彼女、高町なのはは幸せだ
幸福の中少年と共に過ごす
彼女、ティアナランスターは不幸だ
不幸の中少年との思い出と共に過ごす
少年は━━━
これは最後の物語
幸せと不幸に別れた彼女達の物語
そんな狭間に過ごす少年の最後の物語
閉ざされた 世界で語る 物語
病みつきなのは~終章~
街頭が街中を照らす中、2人の少女が逃げるように街並みを走る。
ドレスに身を包む少女達は、何かから逃げるように、目的もなく。
「ティア、待ってよ!!」
1人の少女が名前を呼ぶと、力強くその手をとる。
「離してよ、スバル!!」
ティアナは捕まれた手を振り解こうとするが、スバルの手は離されない。
少しして諦めたティアナは暗い音色で話し出す。
「何よスバル。パーティーに戻らないの?」
今日はパーティーの日だった。
機動六課に所属していた人達が集まる、ちょっとしたパーティー。
楽しいはずの集まり。
ティアナも始めは楽しんでいた。
……はじめだけだ。
ティアナの初恋の少年、彼がいたからだ。
声をかけようとしても、かけれなかった。
彼に話すと、危害が加わる。
高町なのは
彼女から少年に危害が加わる。
それは、嫌だ。
ティアナにはそれが我慢できない。
自分の大好きな、愛している少年が辛い思いをするのは嫌。
ただ、そう思うから━━━
ティアナは少年に近づかないようにしていた。
遠くからでも見守れていればいい。
自分が愛している少年を見ているだけでも、今は幸せだから━━━
そう、思っていた。
「……やっぱり、なのはさん達のこと?」
スバルはティアナの手を離し静かに聴く。
「……あの2人が付き合うこと?」
ティアナの肩は大きく震える。
そう、あの2人が付き合うことになった。
それは、2人が外に出て行き直ぐのことだった。
あの2人が今日、付き合うことになりました!!
かつての部隊長でありなのはの親友でもあるはやてはパーティーでそう告げた。
それは、なのはと仲のいい人達が祝福する話題。
それは、少年と仲のいい人達が祝福する話題。
それは、ティアナからしたら絶望を告げられた話題。
それを聴き、ティアナは何も考えられず逃げるようにパーティー会場から出た。
スバルはそんなティアナを追いかけ一緒に出て行ったのだ。
「……ねぇ、スバル」
ティアナは思い出す。
少年の事を、少年との思い出を。
「あの2人、お似合いだと思う?」
「……それは」
スバルは思わず黙ってしまう。
確かに、2人はお似合いだと思う。
人のいい少年と、厳しいけど皆のことをしっかりも考えて行動するなのは。
お似合いのカップルだと思う。
でも、それは外見だけだ。
スバルはティアナからなのはの話を少しだけ聞いていた。
なのはが少年にどんなことをしていたのか。
スバルからしたら、信じられない話だったがティアナはくだらない嘘をつくような人ではない。
だから、スバルはティアナの話を信じていた。
それでも、あの2人の関係を否定する事は慰めになり肯定するのは━━━
スバルがどう言うべきか考えていると、ティアナは呟く。
地をはうような低い声で━━━
「助けないと」
顔を伏せ、地面を見ながら━━━
「守らなきゃ」
口元に、うっすらと笑みを浮かべて━━━
「私が」
黒く沈んだ淀んだ瞳をして
「私しか出来ない」
スバルは普段と違うティアナの様子に口を閉じる。
何を言えばいいのか、わからないよ。
自分の親友を慰める言葉が落ち着かせる言葉がわからない。
お互いに黙り長い沈黙が続くと今度はティアナがスバルの手を取る。
「スバル、ありがとう」
ティアナはスバルの顔を見る。
それは、いつものように自信を持った彼女の力強い顔。
「私のことを心配してくれて」
「ティア……?」
困惑するスバルを引っ張るように、静かな街並みを一歩一歩噛みしめるように歩き出す。
「全然食べれなかったし、何か食べに行こうか」
「……うん!!」
スバルはティアナに連れられるように後ろを歩く。
よかった、何時ものティアだ。
安心感を抱きながら、どこに行くのか自分の行きたいところのリクエストをしながら、楽しそうに話すスバル。
そんなスバルとは裏腹に━━━
適当に相づちを打ちながら、ティアナは歩く。
狂気を孕んだような、笑みを浮かべながら━━━
━━━守る
━━━私が、彼を
━━━何をしても、守る
━━━なのは……さんからも
━━━誰からも
━━━私が、私しか出来ないんだ
━━━愛しの彼を守れるのは
━━━私だ!!
