伊豆基地 医務室
ジュネーブ近海での戦闘から数日が経過し、救出されたシャインは伊豆基地にて検査を受けていた。
「…とりあえず今の所…。深刻な障害は確認できないわ。きちんとした施設で専門医の精密検査を受けるまで安心できないけれど」
「王女よかった」
「だね」
ラーダの診断にその場にいたイサムとラトゥーニは安堵する。
他にもライディースとシャインの執事であるルダールもおり、彼らも安堵した表情をしている。
「了解です。医師の手配は国元に任せるとして退艦手続きを用意してきます。よろしいですかルダール卿」
「よろしくお願いします」
ルダールが頷くのを確認すると、ライディースの言葉は退室しようとするがシャインに呼び止められる。
「ライディ様…ラトゥーニ…全部覚えています。呼びかけてくれた声も全部。ありがとう」
「当然のことをしたまでです。失礼」
そう言って部屋を出て行くライディースを見送ると、イサムがバツの悪そうな顔をしていることにラトゥーニは気づいた。
「どうしたのイサム?」
「いや、結局俺ってシャインを助けることに関われなかったからさ…」
どうやらアードラーの乱入によって、ライディースとラトゥーニに任せてしまったことを気にしているらしい。
「しかし、イサム殿はアードラー・コッホめを成敗なされました。気に病む必要はないかと存じますが」
「そうです。わたくしのような目に遭う者がいなくなったのは喜ばしいことですわ」
「ありがとうございますルダールさん。シャインも」
2人のフォローに気が軽くなるイサムであった。
「でも、あいつの助けがあったからでもあるんだけどね」
「ケンって人のこと?」
「うん。戦いが終わってすぐにどっかに行っちゃったけど…」
アードラーを撃破後。ケンらDC残党の者達は何も語らずに去っていってしまったのである。
「その方はイサムの兄君なのですわよね?」
「まあ。一応ね」
シャインの言葉に、どこか懐かしむような様子で頷くイサム。
イサムとケンは年齢は同じだが。生年月日から見るとケンの方が先のため、形式的にはケンが兄となるのだ。
子供の頃は、よくどちらが兄か弟かでちょっとした喧嘩をしていたものだ。まあ、弟であることに納得できていなかったイサムの方が、一方的に突っかかっていていただけなのだが。
「彼と話がしたいの?」
「…そうだねラト。できれば話して、みたいかな」
彼がなぜ家族を捨ててDCに身を置いたのか。本当に家族の絆を捨ててしまったのか。北京やジュネーブで自分を助けてくれたのは、使命のためだけだからか。本当に家族の絆を捨ててしまっているのか。直接会って聞きたいことが山程あった。
もう、昔のように笑い合うことはできないのだろうか…。そんな思いを馳せるイサムであった。
ハガネ 格納庫
「今度は南極行きか…」
レオーネに搭乗しているイサムが、機体のチェックをしながら誰にともなく呟く。
ジュネーブ近海での戦闘からさらに数日が経過していたが、その間エアロゲイターの攻撃は一部の軍事施設のみに限定されており、まるで何かを待っているかのようであった。
対する連邦軍はL5宙域に出現した構造体『ホワイトスター』攻略作戦を立案し、起死回生の一手とすべく行動を開始していた。
ハガネ・ヒリュウ改の面々もこの作戦に参加すべく準備に邁進していたが。伊豆基地指令レイカーの要請により、ハガネは急遽南極のコーツランド基地へと向かっていた。ちなみにヒリュウ改は月のマオ・インダストリー本社に向かっており補給物資の受け取り後、現地で合流することとなっている。
『確かあそこってシュウ・シラカワとグランゾンに破壊されたんじゃなかった?』
『レイカーのおっさんの話だと、あそこはイスルギによって復旧されたんだそうだ」
イサムと同じく疑問に思っていたリュウセイに、事情を知っている様子のマサキが答えた。
彼はジュネーブでの戦い後協力を申し出た、リューネ・ゾルダークの処遇を決める場に付き添っており。その場で今回の事態の詳細を知らされたのである。
ちなみに。リューネ・ゾルダークがジュネーブでハガネ・ヒリュウ隊に戦いをしかけたのは、父であるビアン・ゾルダークの後を託すに足るかどうかを自分の目で確かめたかったからであった。
