中国 ストーク級サエーナ ブリーフィングルーム
「先の作戦皆さんお疲れ様です。何か労いでも…と言いたいですが、相手はスペースノア級です、すぐにこちらを追いかけてくるでしょうから、これから当面は鬼ごっこしていくことになります」
集められたパイロットらの前で、アーチボルトがここからが本番と言い含むように話す。それにユウキが質問を求めるべく挙手すると、どうぞ、とアーチボルトは発言を促す。
「具体的な退却プランについては?」
「まずは日本海に出て、そこで
「日本海?]
目的地とは真逆の方角に思わず疑問の声を漏らすユウキ。
「ええ。実は友軍の回収以外にも、いくつかお使いを頼まれていましてその都合で」
「…イスルギの女狐か」
人使いの荒いと言いたげに肩を竦めるアーチボルト。そこに壁にもたれながら腕を組んでいるケンが口を挟む。
イスルギ重工――連邦、DCの主力兵器であるリオンシリーズの生産を担っている世界有数の工業企業である。
DC戦争後、本来ならばDCに加担した責任を問われるべきであったが、エアロゲイターに対抗すべく、早急な軍備増強に迫られた連邦は、連邦軍へリオンシリーズの供給を担うことで、その罪を不問とされたのであった。
しかし、水面下ではDCとの繋がりは保っており、未だに支援を続けているのである。
「さて、そこは軍事機密ってことで」
「……」
わざとらしくとぼけるアーチボルトに、ケンはそれ以上は追求せず目を伏せて沈黙する。
女狐――イスルギ重工の社長ミツコ・イスルギとは、DC発足前にビアンの警護を務めていた折に顔を合わせており、その人柄は経済的利益のみを価値判断の基準としており、その為には戦争を煽ることも辞さない、「死の商人」の見本のような人物であり、そのことを知っている身として、アーチボルトの態度が答えであることは明白なのだった。
「まあ、話を戻しまして。次の作戦はお使いの1つとして、近くにある
「んあ?んな所に何の用だぁ?」
ケンの隣で、テレビの前にいる休日のおっさんのように床に寝転んでいるエールが首を傾げる。頭に叩き込んでいる戦略図では、そこには連邦の施設など存在していないからである。
「そうなのですが、実はそこには古代文明に関わるとされる遺跡がありましてね。それに用があります」
「宝探しでもしろってのかいな」
「ま、そうなりますね」
冗談で言った言葉を肯定されて、面を食らった顔をするエール。他のユウキら他の面々も怪奇そうな目をアーチボルトに向けてしまう。
「皆さんの疑問ももっともですが、その遺跡には古代中国で造られた悪霊邪神と戦いという絡繰り仕掛けの巨人…『超機人』が眠っているのです」
「…!」
『超機人』という言葉に、それまで興味のない様子だったケンが、目を開いてアーチボルトに視線を向けた。
そんな彼をよそに、特段怪訝な顔をしているユウキが問いかける。
「少佐、申し訳ないが冗談はやめていただきたい」
「眉唾な話なのはわかりますが、事実なんですよ、これが。神話や伝説にみならず、旧西暦の世界大戦前後に超機人が出没したという記録が残っています。旧イギリス軍の機密文書や
「少佐の?」
「ええ、こう見えてうちは貴族の家系でしてね。とはいえ、先祖が財産を食い潰してくれたので、今ではこの有り様ですが」
軽く息を吐きながらやれやれと言うように、眼鏡を直しながら首を振るアーチボルト。対するユウキらの反応は半信半疑とも言えない冷ややかな様子であった。最も、信じろというのが無理難題なので当然と言えたが。
「…それで、自分の手で見つけ出すと?」
「まさか!確かにグリムズ家没落のきっかけは、超機人に関わったことだそうですが。そこまで僕はロマンチストではありませんよ。ただ実益を追求しているだけです」
「実益?」
「古代のすーぱーろぼっとの力を手に入れて、地球を狙う悪い宇宙人と戦うんですよ」
ボクシング選手のような姿勢を取り、ジャブを打つような動作をしだすアーチボルト。
