【完結】猫娘と化した緑谷出久   作:炎の剣製

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更新します。


NO.038 合同職場体験・二日目 出久と洸汰

 

 

 

洸汰が一人で壁に向かって個性である水を手のひらから噴き出して特訓している光景を見て出久は少しだけ意外そうに見ていた。

 

「(個性社会を嫌っていても……鍛えることはしているんだね……)」

 

そんな洸汰の姿を少しだけ見ていた出久だったが、そこで洸汰が出久が見ていることに気づいたのか、

 

「ッ! てめぇ! いつから見ていやがった!?」

「あ……その、ごめん……少しだけ特訓しているところからかな……」

 

出久はそれでもう隠れる意味も無くなったので洸汰の前へと出て行った。

洸汰はそんな出久を目障りそうに見ながら言葉を零す。

 

「俺に何のようだ!? ここは俺のひみつきちなんだから出て行けよ!」

「秘密基地か……マンダレイとかも知らないの?」

「……うるせぇ」

 

それで顔を逸らしてしまう洸汰。

そんな洸汰の姿が少しだけ痛々しく思った出久は、そこで洸汰のヒーローを嫌う核心の部分に触れようとしていた。

 

「さっきの水の個性だけど……君の両親ってもしかして『ウォーターホース』なの……?」

「ッ! マンダレイか!?」

 

ここで一番怖い顔をしながら出久を睨んでくる洸汰に出久は少し竦み上がりながらも話を続ける。

 

「ごめん……でも、あの事件は残念な事件だったね」

「うるせぇよ! 他人事みたいに語るな!! だから俺はヒーローっていう人種が大っ嫌いなんだよ! ヴィランとかヒーローとか! なんで同じ人間なのに勝手に暴れて殺し合ってんだよ! イカレてるよ!」

「洸汰くん……」

 

洸汰はそれで出久の視線を逸らすように後ろを向いて座り込んでしまった。

そして一言「出て行けよ……」と突き放す。

出久はそんな姿が形は違うとはいえ自分に少し似ていると感じたのか、そんな洸汰の隣に座り込む。

 

「洸汰くん……君の気持ちもわからなくはないよ……。雄英体育祭の中継を見ていたかは分からないけど、僕ね……一年くらい前まで無個性だったんだ」

「は……? 無、個性……?」

「うん……。今はこんな個性を持っているけど、昔はずっと無個性だと思い込んでいて、個性を持っていた周りのみんなは僕の事を無個性だって馬鹿にしてきて僕はずっと孤立していた……」

 

それは、超人社会では当たり前となってしまった光景なのかもしれない。

個性がないものはこの社会ではかなりの確率で下に見られてしまい、表舞台には出てこない人がほとんどである。

そんな人たちにも当然働く力はあれど、やはり比較されてしまう事は仕方がない。

ゆえに、ヒーローにもヴィランにもなれない弱い力の人達のもとで働くしかないのだ。

それが格差を生んでしまっていると気づいている者もいるにはいるが、それでも今更根付いてしまった社会の摂理は変えられない。

出久ももし個性が出ていなかったらそういう人のように静かに暮らしていただろう……。

 

「でも、そんな僕でも一度はヴィランに無個性で立ち向かった事があったんだ」

「立ち向かったって……無個性なのにか?」

「うん……。そのヴィランは動物を無差別に殺して回っていた猟奇殺人犯で、僕もとある猫を助けようとそいつに立ち向かったはいいんだけど、当時はまだ小学生で無個性も相まってあっさりと殺されそうになっちゃったんだ……。でも、殺されようとしていた猫は助けることが出来たんだと僕は重くなる瞼の中で感じていた……。

だって、僕も昔から夢は叶わずともヒーローになりたいって思っていたから……」

「それで、お前はどうなったんだ……」

「うん。結果的には瀕死の重傷を負って死にかけちゃった……僕を治療した人によれば、もう手遅れな状態だったんだって……」

「それじゃ、なんでお前は今こうして普通に生きてんだよ……?」

「救われた、からかな……? その助けた猫に……」

「猫に……?」

「うん。その猫はなにかしらの個性を持っていたみたいで、僕に命を捧げたのかは分からないけど僕はそれで助かったんだ……その猫は代わりに死んじゃったんだけどね」

 

