【完結】猫娘と化した緑谷出久   作:炎の剣製

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更新します。


NO.042 保須総合病院にて

 

 

 

ステインとヴィラン連合の脳無が保須市で暴れてから一夜が明けて、保須総合病院では出久達三人が病室で話し合っていた。

出久に関しては女性なので別室での入院となっているが、そんなに傷は深くないので飯田と轟の二人がいる部屋へと遊びに来ている感じであった。

少し女性として意識に欠けているとは思うが、それを咎める者はいない。

 

「でも、一夜明けて思ったけど……やっぱりすごいことをしちゃったんだよね」

 

出久のその言葉に「そうだな」と轟が返事をする。

三人とも腕の被害が一番酷かったので包帯がぐるぐると巻かれていた。

だからなのかもしれないが、腕ではあんまり響くので言葉だけでお互いに表現しあっている。

そんな中で出久は話す。

 

「僕の腕……殺そうと思えば飛ばす事だってできたと思うんだ……」

「それは俺も感じた事だ。あからさまに生かされた感じだな……その点、飯田は凄いな。本気の殺意を向けられていたのに立ち向かったんだから。助けに来たつもりが助けられちまったしな……」

「ごめんね、もっとうまくできたらよかったんだけど……」

 

出久と轟は飯田に向かってすまなそうに謝る。

飯田はそんな二人を見て「そんな事はない」と一言入れて、「俺は……」となにかを話そうとしていたがそこで病室に来客の姿があった。

 

「む? 小娘、病室にいないと思ったらやっぱりこっちに遊びに来ていたか」

「あ、グラントリノ。それにマニュアルさんも……それと」

 

グラントリノとマニュアルの二人の後ろにはなにやら面構えがすごい人が立っていた。

一言で言えばリアル犬の顔をしている人であった。

その人は前に出てきて三人に話しかける。

 

「ああ。お前たちに来客だ」

「お初にお目にかかる。私は保須警察署署長の『面構犬嗣』だワン」

「つ、面構! 署、署長!?」

 

名前通りの面構に出久は驚愕の表情を浮かべる。

それと気になったのが『ワン』という語尾である。

それでわざわざ来てもらったのだから立ち上がろうとしたが、

 

「掛けたままで結構だワン。君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒達だワンね」

 

面構はそう言って挨拶をした後に、ステインの現状などを教えていった。

火傷に骨折をしていたために現在治療中だという事。

傷が治り次第、監獄に入れるという事も。

 

そして次に話されるのが警察とヒーローの役割について。

警察は超常黎明期に統率と規格を重要視したために、個性による行動を禁止している。

その穴埋めにヒーロー達が収まった事など。

 

「個人の武力行使……簡単に人を殺すことが出来る力……本来なら糾弾されてしかるべき行いが公けに認められているのは先の時代での人たちが様々なルールを遵守してきた結果だワン」

 

ゆえに、ヒーロー免許未取得者が保護管理の指示なく個性で危害を加えることは、それが例えヒーロー殺しと言えど規則違反になってしまうということ。

出久に轟、飯田。さらにはグラントリノ、エンデヴァー、マニュアルにも然るべき罰が与えられるという事。

だがそこで轟が面構に噛みついた。

 

「待ってくださいよ。そうだとしたら飯田が動いてなかったらネイティヴさんは殺されていたし、緑谷が助けに入っていなかったら二人とも殺されていた。ヒーロー殺しの出現は誰にも予測はできなかった。規則を守って見殺しにしろって事ですか!?」

「轟君、待って!」

「なら結果オーライであれば規則を有耶無耶にしてもいいと?」

 

出久がなんとか止めたのだが面構のその言葉に轟は青筋を浮かばせる。

そして、

 

「人を助けるのが、ヒーローの役目だろ!?」

 

と、己の内の感情を暴露させた。

轟のその必死の表情に面構は「やれやれ」と言葉を発した後に、

 

「だから……君はまだ“卵”だまったく……雄英もエンデヴァーもいい教育をしているね」

「てめぇ、この犬!!」

 

それで険悪なムードになりかけたのだが、グラントリノがそこで「まぁ、話は最後まで聞け」と制止を促す。

面構は一回『ゴホンッ!』と咳払いをした後に、

 

「というのが表向きな警察の意見だ。だが処分云々はあくまで“公表すれば”の話になってくるんだワン」

 

面構は語る。

公表すれば世論は出久達を褒め称える。だが同時に処分は免れない。

一方で、汚いやり方であるが公表しなければヒーロー殺しの火傷痕からエンデヴァーがヒーロー殺しを倒した、功労者として擁立できる。

幸い目撃者が少ないために今回の出久達の行為は警察で握り潰せることが出来る。

 

「だが、それで君達の英断と功績は誰の目にも触れられることは無い。さぁ、君達はどっちがいい!? 前途ある若者たちの“偉大なる過ち”に私はケチを付けさせたくないんだワン」

 

面構のその対応に三人とも「そう言う事か」という感想を抱いた。

それならばもみ消す事で表には出ないだろうが出久達への処罰は無くなる事になる。

よく考えられていると感心する出久達。

 

「まぁ、どの道俺らは監督不行届で責任を取らないといけないからな」

「申し訳ございませんでした!」

「飯田君、分かったならもう二度とすんなよ?」

「はい!」

 

そんな感じで出久達は頭を下げて「よろしくお願いします」と言って今回の一件を任せる事にしたのであった。

 

「大人のズルで君達三人が受けたであろう称賛の声が無くなってしまうのはすまないと思う……だが、せめて共に平和を守る人間として言わせてくれ……ありがとう」

 

