シロガネ 待機室
「あの草みたいな奴の声ですか?自分は聞こえませんでしたが…」
「通信ログにもありゃしませんでしたことよ。そもそも、あのアンノウンに通信機能が存在するかも不明でごじゃる」
「となると、あの声が聞こえたのは俺とエクセレンだけか…」
懐疑的なブルックリンとラミアの反応に、釈然としない様子で手にしているカップからコーヒーを啜るキョウスケ。
先の戦闘で現れた、怪物型のアンノウンから『声』らしきものが聞こえたが、確認できたのは彼と相方のエクセレンの2人だけらしく、幻聴の可能性も踏まえて医療にかかるべきかとも考えてしまう。
「ん~イサム君はアレが出てきたとき『危険だ!』って言ってたけど、何か知ってたりするの?」
エクセレンが問いかけるも、イサムはどこか上の空な様子で反応が返ってこず、側にいるレオが尻尾でちょんちょんと突っつくと、ようやくハッと気が付く。
「ふあ、ごめんエクセ姉、何?」
「蚩尤塚に現れた化け物について危険だ~って言ってたこと何だけど、大丈夫?」
「ん、ダイジョブダイジョブ。え~と、それがそこら辺のことはあんま覚えてないんだよね…。あれを見た瞬間に、危ないからとにかく何とかしないとってなって…」
「なら、あの龍と虎については?あに2体はお前に反応しているように見えたが」
キョウスケからの問いに、う~んと捻り出すようにその時のことを思い出そうとするイサム。
「もしかしたらあれって『超機人』ってやつかも」
「チョーキジン?」
「うん。爺ちゃんの実家にあった先祖様の自伝に書いてあったんだ。『百邪』って呼ばれる人に仇なす
「兵器?あれがでごじゃりますか?」
信じがたいと言いたげな反応をするラミア。あまりに現実離れした話だけに、他の面々も似たような感想を抱いているようである。
「何だか自分で動いているって感じで、生きているように見えたけど」
「超機人には自我があって人と同じように判断して動けるんだってさ」
「へーまるでアニメか漫画みたいな話ねぇ」
「自伝に書いてあったてことは、先生のご先祖がその超機人に遭遇したことがあるってことなのか?」
「新西暦になる前くらいの時代の先祖様が、超機人と一緒に戦ったことがあるって爺ちゃんが言ってましたね~」
イサムの言葉に、エクセレンがなるへそ、と手をポンと叩く。
「その縁みたいなものにあの龍ちゃんと虎ちゃんは反応した訳ね」
「…だが、イサムとリシュウ顧問には血の繋がりはないが」
「ん~でも何か通じるものを感じたんじゃない?」
「その可能性もあるが…」
もしかしたら、イサムの出生に関わる何かがあるのか…と考えるキョウスケ。
そんな彼の視線を感じたイサムが、好奇心の宿った目を向ける。
「?何か?」
「いや、お前はお前だからな。すまない気にしないでくれ」
「???」
突然の謝罪に、ほえ?と不思議そうに首を傾げるイサム。
彼の過去がどうであれ、かけがえのない仲間であることに変わりはないのだからと、浮かんだ疑問を胸にしまうのだった。
「いずれにせよ、情報を回した研究機関から分析が上がってくれば、俺達の耳にも入るだろう。とりあえず今は仕事だ。伊豆に着くまでに各機体のメンテを済ませておけ」
「あら、次は伊豆基地向かってるんだ」
「補給と艦体メンテのためだ。スペースノア級を扱えるドックはまだ何カ所もないからな」
「スペースノア級は大きいですからね」
「ってことは、愛しのラトちゃんに会えるわね~イサム君」
「うん!レオのこと紹介できるね~!」
『ガウ!』
話すことも終えたと解散となり、各々退室しようとする中、キョウスケがラミアを呼び止める。
「ラミア」
「は?」
「先の戦闘で、植物型現れる前にお前は『転移反応』と言っていたな」
「…はい」
「確かに今データを見れば微細なESW反応が確認できるが、エアロゲイターの空間転移後反応とは明らかに異なる。お前はなぜあれを転移反応と判断した?」
「……エアロ、ゲイター?」
キョウスケからの問いに、表情こそ変わらないも、どこか困惑したような趣を見せるラミア。そんな彼女にブルックリンがん?と首を傾げる。
「L5戦役に宇宙人勢力の呼称ですよ。あれ?軍部以外にはこの呼称出していませんでたっけ?」
「ああ、そうでしたわね。何しろ当時辺鄙な場所にいたもので。ホホホホホホ」
「ん~やっぱ面白いわねぇラミアちゃん」
無理に笑おうとしているというか無機質なともいえる独特な反応をするラミア。そんな彼女に、エクセレンが楽し気に抱き着いてじゃれつく。
「申し訳ございません。あの時はつい勘で。不確実な発言しまくりまして、大変失礼しやがりました。では、これにてご免なさいまし」
そういうと、ラミアは早々に退室していき。そんな彼女の背に、釈然としな目を向けるキョウスケであった。
「なんというか、不思議な”人”ですよねラミアさん」
「パイロットになったのは最近って言ってたけど、場慣れしている感じだよな」