━━━━━━
少年が高町なのはと付き合い初めてから早くも1ヶ月がたとうとしていた。
あれから、少年の日常は変わった。
所属していた部署を離れ、なのはがいる部署になり
長年すんでいた家を離れ、なのはと住むことになり
何をするにも、何処に行くにも必ず傍にはなのはがいた。
少年は、何も思わない。感じない。
なのはから与えられる物に、世界に、少年は何も興味を示さない。
ただただ、毎日毎時何時でも心の中で叫ぶだけ。
━━━助けて
それが、少年の残った人としての感情。
それ以外は、なのはの人形だ。
なのはを喜ばし、楽しませるためだけの人形。
そんな世界から助けて。
少年はその思いを胸に潜め、この世界で生きている。
誰かに助けを求めるのは簡単だ。
誰かに助けられるのは困難だ。
高町なのはは、管理局でも有名だ。
その実力も、人徳も。
だからこそ、管理局の人に助けを求めるのはダメだ。
きっと皆、助けてくれない。
なのはさんがそんなことするはずない。
なのはさんはそんな人じゃない。
自分の彼女を悪く言うのは辞めろよ
そんな風に言われ、相手にされないだろう。
それに、 特にここの部署の人達はなのはの事を信じすぎている。
そして、俺のことをよく思ってない人達もいる。
それもそうだ、管理局のエースと俺みたいな凡人が付き合ってるんだ。
しかも、美人な彼女だ。
周りからしたら相当妬ましく思っているんだろう。
だから、言えない。
助けてなんて言えない。
……だから、諦めた。
少年はこの世界に絶望視ながら生きていく。
この世界で、与えられた世界で。
この人形としての役割を。
……でも、彼女がそれを許さない。
少年が諦めて心を殺し思考を止めようとすると何時も彼女の笑顔が浮かぶ。
自分の元彼女、ティアナ。
彼女の存在が、少年の残った人の心に強く何かを語りかける。
そのせいで、諦めきれない。
この、人形としての役割から助けてほしい。
この思いを、感情を━━━
少年は諦めきれない。
そんな彼は今日も淡々と仕事をこなす。
広々とした部屋に1人寂しく。
これが彼の仕事部屋だ。
広い部屋には2台のパソコンが仲良く並び、大きいテーブルには整理された書類が幾つか並ぶ。
部屋の隅に置かれた本棚には、仕事に関する書類の中に紛れて幾つかなのはから与えられた本が並べられている。
なのは曰わく、私の子供の頃からのアルバムだよ。君に私のこともっと知ってほしいからここに置いておくね。よかったら見てね。とのことだ。
そう嬉しそうに言われたアルバムを本棚にしまい込み、休憩時間等に目を通していた。
彼女の思い出を知るためではなく、彼女の機嫌をとるために。
このアルバムを使ってなのはと話し、その日を適当に過ごすのが少年の日課でもある。
最も、アルバムもだいぶ読み終えてきたため、次はどんな話題で過ごすのかを考え頭を悩ましているのだが。
部屋にあるのは、それだけ。
彼の私物等は一切なくまた、この部屋に彼以外の人がいるのを示すのは、今は使われていないパソコン1台のみ。
彼からしたら、見飽きた光景。
与えられた世界の一つ。
彼は今日もここで過ごす。
1人で、静かに。
だが、彼はこの時間を嫌っていない。
この時間は彼が唯一1人でいられる時間なのだ。
それも、もう終わる。
少年は時間を見る。
時計の針はもうすぐ4を指す。
4を指すと、少年が文字通り死ぬ時間だ。
少年の心が、精神が、死ぬ。
ため息を軽くつくと、気持ちを入れ替える。
何時でも変われるように。
人から人形に変われるように。
自分しか出来ない。
代えのきかない代用品。
なのはの心を、気持ちを満足させるだけ為の人形に。
切り替える準備をする。
少年が気持ちを切り替えて数分後、扉が開く。
それと同時に楽しそうなリズムを刻む足音が耳にはいる。
来た。
少年は扉に目をやると同時に勢いよく押し倒される。
「ただいま」
彼女、高町なのはは無邪気に嬉しそうに笑う。
「おかえりなさい」
それをお返しするように少年も笑顔を作る。
その笑顔は不気味な程に整った、作られた笑み。
それに気づくのか気付かないのか、なのはは笑みを更に深くする。
嬉しそうな楽しそうな笑みを。
周りから見たら天使のような、少年からしたら死神のような
そんな、笑みを。
「寂しかったけど、今から事務仕事になるから楽しくなるね」
なのはは少年の頭を優しく撫でる。
愛しい子供をあやすような、優しい手つきで。
「それじゃ、残りも頑張ろうか」
「うん、今日ももう少しだし頑張ろうね」
