「さて、織斑弟。お前の席は窓側の一番奥だ。」
「わかりました」
一夏が座ると女子が一斉に手をあげた。
「先生!一夏君を代表に推薦します」
その声に私も私も!と続いていく声。今なら推薦率99%は行くかもしれない。
が、当然それに納得できないものもいた。先程のセシリアである。
「だからそのような男だから、珍しいからという理由で……」
担任の千冬と副担任の山田真耶が再びデジャヴを感じ始めたときだった。
「あー、一つ良いか?」
「何ですの!?人の話を遮って……」
「それを言うのなら、先ずこれがいったいどういう状況なのか教えてほしい。何せ今来たばかりで、いきなり推薦されても話が見えてこない。それとも、これは何かの授業の一環なのかな?」
「あ……」
確かに言われてみれば一夏の言うとおりである。席について、授業のために教科書とノートとシャーペンを取り出そうとしたらいきなり推薦されたのだ。一夏からしたら訳が分からない状況だろう。
「今ね~、クラス代表決めているんだよ~」
一夏に教えてくれたのは、明らかに裾のサイズがあっていない制服を着たゆるふわな雰囲気を持つ少女だった。
「クラス代表?」
「うん、まぁ~簡単に言うとクラスの代表だね~」
「簡単所かそのままだな、オイ」
「えへへ~あ、私は布仏本音って言うんだ~よろしく」
「俺の名は織斑一夏。年齢は15歳。彼女いない歴……」
「いや、それさっきも言いましたよね!?また死人を増やすつもりですか!?」
山田先生のツッコミに笑いが漏れる。
そんな緩い雰囲気に、先程戻りかけた剣呑な雰囲気が霧散していた。
「しかし、クラス代表か……拒否権がないというのであれば致し方ないが……とても正気の沙汰なとは思えないな」
「ほう、なぜそう思う?織斑弟、言ってみろ」
「何故も何も……そもそも、俺は、中学卒業後、高校に進学しないでそのまま仕事に専念するつもりでしたから……学園との交渉で仕事を優先しても良いと言われていますし……だから、クラス代表など録に務まりませんよ。事実、暫くの間スケジュールが詰まりに詰まっていますし。第一……」
一夏は一呼吸おき、不快げに言った。
「とても、これからISで飯を食っていこうとする者の行動ではないな。断言するが、この学園で『IS』において俺ほどモチベーションが低くまた、熱意の無い人間は先ずいないと言っていい」
「なぁ!?」
その言葉に彼の事情を知る先生を除くクラスの全員が驚く。当然だここはISを学ぶためのところなのだ。それをいきなり全否定してくる生徒がいるなど考えられない。
「だってそうだろう? さっきも言ったが俺は最初から役者として本格的に活動しようとしていた。にもかかわらずどこかの身内が、自分の進路を決める試験会場で迷って興味本意でIS触って起動したとかいう、アホ臭い理由でISを動かしたせいで、俺は全く無駄とは言わないがそれでも望まぬ高校生活を強いられるようになった……。そら、これでどうやってやる気を出せと?この際だからもっと言わせてもらうけどさ、教員達はIS乗りで、そこで立っている奴は一時的なのかどうかは細かいことは知らないけど専用機を授与されるってことは、国にそれだけの腕と教養、品格を認められたという証明でもある……そんな代表候補生。職種違うけど俺も幾つも仕事のオファーが来る芸能人なんだよ……この意味わかるか?」
一夏の問いかけに頭に?を浮かべるセシリアを除く生徒達。その様子を見て一夏は心の中でため息が千冬は心の中で歯軋りをセシリアは貴族或いは淑女として矜持からか何とか心の中で舌打ちするに留まった。
一旦区切って織斑先生をみる一夏と、アイコンタクトでそれを理解し千冬は口を開けた。
「構わん、このアホどもにいってやれ」
