「『エクスプロージョン』――――ッッ!」
世界最大のダンジョンの奥の奥。
俺の解き放った人類最強の攻撃魔法は、魔王を欠片も残らず消し飛ばした。
ついでに、
人生初めての爆裂魔法は俺のことも焼き尽くしたので人生最後の爆裂魔法になった。
・・・ゴロゴロして飲んだくれて昼まで寝て、美少女に囲まれて、その中の一人と一緒に童貞を卒業して・・・・・・そんな退廃的な一生を夢見た結果が自爆的魔王討伐だというのだから、どれだけこの世界がふざけているのかがよく分かる。
___そんなふざけた世界でできた、ろくでもない仲間達。
別にあいつらのために体を張ったわけじゃない。
ただ、ここで決めておかなかったらやけっぱちになったあいつらが何かやらかすのが目に見えたからなあ・・・・・・。
でも、あいつらと会えなくなるのは辛い
本人たちには絶対言わないが、ほんとうに辛い
でも、撃ってしまったものはしょうがない
童貞ヒキニートと魔王
世間体か全世界のどっちかに害をなす二つの存在が、誰にも見届けられることなく消滅したあの日から数日後・・・・・・
俺は、今______
「ホースト先輩。業火地獄の火加減はいい感じだし、今日の分も持っていくなー」
「・・・・・だから先輩ってなんだよ。昨日届いた罪人の魂はそっちのカゴに詰めてあるからチャッチャと持っていってくれ」
「ここの青いカゴと白いカゴだな。じゃあ行ってくるなー」
『先輩』に挨拶を済ませてから、今日の仕事を始めるべく荷物を運ぶ。カゴが大きい分両手が、中身が軽いので全く重さを感じない。土木工事の作業員をしていた頃の肉体労働とは比較にならないほど楽だ。
先輩も筋骨隆々で黒い肉体に立派な角と羽を生やしているが、風貌に反して気さくな性格なので仕事に対するストレスも少ない。
大して遠くもない距離を移動してたどり着いた先で、メラメラと燃える炎の中にカゴの中身をポイポイと放り込んでいく。
いま放り込んでいるのは生前窃盗を繰り返して地獄に落ちた罪人の魂だそうだ。これらを高温の炎で直焼きすると魂に刻み込まれた罪の汚れみたいなものが洗い流されるんだそうだ。
「ほーれほれ、こんがり焼き上がれー」
魂というのはホラー漫画や子供向けのお化け映画に出てくるようなそれと大差ないデザインをしている。要するに手のひらに乗る程度の大きさをした火の玉だ。
ただし火の色が灰色だったりくすんだ茶色だったりするのはおそらくこれらが罪人の魂だからかもしれない。心が汚いまま死ぬと魂も変な色になるようだ。
俺が放り込んだ魂たちは燃え盛る炎の真ん中で大人しく焼かれている。くすんだ色の火の玉が真っ赤な炎の中で色が混ざることもなくじっとしている様子は、最初は見慣れなかったものだが今ではインテリアに見えなくもない。
「生前がどうだったかは知らないけど、お前らはいい子だよなー。キャベツみたいにバーベキューから逃げ出さないし、野菜スティックみたいに指を避けないし、セミみたいにバカ騒ぎしないからなー・・・・・・」
火加減と魂の調子を軽くチェックして業火地獄のそばを離れた。
このあとは別のエリアをまわって、魂を平たく叩いたり、水に沈めたり、そのまま煮込んだり、煙で燻したり、乾燥させたりしなければならないのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・いや、料理じゃないよな?
