私の相談相手(仮)    作:速川渡

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 どうも、今回は私が一番書きたいと思ったことを書いてみました。
 別に誰にも読まれず評価されないのは構いません。
 しかし、今回この小説を目にしたあなたには満足してもらいたい。
 若干描写が少なく、読みづらいかもしれませんがどうか最後まで続けて読んでやってください。


自分は何者かについて

 私は誰なのか。

 何者で、何を成し、何をして、何のために生きて行くのか。

 ふとそんな考えが頭をよぎった。

 

 それは、よく考えてはいけない問いだった。

 

 それまで自分自身であると思っていた部分が自分がそう演じているだけなのではないかと、私は自分を見失った。

 

 高校の友人に意見を求めた、私はどう言う人間に見えるか。結果としてそれは参考にもならなかった。それらを聞いても、納得できる答え(ソレ)は無かった。

 

 このままではいけない、こんな悩みを抱えたままでは勉学にも身が入らないし、何より心が重たい。

 辛くて苦しくて、気が狂いそうだ。多分私にしか分からない。この痛みを他の人は理解してくれない。

 

 ならば、これは私自身で解決するべきなのだろうか?

 

 いや、あの人なら何か教えてくれるかもしれない。でも、理解してもらえず、傷つくだけかもしれない。

 ──それでも、私はこの悩みを誰かに吐き出してしまいたかった。少しでも、楽になりたかったんだ。

 

 

「先生、お久しぶりです。元気ですか? 」

 

 私が先生と呼び慕うその人に会いに行った。先生と行っても別に教師でもないし医者でもない。私がそう呼んでいるだけだ。

 思い立ったが吉日と、会いに来たのだが先生は、私のその言葉を聞くなり硬い表情をして返事した。

 

「ああ久し振り。それなりに元気だ。あと、その先生というのはやめてくれと言っているだろう? 俺はそんな高尚な人間ではないし、何よりよそよそしい。お兄さん、と呼んでくれよ」

「ええ・・・、別に兄弟でもないのに人を兄というのはちょっと・・・おじさんで勘弁してください」

 

 少しうんざりした風にそう返してやる。確かにそれなりに親しい仲ではあるが、そう呼ぶのは気恥ずかしいという乙女心をわかってほしい。

 その言葉を受けて若干ショックを受け、その二十代前半の男は諦めたような口調で言葉を返してきた。

 

「おじ・・・もういいよ、先生で。それで? 何か悩みでもあるのかい? 君が俺を訪ねてくるときは大抵そういう用事があるときだからね」

「はい」

「うん、こんなところで立ち話をするのも何だ。家の中に入りなさいな」

「お邪魔します」

 

 私が先生の家を訪ねるときは、何かしらの悩みについて相談するときがほとんどだ。むしろ、それ以外で、先生を訪ねたことは片手で足りるほどの回数だろう。最近は、相談するほどの悩みもなく、あまり来ていなかったが。

 先生は、私を客間、の先にあるリビングに連れてくれる。客間に案内されたのは確か始めの数回だったか。

 リビングのキッチンより少し離れたテーブルの背もたれのない簡素な椅子に私は腰掛ける。そこが先生との相談するときの定位置だ。

 先生はキッチンから、私向けのあまーいココアと自分用のブラックコーヒー、使いもしない角砂糖を数個持って来て、私に対面する側の椅子に腰掛ける。

 そして先生は、私に声をかける。

 

「はい、これで良かったかな? ちょっと最近はあまりココアを作っていなかったから、分量が曖昧でね」

「ええ、数ヶ月程度飲んでなかっただけなのに、何だか懐かしいような感じがします」

 

 一口、私はココアをすすってそう返した。本当は、若干前よりも苦かったけれど。

 それからしばらくは世間話をした。その間は私が何者なのかだとかそういった今回の悩みは忘れたかのように心が軽かった。

 そうして、そのことを思い出した頃に私は切り出した。

 

「ご察しの通り、私は今、悩みを抱えています。自分が何者で、何を成して、何をして、何のために生きるべきなのか……その指針というか方向性というか、そういうものを見失ってしまいました」

 