なのはは立ち上がると少年の手を取り立ち上がらせる。
なのはは少年の手を離すことなく、寧ろ更に力を込めと、顔を近づける。
少年は、何も思わない、感じない。
これは、何時もの日常だ。
なのはが変え、周りから見て変わった日常だから。
少年はなのはに軽いキスをする。
愛しい人にキスをされる。
自分の所持者にキスをする。
思い思いの感情を持ちつつキスを終えると、なのはは笑みを浮かべる。
妖艶な、怪しい笑み。
「さぁ、残りも2人で頑張ろうね」
「うん、頑張ろう」
手を離さないまま2人で並んだパソコンを触る。
手を離してくれないと、作業が遅くなるのにな。
そう思うも、言わない。
言ったら何があるかわからないから。
だから、言わない。
刃向かわない。
それが、少年の日課。
与えられた世界に対して何もしない。
なのはから見ていい子になれるように振る舞う。
それが、少年の日常だから。
━━━━━━
2人が仕事を終えると、手をつないだまま家に帰る。
なのはの仕事の話に相づちを打ちながら、ゆっくりとした足取りで。
2人が住む家は部署からそう離れていない場所だ。
付き合う前になのはが購入した家。
何処に出もありそうな二階建ての一軒家。
そこで2人は過ごしている。
家が近づく頃になのはは急に話題をふる。
「もうすぐ、私達が付き合って1ヶ月だね」
そうか、もう1ヶ月もたつんだ。
少年は、思い返す。
この1ヶ月を。
だが、思い出せない。
なのはと付き合ってからの記憶が全くない。
それもそうか、少年は内心ため息をつく。
この1ヶ月、何もない。
何も変わらない1ヶ月に思い出なんて無い。
「ねぇ、記念にデートに行こうよ」
顔を真っ赤にしながらのお誘いに少年は二つ返事で了承する。
それを聴き、笑みを浮かべて静かになるなのは。
……何時まで続くんだろう、この日常は。
「ふふふっ、よかった。その日お互いに休みにしといて」
だと思った。
少年はなのはにつられて笑みを浮かべる。
周りからしたら、幸せなカップルを、演じるように。
「ねぇ、何処か行きたいところある?」
「俺は、なのはが行きたいところなら何処でも行いよ」
「本当に?それじゃあねぇ」
なのはが何処に行きたいか、様々な案を出していく。
少年はそれを一つ一つ聞いて、肯定する。
「動物園とか?」
「なのはは動物とか好きだもんね」
「水族館は?」
「魚もいいね、見てみたい」
「それじゃあねぇ……私の家族に挨拶まわりにいくとか」
「挨拶かぁ、それもいい……ね?」
少年の足取りが止まる。
なのはは少年を横目に見つつ、歩みを止めた。
「うん、報告」
「報告って、付き合ってることの?」
流石の少年も焦りを表に出す。
両親にアイサツナンテ行って……もし、もしも結婚とかの話になったら?
それこそ、逃げられない。
助けられない。
「ほら、私達そのうち結婚するでしょ?」
どうやら、なのはの頭の中では結婚は決まっているらしい。
……それも、そうか。
今でさえ同居している。
疚しいことはしてはないとはいえ、それも時間の問題だろう。
少年は、考える。
選択肢は、ない。
それでも、何かないかと━━━
「……もしかして、いや?」
重い音色が耳にはいる。
「なんで?」
恐る恐る、少年はなのはの目を見る。
「私達、付き合ってるよね?」
淀んだ光のない瞳が、少年の顔を映す。
━━━あぁ、始まる。
それは、少年が最もおそれていること。
瞳に映った人形に問いかける。
━━━なぁ、なんで刃向かったんだ?
━━━人形に選択肢なんて無いのに
少年は顔を伏せる。
今から始まる、恐怖から目をそらすように。
「私達、付き合ってるよね?
なんで、それなのに家族に合ってくれないの?
おかしいよね?
同居もしてるんだよ?
もう、いつ結婚してもおかしくないんじゃないかな?
私だって、君との子供ほしいけど我慢してるんだよ?
君とちゃんと結婚してから、子供がほしいって思ってるんだよ?
それなのに、君は嫌なの?
なんで?
私のこと、大切に思ってくれてるんだよね?
違うの?
それとも━━━」
なのはは、黙る。
一瞬溜めて、言う。
「ティアナ?」
その名前を聞いて、少年は目を見開いてなのはを見る。
笑顔のなのは。
でも、それは嬉しそうな笑みじゃない。
歪な笑み。
まるで、邪悪な笑み。
「ティアナのことが気になるの?」
少年は息を詰まらせる。
「そっか、そっか。
そうだよね、気になるよね。
仕方がないよね、昔の彼女だもんね。
申し訳ないよね。
でも、君の今の彼女は私だよね?
私のこと、見てくれるんだよね?
