サトウカズマはおうちにかえりたい   作:コウカローチ

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カズマさんって基本的に誰に対しても呼び捨てなんだけど悪魔になると何故か敬称を使う、多分相手のポテンシャルに無意識に屈してるんでしょうね。心の中では呼び捨てのままだけど


悪魔と遊べや紅魔たち

 

 

 

 地獄滞在期間の最後の一日。

 何者かによって召喚されることを見通された俺はバニルと打合せを行っていた。思えばバニルからの依頼を聞くなんて初めてじゃなかったか?今までのはあくまで商談や交渉だったからなあ。

 

「ところで貴様、地上に降り立ったのちにどうするつもりだ?」

 

「そりゃ、まずは俺を召喚したやつをどうにかするだろ?その後はアクセルに戻るよ。あいつらがバカやってる可能性が大なのはお前に見通してもらったし、下手すりゃ既にダンジョンに特攻かましているかもしれないんだろ?」

 

 当然とも言える俺の答にしかし、バニルは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

「ふむ。仲間の目のない内に淫魔と近所付き合いを始めていたとは思えんほど実直な行動であるな」

「それは言わないで欲しい」

「しかし忠告しておくがそれは悪手であるぞ、奸計に長けているはずが焦りから浅慮になっている勇者よ」

 

 いつもどおりの軽いジャブのような罵倒だと思っていたが、バニルの次の発言は簡単に無視できるものではなかった。

 

「アクセルにのこのこと顔を出したが最期、貴様の珍道中はそこで終わりを迎えるであろう」

「いきなり!?なんでそうなるんだよ?ただでさえ召喚者をどうにかするって仕事があんのによ」

「簡単な話だ。まず間違いなく思慮の足りないドアホプリーストが脊髄反射で貴様を浄化するであろう」

 

あ・・・・・・・・・。

 

 忘れていたが、確かにその光景は想像できる。考えてみればリッチーであるウィズに対しても、初対面からリードの外れた駄犬のように突っかかっては攻撃を繰り返していたのがアクアだ。具体的には浄化魔法を打ち込んだり聖水や神気を浴びせたりと、温和でおっとりした女性に対する行動としては下の下の下でしかない。

 しかし今では二人は何だかんだ仲良くなっているのだが、これは結局ウィズがアクアの攻撃に耐え切れるだけのステータスがあったからだ。耐えきられたからこそ、その続きがある。俺がドレインタッチや不死王の手を教わり、机上の空論だった儲け話を店員であるバニルと共に実現させ、魔王を倒すためのレベル上げにもウィズがいた。

もしもウィズがアクアの浄化に耐え切れなかったら、これらの現実もなかったのだ。

 

 だが、俺は?

 

 下級悪魔たる俺が、力を増して帰ってきたらしいアクアの一撃を耐えきれるか?

 

「言っておくと、あの女の力には貴様が千の残機を抱えたとて抗えん。一撃で全ての残機を浄化され、地獄も天国もない完全な消滅を迎えるであろう」

 

 バニルが俺の思考を見通して、付け加えるように断言した。

 

「・・・べ、別に襲いかかろうってわけじゃないんだ、上手いこと話の切り口を探せば」

「対話とは、ある程度知力のレベルが揃っていて初めて成立するものではなかったか?」

「くそっ無理だ!あいつの頭で俺の込み入った事情を大人しく聞いていられるわけがねえ!」

 

 絶望的な事実と未来に俺は思わず頭を抱えた。そんな俺に上から言葉が降ってくる。勿論慰めの言葉などではない。

 

「単純に力を蓄えたところで高がしれている、悪魔となったことで貴様の魔法適正が上昇していようともな。我輩から出来る助言としては・・・・・・貴様は以前の貴様を取り戻すが吉であると言ったところか」

 

バニルのアドバイスに首をかしげる。以前の俺を取り戻す?冒険者で、人間で、魔王討伐を成し遂げたカッコイイ勇者様であるこの俺、■■■■の姿を?それができれば苦労しないってのに。

 

「・・・人間に戻れってことか?戻れるものなら戻りたいけどさ、それならやっぱり俺一人じゃあ不可能もいいところだろ。紅魔族の知識とか、貴族のコネとか、宴会芸の励ましがなきゃキツくねえか?」

「人の身を取り戻すのも最終目標であろう、だがまず第一に奪還すべきは貴様の戦法、戦力である」

「戦法?・・・・・・ああ、そういうことか」

 

 少し考えたが、理解した。そうだった、ダンジョンでのレベリングもそれが目当てだったしな。

 

「貴様は地獄であくせくと労働に勤しんでおったから自覚が遅れているのであろうが、リッチーの技能、盗賊の技能を初めとした数多のスキルが封殺されておる貴様は余りにも弱い。付け焼刃のスキルと貧弱な装備のあり合わせこそが貴様の命綱であろう?」 

「・・・確かにスティール、バインド、ドレインタッチは俺のメインウエポンだしな。勿論それらを十全に生かす俺のクールな機転があっての話だけど」

 

