20■■年。 アイドルブームの再来。人々は皆、アイドルに熱狂していた。アイドル達の競争が激しくなる中、ファン同士の争いも激しく、歯止めの効かないものとなっていった。ネット上での口論から始まりフェスでの暴動、中にはアイドルの命を狙った犯行まで。自分達の『信仰』するアイドルをトップアイドルとするための、ファン達の暴走は止まることはなかった。アイドルブームが引き起こしたのはそれだけではない。それは政府の変化である。アイドルブームにより大量の資金を得た各プロダクションの重役達は、その資金力をもって政治に参加。「
〜side ●●〜
「…いやだ…。アイドルができなくなるなんて…。絶対にいやだ…。」
少女は1人、暗い部屋の中で呟く。楽しかったみんなとのレッスン。熱気に包まれたライブ。そして、1年に1度決まるトップアイドルの称号。「シンデレラガール」に選ばれたこと。 思い出し、涙する。確かにファンの行動に危機感を覚えたことはあったが、それ以上に幸せだった。しかし今は「アイドル禁止法」により無職である。 ファン達から彼女の身を守るため、プロデューサーが用意した隠れ家に1人で住んでいる。
「こんなのいやだ…。なんでこんな目に合わないといけないの…!」
悲痛な声をあげる。その時、
「いたぞ!」
男の声が響いてきた。足音達が近づいてくる。
「ッ!?」
彼女もファンを愛してはいるがどれほど危険なものかは既に体験している。自分のファンでも、他のアイドルのファンであっても結果として彼女を苦しめてきた。そんな過激な連中が、しかも「アイドル禁止法」によりいわばエサを与えられなかったライオンのような状態の彼らが彼女に何をしようとするのか。彼女はただ怯えるしかなかった。
「ここにいたんだね●●ちゃん!」
男の人が近づいてくる。後ろには5人ほど他の人もいる。
「近づかないでッ」
少女は叫ぶ。が、その声は弱々しく震えている。
「いやだなあ。酷いじゃないかファンに向かって。僕たちはただ君のライブを見たいだけなんだよ。だからさ。」
男は引き攣った笑顔のままポケットからスタンガンを取り出す。
「僕たちのモノになってよ」
少女は絶叫する。いやだ。私は。他のアイドルのみんなと、プロデューサーと一緒にいたい。こんなやつらに。こんなやつらに。私の幸せを。奪われたのか。こいつらが他のアイドルを危ない目に合わせたのか。今度は私を監禁する気なのか。いやだいやだいやだいやだ。消えろ消えろ消えろ消えろ。
「消えろォォォォ!!」
あたりが光に包まれる。
光が収まった後、そこに残ったのは倒れたまま動かない少女の体ただ一つであった。
〜side 聖堂協会 監督者〜
「ついに来てしまったのね。この時が。」
クリーム色の長髪の女性が暗い面持ちで出発の準備をする。つい先程だ。日本で、あの聖杯が覚醒したとの報告をうけた。近々聖杯戦争が始まる。私はその聖杯戦争の事後処理、参加者の命の保護などを行わなければならない。私には責任があるのだ。当然だ。だから私はこの役に自ら立候補した。
「待っててね。」
そう言って彼女は日本へと旅立つ。
〜side 日本 監督者〜
日本に到着した彼女はまず覚醒した聖杯が確認された場所に向かいこれを保護。結界を張り隠匿。次に使い魔を放ち、聖杯に選ばれたもの。すなわちのちのマスターとなるもの達を探す。こんな魔術とは無縁にみえる街で聖杯戦争についての知識があるものなどほぼいないだろう。聖杯戦争について説明し参加してもらわなければならない。
「それに…。マスター達はこの聖杯が選ぶのだものね。」
まず聖杯戦争を知る者がマスターになることはない。
コーヒーを飲みながら待っていると、数時間後、使い魔の1匹が帰着。どうやら令呪が宿った者を見つけたらしい。
肩まで伸びたウェーブのかかった髪。白い肌。少しでも触れば崩れてしまいそうな気がする。女性である私から見ても、「美しい」の一言である。画像、動画では見るが、直に接するとやはりオーラがちがう。これがアイドルか。
その少女は怯えていた。無理もない。あんなことがあった後に意味不明な刻印が手に刻まれ、外套を羽織った正体不明の女が隠れ家に押しかけてきたのだ。私はやさしい声色で自己紹介をし、(もちろん偽名だが。)彼女と距離をとりつつ聖杯戦争について小1時間話した。彼女は最初の方は困惑していたが、最後の方になると私の目をみてしっかり聞いていたような気がする。
「つまり、このタトゥーみたいなのは令呪っていって、願いを叶えるための戦いの参加権ってこと?」
「ええ。その通りよ。」
「その聖杯戦争ってのに勝ったら、なんでも願いが叶うんだよね。」
私は頷く。
「…。例えば。また皆でアイドルしたい。とかでも?」
「ええ勿論。あなたの願いはなんでも叶えられるわ。」
彼女は数秒沈黙。そして答えを出した。
「わかった。聖杯戦争に参加する。私は、またみんなとアイドルしたい。」
「わかったわ。あなたを1人目のマスターとして正式に承認します。
4月4日になるまでに、この召喚法に則って英霊を召喚しなさい。」
そういって私は英霊召喚の方法について書かれた資料を彼女に手渡す。
「ありがと。そういえば自己紹介がまだだったね。私は北条加蓮。元アイドルだよ。」
知っている。彼女が北条加蓮であることなど。この前まで華やかなステージで舞っていた彼女が、次は戦場で殺しあうと思うと、少し心が痛む。
「(ダメよ。私は監督者。冷酷にこの聖杯戦争を見届け管理する。私は私の罪を贖いにきたのよ。)」
自分に言い聞かせる。監督者など向いていないことはわかっている。だが、これくらいのことはしなくては自らの罪は償えない。やらなくてはならないのだと。
「どうかした?」
彼女が問うてくる。
「い、いえ。なんでもないわ。私は普段は〇〇山の教会にいるわ。なにか分からないことがあったら聞きにきなさい。」
そう言い残して私は外へ出る。外にはまた使い魔が戻ってきている。
その後、2人目、3人目…。同じような説明をし同じような質問をされ、同じような参加表明が返ってくる。
「(皆の願いが同じなら戦う理由なんてあるのかしら。彼女達の願いは一致している。この聖杯戦争は成立するの?それに、あの聖杯が選んだ人達よ。願いが異なることなんてあるのかしら。)」
しかし。しかし。しかし。5人目の候補者の元に訪れた時のことである。
「私の願いはーーーーーーー。」
違った。予想は外れた。アイドルを再びやりたい。という願いをしない者もいた。これで1騎を残し他のサーヴァントを自害させ皆の願いが叶うというハッピーエンドは無くなったわけだ。そもそも、アイドルを再びやりたいという願いでも、ただ単純に元の生活に戻りたいという願うものと、トップアイドルになりたいという願うもの、言葉に表したとき、その願いは同じように見えても、思い描く理想というものは各々違うはずである。やはり争いは避けられないのか。私は悩み、考えながら使い魔の帰着を待った。
数日後
「これで7人。全員揃ったわね。」
4月2日。参加者が揃った。もうすでに何体かのサーヴァントは召喚されているようだ。もうじき戦闘が始まるだろう。私は。贖う。この聖杯戦争を引き起こした原因として。あの子を危険な目に合わせる罪人として。
彼女はコートを翻し、闇へと溶けていった。