 私は、心に留めていたそれを一気に彼に吐きかけた。少しだけ、心が楽になった気がした。

 しかし、やはりというか当たり前だが依然として、悩みは解決していないわけだからその重さは心にのしかかったままだ。その心の重みを塗りつぶすように出された温くなったココアの残りを飲み干す。最後の方はかなり苦かった。

 先生はその言葉に対して、逃げたり、背いたりはしなかった。むしろ、受け止めてくれた。

 そして、私に問うて来た。

 

「うん、怖くて不安だろうね。俺は本当の意味でそれを理解することはできないけれど、君が辛いだろうということは、ひしひしと伝わってくるよ。その恐怖から逃れるために君はどうしたいんだい?」

「知りたいです。自分を。自分がどういう人間なのかを主観的にも客観的にも」

 

 先生は私のココアのお代わりを注いで、私に差し出し私の結論に賛成してくれた。しかしそのまま、次の問題を提起する。

 

「うん。俺もそれが一番だと思うよ。そのために何をする? 」

「え? ……うーん、教えてください。私がどういう人間だと思うのか、先生の意見も参考にしたいです」

 

 私がそういうと、先生は自分のコーヒーを注ぎ足しながら難しい顔をして、私の質問にこう答えた。

 

「いいや、俺は答えない。多分、その方法では、いつまでたっても君は、自分のことなんて理解できない」

「え? どういうことですか? 」

「自分のことを一番よく知っているのは自分ってことさ。君はおそらく、自分と親しい友達なんかに同じ質問を投げかけたんだろう。しかし、それでわかるのは、自分はそういう風に見られることがある、という情報だけだ。君の悩みの解決にはなり得ないだろう」

「よくわからないです……。客観的に見られた自分について知れば、自ずと自分の立ち位置も見えてくると思うんですが・・・」

「君はそれでいいのかい? 他人の価値観で決められた立ち位置にたっていれば幸せかい? なるほど、そういう人もいるだろう。だけど、俺は自分の価値や自分の立ち位置は自分が定めるものだと思うよ」

 

 なるほど、他人から見た私は確かに私ではある。しかし、それを自分の価値として、立ち位置として決めるのは結果として、自分らしくなくなってしまうということか。少し頭を使ったためか、甘いココアが心と脳を潤してくれる。と言うことは、自分を知りたいならやはり、自分一人で自分を定義というか、自分のあり方を決めなくてはならないということだろうか。

 

「じゃあ自分で自分の価値とか立ち位置、あり方を決めないといけないということですか? 」

「うーん。君が自分を見失う前の自分の性格を見直せば、それが君の価値で君自身のありようじゃないかと思う」

「私の性格……自分で言うのも何ですけど。真面目で、少し茶目っ気のあったような感じだったと思います」

「じゃあ、それが君だ」

「・・・はあ」

 

 先生は真顔でそう告げて来た。そのあと少し満足げにカップの中のコーヒーを軽く口に流し込んでいる。私はそれに対して少し呆れたように返事をした。

 それが君だ。と言われても、何か違う気がするのだ。確かにそれは私だ。いや、()()()()

 今の自分は何かが変わってしまった気がする。過去の自分のままではないようなそんな感じがする。

 

「じゃあ、その昔の自分がやっていたことを追想しながら、行動すればいいんでしょうか? 」

「それではダメだ。昔の自分と今の自分が全く一緒なわけがない。人は少しずつ成長しているからね」

「ええ? もう、どうしろと言うんですか? 」

 

 もうよく分からなくなってしまい、困惑したようにそうぼやく。先生はそれをなだめるように、私にその方法を告げた。

 

「それが自分であると受け入れるんだよ」

「受け入れる? 」

「そう。自分はこう言う人間である。と受け入れるんだ」

 

 なるほど、そうすれば確かにこの悩みは晴れるだろう。でも、そんなことが簡単にできたら苦労はない。

 

「受け入れるたって、どうすれば受け入れられるんですか? 」

「それは人それぞれさ。他愛のない日常の会話からその糸口を見つけ出す人もいるし、ふとした瞬間に受け入れる人だっている」

「・・・それってつまり、確定した方法はないってことですか? 」

「そりゃあ、同じ悩みに苦しむ人はいるだろうが万人に共通する解決法なんてないよ。一人一人違う考え方と価値観を持っているんだから」

「じゃあ、私はそのきっかけが発生するまで、ずっとモヤモヤとした心持ちでいないといけない……ってことですか? 」

 