「じゃあ遠慮なく……プロなんだよ、俺達。だから、『それ』に対して、浮かれた気分や遊びで事に挑む気は更々無いんだよ……舞台を見る『観客』なら舞台に出た人に黄色い声援送るのも憧れるのもネットでネタにするのも勝手だし別に構わない。たけどさ、舞台の上に立つ『役者』がそれは論外だ。だって、『役者』は客を喜ばすのが仕事であって憧れるのが仕事じゃないんだよ。そもそもそれで飯食っていくのに、真面目に取り組まないとかそんなのプロじゃない。……で、さっきからのお前らを見てて俺はどうしてもこれからISで飯食っていく者に見えない。ISの数に限りがあるのは有名なことだ。つまり、そこに座れる席は少ない……いや、そこにいるイギリスの代表候補生なんかお前達と同い年なのに、すでに数少ない席の一つを獲得している。まだいるぞ? 四組は、ISの総本山と言っていい日本の代表候補生だし、二年生では、アメリカやギリシャの代表候補生。何よりも生徒会長はロシアの国家代表になっている。たった一つ歳が違うだけなのにな? 他にも、知っているだけなら中国、フランス、ドイツ、台湾、タイ、オランダ、ブラジル、カナダ……特にカナダなんか中学生になりたての女の子だ。ネットでちょっと調べればこんなに同年代なのに席獲得して先いっている奴等が多いのに……よく、ブリュンヒルデ見てキャーキャーピーピー喚いてる余裕があるな? ただでさえ出遅れているというのに、蹴落とされるぞ?マジで…………」
彼のいっていることにだんだん青ざめていく女子達。対称的に、教師陣やセシリアや布仏は無言で肯定していた。
秋正が顔を青くしていく女子を見て止めようとしたが、その重苦しい雰囲気に呑まれて結局なにも言えなかった。
「俺やそこの奴みたいな『希少性』持っているなら別にいいが……そうじゃないなら、この場面は普通率先して自薦するべきだと思うんだが? 百歩譲って、クラス対抗戦に勝つためにそこの代表候補生に譲るというならまだ筋が通るがな。俺からしたら、この状況での他薦なんて言ってしまえば『私は○○に対して実力ともに劣っていますのでクラス代表になれる権利を○○に譲って辞退します』と発言しているようなものだぞ? それ以外で、俺達の推薦になにか納得できる理由があるなら言ってくれ……これからISに人生かける輩がまさか『男だから』とか『珍しいから』何て理由で他薦したわけじゃあるまい。そんなのは、ISに人生捧げているやつへの侮辱だ……と、いかんな、つい説教臭くなったが言いたいことは言えたし少しはストレスも解消できたなっ!」
話はここで終わり!と言わんばかりに朗らかな笑顔で切り上げる一夏。だか、その笑顔に反応する女子はいない。何故なら彼が今言ったことは、何れも彼女達が直面している事実であり現実なのだ。代表候補生が同い年という時点で自分達はすでに出遅れている。そこから追い付き、更には追い抜くには生半可な努力じゃ足りないのだ。ならば、目の前の機会をミスミス逃していいはずがない。
「織斑先生、私やっぱり…」
「駄目だ、私は確かに自他推薦問わないと言ったし、したものされたものに拒否権は無いと言った……だが、他薦した者もその発言を撤回することは許さん。ISは玩具じゃない、その気になればミサイル2000発を落とせる兵器としての側面もある。お前達はこれからそんなものを扱うんだ、自分の発言には責任をもて。まぁ、安心しろ、この三年間……いや、一年でその事を嫌というほど教えてやる」
その言葉にそんな~という声と共にうなだれる生徒達。だが、一夏からしたら、単にこれは彼女達の自業自得であるとしか言いようにない。機会が巡ってきたら、得られるかどうかは兎も角、得ようとするのはどこでも一緒なのだ。
「ともあれ、候補者は三人か……織斑弟、空いてる日にちはあるか?」
「十日後は丸々空いているな」
「よし、ならば十日後に試合を行い勝利数が多い者から受けるか受けないか決めることにする。では、授業を開始する」
授業終了後、一夏は校舎の外のグラウンドにいた。何せ教室内だとクラスメイトはさっきの一件で鳴りを潜めたが、他のクラスの女子がやって来てサインしてくれだの握手してくれだの煩いのだ。なので、適当に理由をつけて教室を出ていたのだ。
「ちょっとよろしいかしら?」
「おや、イギリスの代表候補生じゃないか」
「セシリア・オルコットですわ。それにしても、一人目の貴方のお兄さんとは随分違いますわね」
「その様子だと何かひと悶着起こしたな?」
「ええ、まぁあまりの無知ぷりに少し……」
ことのあらましを聞いたが、一夏は特に興味は出てこない。昔は兄とは水と油の関係だったが今はそれを通り越して無関心なのだ。少なくとも一夏はそう思っている。
「ふーん……」
一方のセシリアは一夏の雰囲気に不思議なものを感じていた。