 俺の使うスティールは膨大な幸運に後押しされた結果、アクアの神器である羽衣すら奪った実績を持つ、ある意味では神に対抗しうる領域にまで達していた。他のスキルにしても一つだって役に立たないものはなかった。

 

「貴様の驕慢な自己評価はさておき、地上に出た貴様は単騎の駆け出し冒険者に討伐されかねん。故に我輩は助言する、勘を取り戻し、手札を揃えよと」

「分かった・・・しかし実際どうしたもんかな・・・悪魔は盗賊スキルなんて持てないし・・・」

「例えば貴様の開発したダイナマイトとやらを用意するか、王城にて貴様が『初見殺し』などといって用いた目潰しコンボのような技を増やすかするが吉である」

「・・・・・・なるほどな、あれは初級魔法の組み合わせだし、アクアに出会った時に初見浄化されないためには、単純にレベルを上げるよりはたくさんスキルを取得しとけってことか」

「然様、そもそも貴様が自宅に安置しておる冒険者カードを見通したところ、純粋に肉体を鍛え上げるという方向性の前途は絶望的である」

 

なんで一言余計なんだこいつは。

 ついにバニルからも言われてしまった。やっぱり純粋なステータス強化はこれ以上望めないらしい。

 

「・・・・・・・・・あの世界に着いたらパーティメンバーに会う前に、身を守る手段を揃えておくよ」

「ふむ。是非そうするがいい、準備期間の長さは・・・早すぎても遅すぎても不幸な結末しかならんことぐらいは分かっておるな?」

「そうだよなあ。見通す悪魔ならどれくらいで行動し始めるべきか見通せたりしないのか?」

「ここが地獄でさえなければ児戯に等しいのだが・・・ふむ」

 

 そこでバニル眉間のあたりをコツコツと突いた、仮面越しなのでよく分からないが何かしら俺のためになる言葉を探しているらしい。

やがてその人差し指がピッと俺の方へ向けられる。

 

 

「『合図」を見逃すな、とだけ言っておこう」

「合図?」

 

 悪魔特有の曖昧な物言い。しかし、そのことについてクレームを付けるのは時間の無駄だろう、おそらくもう時間はない。

 悪魔となった俺には分かる、誰かの魔力が体にまとわりつき始めたのが。

 

「では時間だ、行ってくるが良い!かの陰険なレジーナ教の神の鼻を明かしてくるのだ!」

 

 元魔王軍関係の邪心とはいえ、神族の狙いを妨げるのが嬉しいのか、バニルが高らかに宣告すると同時、俺の視界が上に引っ張られるようにゆがみ始めた。いよいよ召喚が始まったらしい。

 体感で一か月以上身を置いていた、忙しくも平和でどこか牧歌的な地獄から忙しくて命懸けでどこもかしこも危機的な地上へと連れ戻される。

 地獄に馴染みかけていたせいか、後ろ髪を引かれる気分が残る、このまま黙って消えてもいいのか?

 

「そっ!そういえばバニル!お前なんでここまで色々助けてくれたんだ!?」

 

 これだけは聞いておきたかった。出会った時から徹頭徹尾掴みどころのないままに周囲を翻弄しつつもちゃっかり儲けどころを逃さない、こちらの思い通りにならない不条理な存在がここまで親身になってくれるなどよく考えれば考えるほど不気味で仕方ない。こいつの場合、後で法外な恩返しを要求してきそうなので尚更だ。

 俺の危惧が分からないはずもないだろうに、バニルは何でもない風に俺に応えた。

 

「悪魔は原則として契約と取引を重んじる、貰った分は返すのが筋なのだ」

「は?」

 予想と大分違う返答に戸惑う。

あいつが貰ったというものには思い当たる節はない。俺ってバニルのためになにかしたっけ?

 

「貴様の過去を見通したところ、どうやら我が友人が馳走になっていたようでな、その分を返したまでのことだ」

 

友人?あいつウィズ以外にも友達がいたのか・・・・・・・・・

 

 最後によく分からないことを言われてモヤっとしたまま俺の意識は数瞬、途切れた。

 

+++++++++++++++

 

 以上が体感で約1時間の会話。

 

「こめっこちゃん!その悪魔から離れてこっちに来るんだ!」

「ダメだぜこめっこ嬢!あいつはお前の靴下をハスハスする変態かも知れないぞ!」

「んなっ!?だからこれは魔道具を発動させるためのものだと言っているだろう!」

「そんな怪しげな魔道具の毒牙に我が召喚者をかけるわけには行かないな!」

「役立たずの下級悪魔の方がよっぽど有害だろう!偉そうな事を言うのはせめて農作業が手伝えるくらいになってから言うんだね!」

「悪魔に軽作業させてんじゃねーよ!この世界は尽く俺のファンタジーに対する理想をぶち砕きやがる!」

「何の話だい!?」

 