傍にいてくれるんだよね?」
俺は、なのはを見る。
そんななのはを、抱きしめる。
「……いやじゃないよ、ただ驚いただけ。挨拶に行こう」
そう言うと、なのはは少年を抱きしめ返す。
「……嬉しいよ、そう言ってくれて」
先程とは違い、嬉しそうな笑顔で。
「ごめんね、取り乱しちゃって。
君が私の傍から離れる気がして怖くなっちやって……
駄目だね、私。
何時まで経っても君に迷惑かけちゃって。
ごめんね、やっぱり君のことになると私周りが見えなくなっちゃう」
なのはは可愛らしくえへへっ、と笑う。
少年は小さく震える自分の身体を抑えつつ、強く抱きしめる。
そうだ、この人の傍にいなきゃいけないんだ。
使命感のように、感じる。
俺は、この人の傍にいなきゃいけないんだ。
それだけを、考えなきゃ。
狂ったこの人から、周りを
狂ったこの人自信を、
護るために。
俺は、傍にいなきゃ。
ティアナのことも、諦めないといけないのに。
少年はなのはから離れると、2人の家へと戻る。
家族に会う。
自分を追い込んでいく。
それでも、俺は。
人形として、彼女の傍にいなきゃ。
少年となのはは手をつなぎ、再び歩み始める。
2人の、家へと。
━━━━━━
2人の生活は、異常だ。
お互いにお互いを意識している。
片方は、人形として迷惑かけないいい子として。
片方は、愛する人に嫌われないようにいい子として。
職場では、仲のいいカップルをして。
家では、互いにいい子として振る舞う。
それが、この2人の生活だ。
なのはが料理をする中、少年はお風呂の準備をしつつなのはの手伝いをする。
こうして2人で作った料理を楽しそうに話ながら食べる。
そんな中、少年のデバイスから通信が入る。
「誰から?」
少年が確認する前になのはの鋭い言葉と眼差しが襲う。
デバイスを取り出し確認すると、通信相手はお互いに記した人物だった。
「フェイトから」
なのはの眼差しが更に強くなる。
私以外の女からなんで連絡があるの?
そう、瞳で訴えかける。
「出ていいよ」
なのはの許可が下りたのを確認して、少年は通信に出る。
「あっ、今大丈夫!?」
通信を開と同時にフェイトの大声が部屋中に響きわたる。
「フェイトちゃん、どうしたの?」
思わず苦笑いをするなのはと少年。
フェイトは注意を受け、申し訳無さそうな顔をするも、すぐに慌てた顔になる。
「聞いて、ティアナが!!」
ティアナ。
その名前を聴くと同時に2人の顔が強ばる。
「ティアナが、消えたの」
フェイトは真剣な顔つきで重い事実を伝える。
消えた?
少年はそれを聴き立ち上がろうとするが、止まる。
視界になのはが入ったからだ。
今、自分が何かしたらこの人は何をするか、わからない。
だから、怖い。
少年は直ぐに恐怖に刈られ落ち着く。
「フェイトちゃん、、ティアナはなんで消えたの?」
なのはは落ち着いた口調でフェイトに尋ねる。
少年はなのはを見て、ふと思う。
……この人が、ティアナを━━━
もしかしたら、この人が……!!
少年はなのはの手を見る。
綺麗な手。
でも、もしそれが汚れていたら。
少年は自分の手で口を押さえる。
止めよう。
でも、やりかねない。
証拠もないのに疑うのは。
証拠?そんなの探して、手遅れだったら、手遅れになったら。
止まらない疑いを考えると、なのはは後ろから少年に抱きついた。
「大丈夫」
なのはは、優しく言う。
なにが?
なにが大丈夫なんだ!?
少年が疑惑と疑念に思考を回すと、フェイトは呆れ顔で口を開く。
「もぅ、こんな大変な時にいちゃつかないで」
「あははは、それでティアナは何時からいないの?ついさっき?」
「……それが、わからないの」
フェイトは歯を食いしばる。
まるで、自分を攻めてるかのように。
「ティアナを最後に見たのは、六課の皆でパーティーした翌日だから」
翌日?
おかしくないか?
少年はフェイトに恐る恐る声をかける。
「ティアナはフェイトさんの補佐として働いていたんじゃ……」
「あれっ?知らないの!?」
フェイトは少年の言葉に驚く。
なのはは、変わらない。
変わらず少年に愛しそうに抱きしめる。
「ティアナは、あの後管理局を辞めたよ」
━━━えっ?
少年は黙る。
「あの後急に管理局を辞めたの。スバルもすごい落ち込んでて……って、なのは言ってなかったの?」
「うん、ティアナと仲よかったから直接聴いてると思ってて」
嘘だ。
申し訳無さそうに話すなのはの顔を見て、確信する。
きっと、伝えなかった。
そして、知らないことを知っていた。
少年はデバイスを見る。
傷一つ無い新品のデバイスは、この前新調したばかりだ。
なのはからのプレゼントとして。
きっと、何か細工をしてティアナやスバルから連絡がこないようになってるんだろう。
なのはに協力する人なんて管理局には幾らでもいる。
だから、誰かにやらせたんだ。
少年は表面上だけでも落ち着かせ、フェイトと話す。
「それで、なんでティアナが居ないことを知ったんです?」
「たまたま、ティアナが住んでたアパートの近くに寄ってね、話をしようと思ったら居なくてね、そこの管理人に話をしたらもうずっと姿を見てないって言われたの。スバルに聞いたら、連絡がとれないって言われてね」
スバルが、連絡をとれないことを知ってた?