面構もそれで出久達に頭を下げてくれた。

こうして出久達は面構との面談も終えて後はゆっくりと療養することにしたのである。

 

 

 

 

 

少しして出久は急なアドレスの送信で心配しているであろうみんなにそれぞれ電話やメールの返信などを行って、今現在はお茶子と話をしていた。

 

『デクちゃん、大丈夫だった? アドレスが送られてきた時はすごくドキドキして心配しちゃったよ』

「うん。大丈夫だったよ。飯田君と轟君にも伝えておくね」

『お願いね。それと……デクちゃん、飯田君と轟君となにか変な雰囲気にならなかったよね……?』

「変な雰囲気……? う、うん。無かったと思うけど……」

『そっか。それならいいの!…………デクちゃんの事はやっぱり私がマモラナイト……』

「え? 麗日さん、なにか言った?」

 

幸い麗日の小声は出久には聞こえてなかったのか、お茶子は「ううん、なんでもないよ!」と言った後に、

 

『それじゃゆっくり療養してね?』

「うん。それじゃまた学校で会おうね」

 

そんな感じでお茶子との会話を終了した後に、今度はワイプシの方へと電話をかける。

事務所の電話番号だったので出たのは虎であった。

 

『緑谷か? ヒーロー殺しと遭遇したと聞いたが、大丈夫だったか……?』

「はい。なんとかこうして生きています」

『そうか。我も付いていっていたらよかったのだがな……』

「もう終わった事ですからいいじゃないですか。それより洸汰くんに伝言をお願いします。『僕は大丈夫だから安心してね』って」

『わかった。伝えておこう』

 

虎ともそうして電話を終えて出久は飯田達の病室へと向かう。

 

「二人とも、入るね?」

 

出久は断りを入れて中に入ろうとする。

もし、中で二人が着替えでもしていたら出久は気にしないだろうが二人は気にしてしまうかもしれないからだ。

実際、一回出久が看護師さんに着替えを手伝ってもらっている途中で飯田と轟が病室にノックもせずに顔を出してきて『す、すまない!』と言って即座に退散していった事があったからである。

所謂ラッキースケベであるが、まだ少し自覚がない出久は頭にハテナを浮かべていて、苦笑いの看護師さんに訳を教えてもらって顔を赤くしていたりした事があったからだ。

 

 

閑話休題

 

 

顔を出してみるとそこでは少しだけ深刻そうな二人がいた。

 

「二人とも、どうしたの? 顔が少し怖いよ?」

「緑谷。飯田なんだが診察が終わったところだが……」

 

少し言いずらそうな轟に、飯田は「いいんだ」と言って言葉を続ける。

 

「左手……後遺症が残るそうだ」

「そんな!?」

「ステインにかなりボロボロにされたんだが、特に左側がダメージが酷かったらしくてな……腕神経叢(わんしんけいそう)と言う箇所をやられたみたいだ。とはいっても多少の指の動かしづらさとか痺れくらいだから手術で神経移植すれば治る可能性があるらしいが……。

俺はヒーロー殺しを見つけた時に真っ先にマニュアルさんに伝えて指示を仰ぐべきだったんだ。でも、頭に血が昇ってしまいそれを疎かにしてしまった……。

奴は憎いが、それでも言った言葉は紛れもなく事実だった……俺は今はまだ偽物のヒーローなのかもしれない。

だから、俺が真の意味で本物のヒーローになるまでこの左手は残そうと思うんだ」

 

出久はその飯田の覚悟に、何も言う事が出来なかった。

だから代わりに、

 

「それじゃ僕なんかじゃ飯田君の支えになるか分からないけど、負担があったら手伝わせて……。そして一緒にヒーローを目指していこう?」

「緑谷君……」

 

その言葉に飯田は感動を覚えていた。

聞いていた轟はなぜか胸がムカムカするという初めての感覚を味わっていたが、それでも出久の言葉はいい事なので今は忘れることにした。

 

「あ、それとね?」

「「…………?」」

 

出久が改まってそう言葉を発する。

 

「面構署長と出会って、その、思ったんだ……僕も語尾に猫らしく『にゃん』とか付けた方がいいのかなって……」

「「ッ!?」」

 

出久のその少しだけ恥じらいのある言葉に二人は訳も分からない感情に襲われた。

そして轟と飯田の二人は口を抑えながらも話す。

 

「緑谷……それはやめておいた方がいい……何故かは分からないが、俺の理性が保てない気がする……」

「轟くんと同意見だ。俺もそれはやめておいた方がいいと思う。今まで通りの君でいてくれ……」

「そ、そう……?」

 

無自覚でそんな事を宣う出久に二人はたじたじになるしかできなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、グラントリノはオールマイトと電話で話をしていた。

ヒーロー殺しの件や、ヴィラン連合の事。

そして、

 

「俊典……もしかしたらお前の腹に穴をあけたオール・フォー・ワンが再び動き出したかもしれん。だから、健気にもお前を慕っているあの子にも時を見て、お前の事、ワン・フォー・オールの事、そしてそれに秘められた運命の事を話しておけ」

『わかりました……緑谷ガールが雄英に戻ってきたら話しておこうと思います』

「俺が言えるのはここまでだ。頑張りなさい」

『はい』

 

こうしてグラントリノとオールマイトの話は終わっていった。

 




結構話の内容に定番のネタやらを仕込んでみましたが、どうでしたでしょうか?
次回はやっと学校に戻れるかなと……。

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