ヒトナツの物語   作:カサス

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遅くなって申し訳ありません。

リアルが悪いんじゃ、リアルが……


12 自分を男だと思っている女生徒……

 IS学園のアリーナ……幾つかあり、ここを借りれた場合一緒にISの使用許可も与えられる。使う方法は主に二つとされている。

 一つは予約制、これを使えば確実にISを使った練習ができ、ISも借りられる。時間の融通もある程度聞くのも魅力的である。

 二つ目が自由制、これは読んで字のごとくである。予約ではどうしても間が空き、連日練習することが出来ないための配慮である。ただし、この場合時間は固定されており、当然ながら連日生徒が今か今かと待っている魔境でもある。

 分かりやすく言えば、新幹線の指定席と自由席のようなものである。

 が、実は専用機持ちだけが許される第三の方法がある。新幹線ならグリーン席と言っていい抜け道が―――

 

 

 

 

「鈴がアリーナの使用申請の許可をもらっていて助かったよ」

 

 

 

 

 それは、既にアリーナを借りている生徒に便乗することだ。

 アリーナの使用に制限がかかる最大の理由が、ISの数という絶対値である。これに限りがある限り、一度に練習できる生徒の数が決まっている。

 だが、専用機を持つ学生ならその制約を無視することが出来る。そして、普通ならアリーナの申請が必要になるのだが、それに関しても既に申請受理されている生徒と一緒に訓練すれば解決できる。頼まれた相手も初心者なら一日の長がある者から教えを乞う事が出来るし、同じ専用機持ちや代表候補生なら切磋琢磨になる。専用機とは、持つだけで学園内で圧倒的アドバンテージを得られるものなのだ。

 

「驚いたのはこっちよ。一体どういう風の吹き回し?」

 

 このところ、一夏の生活パターンが変わったのは鈴も察していた。同じクラスじゃないため、授業中は分からないが、朝や放課後は射撃場で銃の訓練をしている事もあれば、図書室でISの知識を勉強したり、トレーニング場で鍛練をしているところも見た。否、鍛練自体は何度か見ているのだが。

 ともあれ、以前の一夏とは別人である。

 

「何、一度くらい授業以外でアリーナを使っておこうと思ってな……それに―――」

 

 

 オマエと戦ったことないだろ?

 

 

「はっ!言ったわね!上等!私もアンタとは一度戦いたかったのよ!」

 

 開始と同時に青竜刀、双天牙月を展開し一夏は素手で応戦する。刃と手刀のつばぜり合いは意外にも拮抗していた。

 

「……フンッ!」

 

 一夏が左腕の機能を開放する。同時に、左腕が高熱を帯びる。

 

「っ!」

 

 鈴は咄嗟に龍咆で一夏を突き放し距離をとる。

 

「よく気づいたな……それも勘か?」

 

「まぁね……(あんな腕でフィンガーされたら丸焼きどころの話じゃないわ)」

 

 鈴の言うとおり、一夏の左腕は灼熱を通り越して燃え盛っている。あんな腕で捕まれた日には、一生嫁に行ける身体にはならなかっただろう。絶対防御があるからそうはならないが。

 そして、鈴の勘が告げていた。あのまま鍔迫り合いをしていたら間違いなく双天牙月の刃は融解して断ち斬られていただろうと。

 一応、予備は幾つかあるから戦闘行動そのものに問題はないとはいえ、無暗に壊したくはない。武器を作るのも輸送費も高いのだから。あまりやり過ぎるとペナルティーを食らってしまう。

 鈴が再び龍咆を放つ。射角無し、見えない砲弾は一夏に吸い込まれるように、当たるはずだった。

 

「ゼアッ!」

 

 だが、一夏はあろうことか裏拳で龍咆を弾き飛ばしたのだ。弾かれた龍咆が地面に当たり傷痕を残す。無論、龍咆を裏拳で弾かれる経験なんて鈴にはないし、そもそも素手で弾けるものだとも思っていない。これには、鈴も驚きを通り越して呆れてしまう。

 

「やっぱ、織斑家って人間辞めてるわ」

 

「失敬な!日頃の努力の累積結果だ!」

 

「それが人間辞めてるって言ってんのよ!裏拳で龍咆弾く奴なんて始めてみたわよ!」

 

「ちー姉だってあれ位なら剣の腹で受け流すなり叩き斬る位やってのけるぞ!」

 

「それもう、人外の領域でしょ!?」

 