+++++++++++++++
「今日の仕事おしまいっと・・・」
空になったカゴを所定の場所に収めると、手頃な大きさの岩に腰掛ける。
地獄というのは意外と暇を持て余すものだ。
そもそも罪を犯したから無条件で地獄に落ちるというわけでもないらしい。先輩からの受け売りになるが人間を裏切って魔王軍に味方する、悪魔や邪神を崇拝する、といった魔に身を落とし人類の害となる行為に及んだ人間が死ぬと最優先で地獄に連れてこられるらしい。窃盗、殺人、強盗、詐欺といったありふれた犯罪が原因で地獄に落ちる人間ももちろんいるが、それも直接地獄に来るわけではなく女神・・・つまりエリス様が地獄行きが妥当だと判断した奴らだけだとか。
あの慈悲深いエリス様をして有罪判決が出されるということは相当なワルだったのだろうから、俺からしても魂を煮たり焼いたり叩いたり伸ばしたりすることにも抵抗はないのだ。
そんな訳で、体感では2,3時間しか経っていない内に今日の仕事は終わった。大して疲れも積もっていない。何をして過ごそうかと悩む、この場所は暇が多いが暇を潰せるものがそうない。地獄は荒廃していて殺風景な上、あるものといったら罪人の魂をしばくための施設ばかりなのだ。その施設同士も大きく離れているので魂を運送するのも結構な移動距離になる。
「・・・・・・なんでこんなことになったんだろうなあ」
やることもなければ遊び道具もないので懐から冒険者カードを取り出す。こっちに来てから何度も手に取って矯めつ眇めつ確認してみたが、面白いものではない。というよりこのアイテムのせいで『今俺が置かれている状況』をまざまざと思い知らされている気分だ。
アクアに転生させられたこの世界で、初めて手に入れたアイテム。実はアクアとほぼ同じ長さの付き合いになると言っていい。最後に爆裂魔法を習得して魔王を倒すことができたのもこいつのおかげだったりした・・・・・・・・・のだが。
「色々いじってみても・・・・・・ほとんどのスキルが使えないままか・・・」
そう、『今』の俺は9割近い数のスキルが使用不能になっていた。
「槍」「自動回避」「両手剣」「クリエイトアースゴーレム」「テレポート」「マジック・ゲイン」「プロテクション」「パワード」「ヒール」etc・・・・・・
家出したアクアを連れ帰りに行くため、アクセルの冒険者達から突貫で教わった種々雑多で共通点も何もないスキルも。
「スティール」「逃走」「潜伏」「敵感知」「バインド」などの、クリスから教わった結果、地力の足りない俺が上手く立ち回るために大きく役立った盗賊スキルも。
極めつけに、奥の手にして必殺技の「不死王の手」に「ドレインタッチ」まで使えなくなっているのはかなりショックだ。ピーキーな能力持ちのパーティメンバーを上手くサポートしてくれていたのに・・・・・・。
「残ったのが『初級魔法』『中級魔法』・・・・・・そんでもってマナタイトが無い今、まったくもって役に立たない『爆裂魔法』だけとか・・・駆け出し魔法使いか俺は。しかもご丁寧に『テレポート』は使えないのか・・・」
テレポートは高い有用性に比例して上級魔法に匹敵するスキルポイントと習得難易度を持つ。確かゆんゆんもテレポートを習得するまではレベル上げに時間がかかったと聞いた。
___だから『今』の俺には分不相応らしい。
地獄での仕事の合間に何度もそうしていたように、冒険者カードを眺める。眺めなおす。
俺の名前があった欄には何も書かれていない。
俺の職業欄には「冒険者」の文字はない。
代わりにこんな一文が追加されている。
『種族:悪魔』
「・・・・・・悪『魔』だもんなあ・・・・・・。魔法スキルくらいしか使えないんだなぁ・・・」
最初は他人の冒険者カードかと思いたかったが、討伐した対象モンスターの欄に魔王の名前が記載されていた。つまりこれは変わり果てたとはいえ俺こと「佐藤和真」の冒険者カードに間違いないのだろう。認めたくはないが。
種族欄の変化に加え、名前が上から塗りつぶされるように消えていた。冒険者カードは改竄不可能というのが原則なので見ていて気味が悪いというのもある。
「・・・・・・・・・我が名は■■■■!!・・・・・・・・・名前が消されているからか、自己紹介もできないとか、どうなってるんだよこれ・・・・・・」
試しに自分の名前を叫んでみたが、口から出たのは盛大に舌を噛んだかのような雑音だった。
だが、もし舌を噛んだとしても大した怪我をすることはないだろう。
今の俺は灰色の皮膚にしょぼい角、枯れ枝のような頼りない翼が生えた、立派な悪魔スタイルなのだから。翼で飛べるおかげで無駄に広い地獄でもスムーズに移動して仕事を終わらせられるのはいいことだが___
これじゃあまるっきり、俺が佐藤和真じゃなくなったみたいじゃないか。
+++++++++++++++
常識的で真人間な俺が地獄に落とされるという理不尽極まりない末路。それの大本となった会話はこんな感じで始まった。
「ようこそ死後の世界へ。」
「俺はあんたを行くべき道に連行する邪神、レジーナ__」
「佐藤和真、あんたはダンジョンの最下層で自爆して死んだ。つまりは自殺だな」
「__辛いだろうけど、どんな経緯があったとしても」
「自殺した人間は地獄行きと相場が決まっている」
とんでもない発言がぶつけられたこともそうだが、俺がまず驚かされたのはその発言をした当人、邪神レジーナの外見についてだった。
今まで会ってきた神はアクア、エリス様、邪神ウォルバクのような女神ばかりで、男の神というのを見るのは初めてだったのだが、それすらも吹っ飛ぶ第一印象がレジーナにはあった。