 その結論にうんざりしたように、言葉をなんとか紡ぎ出す。心のつっかえは未だに取れず、むしろ少し苦しくなったような気がする。それを誤魔化すように今度は少しずつココアを飲む。甘いがその甘さに慣れたせいかやっぱりちょっと苦い。

 この悩みとは、長い付き合いになるのかもしれないなと私は半ば諦め始めた。しかし、きっかけさえあれば私は自分のことを受け入れ、自分を知ることができるだろう、という希望も芽生えた。

 先生は困ったような顔をしながら、私の問いに解を出す。

 

「ふむ……まあ、そうだね。残念で申し訳なくすらあるが、俺に君のその悩みを解決することはできない。君自身で理解して、納得して、受け入れないといけないからね」

「そう・・・ですか……わかりました。ありがとうございました。少し楽な気分になれました」

「うん。それなら良かった……うーん、俺からも一つだけいいかい? 」

「はい? ええまあ、いつも相談に乗ってもらっているわけですし。たまには話を聞く側になりますよ」

 

 先生は残ったコーヒーを全て口に流し込んでから、話を切り出した。

 

「じゃあ、質問だ。なんで先生って呼ぶんだい? 先にも言った通り、俺は別にそこまで高尚な人間じゃない。君が勝手に尊敬してるってんなら、されてる側としては気分もいいし別に構わない。ただ、理由には興味があるな」

「え? それは・・・」

 

 それは……、それは・・・、それは。

 

「色々な話を知っているし、私にたくさんの知識や知恵を教えてくれているから……だと思います」

「なるほど、ありがとう。でもそれは君の理解力があってこそ、成り立つ関係だ。君と話していると俺も楽しい」

 

 ああ、そうか。そうだった。そうだったんだ。私が最初になんでそんなこと(じぶんがだれなのかわからない)を考えたのか。私はココアにテーブルの上にある角砂糖を二、三入れて軽く揺すってから全て口に流し込んだ。今度は逆に甘すぎるほどだ。

 そう、なんでも良かったんだ。ただ、この人と話すきっかけが欲しかっただけなのだ。そして今、自分が何者で、何を成して、何をして、何のために生きて行くのか。それも少しわかった気がする。

 私は、悩みのタネが多い青春時代を生きる若者で、これから成すべきことを模索しつつ、それを実現するために多くを学んで、人生を楽しくするために生きて行くのだ。

 

「先生。ありがとうございます」

「ん? ああ、こちらこそ。君の悩みが晴れなかったのは心残りではあるが、君との話はいつでも歓迎するよ」

「いいえ、悩みについてはもう大丈夫です。ちゃんと答えは出ましたから、ねえせんせ」

「そうかい? それならいいけれど……ん? 何だい? 」

「これからは、悩みとか関係なしにお話しに来てもいいですか? 」

 

 先生はほんの少し、寂しそうな目をしながら笑ってこう言ってくれた。

 

「いつでもいらっしゃい。その時を楽しみにしているよ」




 はい。お疲れ様でございます。
 実は今回の話、私の実体験に基づいていたりします。

 自分を見失うと言うのは存外辛いものでございます。
 私の場合、この主人公のようにこんなに早くに答えを導き出せませんでした、約一年間は悩みました。(まあ、そうはいっても私も随分早い方だとは思いますが)
 自分が大嫌いで自分を憎んでしまうような黒歴史です。
 そしてやはり、自分を取り戻すと言うか自分自身を受け入れることができたのは他愛のない会話の後でした。
 人のコミュニケーション、話し合いはとても大切なものです。誰とでも良いので、会話してください。そうすることで、自分が何者なのかと言う疑問はそもそも起こりません。会話することで自分の立ち位置や存在を無意識に認識できるのです。

と言うのが私の持論です。学説やら何やらなどの根拠は一切ありません。ご了承ください。
でも、会話は本当に大切だと私は思います。世間話でもいいです。俗な話でもいいです。
相手がいないなら、私がツイッターで話聞きましょう。


次回のテーマは、失敗です。

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