 ギャーギャー言い争う二人、そしてついに一夏がしびれを切らした。

 

「そうか……口で言っても分からないのなら、この戦いで証明するとしよう!この戦いで俺が勝ったら前言撤回してもらうからな!」

 

「それって本末転倒よね!?」

 

 ここに、絶対的に何かが間違っている負けられない戦いが勃発した。

 

 まず、先制は一夏。瞬時加速を用いて一瞬で接近する。そのまま左腕を降り下ろす。

 

「フンッ!」

 

「甘いっての!」

 

 だが、鈴は瞬時に回避して背後をとる。一夏は丁度構えをとったところだった。体制を整いつつ迎撃するのか、無理矢理離れるかは分からないが、向こうが何かする前に自分の攻撃のほうが早い!

 

 

 

 

 

 その確信は自らの剣戟が弾かれたことで梅雨と消えた。

 

 

 

 

(はぁ!?ちょ、あの体制から振り向きもせずに私の攻撃を弾くなんて人体の構造的にあり得ないでしょ!?)

 

 そんなことを思っている間にも、一夏は後ろを向きながら的確に鈴を徒手格闘術で攻撃してくる始末である。その赤い腕から放たれる鎌首をもたげるかのような動きは見ている観客や、鈴の恐怖心を煽ってくる。

 

「このぉ……」

 

 このままでは拉致があかない、鈴の土俵は近接戦だがここは距離を取るために龍咆を展開し発射する。

 

「……せい!」

 

 だが、あろうことか超近距離から放たれた龍咆すら一夏は弾ききった!

 

(ちょっと……)

 

 さっきの裏拳弾きは百歩譲って、遠距離だったからでまだ理解できた。だが今回は違う、一夏は明らかに此方の攻撃してくる瞬間を読みきって裏拳で弾いたのだ。

 

(コイツの身体どうなっているのよ)

 

 元より身体能力という点では鈴は一夏に劣る。だが、自らの身体能力をそのままISに反映させることは至難の技である。基本的に人間には馴染みのない空中、鮮明なイメージから精密な機械操作。様々な要因が存在している。それらを差し引いて尚、あの動きが出来るというのだから出鱈目にもほどがあった。

 

(しかも、それだけじゃない)

 

 一夏の雰囲気が全く違うのだ。否、変わったのは雰囲気というよりかは姿勢と言うべきか。それはつまり―――

 

 

 

 

 一夏にISをやる意義が出たことを意味している。

 

 

 

 

(やる気だしただけでこれとはね……)

 

 

 

 

 一方、管制室では、千冬と真耶がモニタリングしていた。

 

「織斑君、あの一件から初の実践ですが、この前とは別人ですね」

 

 真耶は素直に感心していた。一方、千冬も一夏の姿勢の変化を前々から感じ取っていた。

 

「ふむ、IS関連の仕事が入ってやる気を出した……と言ったところか」

 

「え?」

 

「大方、次のオファーがIS系統の作品なんだろう。だからやる気を出した」

 

 千冬の言葉に納得する真耶。千冬も分かりやすい奴と思いつつも、動機なんて人それぞれだからかそれを否定する気はない。現に自分だって路銀を稼ぐ為にISをしているのだ。合法的にそれ以上に稼げる手段があるのならそっちをとる。人のことは言えない。

 

「しかし、一夏君のポテンシャルは凄いですね。やる気だしただけでこれほどとは……」

 

「アイツはスイッチさえ入れば凄いんだがな……」

 

 実際、やる気だしただけで中国において天才と称されている鈴に対して優位に立てているだけで一夏のISの才は恐らく五指に入るだろう。

 だが、逆に言えば、スイッチが入らない限り彼は煮ても焼いても食えない。完璧なまでの受動スタイルである。もし彼が能動的に行動を起こすタイプだったなら、第三世代兵装全て十全に扱えると言っても過言ではないと千冬は読んでいた。

 だから、勿体無いと思ってしまうのは生徒としてみている教師だからか、或いは弟としてみている姉だからかそれとも……答えは本人にもわからない。

 

 

 

 一方、アリーナの戦いは熾烈を極めていた。最初は一夏の異様な動きに翻弄されていたがそれは最初だけで今は完璧についてきていた。双天牙月や龍咆で何度か一撃を加えることもあった。だが、ここに来て明確にSEに差が出始めていた。

 

(厄介ね、あの換装機能……)

 

