【完結】猫娘と化した緑谷出久   作:炎の剣製

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更新します。


NO.036 幕間・男達の葛藤と思い

 

 

 

出久がグラントリノとともにワイプシのところまで向かっている途中で、爆豪、轟、飯田もそれぞれ職場体験を行っているところだった。

轟は嫌っていたエンデヴァーの事務所にわざわざ訪問し、この目でNo.2の実力を確認するという自らの意思を持って。

飯田は兄、インゲニウムを再起不能にしたヒーロー殺し・ステインを私怨のために見つけてこの手で倒すために。

爆豪はもっと強くなるために、強いヒーローになるためにとりあえずは指名してきたNo.4ヒーロー、ベストジーニストのもとへ。

今回はそんな三人の様子を描いていこうと思う……。

 

 

 

 

 

 

飯田はノーマルヒーロー・マニュアルとともに保須市市内をパトロールしていた。

 

「いやー、しかしまさかインゲニウムの弟さんがうちに来てくれるとは思っていなかったよ」

「いえ……」

「ただ、俺のところに来たってのはなにか含みがあるんじゃないかな? 保須市といえばほら、ヒーロー殺しがいるじゃないか、今どこかにだけど」

「そうですね……」

 

飯田はその言葉になるべく無感情で答えた。

感づかれてしまったら同行が難しくなってしまうからだ。

 

「俺の勘違いならそれでいいんだよ? でも、私怨で動くんだったら俺は君を止めないといけない。あくまでヒーローはヴィランを捕えるだけであって、逮捕や刑罰を与える権限はないんだ。それがたとえ学生だとしてもそれはもう立派な犯罪になってしまう……。だから」

「大丈夫です……そこら辺はしっかりと習っていますから」

「ほっ……それならいいんだ。俺の勘違いですむならそれに越したことは無いからね」

 

マニュアルはそう言って前を向いてパトロールを再開する。

飯田はそんなマニュアルに付いていきながらも、

 

「(でも、そうだとしても俺のこの感情のやり場をどこに向ければいいんだ……?)」

 

飯田は拳を思いっきり握りしめて被っている仮面の内側では唇を噛んでいた。

そんな飯田を見ている猫が一匹……。

 

「ニャンッ……」

 

ただただ恩人である出久の頼みで飯田を見張っているのであった。

 

 

 

 

 

 

轟はエンデヴァーの事務所でエンデヴァーと話をしていた。

 

「よく来たな焦凍。まさかお前から来てくれるとは思っていなかったぞ」

「仕方なくだ……。俺はお前がどんな仕事をしているのか知らねぇ。だからこの目で見てやろうと思っただけだ」

「そうか。まぁ構わないがな。それなら俺の仕事ぶりを見せてやらなければな」

 

エンデヴァーはそう言って笑みを浮かべる。

 

「しかし、あの緑谷は来てくれなかったのは残念だったな、焦凍……?」

「なんでここで緑谷の話題を出す……?」

「焦凍。親のよしみで言わせてもらうが、あの娘はお前にとって出来た娘になるかもしれないんだぞ? 雄英体育祭ではお前の心を一時は解き放ってくれた。

あそこまで思ってくれるものなど昨今ではなかなかいないぞ?」

「……………うるせぇ」

 

轟はそれで顔を逸らしながらも図星だったらしく顔を赤くさせていた。

そんな息子の姿にまんざらでもないなと思うエンデヴァーであった。

 

「まぁ、来なかったものは仕方がない。まずは遠征するぞ」

「どこにだ?」

「もちろん、今ちまたを騒がしているヒーロー殺し、ステインを捕獲するためだ。場所は保須市だ。準備をしろ」

「ああ……(保須市か。確か、飯田の兄貴がやられた場所だったな……飯田もそこに今職場体験に行っている。この不安は何だ……?)」

 

そんな事を思いつつも轟はエンデヴァーとともに保須市へと遠征の準備を開始した。

 

 

 

 

 

爆豪はベストジーニストと二人だけで話をしていた。

部下達は今は下がらせている。

 

「正直言おう。僕は君をあまり快く思っていない」

「あ……?」

「雄英体育祭は見させてもらった。確かに君はそれで優勝を果たしたのだから実力はあるだろう。だが、君はどちらかといえば性格がヴィラン寄りだ」

「うるせぇよ……」

「一回戦の女子との戦いはまぁ見ていて冷や冷やものだったが、それでもそんなに被害はなかったと言えよう。

だが、決勝戦での戦いはまるで相手を言葉で術中に嵌めていくようにして選択肢を減らしていった。戦いなのだからそれも戦術なのは分かる。

だが、君はあの緑谷出久さんにはなにかしらの因縁があるように思える。

おそらく選手宣誓で言った幼馴染と言うのは君の事なのだろう……?

