サトウカズマはおうちにかえりたい   作:不浄庭園

10 / 10
通勤退勤と本趣味の漫画を描くので時間を取られて執筆が滞りまくっていたのでスマホ対応キーボードを買って外出先でも執筆ができるようにしたところ十日で完成しました。



下級悪魔のロリ風冷や飯、巨乳を添えて

『魔王、ついに討伐される!』

『十人にも満たない急造パーティの偉業!』

『王都にて記念式典を予定!』

『ベルゼルグ王族からも感謝!』

 

 

 

『メンバーの一人であるサトウカズマ氏は未だ療養中』

 

 

 

「なめんな!!」

 

 

 大きく広げた両腕の間で新聞が真っ二つになった。さらに引き裂き続けるうちに記事を形作っていた文字たちが千々に飛んでいく。

ちょっとした閉鎖環境にある紅魔の里では新聞は貴重な情報源だとかあるえの奴が言っていたが、俺は知っている。これは紅魔族の大人がその気になれば王都にちょろっとテレポートして買ってこれる程度のものであることを。

 

 

「ちらかしたらだめでしょー!めっ!」

 

 しかし、件の新聞を持ってきてくれたこめっこが俺を叱った。小さな子供に逆ギレするわけにもいかないので大人しく新聞紙だったものを掻き集め、めんどくさくなったので開いた窓から盛大に放り投げた。火炎魔法のおまけ付きで。

 指先からから吐き出されたティンダーの火は上手に燃え移ったものの、紙束全てを燃え尽くすのは無理そうだ。初級魔法じゃ仕方ない。

 

「もー!もー!こうしゃくさまはそんなことしちゃだめでしょ!」

「悪魔だからいいんだよ」

 

 地上に舞い降りた名もなき悪魔たる俺が紅魔族二人と丁々発止、命のやり取りを終えてから一晩明けて、俺が手に入れたのは朗報と悲報。前者は地獄で過ごしていた何ヶ月もの時間は地上では三日分しかなかったこと、後者は魔王を倒した最大の功労者である俺の紙面上での扱いが小さいこと、しかも怪我の治療とやらで面会謝絶状態であるらしいこと。

 

 

「どういうこったよ。ダンジョンの方で俺を捜索してるんじゃなかったのか?」

「なに?」

「いや、なんでもないよ、はあ・・・」

 

 窓枠にもたれながら、外を眺める。悪魔になったあと、勤勉に働いていたせいで決まった時間に起きる癖がついてしまった。人間だった頃は昼過ぎに起きるのがざらだったのにこうして朝日を眺めているのだから変われば変わるものだ。

 目線を下ろせば黒い外套に紅い目を輝かせた大人たちがよく分からない魔法で屋台の組み立てや看板の装飾に取り組んでいて、その傍らで同じく紅い目の少年少女が強化魔法によって木材や鉄骨を軽々と運搬している。なにかしらの祭りの準備をしているみたいだ。

 

「それにしてもあいかわらずのセンスだ」

 

『魔の落日に祝杯を捧げし祭』『爆ぜろ魔獣!弾けろ魔王!大魔法まんじゅう』『長きに亘る我ら一族の悲願ここに成就せしジュース』

 何かかっこいいことを言おうとしているのは伝わってくる内容のやけに尖ったフォントの文字があちこちに踊っている。まあ解読するまでもなく、魔王討伐祝いのキャッチコピーだろうなあ。

 

 いやいやいやいやいや、魔王退治の主役たる俺を差し置いてなんてことをしてやがるんだこいつらは。

 

 

 俺のパーティーメンバーは今もダンジョンで捜索しているというのに。

しているのか?しているよな?知ろうにも新聞はさっきの通り魔王討伐に浮かれた記事ばかりで、ダンジョンの崩落事故なんて一文字も出てこなかったからなあ。

あるいは隠蔽されているとか?

なんにせよ、

 

「うん、やっぱ新聞燃やして正解だったわ」

「だーめー!」

 

 こめっこが俺のタキシードの裾をぐいぐい引っ張ってきたので窓の外から視線を戻した。

 そろそろかまってやらないと命に関わる、こめつこが俺と遊ぶのに飽きればあるえは嬉々として俺の首を刈るに違いないからな。

 

「よーしこめっこ嬢。何か持っておいで、悪魔のお兄さんが遊んであげよう」

「ほんと!?わーい!」

 

こめっこが裾から離した手で万歳した。

 

「はっはっは、嬉しいかー?」

 悪魔的には喜悦の感情は勘弁願いたいところだが、こめっこは俺を真っ直ぐ見つめて口を開いた。

「おもちゃよりはごはんの方がいいので、それほどうれしくはないです」

「うん、だろうな。落胆の感情がいっちょまえに滲み出てる」

「でもなにもしないよりましなのでとってきます」

 てこてこと小さな足音が去っていくと俺は改めて今の隠れ場所を見回す。今のこめっこの落胆が俺の朝飯になった。

それにしてもここは前の世界を思い出すいい場所だ。そしてなにより屋根がある!