「それがほら、僕達DCの使命ですから。日本だとそういう内容のアニメが人気で、亡きビアン総帥もそういうノリが大好きだったと聞きますし、ねぇ特務大尉?」
話を振られるも、ケンは何か考え込んでいるのか反応が返ってくることはなく、面白くなさそうに話を進めるアーチボルト。
「ま、思うところはあるでしょうが、ここは命令ってことでよろしく頼みますよ皆さん」
中国山東区 蚩尤塚
イスルギ重工のマークが描かれた重機による掘削作業が行われており。それを小高い丘から不安そうに見守る一団がいた。
「…発掘現場に重機を入れるなんて…。あれでは、遺跡に傷が」
LTR機構の所員らであり、その主任研究者である女性――エリ・アンザイは苦々しい趣で双眼鏡で作業の観察していた。
「アンザイ博士!」
「どう?」
「やはり駄目です。今日もあの中央墳への立ち入り許可は出ません」
部下の報告に、エリは無念そうに息を吐く。
元々は彼女らが発掘作業を行っていたのだが、最近になってイスルギが強引に割り込む形で主導権を奪い取り、今や遺跡に近づくことすら許されなくってしまったのである。
「そのうちここは完全にイスルギ重工に仕切られて、私達LTR機構はお払い箱になるのかしら…」
「この強引さ。まさか連中、あの遺跡の地下にあるものを知っているのでは?」
「そうね。オーダー・ファイルの情報が、外部に漏れているのかもしれない…」
エリが深刻そうに考え込んでいると、部下の1人がそれを見上げると、あ、と何かに気づいたように声を漏らす。
「どうしたの?」
「いえ、空から何かが近づいて…」
部下の言葉に視線を追うと、空を切るように人影がこちらへと向かってきているではないか。
「あれは、AM!?」
予想外の事態に驚愕しているエリらをよそに、飛来してきた人影――アリオールが中央墳付近に降り立つ。
『私はDC所属のケン・トウゴウ特務大尉。今よりこの一帯は我らDCの管轄下となる。抵抗しなければ諸君らに危害は加えないと、亡き総帥ビアン・ゾルダークの名にかけて誓おう』
騒然としているイスルギの作業員らへ、ケンはスピーカー越しに布告する。
それを聞いたエリは急いで、通信機へ向くとオープンチャンネルでアリオールに通信を繋いだ。
「待って下さい!それはいくらなんでも横暴すぎます!」
『あなたはLTR機構のエリ・アンザイ博士とお見受けする。名はお聞きしたことがある、お会いできて光栄だ。要求があれば聞こう』
「ありがとうございます特務大尉。では率直に言わせていただきます。あなた方DCは連邦政府からテロリストと認定されています。故にこの地の所有権を主張する権利はない筈です」
『道理だな。だが、この世は道理だけで動きはしない、故に実力行使をさせていただく」
ケンがそういうと、アリオールが鞘に納められているブレードの柄に手を触れる。
言葉だけで解決できるとは思っていないも、余りに理不尽な行いに、エリは思わず悔しさを隠せず唇を噛み締めるのだった。
ストーク級サエーナ ブリッジ
「…………」
モニターに映るアリオールを、艦長席で無表情で眺めるアーチボルト。
遺跡の接収のために、
まあ、それ自体はいい。彼の裁量権に範囲なのだから。
「困るなぁ…」
誰ともなく呟くアーチボルト。せっかく誰にも邪魔されずに、
「あの、少佐?」
そんな胸中など知らず、砲主がどうすればいいのか?と視線を向けてくる。
どうすればこの状況で
「次に発する言葉はしっかりと選べよ少佐殿。今日の夕食を楽しみたいのなら」
いつの間にか控えるように後ろに立っているエールが、割って入るように口を開いた。
一瞬だけ表情から感情が抜けるも、すぐに笑顔を『貼り付けた』アーチボルトは彼女に視線を向ける。
「おやおやどうされたんですか特務中尉?そんな怖い顔なんてして」
「いやなに、あんたが『エルピス事件』みたいな
「いやだなぁ。今は正義の味方のDCの一員ですよ?そんなことをするわけないじゃないですかぁ」
「ああ、それは良かった。正しき心に目覚めてくれたのなら喜ばしいことですよ」