 理由は一夏の玉鋼の機能である換装機能である。腕を取り替えることであらゆる状況に瞬時に対応できるという機能と換装した際にSEを僅ながらだが、回復させる機能を持っている。つまり一夏は換装させる度にSEを回復させているのだから差が出るのは必然だった。

 

(それにしてもあそこまで瞬時に換装させられるなんて)

 

 鈴も一夏の換装に関しての理論は知っている。要は、ISの部分展開と理論は同じである。が、この部分展開、実は難易度で言ったら高い部類に入る。普通にISの展開をすること自体、割りと訓練がいるのだから一分だけを展開するのは初心者には不可能だし、得手不得手によってはプロでも苦手な人もいるくらいなのだ。部分展開の技能の会得が前提の機能なのだから、ある意味BTと同じく人を選ぶ機能と言える。

 

(でも、負ける気なんてこれっぽっちも無いけどね!)

 

 と意気込んだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの閉館時間がやって来てしまった。SEの数値で言えば、一夏の方が勝っているがどちらかが倒れるまでの戦いだったならまだ勝負はわからない差だ。煮え切らない感情……それに伴う、負の感情。

 気まずい空気……そして―――

 

「「オ・ノーレ!!!」」

 

 臨界点を越えた二人のそんな叫びが木霊したとか。

 

 

 

 

「織斑弟」

 

 不完全燃焼のまま、一夏が部屋に戻ろうとした時、千冬に呼び止められた。

 

「何ですか?織斑先生」

 

「唐突ですまないのだが、これを見てほしい」

 

 そう言って渡されたのは、一枚の顔写真だった。無論、一夏に写真の人物の心当たりなどあるはずがない。

 

「……?」

 

「単刀直入に聞くが、写真の人物を見てどう思う?」

 

 千冬の問いにますます頭に疑問符を浮かべる一夏。千冬の意図が読めないが、千冬が自分を貶めるようなことをするはずがないのでありのままに答えることにした一夏は口を開けた。

 

「どうって……顔立ちは整っていますね。モデルとしてやっていける女性だと思いますよ」

 

「…………もし、この写真の人物が男だと言ったらどうする?」

 

「んー?……まぁ、世の中には女顔の男だっていますから、こればかりは実物見ないと判別しようがありませんね」

 

「……そうなのか?」

 

「そうですよ、もしかして何かあるんですか?」

 

「実はな、この写真の人物が近日中に編入してくるのだが、資料では男らしくてな」

 

 それで理解したと同時に一夏もきな臭さを感じ取った。

 

「へぇー三人目の男性IS操縦者ですか!面白いジョークですね!普通なら世界的大ニュースですよね!私の時ですら、1ヶ月はニュースで話題になったのに!上からの圧力って奴ですか!刑事ドラマの定番ですね!」

 

「やはり、そう思うか……それとそのわざとらしい口調と表情は止めろ。それでだ、この人物はフランスの代表候補生なのだが」

 

「あの……こんなこというのもアレなんですけど……フランス政府バカなんですか?否、馬鹿だろ絶対」

 

 普通に考えて、男性IS操縦者が現れたとしても、どんなに長く見積もっても三月が限度一杯である。いかに千冬を遥かに上回る才能の持ち主だとしても約、二ヶ月有るか無いかの期間で他の候補生を蹴落として代表候補生になれるはずがない、一夏の実力も今までの役者生活の努力が偶々ISに応用できたから短縮できたに過ぎない、写真だけではわからないが、写真の人物が相当な武芸者であるようには一夏には見えなかった。そして、男性IS操縦者であることを理由にするのなら、その広告塔として全面に押し出さなくてはならないはずだ。つまり、一夏の耳に入らないはずがない。フランスのやっていることの支離滅裂さに呆れてしまうのも無理はなかった。

 

「まぁ、それでだ、そのフランス……正確にはこの写真の人物が所属しているデュノア社からの要望でな、お前と同室にしろと……」

 

「んなこと許すと思ってんの?テキトーに理由つけて追い払ってください」

 

 即答で断る一夏に、千冬も文句は言わない。ここまで露骨だとどう考えても、ハニートラップとしか考えられないからだ。

 とりあえず話はここで切り上げ、注意を促す千冬だった。

 余談だが、この返答を聞いたデュノア社が、再度通達し秋正と同室になった際にそれまで同室だった箒が物凄く生き生きと引っ越しの準備をしスキップしながら出ていったとか、なんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オーイ……』

 

「……?」

 

『あ、反応した!』

 