 

 ちなみに今の俺について知っているのはこめっことあるえだけだ。あるえはどうやらこめっこのベビーシッターのようなバイトをしていたらしく、それでご両親が不在の間にこめっこがバカスカ召喚する小悪魔の処理を行っていたらしい。出会い頭でこめっこの靴下を握っていた理由はよくわからん。作家として行き詰まり過ぎて頭がアクシズしたんだろう。どうでもいい。

 俺としてはめぐみんの両親がほぼ身内とはいえ人を一人雇えるだけの経済的余裕を持ちつつそれを保てるようになっていた事実が何よりの驚愕だ。めぐみんの仕送りがようやく実を結んだんだろうと思うと泣けてくる。魔王討伐報酬でもっと楽な生活ができるといいな。

 とにかく、こめっこの両親が帰ってきたら末娘についた悪い虫である俺は間違いなく討伐されるし、そうでなくともあるえの気が変わってバイト代のために俺を討伐する可能性は消えていない。

 あるえが一晩たっても俺を見逃しているのは俺がこめっこに危害を加えず、むしろ落っこちそうになったところを庇ったりした事実とこめっこが俺に懐いたからに過ぎない。

 とりあえず当座の目標はスキルを磨くことだ。初級魔法と中級魔法、それに飛行だけじゃ生き抜くのは難しいし、あとアクアに普通に滅される。

 

 ここだけの話、爆裂魔法に加え、地獄で練習した奥の手もあるのだが魔力量の問題で使い勝手が死ぬほど悪い。

 

「これ!こうしゃくさまこれ読んで!」

 

 先行きの暗い話をウジウジ考えているところにこめっこが戻ってきた。小さな両手にはゴツい本を抱えていて、その表紙には王都で見かけたことのある豪華な料理の絵が描かれていた。どうやらかなり本格的な料理本らしい。

 

「おやおやこめっこ嬢、食欲の念が漏れ出てるよ」

「えへへー」

 

 しかし、本棚には他にも子供の気を引きそうな絵本の類も散見されるがそれらをぶっちぎりで無視して料理っすか。俺はこめっこからその本を受け取る。

 

 そう、俺が隠れ場所に選んだのは紅魔の学校の中にある図書室だったのだ。

 

 紅魔の里は今、MVPたる俺をほっぽっておくほどに大人から子供まで祭の準備に忙しい、故に紅魔の里随一にして唯一の教育機関は休校となっているので、施設内の奥まった場所にあった図書室に隠遁させてもらった。どうせならベッドのある保健室に行きたかったが、窓が住宅地に面していてうっかり見つかりかねなかったとかであるえに却下された。

 

「・・・・・・莫大な財産と魔王退治の栄誉を得た俺が今や幼女の子守係か・・・」

「えいよー?」

「いや、なんにも」

 

 まあ子供は好きだしこめっこは利発でいい子だから腹も立たないけどな。

 受け取った本を開いて冒頭数ページに目を通す。てっきりレシピ本の類かと思っていたが料理についての由来やエピソードが中心の、食の歴史的資料のようだ。

 目次を見たところ、この世界で初めてジャイアントトードを料理しようとした冒険者の話や、グリフォンやマンティコアといった複数の生物が合体した結果複雑な骨格を持った魔物の調理法まで書かれているらしい。

 椅子に腰掛けた俺の膝に座ったこめっこがこっちを見上げてくる。しかしこわいものしらずだなこの子。爆裂魔法以外何の武器もなしに旅に出たどっかの世界最強の妹だけある。

 

「はやくはやく、ごはんの本!」

「こらこら、急がなくたって本は減らないって」

「でもおなかはへるでしょ?」

「うん・・・うん?」

 

 よくわからないことを言うこめっこに生返事を返してぺらぺらと手早くページをめくる。そうしていくつもの目次が視界を流れていく中で丁度その一節が俺の目を引いた。

 