端的に言って、顔も衣服も俺と瓜二つだったのだ。
俺の正面で俺のジャージを着て暖炉の前に置かれたソファーにだらしなく寝そべった姿はどう見ても毎朝鏡で見ていた自分の姿そのものである。
ここに来てようやく俺は自分が今いる場所がアクセルにあるはずの自分の屋敷の暖炉のある広間であることに気づいた。あまりに馴染みすぎて違和感を抱くのが遅れえたのだ。
「ん?俺の姿が佐藤和真そっくりな理由か?」
レジーナが俺そっくりの話し方でそんな風に聞いてくる。
「言っとくけど深い意味はないぞ。信者がいなくなったせいで俺は本来の容姿も人格も失くしてな。それで苦肉の策としてつい最近まで熱心な信者をやってくれていたお前の姿を模した傀儡を使わせてもらっているわけだ。本人であるお前はもう死んじまったんだかし、問題ないよな?」
レジーナが改めて俺の死に言及したことで自分の体を確かめてみる。今までエリス様のいる空間に送られた時と違って、俺の体は胸から下が消えていた。どうりで地面を踏んでいる感触がないわけだ。この状態を取り乱すことなく受け入れられているのも完全な死を迎えたからか・・・・・・。
「って、ちょっと待て。地獄行き?マジで?俺が?・・・・・魔王を倒したこの俺が地獄行き!?」
命こそ落としたが悟りを開いたわけでもないのに自分の行く末をのほほんと受け入れられるわけがない。俺はソファーに寝そべったままの俺、ではなく俺の傀儡の中身ことレジーナに詰め寄る。だがレジーナはだらけた態度を改めない。
「そんなこと言われてもなあ。ここには邪教信者、悪魔崇拝者に自殺者、エリス様が叩き落としてきた極悪人が来ることになっているわけだし・・・・・・なんで邪神たるこの俺があの女神に様付けを・・・・・・傀儡のモデルに口調が引っ張られるからか・・・・・」
「そこをなんとかしてくれよ!あんた神様なんだろ?頼むよレジーナ様!短い間だが俺はあんたの信者だったんだぜ?敬虔な信徒を助けると思ってなんとか・・・!」
手を合わせて拝もうかと思ったが、もう手の先すらない。地獄行き云々の前に消滅しそうになってないか? ・・・本格的に焦ってきた。
「敬虔な信徒ねぇ・・・・・・確かにお前の信者っぷりはなかなかのものだったなあ」
レジーナが「信者」の単語に反応した。やはり神だけあってそのあたりは無視できないらしい。
俺は以前、魔王幹部の一人の策略でレジーナ教に入信させられたことがある。そいつはリッチーでもなんでもない普通の人間ではあったが、幹部に名を連ねるだけあって戦闘力や魔力以外の部分、策略と謀略に長けていたのだ。
数多の魔王軍幹部や強敵に対して搦手と卑怯なトリックプレーを仕掛けてこれを討ち取ってきた俺が1本取られたとは言えばその賢しさが分かってもらえると思う。
しかしまさかここで俺がレジーナ教信者だったことが事態を打開する取っ掛りになるとは・・・・・・なるよな?
「性欲を下地にしていたとはいえ、あの底なしの信仰心があったから天界で無職になりかけたところをなんとかこの世界の地獄案内神のポストに就けたわけだし・・・・・・」
何を言っているのか詳しいことは分からないがかなり押せている気がする・・・。もうひと押しだな。
「そうだ、魔王を退治した特典とかで俺を生き返らせたりできないのか?なんだったら生き返ったあと、俺がレジーナ教を布教してやってもいい!」
「特典?・・・・・・あぁ、転生した連中向けのサービスか・・・。あれはエリス様の権限だし・・・そもそも魔王が倒されて平和になった世界じゃ邪教が流行る訳ないだろうが」
「うっ、確かに復讐も傀儡も、平和には似合わないような・・・俺ってやっぱり地獄行きは免れないのか?・・・なんか抜け道とかないのかよ?」
「抜け道ねえ・・・・・・俺はエリス様みたいに天国か転生か選択肢を与えるのとは違って、決まりきった道を受け入れさせるのが仕事だし、地獄行きの事実は変えられ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
「ん?」
面倒くさそうな困り顔で、うだうだと言い訳を並べていたレジーナの言葉が途絶えた。
「そうだ!喜べ佐藤和真!地獄行きは変えられないが、地獄の責め苦を免除できる方法があるぞ!!」
「マジか!?正直地獄行きも勘弁願いたいが、まずは一歩前進だな!で、その方法って?」
「お前、悪魔になれ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
いきなりぶっ飛んだ発言をかましたレジーナはソファーに寝転がった姿勢のままで右手を俺に向けた。
「苦しみを与える側になれば自分が苦しめられることはない!現実世界ならそれこそ復讐されることもあるだろうが地獄ならそれもない、悪魔として一方的に魂をシバいても反撃される可能性は、ゼロだ」
その手の平から真っ黒な煙が吹き出すと、大蛇のように俺の全身に絡みついてくると、
「レジーナ、ちょっと考えさせ___」
「悪いがもう他にいい解決手段はない。___それでは佐藤和真!俺からの特典としてその『悪魔の傀儡』をくれてやる。それを着て地獄での第二の生を謳歌してくれ!」
どこまでも深い深い穴を滑り落ちていくように、俺の意識は薄れていき___
+++++++++++++++
こうして、
手のかかる仲間に苦労しつつ、時に命を落としたり、逮捕されたりしながらも、この素晴らしい世界のために戦い、平和な世界を取り戻した俺は___
___悪魔として地獄に落ちた。
「なめんな!」
この一話を書きながら並行してエピローグを書き終えちゃったので、そこを目指して執筆頑張ります