中国 シロガネ格納庫
帰還したイサム含むATXチームの面々は、共に収容された所蔵不明の羽付きの特機の前に集まっていた。
「デザインラインのせいで目測鈍ってたけど、駐機するとやっぱりデカいわねぇ。あ、白」
「何を覗いているんですか…」
スカート状の下半身の中を覗き込むエクセレンに、引いているブルックリン。
「イスルギ社の試作機だそうだ」
「リオン系には見えないわねぇ」
「イサムは何か知ってる?」
「テスラ研以外でも特機を開発しようって話はあるそうですけど、もう形になってるなんて初耳スッ」
ブルックリンの問いに、かなり首を傾げているイサム。
特機の量産計画は、グルンガスト弐式がコストダウンしきれず頓挫する形で停滞しており。L5戦役後の連邦軍増強計画『イージス計画』が採択されたことで、テスラ研究所以外でも開発が推進されることとなったのだ。
とはいえ、まだ数ヶ月しか経っておらず、今の段階で実戦でテストできる機体が開発されていることには違和感しかなかったのだ。
「パイロットどんな娘だと思うー?」
「え、女性確定ですか!?」
「これがむさいおっさんだったらナナメ上すぎるでしょー。あ、イサム君みたいなパターンはそれはそれであり――あ、ごめんごめん怒んないでってば」
「がるるるる…」
地雷を踏んでくる姉貴分に、おもっいきり威嚇するイサム。
そうこうしていう内に、羽付きの胸部の装甲が解放される。
「お、開いた。あそこがコックピットね」
「グルンガストと違って頭じゃないんですね」
「あれは、『巨大ロボットといったら胸部からビームでしょ!』って所長らの趣味にこだわったからですからねぇ」
イサムの言葉に、日本アニメに影響された童心を忘れない大人皆さまを思い出し、あーと納得するブルックリン。
「さあさあさあ、天使様ご開帳ー♡」
「手は触れるなよ」
完全にセクハラ親父化している相方に、一応は釘をさしておくキョウスケ。
――そんな彼らの前に姿を現したのは、落ち着き払った印象を与える雰囲気を持った、20代になろうかという女性であった。
彼女は肩にかかる長さの金髪揺らしながらタラップに移ると、イサムらと対面する。
「この度は保護していただき誠に
――女性の発した言葉、というか口調に、その場になんとも言えない沈黙が流れた。
「…………?」
発した当人も何か困惑したように見える素振りをしていた。
――そんな沈黙を破るように、艦内放送が流れる。
『ATXチーム隊長、キョウスケ・ナンブ中尉。ならびにイスルギ重工所属のテストパイロット、ラミア・ラヴレス氏は艦長室へお越し下さい』
「あら、お呼び出しよタイチョー。あの堅物艦長にいびられちゃうかしらー」
「さあな。…君も同行してもらえるか?」
「承知
やはり聞きなれない口調に聞き間違いじゃなかったといった視線が集まるが、本人は何か?と開き直ったような視線を返す。
「すみません。極地での任務が長かったので、妙な癖が…」
「意味が通じていれば問題ない。艦長室に案内しよう」
「よろしくお願いいたしやがります」
ラミアを連れて格納庫を出ていくキョウスケ。
それを見送ったイサムら、というかエクセレンは興味深々な様子で興奮していた。
「わお!濃い味付けの娘ね!ウチに来てくれないかしら~!」
「テストパイロットですから、それはないと思いますよ」
「ぶ~女ができても相変わらず夢がないやっちゃね~」
「関係ないでしょ…」
上官からの理不尽なブーイングを受けるブルックリン。そんな彼らをよそに、イサムはラミアの機体を不思議そうに見上げていた。
「(この機体も変だけど、別に現れたドリル付きはまるで…)」
中国 ストーク級サエーナ格納庫
「すまんが後は頼む」
「お任せ下さい特務大尉」
ハンガーに固定されたアリオールから降りたケンは、整備士と言葉を交わしていると、鷲を思わせる機械仕掛けの鳥が飛来し、ケンが腕を差し出すとそこに止まる。
『キィ』
「ただいま『キール』」
労うように鳴くキールと呼んだ機械の顎を撫でると、満足そうな仕草をする。
そうしていると、泣きべそをかいたエールがやってくる。
「ぶぇぇぇぇっ、げぇ~ん」
「汚っ。何だ…」
「らどぢんにあべながった~」
涙と鼻汁を擦り付けようとしてくる相方の頭をを片手で押さえて全力で遠ざけるケン。
「…それくらいで年甲斐もなく泣くなや」
「まあ、弟君には会えたからいいか」
「…………」
あっさりと泣き止んだ阿呆に、キールともども呆れた目を向ける。
「つーか、弟君のもアリオールと同じくパワーアップしてたわねん」
アリオール・セカンドを見上げながら、改修された当時を思い出すエール。
オペレーションSRW終結後。エルザムやゼンガーと別れた彼女らの前に、ビアンの同志であったシュウ・シラカワが現れ、彼によってアリオールは修復だけでなく、レオーネと同様の改修がなされたのであった。
『キィッ』
視線を移すと、なんじゃい、と言いたそうな仕草をするキール。シュウより、いつかあなたの力になる、と言ってケンに渡されたものであり、その後に彼はまたいずこかへと行ってしまったのだった。
「予想通りだ。そうでなくては張り合いがない」
『全てはビアン総帥の遺言に従ったまで、なので礼は不要です』――去る際にシュウが語った内容から、ケンにはおおよその検討がついているらしい。
「ま、ビアンのとっつぁんらしいわな」
息子の意を汲んで手配したであろう父親の姿を思う浮かべて、エールは懐かしむように笑う。
「つーか、私らを助けたあのドリルロボ、ほんとに知らんの?」
「知らん。所詮俺は末端なんだ、バン大佐もなんでもかんでも話はせんよ」
「それもそっかぁ~」
おいで~とキールに腕を差し出すと、蹴りを入れられるようにして頭に飛び乗られぐぇぇ、と情けない声を漏らすエール。
「(あの特機――グルンガスト系列に特徴が似ていた…。あのスケベ所長がDCに手を貸すくらいなら、研究所とともに自爆を選ぶ)」
幼い頃の記憶だが、テスラ・ライヒ研究所所長のジョナサン・カザハラは、だらしない(特に女性関係に)人間でこそあったが、平和を愛する真っ当な感性は持ち合わせる男であった。
仮に技術を盗むにしても、そんなやわなセキュリティはしていないと断言できた。
「(最近、連邦から離反したという妙な連中が接触してきたという噂があったが…)」
心当たりといえるものでもないが、引っ掛かりを覚える事柄に思考を巡らせるケン。
『♪~』
「あ~!あ~!タップダンスぅ!レッツ、パーリィィ!」
踊るように頭を踏みつけられて右往左往している相方に、空気を読んでほしいと本気で頭が痛くなるケンなのであった…。