マサキとの戦いを経て、ハガネ・ヒリュウ隊のことを認めた彼女は最終的にDC残党との戦いに協力し。そのまま行動を共にすることを決めたのだった。
『さらに、スペースノア級壱番艦シロガネの修復も行われていたらしいぜ』
『シロガネの?』
イルムの補足に驚きの声をあげるイサム。
今では『南極事件』と呼ばれることになった戦いで、グランゾンの攻撃によって大破した艦の姿が思い起こされる。
『貴重なスペースノア級を直すってのはおかしなことではないが。そこにEOT特別審議会議長殿がいるってのは穏やかじゃないね』
「エアロゲイターに降伏しようとしていた連中か。もしかして自分達だけ逃げようしているとか?」
『そこまではわからんが、レイカー指令は何かが起きると踏んで俺達を派遣したんだろう』
確かに目的地に近づくごとに嫌な感じが強まっていた。レイカーも似た者を感じたのだろうと納得するイサム。
そんなことを考えていると、艦内に警報が鳴り響いた。
『コーツランド基地がエアロゲイターの襲撃を受けている模様!総員第一種戦闘配備!繰り返す、総員第一種戦闘配備!』
アナウンスが流れると整備員達の動きが慌しくなり、待機していた機体らが次々と起動を始め発進準備に入っていく。
「嫌な予感的中か。さて、イングラムは出てくるか…」
愛機を起動させ、懸架されているシシオウブレード改を持たせるイサム。
北京でイングラムを取り逃がしたことを気にしてか、その表情はいつもより険しかった。
『例え出てきても熱くなるなよ?』
「わかってる。そこまで馬鹿じゃないよ」
どこか心配そうなイルムに、落ち着いた声で返すイサム。
北京では我を忘れて危うく取り返しのつかない事態になりかけたのだ。同じ轍を踏む気は毛頭なかった。
『レオーネ、発進どうぞ!』
「了解!イサム・トウゴウ、レオーネ行くぜ!」
カタパルトによって機体が射出されると素早く体勢を整え、周囲の戦況を見渡すイサム。
コーツランド基地のドッグに係留されていたシロガネの艦橋は既に破壊され火を噴いており。少なくともそこに者は誰も生き残ってはいないだろう。
その周囲では、防衛部隊とエアロゲイターの機体との一進一退の攻防が展開されている。
イサムは着地と同時に勢いを殺さず、地面を削りながら機体を滑らせエアロゲイターの人型兵器、コード名『ソルジャー』の一体をすれ違いざまにブレードで胴体を両断する。
続いてライフルからビームを撃ってくるソルジャーの集団に、回避あるいはG・テリトリーで防ぎながら接近に斬り伏せていく。
『ッ!?』
殺気を感じ取り。咄嗟に機体を跳び退かすと、レオーネが立っていた地面が襲い掛かって来た人型の手刀によって粉砕される。
『あれは、ゲシュペンスト!?』
襲い掛かって来たのは、黒色のカラーリングをしたゲシュペンストタイプであった。
『気をつけろイサム!そいつはタイプSだ!』
『タイプSって初期型の!?』
極秘任務名目で徴発され、コーツランド基地の守備隊に加わっていたカイ・キタムラの言葉に驚きを隠せないイサム。
タイプSは、人類初の人型機動兵器『ゲシュペンスト』シリーズの1機であり。特殊戦技教導隊隊長であるカーウェイ・ラウ大佐による宙間運用試験中に、機関暴走によって行方不明となった機体である。
また、プラズマ・ジェネレーター搭載試験機であり。その開発データはレオーネに生かされており、縁の深い機体でもあるのだ。
そんな機体がなぜエアロゲイターと共にいるのか考える暇も無く、タイプSは胸部の装甲を展開させ内蔵されている高出力ビームを放ってきた。
『ぐっ!?』
機体を横に跳ばし回避するも。近場に着弾したため衝撃でコックピットが激しく揺れる。
その隙を突くように、北京で鹵獲されたグルンガスト弐式が殴りかかってきた。
『オォ!』
右手でブレードを持ち、左手を添えた腹の部分で弐式の拳を受けとめると押し合い状態となる。
『ターゲット、破壊する』
『その声、クスハさん!?』
弐式から聞こえてきた声は間違いなくクスハ・ミズハのものであったが。生気を感じられず、まるで人形のように冷たかった。
そして上空から数発の実弾が降り注ぎ、テリトリーで防ぐも負荷によって機体が悲鳴をあげた。