はははっ!と笑いあう両者だが、クルーらからはどちらの目も冷め切ったようにしか見えず、思わず冷や汗を掻く。
とてもではないが生きた心地がしない空間で、そんな空気を無視して、警報が仕事を果たすべく敵の接近を告げるために鳴り響かせだす。
「適性艦補足!シロガネです!」
「あら?結構しっかり撒いたんですが。またえらく手際のいい追跡ですねぇ。…迎撃、お願いしても?」
「あいよ」
もう用はないと言わんばかりに去っていくエール。彼女がいなくなるとアーチボルトは、優雅な動作は損なわずに、こみ上げる不快感を飲み込もうと、血のように赤い色をしているアッサムティーを啜るのだった。
『――敵が来た。これにて失礼する』
ケンがそう告げると、アリオールがゆっくりと飛翔を始める。
『…数々の無礼、平に容赦願いたい』
それだけ言い残すと、飛び去って行くアリオール。その後姿をエリは不思議そうに眺める。
「彼は…?」
あっさりと退いたことと、先の言葉から、もしや、彼は始めからこの地を制圧する気がなかったのでは?とそんな疑問が心に浮かぶのだった。
撃沈された僚艦の事後処理のために、シロガネ艦長のリーは他の随伴戦力を残し、単艦での追跡を決断。蚩尤塚にて補足すると、機動部隊を展開し、ATXチームに先陣を命じるのであった。
『アサルト5・アンジュルグはアサルト2と組んで砲撃援護にまわれ』
『了解』
『新人天使ちゃん。あたしのこと『エクセ姉さま』と呼ぶこと♡ついてらっしゃい、お姉さんが手取り足取り無駄なことオシエテア・ゲ・ル♡』
『了解です、エクセ姉さま』
『了解するなアサルト5』
『っと、敵さんのお出ましですぜ』
いつもの軽快なやり取りしながら、降り注いだ砲撃を散開して難なく避ける一同。
『ちぇっ、掠りもせん』
『流石に何度もやればな。ともかく挨拶ができればいい』
砲撃を避けられ舌打ちするエール。目的としては少しでも連携を乱せれば十分仕事をしているのだが。
『アリオール!いる!』
『そちらは任す。各機攻撃開始』
突撃していくATXチームをカルタチュラ小隊が広く展開し、包み込むようにして迎え撃つ。
『来るぞ!正面からはぶつかるな!』
一進一退の攻防の中、レオーネとアリオールがブレードを打ち合い火花を散らす。
『おいケン!こんなところで何してんだよ!』
『…………』
イサムからの問いかけに、盗人の真似事をしていたなどど話す気はなく沈黙するケン。
『ここらってなんかの遺跡があるらしいけど、もしかして宝探しでもする気だったとか?』
『…………』
『ありゃ?もしかして大当たり?』
あのエールが黙ることから、確証を得るとらしからぬと意外そうな顔をするエクセレン。
『そんな、あそこにいるのは民間人だけなのに…!なぜそんなことをするDC!?今は地球人同士で争っている場合じゃない!お互いの敵が何なのかもう知った筈だ!』
憤慨してオープンチャンネルで問いただすブルックリンに、後方で聞いていたアーチボルトは呆れた顔をする。
「熱いですねぇ。でもそれに耳を貸すようなものがこの世界に…『連邦のパイロット一つ言っておくぞ』あ!?」
鼻で笑おうとしたところに、律儀に応え始めるユウキに、アーチボルトは思わず姿勢を崩しそうになるも。そんなことはつゆ知らず。ユウキはアサルトブレードでブリット機に斬りかかり、左腕のサークル・ザンバーで受け止められる。
『お前達では地球圏を守ることなどできん!L5戦役は運で勝利を得たようなものだ!』
『ッ!』
『お前達連邦軍の対応の遅さ故に!犠牲になった者達の存在を知らんわけでもあるまいっ』
『だからと言って、更に犠牲を増やすつもりかッ』
互いの信念をぶつけ合う最中、突如として両者と、カーラに言い知れぬ感覚に囚われる。
『何、だっ。今の感覚、何かに力を吸われるような…。いや…引き寄せられるような…?』
『ブリットさん!?』
戦場の真っ只中であることを忘れ、思わず動きを緩めてしまうブルックリン。イサムがカバーに入ろうとするもアリオールに阻まれてしまう。