「ま、秘密は女の武器ってね、安易に詮索するもんじゃないわよ」
エクセレンの忠告に、は~い、と教師に返事するように応えるイサムとブッルクリンなのであった。
『?』
そんな中、レオはイサムの言葉に、人?と言いたそうに首を傾げているのであった。
紀伊半島沖
「ほえ~あんた家と、あの超機人にそんな因縁があったなんてねぇ」
補給物資とともに手配されたキラーホエール級に移ったエールは、通路を歩きながらケンから聞かされた伝承に、頭の後ろで手を組みながら意外そうな顔をしていた。
「直に見るまでは信じてはいなかったがな。イサムの奴がやけに読み返していたから覚えていただけだ」
「ま、実在したのはいいけど。アーチボルトの奴はあれをとっ捕まえる気らしいけど、できんのかね?」
「知らん、そんなことはイスルギが考えることだ。それよりもあの場に現れたアンノウンだ」
「あの気味悪いのね。百邪とかいうんだっけ」
グロテスクな外見を思い出してうげー、と舌を出して辟易するエール。
「恐らくな。もしかすれば、エアロゲイター以上の脅威となるかもしれん。バン大佐には伝えてはいるが…」
「つっても、じゃあ連邦と仲良くしましょうとはいかんでしょ。大佐はともかく、他のお偉いさんは話を聞かなんやろ」
「場合によっては、俺達だけで戦う覚悟はしておけ」
「大佐と手を切るってか?」
エールの問いにケンは足を止めると振り返ると、覚悟を宿した目を向けた。
「DCは人類を護るべく生まれた。相手が異星人でなかろうともな、その意義を見失うのなら存在価値はない。そうなれば介錯することもビアンのおっさんとの契約だ」
彼の問いに、エールはにへ~、と満足そうに笑いだし、そんな彼女に怪訝そうに眉を顰めるケン。
「?何だ」
「ん~やっぱ大好きだなって」
「今更か」
呆れたように息を吐くも、拒む気もなくまた歩き出すと、エールは鼻歌を歌いながあ上機嫌にその後に着いていく。
そんな彼らの対面からユウキが見慣れない2人の男女を連れて歩くのが見える。
「お、おーい。そちらさんが新人さん?」
エールが大振りに手を振ると、ユウキは敬礼しながら応える。
「はい。私の隊に編入されたゼオラ・シュバイザー曹長と、アラド・バランガ曹長です。2人共、こちらは総帥直轄特務隊のケン・トウゴウ特務大尉と、エール・エンフェリート特務中尉だ」
ユウキの後ろに控えていた男女――というより十代後半になるかといえる少年少女の内、少女が規則ただしく、少年がぶっきらぼうに敬礼する。
「カルタチュラ小隊所属となったゼオラ・シュバイザー曹長です!よろしくお願いいたします!」
「…………」
はきはきと話す少女――ゼオラに対し、少年――アラドは意外そうな顔でケンを見て固まっていた。
「ちょっとアラド!?何しているの!?上官の前よ!?」
「いや、だって特務大尉って、ホントに俺達と歳変わんないじゃ――んぎゃぁ!?!?」
無礼千万なことを口走ったアラドを、ゼオラがぶん殴ると、その勢いで吹き飛ぶと壁に叩きつけられる。その光景にエールが腹を抱えて爆笑しだす。
「も、申し訳ありません!あいつ――いえ、バランガ曹長は生意気、ああいえっ――」
「別に構わん。言われ慣れている」
どうにか弁明しようと四苦八苦しているゼオラに、助け舟を出すケン。特務隊に任命された当初は、その若さに多くの否定的な目を向けられいていたのは事実であった。そして、そういった輩には実力を示すことでのみ黙らせてきたのだ。
「俺は言葉でしか語らん者は信用せん。貴官らも舐められたくなければ戦場で実力を示せ」
「あ、ありがとうございます!」
「へ~いかつい見た目に反して話がわかるじゃ――んげげ息がッ!?」
「あんたって奴は!あんたって奴はぁぁ!!」
ゼオラに首を絞められながら激しく揺すられてもがくアラド。コントでしかないやり取りに、床を転げ回って笑い死にそうになって助けを求めているエールを、ケンは全力で無視するのだった。
「――ところで、貴官らはもしや『スクール』の出か」
「!そ、そうですが…」
「何でそのことを…」
ケンの発した言葉に、驚愕したように動きを止めるゼオラとアラド。その反応に、己の推測の確証を得るケン。
そこに、笑いを止めたエールが思い出したように口を開いた。
「んあ?そういや、おたくらラトちんと似た匂いがすんね」
「!?ラトって、もしかして『ラトゥーニ』のこと知ってんすか!?」
「落ち着け曹長!」
掴みかからんとするように近づこうとしたアラドを、ユウキが咄嗟に割って入って止める。
「スクールで『ラトゥーニ11』と呼ばれていた少女なら知っている」
「!生きてた…ラトが?」
驚愕と喜びの余り、膝から崩れ落ちるアラドと、口元を両手で覆いながら涙を流すゼオラ。そんな彼らを見て、気まずそうに頭を掻くエール。
「(神がいるとだとすれば、随分と残酷なことをするものだな…)」
彼らの関係を察して、これから2人に訪れるであろう巡り合わせに、思わず眉を顰めてしまうケンであった。