「それでは八幡よ…本作戦の概要を説明するぞ」
「あーはいはい。それっぽい言い回しとかいいんで、手っ取り早くな」
「まあそう焦るでない」
わははと笑って俺の肩をバシバシと叩くのは、材木座義輝。
友達…というわけではないが、ではなぜ今俺の部屋にコイツがいるのかというと、今回俺が妹の小町に仕掛ける内容を考えた張本人だからだ。
本企画は、原作では描かれないであろうカップリングで、青春的ラブコメ的ラッキースケベ的ドッキリを仕掛けようというものである。
まあ俺としては、実の妹にそんなことをするのにあまり気乗りしないわけだが。
いくら謎企画といわれようとも、筆者の見えざる手によってそうさせられるのなら仕方が…ゲフンゲフン。
「で、俺は何をすればいいんだ」
「ふむ…その前に八幡よ、一つ質問があるのだが」
「あ?なんだよ」
「普段比企谷家では、妹君と八幡ではどちらが先に風呂に入る?」
「は?なんだそのキモい質問。変なやつだとは思っていたが、まさか自ら通報されたい欲があっただなんてさすがの俺も…」
「ちちちち違うぞ!あ、あくまで本作戦を円滑に遂行させるために必要な情報で…」
「あーあーわかったよ。基本的に小町が先だ」
コイツ、一体俺に何をさせる気なんだろうか。
初っぱなから平気でR指定に引っ掛かるようなことをさせてきそうだから恐ろしい。
「では、いくぞ」
「お、おう」
「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「うん」
「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「ん、んん…」
「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「…お前、正気か?」
「こ、これはあくまでドッキリであってだな…」
「まぁ、そう…だけどよ…、はぁ、わかったよ」
「い、いやぁ、我もこんなことをさせるのはさすがに気が引け…」
「あーもういいから、帰った帰った」
全国のお兄ちゃん諸君にはわかっていただけるだろうが、これから俺がすることには、なかなかに形容しがたい苦しさがある。
はあ、鬱だ。
「で、では八幡よ。健闘を祈ってるぞ!」
「はいはい…」
うるさいのも去ったことだし、早速仕掛けますかね。
◇
軽快なメロディがリビングに響き渡る。
さて、作戦開始だ。
「小町、風呂沸いたぞ」
「んー」
「あ、それとな」
「んー?」
「お兄ちゃんちょっと今から大事な用事があるから、用があったらノックしてくれ」
「ん。部屋にいるの?」
「おう」
「へー」
「何ニヤニヤしてんの?」
「んー?んふふ、別にー?」
「…言っとくけど、奉仕部の二人は関係ないからな」
「あれ、違うんだ。じゃあ何?」
「え、んんーと、さぁな…。…いいからほれ、とっとと風呂行け」
「え~怪しいな~」
ぶつくさ言いながらも風呂へ向かっていった。
俺の演技も捨てたものではなかったようで、曖昧な態度にまんまと食いついていた。
概ね良好である。
いや、俺的にはこの辺で失敗しちゃってもいいんだけどね。
「さて…」
浴室の扉が閉まる音を確認。
足音を立てないように脱衣所に潜入。
扉越しに小町のご機嫌そうな鼻歌が聞こえる。
すまんな、妹よ。
これも全て、筆者のゆがんだ性癖と材木座のせいなんだ。
妹の脱ぎ捨てた下着を両手に抱え、俺は二階の自室へと向かった。
おい、いま言い値で買うとか言ったやつ、俺が許さないからな。
◇
「ふぃー」
陽が落ちると少し冷えるこの季節は、一年の中でも特にお風呂が気持ちいい季節だと思う。
ポカポカに暖まった体を拭いて、パジャマを着ようと手を伸ばしたとき、違和感を覚えた。
何だろう、何かが足りない。
「あ」
そうか、下着だ。
お風呂に入る前に脱いで置いておいたはずだけど。
お兄ちゃんが洗濯機に入れたのかな?
