時刻は気づいたら四時を回っていた。自分でもずいぶんと長くお喋りしていたなと思う。
「ちょっと長居しすぎたかもしれませんね。お茶菓子美味しかったですよ」
「ありがとう詩音さん。それと・・・・・良ければなんですけど、またお料理教えてもらえませんか?」
「喜んで。また来ますよミスティアさん」
「約束ですよ~」
そんなわけで楽しいお料理教室は幕を下ろした。
さて、夕食には早いし、かと言って家に戻ってもやることがない。考えた末、人里に行けば何か暇を潰せるだろう。そう結論づけて人里へと向かう事にした。
最後まで『東方住まいの駆けつけサービス24時 一話』を読んで頂き有難うございます。何分小説を投稿するのは初めてでしていくつもの不備が見つかるかもしれません。その場合はご指摘いただければ幸いです。
ニトリの事務所で~なんてあらすじに書いてるくせに今回は全く出番がなかった河城にとりが一切出てきませんでした。しばらく出てこないと思われます(作者の気分によるため)。にとりファンの皆様申し訳ありません。
来週あたりに第二話投稿したいと思っております。ぜひ今後ともこの小説をよろしくおねがいします。