(何というか……雲みたいな方ですわね。つかみどころがないというか……でも、先程の彼はまるで織斑先生のようでしたわ)
「それで何のようかな?」
「あ、いえ、ただご挨拶に。貴方とはなか良くできそうな気がしましたので……私、芸能関係は専門外ですが」
「それは俺もそうだが? 何せISに関わるとは微塵も思ってなかったからな。おまけに機密保持の理由で職場に参考書は持っていけないときた。だから殆ど予習なんてしなかったからな!」
「そこ、自信満々にいうところですか?」
「言うんだよ」
その後、授業はつつがなく終了した。
放課後、山田先生から寮での簡易的なルールを説明され軽く今日学んだ事を復習した後、自分のあてがわれた寮に向かおうとした。
「ちょっといいか?」
「ん?」
振り向くと、立っていたのは髪をポニーテールにした黒髪の美少女だった。確か、同じクラスの子であると一夏は記憶していた。
「……誰?」
「んな!?」
一夏の反応にあり得ないという、表情をする少女。
「(この反応からして一度あったことがあるな……はて、誰か……)もしかして、ファンの子?」
「ち、違う! いや違くはないが、そうじゃない!」
「(と、すると同級生か……中学にはいなかったから小学生時代の同級生となると……)ふむ、小学生時代の同級生候補としては初音、暁美、巴、高町、八神、西園寺、八雲、霧雨、東風谷、博麗、十六夜、三坂、白井、初春、佐天、結月、神尾、篠ノ之……」
「それだ!」
「何だ、篠ノ之か」
「何だとは何だ! 幼馴染みにその言いぐさ……というより完璧に忘れていただろう!」
「だってお前、学校で俺に絡むことなかったじゃん。いつも兄貴についていたし、寧ろ兄貴の方が幼馴染みだと俺思うぞ? そりゃ印象薄いって」
その言葉に急にどもる篠ノ之箒。
「いや、あれは……お前の兄がしつこくてな……お前に会おうとする度に妨害とかお前に対しての悪口を言われてな……正直ストーカーされてたんじゃないかと今にしては思うくらいにタイミングがよくてな……というか、さっきまでつけられてたような気がする」
ハイライトの失った目で虚空を見つめる箒の姿に、一夏は何故かあの日、預金通帳を見た日の千冬の姿を思い出した。恐らく兄に付きまとわれたせいで録に友達を作れずボッチになったのだろうと容易に想像できた。
「あー、何だ、その……御愁傷様?」
「何故そこで疑問符をつける……はぁ、まぁいい……それよりもお前、勝算あるのか?」
「……それは、オルコットのこと?それとも兄貴のことか?」
「両方だ!」
「前者については、経験値の違いで勝ち目ゼロ、後者については……まぁ何とかなるでしょ」
「そこは、男らしく全員なぎ倒すとか言わんのか!? お前が主演のマスクドライダーみたいに」
「言わないよ、客観的に見てオルコットと俺とじゃISにおけるステータスは天と地ほどの差がある。これを十日で埋めるのは時間的にも不可能だ。昨日竹刀持ったやつに剣道でお前に勝てると思うか?」
そう言われると、なにも言えなくなる箒。ならどうするんだと聞くととんでもない答えが帰ってきた。
「先ず、オルコットの専用機を調べる」
「それで?」
「対策する」
「後は?」
「以上」
「はぁ?! ちょ、おま……代表候補生相手にいくらなんでもそれは……」
「だって、十日までの間、スケジュールギッチギチだからな。ぶっちゃけ対策も当日調べるし、ほら」
そう言って軽くスケジュール張を見せる一夏。見ると放課後はビッチリと予定しかはいっていない。これでは練習なんてとても出来ない。
「そうか、それは災難だな」
そう言う箒の顔は何処と無く楽しそうにはにかんでいた。
(そんなに俺と会話するのが楽しいのか?……楽しいんだろうなぁ)
何せ数少ない知り合いである。彼女の経歴を考えると録に友達など作れなかったのだろう。
(まぁいいか、できるだけ付き合ってやるか)
何だかんだで付き合いはいい一夏であった。
思うんですが、この時点でセシリアや簪という専用機持ちが同年代でいてて、仕方なしに入った、箒や家柄的に問題ない本音以外の他の生徒は危機感抱かないんですかね?習い事でも早いほうが有利ですし。原作見ると、とてもこれからISの未来を担う者達とは思えない。
因みにここの一夏は全くやる気ありません。ぶっちゃけ退学になってもいいやとか考えています。