少年はその言葉に違和感を感じる。
スバルとティアナは親友だ。
そんな彼女に連絡がとらないなら、先ず慌てると思ったけど。
「でね、ティアナの家族とかに聞いたんだけど全く連絡がないって話でね。今、誰か知ってる人はいないか探してるの」
フェイトは深刻そうな顔で話を終えた。
少年は、知らなかった。
この1ヶ月のティアナのことを。
「そっか、私達も何かわかったら連絡するね」
なのはが変わりに応えると、話題を変えた。
「そう言えば、ヴィヴィオは元気?」
ヴィヴィオは今、フェイトさんが引き取っている。
初めはなのはが引き取る話だったが、フェイトは「付き合いたてのカップルと一緒にいたらヴィヴィオにとって悪影響だと思う」と言いフェイトが引き取ったのだ。
「うん、元気だよ。なのはと会いたがってるから近くに来たら会ってあげてね」
「うん、わかった」
それじゃっとお互いに言うと通信を切る。
……何でこの人、ティアナの話の時はやけに静かだったな。
少年はすぐ隣のなのはの顔を見る。
止めよう。
変に話して、嫌な思いをするのは俺だ。
少年は黙る。
なのはの愛しそうな顔を見ながら、考えるのを止める。
ティアナ。
何もなければいいけど。
━━━それだけを思いつつ。
少年の日常は無事に終わった。
━━━━━━
ティアナの話を聞いてから早数日。
今日は、少年は休みの日だ。
本来はなのはも休みだったのだが、急な仕事が入ったという事で急遽出勤に変わった。
少年は広いリビングでゆっくりとコーヒーを飲む。
家に1人でいるのは初めてのことだった。
どこかに出掛けようと考えたが、残念ながらそれは出来ない。
「家から出るのは、私と一緒の時だけだよ」
なのはは出掛けるとき、そう少年に伝えた。
その言葉を忠実にするために少年は今日1日をこの広い家で過ごすことになった。
だが、暇などない。
デバイスを取り出すと、丁度メールが来た。
なのはが出勤してからまだ数時間も経ってないのにも関わらず、彼女は少年に何十通ものメールを渡していた。
それは、近々訪れることになる彼女の家族との話だ。
どんな風に挨拶をするか、何か持っていったほうがいいか……そんなメールをお互いにしながら、過ごしていた。
だが、それもすぐに終わる。
今から出撃だから、少しメール止めるね。終わったら、すぐに連絡するからね。
そのメールを最後、彼女からのメールは止んだ。
さぁ、何をしようか。
少年は考える。
ティアナ、元気かな?
ふと、思う。
ティアナのことが頭の中から離れない。
諦めれない。
その事で頭が一杯になっていた頃、その思考を妨げるようにチャイムがなる。
誰だろう?
疑いもせず、少年は扉を開く。
━━━えっ?
思わぬ来客に目を見開く。
「……なん……で?」
「久しぶり」
凛々しく強気な声が、耳にはいる。
「迎えにきたの、行きましょ」
その言葉を最後に、少年は意識をなくした。
━━━━━━
なのはは任務を終えると急いで愛しの彼がいる家へと向かった。
その顔は普段の彼女からは見られない鬼のような形相で。
任務を終え、彼にメールを送るも返信は来ない。
それに我慢が出来なかったなのはは通信をするも、出ない。
油断した。
なのはは家へと距離を縮めるにつれ、次第に後悔を強くする。
油断した、油断した!!
任務はすぐ終わるものだから、数時間もすれば終わる。
油断した、油断した、油断した!!
彼の前で仕事を断る。そんな我が儘な姿を見せたくなかった。
油断した、油断した、油断した、油断した!!
彼を連れて行こうにも、前線で戦えない彼を連れていく意味なんて無いって周りに言われる。それに、せっかくの彼の休みを無駄にするような我が儘言ったら、嫌われる。
油断した、油断した、油断した、油断した、油断した!!
数時間なら、離れていても問題ない。それに、不用意に外に出ないよう忠告した。
だから、大丈夫。
彼に嫌われることなく終わる。
終わったら何時もの幸せな日々を過ごせる。
油断した!!!!
全てが、裏目に出たかもしれない。
なのははデバイスで通信を入れる。
この短い間に何十回も行った行為は、今回も無駄に終わる。
内心舌打ちをして、歩みを早める。
少年と付き合うことが夢だった。
誰にでも優しくて、親しくしてくれる彼が大好きで。
誰にでも、私にも
気がついたら彼を1人じめしたかった。
したくなった。
あの優しい笑顔が大好きだから。
私に向けてくれる、あの笑みが。
あの優しい笑顔が嫌いだった。
誰にでも向けるあの笑みが。
何時しか、彼の笑みを1人じめしたくなった。
その思いが強くなるにつれて、自分でも抑えきれなくて……
気がついたら、彼に嫌な思いをさせた。
それでも、いい。
彼が自分の隣に居てくれるなら。
私の隣を守れるなら。
それを守るためなら、何でもする。
ティアナ、私は何でもするよ。
彼と付き合うことになって、家を変えた。
ティアナには教えていない。
私が引っ越した事を知ってるのは余りいない。
住所を知ってるのは私の親しい人達だけだ。
その人たちにも、最近迷惑な手紙が沢山来る。だから、余り私が引っ越した事を教えないでと伝えている。
彼のデバイスを変えた。
ティアナやスバル、その他にも私の知らない人や私が駄目だと思った人達からの連絡を拒否出来るように設定できるデバイスを。
彼の部署を変えた。
何時でも彼を見れるように、彼の耳に入る情報を操作できるように。
彼を私と一緒に住んで貰うことにした。
彼の傍に居るために、彼のことを守るために。
そして、あいつの手の届かない所に置くために。
手は打った。
だから、油断した。
ティアナが管理局を辞めると聞いて安心と同時に強い不安があった。
これで、ティアナとの接触する時間を減らせる。
管理局内にいれば、会うことも不可能じゃなかったから。
でも、それはティアナの情報を知る機会を失うこと。
もしかしたら、強引に私達の中に入って来るかもしれない。
たから、怖かった。
だから、焦っていた。
少年とティアナの強い繋がりはなのはも知っていた。
だから、強引に別れさせた。
彼の存在を独占される気がした。
彼の笑顔が、奪われる気がした。
彼の笑顔が、大好きな笑顔が大嫌いに変わる。
自分に向けられた笑みが、他人に向けられる笑みだと自覚してしまう。
それは、嫌だ。
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!
