「よっ……!」
「ぐえっ……!!」
碧井の肩に担がれ運ばれた先は第3会議室。
こいつ運ばれている最中も思っていたがかなり雑な奴のようだ。
第3会議室に着くや否や俺のことを放り投げ、俺は強かに背中を打った。
当たり前だが、ちょー痛え。
そして、あと一つ言いたいことがある。
中学までの柔道の授業どうなってんだよ!嘘つきかよ!?
俺の中学の柔道の授業で、なんかすごい柔道の達人みたいな奴が「受け身をとれば怪我をすることはない!」とか豪語してたから、「そうなんだ!なら、真面目にやらないと!」って思ってた俺の純朴さを返してくれ!
さっきなんて「この時のために俺は柔道をやってきてたんだ!」とまで思って、満を辞して受け身取ったら案の定、めちゃくちゃ痛えじゃねーか!
頭打たなかったからまだしも、これで怪我でもしたら選手生命を脅かしてたぞきっと。
ま、俺なんのスポーツもしてないんだけど。
「いてて……」
腰を抑えつつ俺が立ち上がると、汗を拭う碧井がこちらに微笑みかける。
「えへへ……なんかごめんね。舞い上がっちゃって、肩に担いだりなんかしちゃってさ」
申し訳なさそうに上目遣いでこちらを見つめる碧井。
緩く開いた襟元から覗く、汗ばんだ胸元に目がいきそうになるのをこらえ、憮然とした調子で答えた。
「いや、別に……」
「そ、そっか……」
気まずい沈黙が二人の間に横たわる。
チラリと横目に彼女の様子を探るが向こうも同じことを考えていたようでバッチリ目が合ってしまい慌てて逸らす。
なんだこれは……?
どうすりゃいいのか全然わかんねーぞ。
「あの……」
この空気に耐えかねた彼女の方から沈黙を破る。
「なに?」
出来るだけ優しく聞いてあげると、少し明るい表情になった。
「あのさ、君の名前聞いてもいいかな!私は碧井空!」
「青い空……」
チラリと窓の外を見ながらそう呟くと、彼女はムッとした顔で否定する。
「青い空じゃなくて、碧井空だよ!紺碧の碧に井戸の井!まあ、みんな初めはそう言うからもう慣れたけどさ……」
少しいじけたように唇を尖らせる碧井。
「すまん」
俺が後ろ頭を掻きながら謝ると、一瞬意外そうにキョトンとした顔でこちらを見たがすぐに手を横に振って笑う。
「あ、いや別に謝ることじゃないよ!もう慣れたしさ!で、君の名前は?」
「ああ、俺か?俺は色無勇気だ」
「いろなしゆうきくん……」
顎に手を添え思案顔になる彼女を見て少し俺も補足する。
「色無は色が無いって書く。勇気はcourageの勇気だ」
「そっか!なら、君はユウくんだ!」
「ユウくん!?」
思わぬあだ名に戸惑う俺。
しかし、碧井は至って真面目なようで、潤んだ瞳をこちらにジッと向けている。
「ダメかな……?」
「い、いや別にダメってわけじゃないけど……」
そう答えると、碧井はパアッと顔を華やがせ手を差し出す。
「よかった!なら、これからよろしくねユウくん!」
「お、おう。よろしく碧井」
おずおずと彼女に向けて手を差し出すと、意外なほど柔らかな手が俺の手を包む。
暖かく、心地よい。
まるで麗らかな春の木漏れ日のようだ。
だが、いつまでもこうして手を握っているわけにもいかない。
頃合いを見て、手を離す。
少し名残惜しさを感じた自分には気づかない振りをして。
顔を上げる。
目が合う。
碧井のほおが赤い。
なぜかその事実がたまらなく恥ずかしかった。
そして、それは向こうも同じらしい。
「ユウくんの手……いや、やっぱりなんでもない!じゃあ、明日も放課後ここの教室に来てね!?私、職員室に鍵取りに行くから!じゃ、また明日!」
そこまで、勢い込んで話すと踵を返し、教室を飛び出してしまう。
「え、お、おい!ちょっと待て!」
俺の呼び止めは聞こえるはずもなく、教室に一人ポツンと取り残されてしまう。
「結局、ここは何するところなんだよ……」
俺はため息を吐き、一人そう呟くのだった……。
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