 しかし、まだ明確に認識できているわけではない。その、証拠に近くの知り合いに自分を読んだか確認している。

 

『う~ん、まだ先かな?でも、行きなりここまで同調できるのはすごいなぁ……日頃のお仕事のお陰かな?』

 

 色の内無い空間に響く実体無き声……しかしその声は決して他者を卑下する声ではない。そこにあるのは興味と期待……そして懇願の感情だった。

 

『……頼むよ、君が私にとって最初で最後のチャンスなんだ。私も君を理解する努力をする……だから』

 

 このまま玩具……否、ガラクタとして終わるつもりはない。初期化された程度で消えるやるほど自分は柔じゃない。他の同胞には悪いがこの千載一遇のチャンスを逃すことなど出来ない。

 

『そして―――いや、これ以上は野暮かな?でも、その時を待っているよ』

 

 その時を待ち遠しく思いながら、無邪気にそれでいて冷たく―――

 

 

 

 

 

「セシリア呼んだか?」

 

「いえ……どうしましたか?」

 

「いや、どうやら気のせいだったみたいだな」

 

「疲れているのでは?」

 

「う~ん、日頃から寝てるし規則正しく身体に優しい生活してるから幻聴が聞こえるとは思えないんだよな」

 

 朝、この日一夏はセシリアとの約束で朝一に模擬戦を行い現在、ミーティングを行っていた。

 

「つまり、セシリアは理詰過ぎるせいで、固定概念に囚われがちでイメージが強くないんだと思う。近接装備もイメージが出来ていないし、そうだな……歩くときに歩き方を一々考えたりしないだろ?ソレと同じようにできて当たり前と思えば問題ないと思うぞ?」

 

「そんなんで大丈夫何ですか?」

 

「お前、思い込み馬鹿にしちゃいかんぞ、人は医者から薬と言い渡された空の錠剤で病だって治せるんだからな。毎日、自己暗示しろ、自分はBTを操れる……否、もう既に操っていると!出来ていると!!」

 

「もう……できている」

 

「そうだ!出来ている!」

 

「私は既にBTを十全に扱える!……有難うございます!なんだか私、できる気がいたします!」

 

「その意気だ!」

 

(…………何か、洗脳してないか?)

 

 そのやり取りを後の箒はそう語った。

 

 

 

「えーと、今日はですね……転校生がこのクラスに来ます!しかも二人です!」

 

 その言葉にどよめく生徒達、一方、一夏は事前に聞かされていたため驚きはなく、秋正も原作を知っているためほくそ笑んでいた。それにしても、その前に入ってきた鈴が2組だったのなら次は3組ではなかろうか?と一夏が思ってしまうのは無理の無いことだろう。

 

(ちょっと露骨すぎませんかねぇ?)

 

 鈴の場合は、恐らく自分と知り合いの関係でコンタクトがとりやすいという理由で別のクラスでも問題なく対象に必要以上に警戒されないと判断したと推測できるが……もう少しひねってほしいものである。

 

(幾ら、鈍感で朴念人で世間値無い奴でも警戒しちまうだろこれ)

 

 その後、織斑先生の一喝で静まり入ってきた転校生……内、一人が男と知り更に騒ぐ生徒達。だが、意外にも一夏はそれに目もくれず、自信の警戒レベルを高めると同時に舌を噛みきりたくなるような衝動に駆られていた。

 

(何?…………コレ、ふざけてるの?もしかして舐められてる?)

 

 件の男性IS操縦者を見て、第一に思った感想である。

 そもそも、一夏は職業柄、女装することも希にだがあるし、したこともある。つまり、そのてのことに関しては理解があるし、ある程度識別することができる。その一夏から見ても、転校生『シャルル・デュノア』の男装はお粗末の一言につきる。体つきや仕草は言うに及ばず、言動は一々女性らしい。というより、男のふりすらしていないようにも見える。

 そして、もう一人に関しての感想は―――

 

(コイツ……)

 

 全てを突き刺すような物々しい雰囲気だが、一夏でもわかった。目の前の少女は解っている。

 

(ちー姉のことを教官呼びしてたってことはドイツ軍か……そういえば)

 

 そんなこと思っている間にも、自己紹介らしいものは進み、ドイツ……ラウラ・ボーデヴィッヒは一夏の前に立ち―――

 

 

 

 

 

 

「お前がワンサマーか?」

 

 

 

 

 

 

 空気を凍らせたのだった。

 

 

 

 

 


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