だから、私の傍にいてほしい。
その一心で、なのはは考えていた。
地球に戸籍がある身だから、少年と共に地球で暮らそうと考えた。
管理局を辞めるのも構わない。
自分が築いてきた地位を失うのもかまわない。
自分の親友達と離れるのも構わない。
少年と2人で居られるためなら、構わない。
もしも━━━
もしも、彼がティアナと会ったら━━━
捨てられる
いなくなられる。
そう思うと、いても経っても居られない。
━━━お願い
なのはは走る
━━━傍にいて
両目に涙をためながら
━━━いい子でいるから
溢れそうな涙を堪えながら
━━━私のことをずっと見てて
なのはは、ただ走る。
短い距離を走る。
ほんの数分にもかからない距離を全力で。
━━━━━━
「ただいま!!」
なのはが勢いよく扉を開ける。
おかえり。
この言葉を、優しい声で返ってくるのを期待しながら。
「おかえりなさい」
言葉は、返ってきた。
だが、その言葉はなのはの期待した優しい声ではなく冷たく、地を這うような声。
「……やっぱり、来てたんだ」
「はい、彼に呼ばれて」
なのはな声がした方を見ると、ゆっくりと声の人物が現れる。
「ティアナ」
全力で敵意むき出しにして睨むなのは。
その視線の先には、少しやつれた顔をするティアナがいた。
「なのはさん」
そんな顔を隠すように、ティアナは満足そうな笑みで応える。
だが、眼は笑っていない。
「彼に呼ばれた?呼ぶはずがないよね?」
「そんなこと無いですよ?彼は確かに私を呼びました」
ティアナは先程まで自分がいた部屋に目線を移す。
「一緒にいようって、なのはから助けてって」
なのはの睨みが更に強くなる。
「へー、私の知ってる彼は幸せそうに満足してくれてたはずだけど」
「私には分かるんですよ」
ティアナを目をつむると、幸せそうな笑みを浮かべる。
「彼の思ってることが
考えてることが
願いが
言いたいことが
全部全部
分かるんですよ
だって
━━━愛し合ってますから」
その言葉を皮きりになのははティアナに向かってゆっくりと歩き出す。
「愛し合ってる?
今、彼と付き合ってるのは私なんだけどなー
ティアナとは愛し合ってたでしょ?
過去の話でしょ?
今愛し合ってるのは私なんだけどなー」
お互いの顔が近くなる。
直ぐにでも触れれるような距離。
少しでも動けば身体が当たるような近さ。
お互いの視線は、お互いの瞳を狙う。
ティアナを見下すように
なのはを睨みつけるように
お互いの視線は火花を散らす。
「なのはさん、私の彼を返して」
「返して?そんな物みたいな言いかたしたら可哀想だよ?」
「物みたいに扱ってるじゃないですか」
ティアナの言葉になのはは黙る。
息をのむようにして。
「素敵な人形ですね、自分のことを愛してくれる素晴らしい人形です」
「……人形?なんのこと?」
「なのはさんは自分のことを観てくれる人なら誰でもいいんじゃないんですか?なら、返してくださいよ。選択肢を潰して、何も出来なくして、自分の傍に置いておきたいだけなら誰でもいいじゃないですか」
なのはは黙る。
わかっていたから。
少年が自分のためにいい子を装ってくれていたことは知っていた。
それを改善させようとしなかった。
今は、少年の態度よりも安全の方を確保したかったから。
それに、なのはからしたら別にいいのだ。
あの笑顔を隣におけるのなら、独り占めできるのなら、少年の態度等。
少年がずっとあのままいい子でいるなら、構わない。
少年の態度が変わるならそれでいい。
私の傍にいるならそれでいい。
なのははそう思ってる。
だからこそ、心に響かない。
人形という言葉に。
「誰でもよくないよ、私が愛してるのは彼だけで、その他はその他。ティアナが人形だって思っても私からしたら一番の大切な人だよ?その他の人じゃ代わりにならないよ」
ティアナはそれを聞き睨みつける。
ティアナからしたら、なのはの傲慢に腹立たしい。
自分の最愛の人を、奪われ人形のように接させる。
全てを肯定させ、自分を愛させるだけ為の人形に。
ティアナはそれが辛かった。
少年がなのはを選んだ理由も知っている。
追い込まれ、追い詰められたら結果。
その結果、少年はなのはを選んだ。
それが我慢できなかった。