『マニアック料理編・安楽少女の野菜炒め』

 

あったのかよ。

 

+ + + + + + + + + + + + + + +

 

 

「君はもしかしなくとも公爵級ではないね」

「いきなりなんだこの眼帯巨乳、その胸部のお肉をこめっこに食わせてやろうとは思わんのか」

「そういう品性のなさが特にだよ!」

 

 貸出カードと鉛筆の置かれた机を挟んで向かいあったあるえが顔を真っ赤にして両胸を抱くようにして隠しながら俺を糾弾する。しかして豊かな胸は柔く形を変えて腕の隙間から溢れでただけだった。躍動感のある胸は良いものだ。

こめっこは次に読んでほしい本とやらを探して図書室の奥に走っていったまままだ戻らない。

 料理本やら食材の本ばかりをせがんでくる上に美味しそうな挿絵の描かれたページにしか興味を示さないので斜め読みや飛ばし読みばかりになり、あるえが来るまでに既に四、五冊の分厚い本が用済みになって机の隅に放置されている。

 

「品がないからなんだよ、こめっこ嬢には優しくしてるじゃねえか。今まで召喚された悪魔に俺ほど紳士的な奴がいたか?」

「たしかに話が通じる悪魔は君が初だけれど、君の魔力は中級悪魔にすら及んでいないじゃないか」

「それはあれだ、召喚の仕方があれだったとかそんなんだろ、本調子の俺はすごいぞ。悪魔嘘つかない」

「ほーう、本気の君は如何ほどのものか聞かせてもらおうじゃないか。迂遠でまどろっこしい言い回しは禁止だよ」

 

 厨二的な単語とフレーズをこれでもかと散りばめた迂遠でまどろっこしい言い回しに定評のある紅魔族が言うじゃねえか。

なのではっきりと言ってやる。

 

「お前のぱんつを目にも留まらぬ速さで盗めるぞ」

 

 スティールが使えていた頃の話だが。

 ガツンと音を立ててあるえは机に突っ伏していた。くるくる巻き毛の中にめぐみんとお揃いの眼帯が埋もれる。どうやら言葉もないらしい。

 

「どうしてこめっこは君に懐いてるんだ・・・」

「そりゃあの子の前ではこんな発言しないしー?」

「そういう召喚主にだけいい顔を見せるところも逸話の悪魔そのものだね、だけど言っておくよ」

 

 そこであるえは顔を起こした。机に擦れた眼帯がズレたことで真っ赤な両目が俺を縫い止め、色濃い魔力と鋭い戦意が俺の肌を打つ。

 改めて目の前にいるのが上級魔法を使いこなす魔法使いのエリートであることを思い出した。こめっこに忖度しているとはいえこいつは俺の何倍も強いのだ。

 

「こめっこのためなら、こめっこが泣くのも私は構わないよ」

 

 バイト代のために?とは聞けない雰囲気だ。

 あと一度机に伏せた態勢から顔を起こしたせいか、もにゅりと形を崩した胸が以前見た下着とは比べ物にならない魅惑の暗黒を誇る深い谷間を形成していたが・・・そのありがたい光景にも言及しない。本人が気づいてなさそうだけど、ツッコめる空気じゃないもんね。

 

「危害は加えないっての。本領でない俺にはむしろ味方が欲しいんだ。むしろ紅魔族とは仲良くしておきたいな」

 

 あるえがジト目でこちらを見てくる。何を企んでいるかは知らないけど、ロクでもないことくらいは分かるとでも言いたげだ。怪訝と疑惑の悪感情がポツポツと湧いて出ているのが見える。

 やがてそれも治まった頃に、あるえが口を開く。

「信用はしないけど、そういうのならちょっと仕事を手伝ってもらおうかな」

 

 仕事?

 自他共認める自堕落冒険者としては本能的に拒絶反応の出る言葉だし、地獄の勤労者たる悪魔としては人間に取り入るチャンスであると意欲的になれる言葉だ。ただそれよりも気になることが、俺にはあった。

 

「お前、ニートじゃなかったのか」

「君が私の何を知っているというんだい!?」

 

 昨日も今もこめっこの面倒見係を仰せつかっているじゃないか、とブツブツ言いながらスカートのポケットから取り出した紙切れを開いていくあるえ。ちなみにスカートの丈はやはり短いので太ももがよく見えた。紅魔族は常識人のゆんゆんも含めて服装が妙に扇情的なんだよなあ、こめっこは除くが。

 