『この攻撃はッ!』
弾が飛んできた方を確認すると。なんと、ヴァイスリッターがオクスタン・ライフルをこちらに構えているではないか。
『はぁい。皆お久しぶり』
ヴァイスリッターの通信からエクセレンの声が聞こえるも。クスハ同様、その声には違和感があった。
それを裏付けるかのように、ヴァイスリッターがライフルをバトンのように回すと、味方である筈のハガネ・ヒリュウ隊へと銃口を向けた。
『再会を祝って…。お土産…受け取ってね』
躊躇いも見せずにライフルのトリガーを引くと、実弾の雨がハガネ隊へと襲い掛かる。
『エクセ姉まで!どうなってんだよ!?』
何がどうなっているのか分からず、混乱するイサムだが。容赦なくタイプSが電撃を纏った右手の手刀を振りかざして接近してくる。
弐式と押し合い状態となっているため回避は出来ず。威力から察するにテリトリーで防ぐこともできないだろう。
万事休すかとイサムが冷や汗を掻くが。割って入ったカイのゲシュペンストが左手で手刀をいなし、カウンターで膝蹴りを放つも軽々と回避される。
さらに、ギリアムのゲシュペンスト・タイプRが弐式にニュートロンビームを放つが。念動フィールドに阻まれるも僅かに隙ができたのでレオーネは後ろに跳び距離を取る。
『恐らく。エクセレン少尉とクスハ曹長はエアロゲイターに洗脳されているのだろう』
『じゃあ、もしかしてあのタイプSも?』
ギリアムの言葉にタイプSの方へと視線を向けるイサム。あの機体もエクセレンらと同じ状態ならば、パイロットを助け出せるのではないかと考える。
『仮にそうだとしても、年月が経ち過ぎている…。助け出せる可能性は…』
『出来るとしても、殺さずに止められるかどうかだ』
『そ、そんなに強いんですか?』
『ああ。ゼンガーとエルザムがいても勝てるかどうか分からん』
カイの言葉に弱気になりそうな心を奮い立たせると、レオーネにブレードを構えさせるイサム。
『それでも、負けるわけにはいかない!ビアン・ゾルダークに託されたんだ!この星を護れって!』
『その意気だイサム!戦いは怖気づいた方が負ける!いくぞ!』
『はい!』
ブースターを吹かし、カイ機と共にタイプSへと向かって行くレオーネ。
対するタイプSは胸部の高出力ビーム砲――ブラスターキャノンを放つ。
レオーネとカイ機は左右に別れて回避する。そして、レオーネは発射の反動の隙を突いて一気に加速して接近すると、ブレードを下段から振り上げるも上体を逸らして避けられる。
そこから上段からの振り下ろしに切り替えるも、後ろに跳んで回避されるが。振り下ろした勢いを利用して機体を回転させながら追撃し、横薙ぎへと繋げるもブレードの腹を膝で蹴り上げられる。
その反動で両腕が持ち上げられ、無防備となったレオーネの胴体へと右手の手刀で貫こうとするが。ブレードを手放したレオーネは、突き出されたタイプSの右手を右脇の部分で挟み両手で右腕を掴んだ。
『今です!カイ少佐!』
『おう!』
動きを止められたタイプSへと、カイ機がジェット・マグナムを打ち込もうとするが。タイプSは右足でレオーネの左足を払い、体勢が崩れたレオーネをカイ機へと投げ飛ばす。
『うわぁ!?』
『ぐッ!?』
互いに回避することができず、ぶつかり合うレオーネとカイ機。追撃に入ったタイプSが、左手に持ったプラズマカッターで纏めて貫こうとするも。タイプRが放ったビームを跳んで避ける。
『まだまだァ!!』
直ぐに体勢を立て直したレオーネとカイ機がタイプSへと向かって行った。
コーツランド基地上空に、鳥類を思わせるエアロゲイターの大型機動兵器『ヴァイクル』が佇んでおり。搭乗者である指揮官のアタッド・シャムランは、コックピット内で戦場を俯瞰しながら思考を巡らせていた。
戦闘はハガネとヒリュウ改の到着により膠着状態へと陥っており。捕獲した地球人の1匹はイングラムが収集したデータにあるアルトアイゼンと、もう1匹はデータに無いがグルンガスト初期型と同タイプの機体と交戦している。
そして、新たに手にした人形のゲーザー・ハガナーは、SRXチームの1人に執着し始め若干の暴走状態となっており。ガルイン・メハベルのタイプSは優勢ではあるが押さえ込まれている状態となっていた。
