【完結】猫娘と化した緑谷出久   作:炎の剣製

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更新します。


NO.045 フォウ:オリジン

まだ超常がこの世に認知される以前の時代の話。

一匹の猫はとある家庭の飼い猫として優しく育てられていた。

ただ、一つ異常があったとすれば……その猫は普通なら生きても十年前後くらいだろう猫の寿命を圧倒的に過ぎているというのに、飼い主が猫を育て始めたのはまだ十にも満たない年齢の時なのに、猫は飼い主が30歳になる頃まで死なずに生きていた。

 

『お前は長生きだね……』

 

飼い主はそんな猫の事を不思議に思いながらも、それでもいつまでも一緒にいてくれることに対して幸せを感じていた。

だが、幸せな時間は次第に薄れていった。

飼い主が40歳を過ぎた頃には髪の色は白髪になっていて、病に侵されて床に伏せるようになってしまった。

猫はそんな飼い主を気遣いながらも、同時にともにいる時間が増えていって余計に甘えていった。

だが、加速するように飼い主の顔がどんどんと老けていく現状にさすがの猫も疑問を覚えていた。

飼い主の顔はもうおばあちゃんと呼べるほどに老けてしまっていたのだ。

 

『どうしたんだろうね……こんなに老けちゃって……ゴホゴホ……』

 

飼い主は結婚をしていなかったために介護をしてくれる伴侶や子供もいなかったので、残り少ないお金を削りながらも、それでも猫と静かに過ごしていった。

そしてついに飼い主は死亡してしまった……。

死因は老衰であった。

猫はそんな死んでしまった飼い主の死に悲しんだ。

だが、それと同時に猫は己の身体の変化を感じた。

身体に力が漲ってきて、不思議な力が使えるようになり、気づけば尻尾が二股に分かれていた。

そう、猫は長年生きた事で妖気を持って『猫又』という怪異になったのだ。

さらには己の力の源に気づく。

猫の原初から持っていた能力は『生命力を奪う』ものだったのだ。

それゆえに飼い主は生命力を知らず知らずのうちに猫に少しずつ奪われていって早くに死んでしまったのであった。

その事を知った猫は当然、己の力を呪った。

 

それからは猫は野良猫になって一人で生きていく事を決めた。

だが野生の暮らしは今まで温室育ちだった猫にはつらいものがあった。

当然縄張り争いに巻き込まれて時には同族の猫に襲われる事もあったし、酷い時には人間に殺されそうになった時もあった。

それゆえ猫は自衛の手段として接触してきた悪意ある者達の生命力を奪い取り、行動不能にして逃げる事を繰り返していた。

それが幸いしてか猫は老けと言うものには無縁だった。

今まで奪ってきた生命力が猫の中に渦巻いていて猫を生かそうとして、時には傷を負った時には自動的に生命力を使ってすぐに傷が治っていった。

 

しばらくして猫はこのままではだめだ。

奪うだけでは罪を増やすだけだと感じたために他の自衛手段を会得するために今まで使い道が分からなかった妖気の使い方を自己で研鑽することにした。

 

 

時には他の猫とも自在に話せるように猫語を覚えた。

時には五感を妖気で強化してどんな事態にも対応できるようにする術を覚えた。

時には爪を伸ばす事をしてさらには妖気を纏わせて硬質化する事を覚えた。

時には逃げるスピードを上げるために足に妖気を纏わせて脚力を強化する術を覚えた。

時には体全体に妖気を纏って怪力の能力を覚えた。

時には妖気を喉に貯めて思いっきり叫ぶ事によって衝撃波を発生できる事を覚えた。

時には冬の寒さを凌ぐために妖気を使って炎を出せるようになる事を覚えた。

時には自身より大きいものと戦うために変化の力を覚えた。

 

 

……………気づけば猫は『生命力を奪う』能力以外にもたくさんの妖術を覚えて立派な怪異、猫又として成長していた。

猫の年齢はすでに百歳は越えていたために、人間の世界では都市伝説になるくらいには有名な猫として名を馳せていた。

時々、道に迷い込んだ人間を驚かしてはちびちびと生命力を奪う程度はもう猫の中では常識となってしまっていた。

それでも自分のせいでもう時間が経過して顔も思い出せない程になってしまった飼い主のように老衰で死なれては困るのでやり過ぎないように調整できる術を覚えていた。

 

猫はもう一人でも生きていけるので、短い寿命で先立たれるので猫の仲間も作らずに孤高に生きてきた。

 

 

 

そんな事を繰り返していったある時、世界は超常という現象に見舞われた。

次々と能力を開花させて『個性』を宿す人間たちを見ながらも、猫は思った。

 

『なんで人間達はこんな状況で手を取り合えずに争う事をしてしまっているのか……』

 

と。

そんな事を思っていた時に猫の身体にも変化はあった。

そう……妖気が使えなくなってしまったのだ。

なぜ? どうして?