「魔王討伐を祝った祭典があるのは知っているかい?」

「知ってるよ、知りたくなかったけどな」

「おや?魔王軍関係者だったみたいな言い草じゃないか?」

「いや、敵だよ。あいつら人間殺すから地獄で仕事が増えて苦労した」

「ふうん、興味深い話だが、取材は後でさせてもらうとして・・・とにかくこの祭りは大規模でね、今はなにかと入り用なんだ。それで料理や設備の素材集めに私も駆り出されることになっている」

「へえ、ニート卒業おめでとう。こめっこと二人で応援してるよ」

「ニートではない、そして問題はそれだよ」

 

 あるえがピッと俺を指差す。反対の手はなぜか自分の顔にカッコよく当てがっていた。ポーズでも決めているつもりだろうか。

 

「私がこめっこちゃんの傍を離れてしまう時間が増え、君が傍にいる時間が増えるということが問題なのさ」

「俺は気にしないけど、バレたらぶっちゃけお前はベビーシッタークビになるわな」

「そういうわけだ。だから私の代わりに君が素材集めにいってくるんだ」

「行けるかバカ野郎」

 

 めぐみんに聞いたことがある。紅魔族は生活必需品や売り物に使用する素材のために紅魔の森に生息する凶暴なモンスターを『ちょっとお遣い行ってくる』みたいなノリでポンポン狩っていると。上級魔法を使いこなす紅魔族だからこそできる凄技であり、アクセルどころか王都でさえ同じ内容を依頼しようとすれば数十万エリスを越える報酬を 用意しなければならないこともあるらしい。

 そんなものを俺一人でできるわけがない。

 

・・・しかし、そう考えると爆裂魔法しか使えなかっためぐみんはバイトすらできなかったのか?

 

 

「君を召喚してから約一日、この図書室に君を隠して一晩。既にこめっこは君のことを拾ったペット程度には大事にしている。今更私が君を始末するのはこめっこからの心象に差し障るんだよ」

「そういえば最初に召喚された時もこめっこはお前から逃げてたみたいだったしな」

「ああ、召喚魔法の練習に私が邪魔でよく逃げられてね。最後には人探しの魔道具まで借りることになったよ。見つけた頃には君がいたが」

 

 これでもかつては近所の子供達に人気の■■■お兄さんとして鳴らしていたからな。子供に好かれる俺の人徳まではレジーナも奪えなかったんだろう。うん、間違いない。

 

「で、それとは全く関係ないんだけれど森へ素材集めに行ってくれ。こめっこのために、一人で」

「だから悪魔に自殺を勧めんなって」

 

 あるえはその答えが分かっていたとばかりに大げさな手振りで額を抑えながら嘆息した。カッコつけてんのか?

 しかし、召喚しておいて殺しに来たと思えば自殺同然の仕事を振ってくるとか、紅魔族は魔物に対する容赦や命への敬意がなさすぎるだろ。

 

「あれだぞ?分かってるのか?もし俺がいなくなったらこめっこはまた悪魔召喚を繰り返すぞ?今度はもっと凶暴な悪魔が出るかもな〜」

「む・・・」

 

 こめっこの大物っぷりと才覚を考えるとそれこそ次は本当に公爵を喚んでしまうかもしれない。バニルならいいがマクスウェルなんて召喚してしまったら紅魔族の存亡すら危うい。

 

「上級魔法が使えるとはいえ、それでも手強い奴は手強いぞ?公爵に至っては訳が分からん」

「その言い振りだと君自身は公爵ではないんだね」

「それは想像に任せるさ、こめっこ嬢の」

 

・・・・・・でも拒否ばかりもしていられない。俺一人で紅魔の森なんぞに放置されてたまるかと言いたい所だが、いずれ俺はパーティーの所に戻らなければならないのも事実。

だからこめっこの元に縛られるよりはあるえから追放してもらった方が目的には合致する。しかし、バニルからの依頼も無碍にできない。

 

 理想としては、こめっこが悪魔の召喚を止めてバニルは快適に仕事をしつつ俺は紅魔の森を出て世界最大のダンジョンに行く、それまでにアクアに瞬殺されないだけの戦力を整えている状態になっておきたいのだが・・・・・・。

 

「よし、じゃあこうしようぜ」

 

 

+ + + + + + + + + + + + + + +

 

 

「『ライト・オブ・セイバー』!!」

「包丁じゃないか」

 

「『カースド・クリスタルプリズン』!」

「こおりのくつみたーい」

 