純粋になのはの事を愛しての結果なら、何も言わずに祝福した……だろう。
だが、今回はちがう。
そして、なのはと少年が付き合うことを知り、気づいた。
彼を幸せに出来るのは私だけ。
それ以外は邪魔で、いらない存在。
私と彼なら、2人で幸せな世界で生きていける。
だから、この人はいらない。
邪魔。
ティアナの眼はキツくなり、更に睨みをきかせる。
「ねぇ、それにティアナがやってるのは不法侵入だよ?犯罪だよ?じゃ、私がここで捕まえるてもいいよね?」
「だから、言ったじゃないですか。彼に呼ばれたって」
「……なんで家の場所がわかったの?」
「呼ばれたんだから、わかってるに決まってるじゃないですか」
「そんなはずないよね」
そんなはずない、そんなはずない。
なのはは心の中でそつ言い続ける。
もし、仮に何らかの手段でティアナに連絡をしたとしたら……
それは、少年がなのはの隣に行ることを否定したこと。
それは、嫌。
「今までのことも聞きましたよ。相当酷いことしたみたいですね」
なのはとは違いティアナには余裕があった。
それは、自分が本当に少年に愛されてるという自覚があったからだ。
ティアナは見ていた。
少年となのはの事を。
この半月間、ずっと見ていた。
少年となのはの事を。
管理局を止めてから、スバルに連絡してなのはの居場所を確認した。
なのはと少年が2人で帰る場面と出勤する場面をずっと後ろで見ていた。
短い間でも、ほんの数分間の間でも2人の関係を知るのは十分で、充分に屈辱的だった。
本来なら、そこにいるのは私なのに
本当なら、彼の隣には私が行るはずなのに
奪われた。
愛しの人が。
それが、酷く屈辱的で酷く惨めで……
早く終わらせようと思った矢先に今日のこと。
なのはのみの出勤で、彼がいる。
彼が1人になった瞬間。
それが、ティアナの千載一遇のチャンス。
それは、なのはの油断が招いたチャンス。
ティアナは、手に入れる。
愛しの彼を━━━
そして、消えてもらう。
邪魔名女を。
「……ねぇ」
なのはは眼を閉じる。
その手には、自分の信頼する物の一つ、レイジングハート。
「もぅ、話さなくていいよ」
冷たい宣告とともにレイジングハートを展開する。
「じゃ、あなたの身柄を拘束するから」
頭に血が上り、全力でティアナを消そうとしたその時━━━
「助けて!!」
ティアナはその場から崩れ落ち、叫ぶ。
急に何?
ティアナの急な態度の変化になのはは動揺する。
視界から、ティアナが消える。
━━━少年が、なのはの視界に入った。
ッ!?
なのははそれを見て更に動揺する。
少年は片手を胸に当て、片手を壁に当て、辛そうに立っていた。
少年の瞳は、大きく見開かれなのはを見ていた。
「な、なのは?何をするの?」
「ち、違うの!!これは……」
言い訳は、出来ない。
自分は今、彼の元彼女にデバイスを向けようとしていた。
今、彼は何と思われてるか。
なのはは考える。
暴力的?
横暴?
いずれにせよ、暴力的なイメージ。
それは、自分が彼の前で演じようとしてきたいい子とは違う。
「……何時から、話を聞いてたの?」
「今さっき、なのはがレイジングハートを取り出してから」
「ティアナに何かされたの?」
「家に来て、扉を開けたら何かを撃たれて━━━」
「何をした!?」
なのはは声を荒げ、少年の言葉尻を跳ねのねのけ、怯えているティアナにレイジングハートを向ける。
ティアナは恐る恐ると口を開く。
「手荒いことをしたとは思います。それでも、彼に真実を伝えたくて
」
「真実?」
少年は疑問を口にすると同時にティアナはなのはを指差し顔を上げる。
「なのはさんは、暴力的で周りを力ずくで屈服させてるってことを━━━」
その顔は、勝ったと言わんばかりの自信に満ち溢れた瞳と、狂気を孕んだ笑みで━━━
「そんななのはさんからあなたを取り返したいから、来たの」
沈んだ暗い光を感じさせない瞳で、なのはを見つめる。
「私が、あなたを助ける」
ティアナな言葉を聞き2人の肩が大きく震える。
なのはは、少年がとられる絶望を予想し。
少年はこの絶望から救われることを予想し。
困ったかな。
なのははこの場面を冷静に考える。
ここで、ティアナを排除するのは簡単。
でも、彼の前で?