出久はそこで辛そうに顔を歪める。

自分の代わりに死んでしまったフォウ……。

どうにかできなかったものかと思う出久。

だが、助けられてしまったからには生きないと……。

生きて、証を残さないと……。

 

「僕はとある事件でこの個性が発動するまでその猫が僕を助けてくれたことなんて微塵も知らなかったんだ。でも、当時の治療してくれた人に会う機会があってその事を知れた……そして、思ったんだ。僕の中でその猫は僕の個性となって今も生きているんだって……。

だからって、洸汰くんの話と合わせるわけじゃないんだけど、それでも思うんだ……。

君の両親は君にもきっとヒーローになってもらいたかったんだって……。思っていたかどうかは分からないけどきっとそう僕は思うんだ。

ウォーターホースは確かに君を残して逝ってしまったかもしれない。でも、そのおかげで守れた命も確かにあると思うんだって……」

「あっ……」

 

それはいつかマンダレイが洸太に話した言葉と被る内容。

聞かされたわけでもないだろう……だが出久はその同じ内容を洸汰に話す。

 

「そして、いつか君もきっと出会えるって思うんだ。君にとってのヒーローに……。

僕もとある人に出会うことが出来て、個性も出たばっかりで碌に扱えなかった、そんな僕でもヒーローを目指すことが出来たから……。勇気を与えられたから……。だから必死にそんな人のようになりたいと努力してきた。

だから洸汰くんも一方的にヒーローを嫌わないで……?

君の個性も親から受け継いだ力なんだから……。だから個性の練習をしていたんでしょ?」

 

そう出久は話しながら洸汰に笑顔を向けていた。

そんな出久の表情を見て洸汰は恥ずかしかったのか、「ふんっ……」と顔を逸らしてしまう。

 

「ま、まぁ……少しはお前の気持ちも受け取っておくよ……。今度、マンダレイに謝っておく……こんな俺を預かってくれたのに、いつも無視を続けていたから……」

「そっか……。うん、いいと思うよ。それと、ごめんね」

 

そこで出久は謝ってきていた。

そんな光景に洸汰は不思議そうに首を傾げながら出久に尋ねる。

 

「なんでお前が謝るんだよ……?」

「うん。僕って結構相手の気持ちにずけずけと入っていっちゃう癖があるから、今回も洸汰くんの気持ちを無視して話し続けちゃったし……」

 

あはは……と出久は力なく苦笑いを零す。

 

「そんなことねーよ!」

「洸汰くん……?」

 

そこで洸汰が叫ぶ。

 

「お前は俺の気持ちを理解してくれた! お前の過去も話してくれた! だからお前なら信用できるって……そう思う。きっと、いつかお前が言うように俺の前にもヒーローが現れてくれるかもしれないって……それはもしかしたらお前の事なんじゃないかなって……、……はっ!?」

 

そこで洸汰は自分が言っている事が実に恥ずかしい事なんだって悟って思いっきり顔をまた逸らしてしまっていた。

そんな洸汰の姿に出久は笑みを浮かべながらも、

 

「ふふ……。うん、君のヒーローになれたんなら僕もちょっとだけ嬉しいかな?」

「…………」

 

洸太はもう恥ずかしいのか顔を赤くさせて俯いてしまっていた。

 

「……マンダレイのところに帰ろうか? そして話すんでしょ?」

「ああ……」

 

そんな感じで出久と洸汰は手を繋ぎながら事務所へと戻っていって、洸汰はマンダレイに「今までごめん……」っと、謝った。

それでマンダレイは嬉しそうに洸汰を抱きしめたのはいい光景だと出久は思った。

そこにグラントリノが出久に近づいて、

 

「さっそく一人の少年の心を救ったんだな、小娘」

「はい。たまたま境遇が似ていたからって事もありましたけどなんとかなってよかったです……」

「うむ。まぁ、いい事だな」

 

その後にマンダレイにも感謝をされて出久はその晩はいい気持ちで眠ることが出来たそうだ。

 

 

 

 




ちょっと洸汰くんが心を開くのが簡単すぎた気もしないでもないですけど、まだ合宿篇がありますからそこで何とかしようと思います。
というか出久の女子力が上がってる……?
……ま、まぁ。さて、次回は三日目。やる事はしたんでステインに入りたいかと。

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