「『インフェルノ』ォォォォォオオ!」

「言葉も出ないとはこのことか・・・」

 

 紅魔の森に踏み入り数時間後、木々の間に俺の声が響き、目の前の巨獣に対していくつもの魔法攻撃が繰り出されていった。

 苛烈な光刃が体表を覆う鱗を削ぎ取り、堅牢な氷の棺が足を止め、トドメの火炎魔法が剥き出しの身を情け容赦なく炙る。

そうして俺の悪魔的手腕によりとうとう魔物は残酷に料理されてしまったのだった。

 

「サラマンダーを料理しただけじゃないか」

「いいにおい!」

「ままならねえなあオイ!」

 

 見よう見まねで放った上級魔法の数々はあるえからちゃちゃっと手早く伝授されたものなのだが、本来の威力の十分の一も発揮できていないのが現状だ。

 全身これ魔力と魔法による生命体、そんな悪魔たる俺は魔法の習得度だけはとんでもなく早くなっているので、人間だった頃は結局覚えきれなかった上級魔法の名を冒険者カードに刻むのは簡単だったのだが、下級悪魔相応の魔力しかないのがネックとなっていた。

 

 今も大型犬程度の大きさのトカゲのモンスターの鱗を削いで軽く炙っただけで命までは奪えていない。それに使用する魔力を絞ったとは言え上級魔法を連発したので体力がキツい。

 

「こうしゃくさまよわいねー」

 

 こめっこの声にバカにするような空気はなく、ただ事実を確認するだけといった風だ。

俺は自分の弱さについて自覚的だが、楽観的ではない。現状のまずさは理解していた。

魔法を食らった結果作り出された炙り肉の匂いが気になるのか、あるえの後ろにいたこめっこの口元からは小さくよだれを垂らしながら匂いの元に駆け寄っていった。

 

 いや、ちょっと待て!サラマンダーは背中の肉をこんがり焼かれただけでまだ生きてるっての!!

火傷の痛みに悶えていたサラマンダーの無機質な瞳が、無防備に近づいていくこめっこに固定されて、

 

「 瞑目せよ鱗の隣人、そなたの旅路はこの地にて潰えん。『ライト・オブ・セイバー』」

 

 あるえの声で、妙な呪文が聞こえたと思ったらでかいトカゲの首がゴロリと転がり落ちていた。胴体はそのまま残されている。

 

 いや、マジかよ。見えなかったぞ・・・?

 あるえを見ると既に両手をパンパンと払っていて、攻撃の残心さえ見えない。

 

「今のどうやったんだ?速いし静かだし、俺の知ってるのと違うんだけど」

「君がやったことと同じさ、少ない魔力で刃を細長くして素早く伸ばしただけ、君も公爵なら簡単にできるんじゃないかな」

「何が同じだよ、俺はただ単に魔力不足なだけだ。セクハラさせてくれたら俺の刃も大きくなるんだけどな・・・」

「こめっこが離れた瞬間に下品にならないでくれるかい?」

 

 こめっこはオオトカゲの背に乗り、鱗の剥げた部分に噛み付き、食いちぎるのに夢中だ。と、止めた方がいいのか・・・?いや、でも火は通したし腹は壊さないよな・・・。

 と、この隙にあるえの耳元に口を寄せる。

 

「そういう少ない魔力の運用とか、技術を教えてくれって言ってんだけど・・・。約束したろ?ちゃんと上級魔法が使えるようになったら紅魔の里を出ていくってさ」

 

 俺の問題、あるえの問題、こめっこの問題。それらを解決する第一歩としてまず俺が上級魔法をあるえに習うことを提案した。

 

 上級魔法の行使に必要な体の構えや魔力循環は人間だった頃は時間とセンスが足りずに覚えられなかったが悪魔となった今は別なのだ、そう時間はかからないと予想し、実際そうだった。

 結果としてはさっきの通り、トカゲ一匹殺せなかった訳だが。

光刃は包丁サイズ、氷の檻も足元を凍りつかせるだけ、インフェルノも弱火。ないよりまし、という感想しか出てこない。

 

 とにかく、俺は上級魔法という手札を手に入れ、紅魔の里を出る。

 あるえは俺を追い出し、ベビーシッターとしての面目を保つ。

 こめっこに関してはこうして三人で行動することで両親が帰ってくるまで時間を稼ぐ。親さえ戻れば悪い遊びもできないだろうという心算だ。

 だというのに、どうもあるえが協力的でないような・・・。

 

「悪魔の君は知る由もないだろうが、紅魔族の教育は何も手取り足取りという訳じゃないのだよ」

 

 俺の不満顔に気づいたのか、そんな弁解が返される。

 

「呪文を教え、魔力の扱いを教え、あとはレベルが上がって上級魔法を獲得するまで傍で見守るのみさ、何かあれば即座に助けるけどね。」

 

 見守っているつもりなのかこいつは・・・。なんか誤魔化されてないか?