出来ない。
したいけど、いい子でいなくなったら━━━
彼が消える。
それだけは……
━━━でも、いっか。
なのははレイジングハートに魔力を込める。
━━━だって、どうせ
冷たい笑みを
━━━私の傍から、離さなければいいんだもん
ティアナのような、暗い瞳をして。
━━━傍から離さないなんて、簡単だもんね
「じゃぁね、さよなら」
なのはの宣告と共にレイジングハートから光が放たれる━━━
その瞬間、少年はティアナの前に立つ。
ティアナを守るためのように。
「……なんで、邪魔するの?」
なのはは驚く。
少年のこの動きを全く予想できなかったからだ。
「……やめよう」
レイジングハートから光が消える。
「ティアナは、俺の事を心配して来てくれたんだ」
ティアナの笑みはさらに深くなる。
少年に見えない、所だからかなのはに見せびらかすように。
なのはは、唇をかむ。
「だから、ティアナは悪くない」
ティアナはゆっくりと立ち上がると少年を後ろから抱きしめる。
「ありがとう」
涙混じりに、声を震わせながら。
「怖かった……っ」
その顔は、その目線はなのはをしっかりと見つめる。
勝ち誇った笑みを浮かべて。
「あなたの為だと思ってたけど、怖かったよ……っ」
なのはの唇から血が流れ出す。
強く噛むのは、止めない。
少年は自分に回された手を上から重ねる。
優しく、安心させるように。
「大丈夫だよ、ティアナ。なのはだって━━━」
「ティア」
少年の言葉を無視する。
「━━━ティアって呼んで、前みたいに。」
なのはに見せびらかすように。
「━━━私達の中じゃない」
ティアナは嬉しそうに話す。
なのはは顔を伏せる。
まるで、目の前の現実から目をそらすかのように。
「……ティア」
少年は懐かしむように言う。
その顔は、嬉しそうだ。
持ち望んだ時なのかもしれない。
……どうやって、この場を収めてなのはとティアの仲を改善させるか。
これが出来たら、終わる。
人形の人生に、終わる。
さぁ、どうしようか。
久々の幸せに身を投げながら少年は思考する。
この場面を終わらせる最善の方法を━━━
━━━それは、意味がない
━━━それは、決めれない
━━━それは、儚い選択
━━━それは、ただの夢物語
それを知るのは、思考し始めた瞬間。
「もぅ、いいよ」
━━━なのははレイジングハートに魔力をこめる。
「最後に言わせて」
━━━ティアナなんか眼中にない
「私は━━━」
━━━ただ、目の前の少年を見て
「どんな君も愛してる」
━━━愛しそうに、言う
「だから、君も愛すよね」
━━━確信めいた言葉使いで
「愛してくれるもんね」
歪んだ笑みで
沈んだ瞳で
冷たい言葉で
でも、とこか優しさとして愛しさを感じさせる
そんな雰囲気で
語ったなのはの姿を見る
次の瞬間、2人の愛し合っていた男女は光に包まれた。
━━━━━━
後日談、というか俺のその後の世界の話
ティアの話は、あれ以来聞かない。
聞かないし、聞けない。
なのははあの一件を全て、ティアの罪にした。
不法侵入、人質、暴力行為
それらの罪をティアナになしつけ、今も管理局で生活している。
ティアは捕まったのかもしれないし、逃げてるかもしれない。
知らないし、知れない。
俺はと言うと━━━
「ただいま」
なのはの声が聞こえる。
「元気にしてた?」
笑顔で、嬉しそうに話す声
「それじゃ、ご飯にするから待っててね」
なのはは、そう言うとキッチンに向かった
何も言えないし、言えない
俺は、動けない
今もベッドの上から動けない
拘束されてるわけではない
する、意味がない
手足は動かない
言葉はゆっくりと、少ししか発せれない
リハビリすれば、多少はよくなるらしいが、リハビリは受けていない
受けさせてくれない
なのはが毎日仕事帰りや休日にやってくれるけど、専門の人は雇っていない
なのはは何時もリハビリに関する本を幾つも読んで一生懸命にやってくれる
「……た」
俺の世界は、狭い
「……す……」
よくある一軒家の一室
「……け……」
そこの、ベッドの上
「……て……」
登場人物は、1人
「……ティ……」
俺の彼女1人だけ
「……ぁ……」
彼女の鼻歌が聞こえる
上機嫌なんだろう
嬉しそうな、楽しそうな
悪魔の声が
変わらない
耳を防げない
聞くしかない
悪魔の声を
悪魔の話を
自分の所有者の話を
それが、俺の世界
変わらない、世界
変わることのない世界
……変われない世界
━━━━━━
これは終わりの物語
選択を誤った
誤って、誤って、誤って
最後に与えられた選択肢を
あるものと捉えた
━━━バカな話だ
諦めてたのに
━━━バカな話だ
選択肢なんてないって、知ってたのに
━━━バカな話だ
最後まで、人形を演じなかったから、本当の人形になった
━━━バカな……話だ
何も出来ない無力な人間
選択肢なんて、ない
動くことも意志を伝えることもできない
本当の人形に
これは、終わりの物語
そして、始まりの物語
人として終わり
人形としての始まり
これは、そんな物語
閉ざされた世界で語る物語
こんにちはー勠bでーす
終章と言うわけで、話の本筋はこれで終わりです
ifストーリーとか、サイドストーリー的なものももしかしたら書くかもしれません。
その時は、よろしくお願いします。