「んー?」
洗濯機は空だ。
そもそも、下着以外の衣服は普通に置いてある。
なんで?気持ち悪い。
「…まぁー、いっか」
お風呂開いたし、とりあえずお兄ちゃんを呼びに行こう。
そういえばさっき、大事な用事があるって言ってたな。
結衣さんや雪乃さんじゃないなら、戸塚さんかな。
でも、だとしたらあんな風によそよそしくするんじゃなくて、もっとデレデレするはずだ。
階段を上ると、兄の部屋のドアが少し開いていた。
言われたとおりノックしようとしたが、はっとなって手を止めた。
中から苦しそうな声が聞こえる。
聞いたことがないような声だけど、確かに兄の声だ。
様子がおかしいので、ドアの隙間からそっと中を覗いた。
「…ぇ……」
兄の背中は、ベッドの上で激しく上下に揺れていた。
苦しそうな声に、かすかに漏れる吐息が聞こえる。
電気の点いていない暗い部屋で、兄の手に黄色い布が握られているのが見える。
「…ぁ」
兄は、堅く握ったそれを、愛おしそうに顔へ近づける。
そして、儚げな表情で吐息混じりに、けれどしっかりと、その名を口にする。
「はぁっ…小町……小町ッ…」
脱ぎ捨てた下着が兄の手にあり、その兄が妹の名前をささやきながら一人、行為に耽っている。
全国の妹諸君にはわかっていただけるだろうが、今の私の胸には、何色とも表現しがたい、じとっとした嫌な感情が渦巻いている。
裏切られたような、殴られたような、胸ぐらを捕まれたような、そんな気分だ。
もう、嫌だ。
立ち去ってしまおう。
振り返ろうとすると、自分でも気がついていなかったが、脚が震えていたようで、思い切り尻餅をついてしまった。
「あ……」
暗い部屋の中で兄は、静かにこちらを見て、ゆらりと立ち上がった。
◇
それっぽい表情で妹の下着を顔に近づけ、妹の名前を連呼しながら、思い切り握った拳を上下に振る。
階段から足音が聞こえたかと思えば、部屋の前でそれは途切れた。
絶句していることだろう。
超絶仲がいい兄妹間でも、こんな情けない、浅ましい兄の姿を目の当たりにすれば無理もない。
「…ぁ」
必死に押し殺していたであろう息の奥から、かすかな声が漏れるのが聞こえる。
すまんな、妹よ。
バランスを崩して倒れ込み、青ざめた表情で恐怖に戦く妹に追い打ちを掛けるようにして、ゆっくりと立ち上がって、一歩一歩踏みしめて歩み寄る。
普段の大きな態度とは打って変わって、今は小町が小さく見える。
小刻みに震えて、よほど兄が怖いのだろう。
俺のズボンがずれていないことにも、チャックがしまっていることにも気がついていない様子だ。
「…ぉ、ぉにぃ、ちゃ……」
ドアを開け、妹の前にしゃがみ、妹の下着を左手に携え、妹に目線を合わせる。
「ちがっ…ごめんなさ…」
瞳に涙をいっぱいに溜め込み、震える声で謝罪の言葉を漏らす。
何に対してだろうか。
張り詰めた表情を一転、安心させるように和らげて、バックポケットから右手で小さな旗を取り出して、広げて見せた。
「ぇ…」
「ドッキリ大成功だ。悪かったな、小町」
◇
恐怖からの解放か、安堵からか、ひとしきり涙を流した小町は、またいつもの笑顔に戻っていた。
「いやー、お兄ちゃんなら本当にやりかねないから洒落になんないよ~」
「おい、それどういう意味だよ」
「あははー。で、次は誰にやらせるの?」
「え、これ続けるのかよ…」
「小町は面白いと思うけどな-」
「いやお前泣いてたし」
「ま、まあー…ね。で、どうする!?」
「て言ってもなぁ、俺の周り怒ったら怖い人しかいないからなぁ」
「今日みたいに泣かせちゃうかもだしね」
「う…、悪かったって」
「んー、戸塚さんや中二さんとかならネタばらしすれば許してくれそうだけどなぁ」
「戸塚か……戸塚が俺に仕掛けるのもいいな。うん、むしろそれがいい」
「お兄ちゃん…愛の形は人それぞれだけど、小町はお兄ちゃんが心配だよ…」
「ま、まあドッキリを依頼しやすくて、挙動が面白そうなのは由比ヶ浜辺りだろうな」
「結衣さんのことをなんだと思ってるのか…」
と、いうわけで、次は由比ヶ浜に何かさせることになった。
内容とターゲットは、風呂に入った後にでも小町と話し合って決めるとしよう。
◇
「ところでお兄ちゃん」
「ん、どうした、小町」
「そろそろ小町の下着を返してくれないかな」
「あ、悪い」
文章を書くこと、というよりはこのサイトを利用するのが初めてなので、おかしな点があれば、お願いします。