 紅魔族の学校では魔法の扱いを中心とした社会に役立つ教育やレベル上げを行っているらしいが、それについて話していたゆんゆんが渋い顔をしていたことを思い出すと何を教えていたのか想像がつく。

 俺の知る学校との大きな違いとしては冒険者カードを使って何かしらのスキルを獲得すると即刻卒業できるということか。

 飛び級とかそんな話じゃなく卒業と来た。将来役に立つかわからない知識より実践的な技術を優先する方針は厳しいこの世界を生き抜くには適していると思うが、中級魔法しか使えない上チョロ甘で誰にでも騙されそうなゆんゆんと爆裂魔法による爆裂魔法のための爆裂道を邁進するめぐみんが野に放たれたことを忘れてはいけない。おそらく俺と同じ転生者が学校制度を作ったんだろうが、うまく伝わらなかったらしい。

 将来役に立たないことを勉強するのが学校という機関なのに、そこを無視している。

 

「そうかいそうかい、見守ってくれているのならありがてえ、だったら見ていてもらおうか。俺の上級魔法が練磨されていく様をよ!」

 

 そう吐き捨てながらあるえに背を向ける。

 別行動をするつもりではない、悪魔の聴力が何者かの重々しい足音を聞き取ったからこその臨戦態勢だ。

 木々の隙間を素早く動けるように固く小さく折りたたんでいる翼を意識する。

 

 ガサガサと枝葉がこすれあう音がして、警戒したあるえがこめっこに駆け寄り抱き上げた。こめっこのいた場所には背骨と肋骨の一部が露出したトカゲの死体が・・・・・・あの子の食欲は一体何なんだ?

 

 今出来うる戦闘スタイルはやや命懸けだ。ちまちまと弱い攻撃与えることで相手の悪感情を引き出し、それを魔力に変換してより強い攻撃を繰り出すという、地獄でアルダープを使いながらマクスウェルと対峙した時のものをそのまま流用するつもりだ。

しかしこれ、モンスターには通用しない戦法かもしれない。動物は感情ではなく本能で動くからだ。実際さっきのサラマンダーから摂取できた悪感情はあまりにも希薄で腹の足しにもならなかったことを考えるとやはり悪魔は人間のみの敵らしい。

 

 とはいえ安楽少女には通用したのも事実なのだから、色々と検証していかないとな。

検証とか実践とか俺らしくないこと極まりないが、生き残るためには仕方ない。

 

 俺は包丁程度の大きさの光刃を生み出すと、ガサガサと揺れる茂みに向かって勢いよく駆け出した。

 

 

 

+ + + + + + + + + + + + + + +

 

 

 

 

 

 

「くさいごはん」

「こんな昼過ぎからドラゴンゾンビが出るなんてね、肉の焼ける匂いにつられたかな」

「くそったれえええええ!!!ゾンビに感情があるかよおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 一発目から相性最悪だった。

 

 

 

 

 




どうでもいいオリ設定

・安楽少女の野菜炒め

まだ魔王軍が形となっておらず人間同士の争いが絶えなかった頃、飢饉を迎えたある国に安楽少女が食料として持ち込まれたものの、安楽少女の愛くるしさにむしろ逆に養分にされる国民が増加。

『飢饉に苦しむより安らかに死んだほうがよくね?』という風潮が国中に蔓延し、王族や貴族が対応を迫られたるも貴族とて人間であり、少女姿の相手を屠るまともな有効打はなかった。

そんな中、一部の好事家の貴族が安楽少女を普通に料理して食し始め、さらには安楽少女の踊り食い、安楽少女の盛りあわあせ、オードブルなど贅を尽くした安楽少女料理を平らげる様を見せつけ、最終的に国中の安楽少女を食い尽くした。

これら安楽少女食を最初に始めた貴族は後に残虐公と呼ばれたが、実は貴族はあくまできっかけであり、国を埋め尽くす安楽少女の9割は箍の外れた国民により喜々として食い散らかされていたことは高度な政治判断により隠された。
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