 喧々諤々の舌戦を繰り広げる。こんなことをしている場合ではないのだが、なぜかこのあるえとは出会う度に喧嘩になってしまうのだからしょうがないし、俺は悪くない。働かない奴がこの世で一番の悪だ。

 思いがけず興奮して、息を切らせた俺たちはちらりともう一人へ目を向けた。

 

「どっちもがんばれー!」

「「どっちも!?」」

 

そんな意味不明な応援の声をこめっこが上げると同時、俺とあるえは動いた。

 

「『ライトオブセイバー』!」

「『飛行』!」

 

 飛び上がろうとする俺に対し、軌道を先読みしたあるえが斜め上空に光剣を横薙ぎに振るった。

 素直に飛んでいれば今頃俺は下半身と泣き別れしているところだったが、俺は素直ではない。広げた羽を下ではなくあるえのいる前方に向かって振るっていた。体は上ではなく後ろに向かってスライドしていき、光の軌跡は見当違いの空間を切り裂いて、起こした風圧は短いスカートを押し上げた。

 

「んなっ!?」

「黒いぱんつ!!」

 

 あるえの驚愕と俺の歓喜が共鳴する。

 うっすらと肌色を透けさせながらも存在感を失わない黒い布地。その周囲を下品にならない絶妙なレベルの肉感を持った太ももが飾っている。反射的に足を閉じたことによって柔肌がくっつき合いながら鼠径部を波打たせることでぱんつの表面を艶かしく滑っていく光沢。さらに悪魔的視力の前ではぱんつの皺が生き物のように形を変える瞬間さえも見逃さない。

 

「こうしゃくさん、めっちゃ見てる」

「ぱんつパワーを得ているんだ。こうすると魔力が高まるんだぞ」

「そうなんだ、すごいえっち!」

「こめっこちゃん!そいつの言葉に耳を貸すんじゃない!碌な大人になれないから!」

 

これはそれほど嘘ではない。光剣を解除しスカートを抑えたあるえの羞恥の悪感情が胃の奥へと流れ込み、魔力として俺のパワーになっていたからだ。アルダープの怒りや絶望、罪人の魂から滲み出る原始的な嫌悪が主食だった俺にとって初体験の味だ。

 

「・・・・・・なるほど。バニルがどハマリするのも納得の味だ」

「ばにる?こうしゃくさん、見通す悪魔のバニルじゃないの?」

「うえっ!?・・・確かにバニルじゃないけど、見知った仲ではあるよ」

「そうなんだ、えっちさんすごい!」

「えっちさん・・・?」

 

 危うくこめっこからの俺への評価にヒビが入るところだったがなんとか誤魔化せた。しかし純粋な尊敬の眼差しには悪感情がない分、むず痒い。一方で俺の視線を恐れたあるえは既に腰が引けて、こちらを睨んだまま追撃してくる様子がない。ここを去るにはいいチャンスだ。

 

「ぱんつ見せろ!」

 

 両翼を大きく羽ばたかせる。

吹き上がる土埃と風圧にあるえが反射的にスカートを押さえたのに対して、俺の体はその場で上昇していた。

 さきほどお見舞いした、飛ぶと見せかけたスカートめくりとは逆のフェイント。単純な策だが引きこもりニート作家志望とはいえ仮にも女子のあるえが下着の危機を無視できるはずがない。

結果として紅魔族特有の強力な魔法を放つ両手は下半身を庇い、討伐対象たる俺は上空に向かった。例え今からこっちに照準を向けようとしても、真上に腕を持ち上げる一瞬で充分射程範囲外に逃げ切れる。逃げ足、もとい俺の飛行速度だけは下級悪魔を凌駕しているのだから。

 

「ばーかばーか!逃げる俺を捉えたきゃ爆裂魔法でも撃つんだな!」

 

樹木の頂点を越えて飛び去る一瞬、あるえと目が合う。そこに見える悪感情は悪魔に一手出し抜かれた悔しさと___

 

「こ、こめっこちゃん!?」

「え?」

 

 俺の尻尾にぶらさがったまま一緒に上昇していくこめっこを案じる不安と恐怖だった。

 

「わーい!」

「はあああああああああああ!?」

「早く下りてくるんだ!私が受け止めるから!」

 

 意表を突く発言と完璧なタイミングでの脱出であるえをやり過ごしたと思ったら、俺の意図を読んでいたとしか思えない素早さでこめっこがくっついていた。

 流石はめぐみんの妹、頭はいいほうだと思っていたが俺の思考を読む能力までめぐみんそっくりかよ!

 

 悪魔の尻尾は高速飛行において体のバランスを保つ役割がある。恐竜にとっての尻尾と同じだ。

 今そこに、小さな子供がくっついているということは・・・・・・。

 

「いやああああああああああああああ!!」

「目の前がぐるぐる~」

 

 地上一日目。

紅魔の森の上空にて、俺を歓迎したのはキリモミ旋回から墜落コースだった。

 

 

 

 ちなみに一緒に落っこちたこめっこはちゃんと無傷で守り抜いたぞ。

 

 

 

 

 

 

 


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