「スパイ容疑?」
ギリアムから告げられた言葉にラトゥーニが驚愕していると、イルムガルトが険しい顔つきでギリアムに詰め寄る。
「ちょっと待ってくれ少佐!リュウセイやライはまだ分かるが、イサムはSRX計画には深く関わっていないだろう!」
「確かにイサム君はSRX計画との関連性は薄い。しかし、彼がイングラム・プリスケンと個人的に親しくしていたとの報告があってね」
確かにイサムは休暇中や作戦中でも、時間を見つけてはイングラムの元を訪ねていたのだ。
「公的な関わりしか持とうとしていなかった彼が、イサム君とだけは私的にも関わりを持っていた」
「それはそうですが。だからって監視対象だなんて…」
「普通ならそこまでしないのだがねラトゥーニ少尉。イングラム・プリスケンは、SRX計画だけでなく。PTやAM、特機と言った対異星人兵器開発の要でもある、EOT解析や他の分野にも深く関与している。そんな彼がエアロゲイターのスパイであったことに、上層部はかなりの衝撃を受けたこともあって、少しばかり神経質になっているのさ」
「だから、少しでもイングラムに同調する疑いがあるイサムを監視すると?」
「そうだ。とは言っても、私も彼が同調するとは思ってはいない。監視もあくまで形だけのものさ。何も監禁する訳ではないよ」
憤りを感じているイルムガルトやラトゥーニを宥める様に言うギリアム。
「それなら、また戦場に出ることはできますか?」
今まで沈黙していたイサムがゆっくりと口を開いた。スパイ容疑に関してより、そのことを一番気にしている様であった。
「リュウセイ曹長やライディース少尉同様、ある程度制限はつくがね。貴重な戦力を出し惜しみしている余裕はないのでね」
「だったら問題無いです」
「おい、イサム!?」
あっさりと監視されることを了承したイサムに、慌てるイルムガルド。
「ギリアム少佐は命令に従っているだけなんだから、文句を言っても仕方ないよ。皆と戦えるなら俺はそれで構わない」
「イサム…」
当人であるイサムにそう言われては、この件に対してイルムガルト達から、これ以上何も言うことはできなかった。
ジュネーブ近海
アースクレイドルのDC残党と合流していたコロニー統合軍精鋭部隊『トロイエ隊』から投降してきたレオナ・ガーシュタインと、その部下からもたらされた情報から。DC残党がジュネーブの連邦政府の本部へ進行すると言うことを察知したハガネ・ヒリュウ隊は迎撃するために出撃していた。
レオーネを駆って出撃しているイサムの右腕には、見慣れない腕輪が装着されていた。戦域外か機体の外に出た場合、内蔵されたセンサーが反応し、脱柵と見なされるのである。最もイサムにとってはする気がさらさら無いので、問題にはならないが。
正面に捉えたシーリオンからレールガンとミサイルが放たれるが、スラスターを巧みに操り回避する。
『遅い!』
ブースターを全開にして一瞬で間合いを詰めると、シシオウブレード改で両断した。
『うおっと!』
飛来してきたミサイルが至近で爆発したため、爆風でレオーネの体制が崩れた瞬間を狙いレールガンを構えたシーリオンだが。ライディースの乗るシュッツバルトが放った、ツイン・ビームカノンに撃ち抜かれて爆散する。
『前に出すぎだぞイサム!』
『すいませんライさん。助かりました』
援護してくれたライディースに礼を言いつつ。レオーネの防御力に頼り過ぎているなと反省しつつレールガンをブレードで弾く。
『サークル・ザンバーァ!』
イサムがシーリオン注意を引きつけている隙に、リュウセイの乗るビルドシュバインが左腕の光輪で切り裂いた。
リュウセイとライディースは、イングラムの裏切りによってSRX計画が凍結されたため、Rシリーズが使用できなくなったので。代わりの機体で出撃しているのである。
『ん?うぉ!?』
イサムが真下の海中から殺気を感じ、機体を真横に跳ばすと。先程までいた地点の海を割いた、赤と青の螺旋状の閃光が、上空のヒリュウ改を掠めた。
『ぐっ大出力のエネルギー兵器!?それにあれは…!』
見覚えのある攻撃に驚愕していると、海面を割って巨大な影が飛び出してきた。
『やっぱり、ヴァルシオンか!!』
現れたのはDC戦争終盤に、DC総帥であるビアン・ゾルダーク自らが駆り、自分達を苦しめた機体であった。
機体色こそ赤ではなく青であるが。その姿は紛う事なきヴァルシオンであり、それが3体も同時に現れたのである。