「どうも場が膠着してきたね。ここらで一回すっきりさせるかい?」
にたりと嗤ったアタッドは、自機の側に地球側ではフラワーと呼称されている母艦『フーレ』を転移させると主砲の発射体勢を取らせる。
これはコーツランド侵攻前に連邦議会のあるジュネーブを壊滅させた戦法であり、現状の連邦軍では対抗策は無いに等しかった。
フラワーの出現に気がついたサイバスターとヴァルシオーネが迎撃しようと向かって来るが。アタッドはヴァイクルから無数の小型砲台『カナフ・スレイブ』を射出させ、オールレンジ攻撃によって阻む。
その間にフーレの発射準備が整うと、これから起こすことを想像してアタッドは笑みをさらに歪める。
『レギオン・イレイザー撃――』
発射を命じようとしたまさにその時――氷海を突き破り何かがフーレ目掛けて飛び出してきた。
『!氷海の下から!?』
アタッドは一瞬ミサイルの類かと思ったが。それにしては大きい。まるで戦艦のような――いや、戦艦そのもが特攻してきたのである。
それはスペースノア級参番艦クロガネであり、艦首の備えられたドリルによってフーレは粉砕されてしまう。
『フーレが…。こいつら馬鹿か、なんて野蛮な…!』
予想外の事態に動揺するアタッド。そんなヴァイクルに、クロガネから出撃したゼンガーのグルンガスト零式が迫る。
『キョウスケ達の邪魔はさせん!』
回避の間に合わないヴァイクルに、零式は斬艦刀を振り下ろすが念動フィールドの阻まれる。
だが、咄嗟のことだったためか、十分な強度はなくフィールドが砕け、浅くだが機体を傷つけることに成功した。
『くッ!調子に乗るな!』
カナフ・スレイブによる弾幕を張り零式を後退させると、アタッドは体勢を立て直そうとする。
『それはこちらの台詞なのだがな』
男の声が聞こえきたかと思えば。人型の影がヴァイクル周囲を飛び回り、両手にそれぞれ保持したブレードでスレイブを斬り裂いていく。
『なッ!?』
アタッドが慌てて残りのスレイブに迎撃させるも、アリオールは落ち着いた動作で回避すると距離を取る。
『こ原始人共が、よくもッ!』
『先程までと動きに余裕がないな?もっと足掻いてくれると思っていたのだがな』
忌々しげにアリオールと零式を睨みつけるアタッドに、挑発的な口調で話しかけるケン。
『まあ。もっとも、これ以上貴様の遊びに付き合ってやる気はないがな。やれ、エール!』
『あいな~!』
エールがハツラツな声で応えると。クロガネのハッチが開放され、固定された状態のディバイソンが姿を現す。
『うへへへへへへ。いい感じに固まってるじゃん!』
何やら女性がしてはいけない笑い方をしながらも、エールは眼下に展開されているエアロゲイターの集団をマルチロックオンしていく。
『メ~ガ~ロ~マッーークス!!!』
ロックオン完了と同時にトリガーを引くと、チャージしていた機体背部の17門突撃砲から高出力のビームが発射された。
撃ち出されたビームは空中で拡散し、空に展開していたバグズの集団を飲み込みながら地上のソルジャーら人型の密集していた地点に降り注ぎ、大爆発を起こして跡形もなく消し飛ばしていった。
ちなみにハガネ・ヒリュウ隊らと基地防衛部隊は、事前に勧告がされていたので安全圏に後退していた。
『あ、あたしの人形達が…』
目の前で繰り広げられて光景が信じられず唖然とするアタッド。たった一撃で戦力の大半が壊滅すれば無理もないが。
『すっげぇ…』
それはイサムら友軍も同様であった。数えるのも億劫な数がいた敵部隊が少数を残し消え去り、変わりにクレーターとなった大地が広がっていた。
『ッ!ガルイン退くよ!残った部隊を纏めて転移座標に集結させな!』
『リョウカイ…』
無事であったガルインに撤退を指示すると、アタッド自身も残ったスレイブと胸部か高出力のビームを使いアリオールと零式を牽制しながら後退していく。
『覚えておきな原始人共!次には纏めて叩き潰してあげるよ!』
アタッドが吐き捨てるように声を張り上げると。数体のバグズが、球体状の物体を集結したエアロゲイターの機体の頭上に投下すると光に包んでいく。
光がすぐに収まるが、同時にエアロゲイターの姿は戦場から消えてなくなっていたのであった。