性転換してしまう前の姿を知っているとすれば、多少の遠慮もできてしまうのではないかね?」

「さっきからぐちぐちと……それに俺は性転換した後のデクの奴に言ったんだよ!」

 

それで爆豪はまたあの時の言葉をベストジーニストに話す。

 

『クソデクはクソデクだ! 男だろうが女だろうがてめぇはてめぇだろうが!!』

 

と。

それを聞いてベストジーニストは少し感心した様に声を出した。

 

「なるほど……。多少は筋は通しているわけだな」

「わりぃかよ!?」

「いや、正直見直したよ。ガサツそうな君にもそういう貫くという感覚があるという事に」

「馬鹿にしとんのか!?」

 

怒る爆豪に「ハハハ」と受け流すベストジーニスト。

中々にやり辛いと感じる爆豪。

だが、そこでベストジーニストはとある爆弾を落とす。

 

「なんとなくわかった。恐らく君は彼女になにかしらの罪悪感を感じているんじゃないかね?」

「…………は? 罪悪感?」

「君達の過去は知らないけど何となくわかる。君は彼女にそう言って強く当たるのは自分の本心を隠そうとしているからだとね」

「そんな、そんなわけあるか!! 俺は、俺は!!」

 

 

 

そこで爆豪はフラッシュバックが起きたかのように過去の光景を脳内に連想してしまった。

 

…………猟奇殺人を犯すヴィラン。

…………出久が襲われてしまった。

…………颯爽と助けようとしたがなぜか足が震えてしまい、出久が切り刻まれる光景をただただ隠れて見ているしかできなかった過去の汚点。

…………動けるようになった時にはそこには見るも無残な出久の姿。

 

オレハ タスケラレ ナカッタ。

 

 

 

 

「うわぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

「ッ!?」

 

気づけば爆豪は涙を大量に流して頭を抱えて地面に蹲ってしまっていた。

ベストジーニストはトラウマを踏んでしまったか、と後悔してなんとか落ち着かせるように心掛けた。

それからしばらくして、

 

「はぁ……はぁ……」

「ようやく落ち着いたか……大丈夫かね?」

「あぁ…………てめぇ、俺のトラウマを抉りやがって……」

「すまなかった。まさかここまで効果が出るとは思っていなかったのでね。だけど、俄然気になった。君がそこまでして後悔した内容はどんなものなのか」

「性格悪いって言われねぇか……?」

「僕は君を矯正するつもりだからね。もしよかったら話してくれないか?」

「チッ……こんな醜態を見せちまったからには話すしかねぇじゃねーか」

 

そして爆豪はベストジーニストに出久と爆豪の過去を話す。

それを聞き終えて、

 

「なるほど……君は緑谷さんが傷つく光景を見たくないんだな」

「どう解釈したのかしんねーけど、概ねそうだ。だからあいつは無個性のままでよかったんだ……」

「君はそう判断しているんだね。でも、そうだね……緑谷さんはその話の猫のヒーローだったんじゃないかい?」

「あ? どういう意味だ?」

「そうじゃないか。もしかしたらその猫は雄英の子津校長みたいになにかしらの個性を持っていて、よく言う猫の恩返しみたいに緑谷さんに自分と言う力を与えて、代わりに死んだと解釈すれば無個性だった緑谷さんが猫の個性を宿したと思えば、なるほど辻褄が合うというものさ」

 

ベストジーニストのそのおおざっぱな解釈に、しかし爆豪はある意味確信を抱いた。

 

「(そうだよ……突然変異だとしてもあんなに個性があるのはおかしい。後でデクに話を振ってみるか……?)」

 

そう考えた。

 

「それとだけど、君は緑谷さんと一回正面向かって話し合った方がいいと思うよ。色々と彼女も誤解をしていそうだからね」

「俺がデクと正面を向いて話すだぁ……? それができたら苦労はしねぇよ」

「ダメもとでもしてみるんだ。そうすればもしかしたら君達の仲は改善するかもしれないよ?」

「話し合う、か……一応考えとくぜ」

 

こうして爆豪は多少の葛藤はあれど出久と一度話し合う事を決めた瞬間だった。

 

「うん。すっきりしたようで良かった。それはそれとして君の性格を矯正するのは僕の役目だってさっきに言ったね? この一週間でみっちりしごいてあげよう」

「負けねぇかんな! 俺は俺だ!!」

 

そんな感じでベストジーニストに核心を突かれた爆豪の一週間がスタートした。

 

 

 

 




かっちゃん、改心ルートフラグが立ったかな?
轟くんもなんかエンデヴァーが親らしいことをしていますね。
飯田君は原作通りの展開です。

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