それぞれのヴァルシオンが左手首のエネルギー兵器『クロスマッシャー』や右腕に持った大剣『ディバイン・アーム』。さらにオリジナルにはなかった背部ユニットからのミサイルで攻撃したきた。
イサム達は散開して回避すると。1体のヴァルシオンがレオーネへと大剣で斬りかかってきたので、ブレードで受け止める。
『このパワー。見せかけだけじゃないか!』
機体の出力を上げて押し返すと、蹴りを入れて間合いを離すイサム。
お返しと言わんばかりに斬りかかるも。ヴァルシオンは、まるでこちらの動きを読み取っているかの様に、軽々と回避した。
『何!?ガァッ!?』
ブレードを振り下ろして動けない隙に放たれたクロスマッシャーを、G・ウォールの出力を最大にして受け止めるも。完全には防ぎきれず弾き飛ばされる。
海面に叩きつけられた機体を起こそうとするも、追撃してきたヴァルシオンが目前まで迫ってきていた。
『マズッ!?」
大剣を振り上げたヴァルシオンだが。真横から飛来してきたビームを、
『イサム!』
『無事か!』
援護してくれたラトゥーニのビルドラプターと、ライディースのシュッツバルトが弾幕を張ってヴァルシオンを牽制する。
『速い!』
『機体の性能…いや、パイロットの技量なのか?』
特機とは思えない俊敏な機動で、攻撃を回避していくヴァルシオンに違和感を感じる面々。
『目標…優先順位…変更…。イルミネーターリンク…』
『その声!』
『まさかッ』
『シャイン王女!?』
対峙しているヴァルシオンから聞こえてきた声に、驚愕するイサム達。
その声は北京での戦闘中に、離反したハンス・ヴィーパーによって連れ去られた、シャイン・ハウゼンであったからである。
『コマンド”殲滅”…。アクション…スタート』
シャインの乗るヴァルシオンが、イサム達へとクロスマッシャーを発射する。
『やめろシャイン!俺だ、イサムだ!分からないのか!?』
複雑な軌道を描きながら襲いかかる閃光を避けながら、イサムが呼びかけるも。シャイン機は止まる気配が無いどころか、背部ユニットのミサイルを放った。
『クッ!王女、洗脳されているのか!?』
濃密な弾幕を辛うじて回避しながら、ライディースが苦悶する。
『クソッ攻撃があたらない!どうすりゃいいんだよ!』
どうにか機体を止めようとするも。シャインが持つ予知能力を利用されているのか、一向に有効打を与えることができないことに歯噛みするイサム。
するとイサムの耳に、真下の海中からロックオンされたことを告げるアラートが鳴り響いた。
『何!?』
咄嗟にG・ウォールの出力を最大にして回避行動を取るが、真下からせり上がってきた金色の螺旋状のエネルギーがフィールドを掠めて機体が激しく揺れた。
『ッ!新手か!!』
機体を立て直してエネルギーがせり出してきた場所を睨みつけると、何かが海面を割りながらゆっくりとせり上がってきていた。
『ふっふっふっふっふ。お主がケンを打ち倒したイサムとか言う小僧じゃな?』
『何者だテメェ!!』
『ワシの名はアードラー・コッホ。新たなるDC総帥にしてこの星の覇者よ。そしてこれこそが我が力の象徴、ヴァルシオン・ザ・キングじゃ!』
アードラーの高らかか雄叫びと共に姿を現したのは。全身が金色に塗装と派手な装飾が施され。右手には先端に宝石の様な物が埋め込まれた杖を持ち、頭部は王冠を被っているかの様なパーツに変更されており、背部のユニットにはマントがかかっているヴァルシオンタイプであった。
その姿を見たイサムは言葉を失っていた。
『さあ。お主をこの手で倒し、ワシのことを散々見下しおったケンの糞餓鬼を見返してくれるわ!!』
ファーハッハッハッハッハッハッ!!!と高笑い上げているアードラーに対して、イサムは俯いて身体を震わせていた。
『ぬっふっふっふっふ。この偉大なる姿を見て言葉も出んか。まあ、それも当然のことよの』
イサムが戦意を喪失したと思い込んだアードラーは、再び高笑い上げ始める。
『……ぇ』
『ん?なんじゃ小僧、命乞いかぁ。よく聞こえんぞぉ?』
『めっちゃ、ダッセェエエエエエエエエエエエエ!!!』
勝ち誇った笑みを浮かべるアードラーに、イサムは力の限り叫んだのであった。
アードラーが無駄に頑張った結果→ダサいヴァルシオンが誕生しました。
てか、今回であの糞爺を始末できなかった…。次回には片付けられると思います。