『ユウキ少尉、カーラ少尉どうした!?機体トラブルか!?』
『いえ、まるで…何かに、見られたような…。何だ、この感覚は…!?』
『――ッエール!代わりに指揮を取れ!一度下がるぞ!』
まるで要領の得ない反応に、ともかく陣形を立て直べきと判断し、指示を飛ばすケン。
『撃破しますかエクセ姉さま』
『んー。どっちかってーと、ここはひとつ…!?あ、あれ、私も何か変…キョウスケ…』
『エクセレン!?』
双方戦いにならない事態は続出する中、アンジュルグのレーダーが新たな反応を捉える。
『これは、転移反応…。跳躍してくる者がいる…』
『アサルト5?転移だと?』
キョウスケの問いに応えるよりも前に、辺り一帯に霧らしき現象が起き始める。
『霧…?』
警戒を強めていると、霧の濃さは増していき、ついには辺りの景色すら見えなくなってしまう。
『な、なんじゃなんじゃ!?』
『各機警戒しろ!敵の新兵器かもしれん!』
DC側も困惑しており、最早戦闘どころではなくなり事態の把握で手一杯となってしまう。
『ッ!?』
そんな折、イサムの全身を貫くように悪寒が走る。初めて遭遇する現象の筈なのに、これから何が起きるのか
『皆逃げて!ここは
『どういうことだイサムッ』
ケンが何を知っていると問う間もなく、レーダーが重力異常の反応を捉え警報を鳴らす。
それと同時に、地面から『何か』が這い出るようにして現れた。
『生…物…?』
それを見たキョウスケが思わず呟く。
まるで植物の蔦を絡ませて形成されたような造形であり、頭部らしき部位からは一つ目のようなものが瞬くように怪しく輝き、中心部には宝石のように透明な赤い球体が埋め込まれるように存在していた。
まるで創作の世界から出てきたような異形な姿に、誰もが戸惑って間にも、次々と怪物は数を増やしていく。
『声…。しゃべるの?こいつら』
『は?声などいつ…』
エクセレンの言葉に、怪訝な目を向けるラミア。どう見てもコミュニケーションなど取れそうにもなく、耳を澄ませても彼女には何も聞きとることはできなかった。
そうこうしているうちに、怪物の群れが動き出すと、遺跡目掛けて突き進んでいく。
『こいつらは俺達を見ていない。向かっているのは…遺跡か。!?シュゴシャノシモベ…?ハバム…メザメ…?何を言っている』
怪物から
『ッ!?こちらに来るかっ!』
群れの一部が遺跡ではなく自分の方へと迫ってくるので、ケンは迎撃しようとすると何か違和感を感じる。
観察すると、怪物の目らしき部分が自分ではなく、側にいるレオーネに目けられていることに気づく。
『――ッこいつら、イサムに反応している!?』
驚愕している間に、レオーネは怪物目掛けて突進し、手にしているブレードで次々と斬り裂いていく。
『あああァアアアア!』
『あいつ、錯乱しているのか!』
手当たり次第に暴れているイサムに、舌打ちしながらフォロー入ろうとするケン。だが、それよりも早く死角からレオーネに迫った怪物が体の一部を触手を針のように突き出す。
その刹那、上空から雷が遺跡へと落ち、その衝撃が周囲にいた全てへ凪払うように襲い掛かった。
『ッ――何だ、今のはっ?』
耐えきれず吹き飛ばされるも、すぐに態勢を立て直しながら周囲を確認するケン。幸い化け物だけが消し飛んだようで、レオーネは無事であることを確認する。
そして、遺跡のあった地点に新たな反応が出現したことに気づくと、カメラを向ける。
『あれは――』
モニターに映ったのは、遺跡が地面ごと抉り取られて消滅しており、その中心部には地面に埋まっていたと見られる巨大な台座が現れており。機械で構成されているかのような巨体の青き龍と、白き虎がそこに鎮座している。
『あれが、超機人…』
唖然とするケンをよそに、龍と虎の瞳が、まるで目覚めるかのように光が灯ると動き出し、辺りを観察し始める。そして、怪物の姿を視界に捉えると、天と地を震わせながら、威嚇するかのように咆哮をあげるのだった。