猫の疑問は尽きなかった。

だが、同時に猫はまた悟った。

己の能力であった、

 

『生命力を奪う』

『それに伴う自動回復(オートヒール)

『猫の言葉を理解できる』

『五感強化』

『爪の伸縮自在』

『爪の硬質化』

『脚力強化』

『怪力』

『叫ぶ事による衝撃波』

『炎術』

『変化』

 

これらすべての『妖術』が『個性』へと置き換えられている事に気づいたのだ。

こうして猫は複数の個性を操る特異な体質へと変化したのであった。

だからといって猫は生き方を変えるつもりはなかったために、多少手強くなった個性を持つ人間にもめげずに立ち向かっていった。

当時の個性持ちはそれでも自在に操れるほどに熟練していなかったために能力を自在に操れる猫にとっては毛が生えた程度の認識であったのだ。

襲ってきた時にはまた返り討ちをする事を繰り返していたが、それはある時を境に終わる事になった……。

 

『ほう……動物なのに複数の個性を宿した存在か。面白いな……』

 

突然現れた『化け物』の存在に猫はあっという間に無力化されて、首輪を付けられてしまった。

そして動物の言葉も理解できる個性を使っていた化け物にとある提案をさせられる。

 

『君を殺しはしない、個性も奪わない……代わりに妥協案を出そう。君の個性の一つである『生命力を奪う』個性で私に逆らうもの、屈服しなかった者の個性を私が奪った後に、君が生命力を全部吸いなさい』

『全部って……それじゃ死んじゃうよ! それにそこまで一気に吸ったことは無いから……』

『ふむ……奪える量にも限界はあるんだね? それならこの個性を上げよう』

 

化け物は猫に触れて、とある個性を与えた。

その個性とは『許容量(キャパ)限界を無くす』というもの。

これによって猫はどこまでも強くもなれるし、どれだけ生命力を吸っても限界はない力を得た。

 

『さぁ…………ともに永遠に生きていこうか』

 

化け物の甘い言葉に、逆らったら個性を全部奪われて殺されると野性的直感で悟った猫は従う他なかったために屈服してしまった。

それから長年の間、猫は化け物の右腕として飼いならされていった。

時に化け物に逆らった人間を猫は生命力を全部奪い、灰となって消えていく光景を見ながら『ごめんなさい、ごめんなさい……』と自己嫌悪を感じながらも行った。

そして時間はあっという間に過ぎて行って、猫は己の事を化け物と呼んでいた男と同じ『化け物』なんだと今更に悟って、もう引き返せなくなってしまった。

 

 

 

 

 

……………どれだけ時間が経過したか分からない時に、一人のヒーローが化け物の男の部下達を次々と倒していって、そのどさくさに紛れて猫も久しぶりの自由を得る。

そして逃げる前に見た。

ヒーローの男性が負傷を追いながらも化け物と呼んでいた男を倒す瞬間を。

それを見届けて猫は、

 

『さよなら……』

 

と言ってまた雲隠れした。

だが、そこから猫は己の存在がいかに異常なのかを悟る事になる。

数多の人間の生命力を奪ってきた猫は死にたくても死ねなくなってしまったのだ。

一人の人間から奪える生命力は成人していれば普通に生きるのならば70歳以上は生きるであろう生命力を全部奪うのだ。

大体20代から30代くらいの人間……しかも超常黎明期からずっと奪っていたためにゆうに千人以上くらいは奪っていたために普通に換算しても猫の寿命は一万歳くらいはあるだろうか……?

だから、時には車に自ら飛び込んで死を望んでも勝手に身体が修復されてしまった。

ならばと思い、炎に飛び込んで塵になればと思い、結果は塵からでも不死鳥のように復元されてしまったのだ。

まさに呪いである。

お前はそうしてずっと生き続けるんだ……と、今まで奪ってきた人たちの声が聞こえてくるようで……。

猫は生きる事に疲れて、でも死ねないからどうしようもない事のジレンマで、もうゆっくりと誰とも関わらずに生きていこうと……ひっそりとした古い神社に身を潜めていた。

 

 

だが、そんな時に一人の人間が猫に話しかけてきたのだ。

 

『君、どうしたの?』

 

少年……緑谷出久は猫に話しかけてきたのだ。

普通なら尻尾が二股に分かれている猫など不気味だろうに出久は恐れもせずに話しかけてきたのだ。

なるべく関わりを持ちたくなかった猫は爪を伸ばして出久を威嚇する。

だが、出久はそんな事にも動じずに、

 

『怖がらないで……僕は君をイジメないから』

 

ホッとするような笑顔を浮かべて出久は猫に話し続けた。

それも毎日。

さすがに猫も何度も来られてはといい加減出久を受け入れることにした。

幸いもう自在に個性は操れるので生命力を奪う事をしなければいい……。

そうして出久はやっと受け入れてくれた猫に笑みを浮かべて、

 

『それじゃ君に名前を付けてあげるね!……そうだね、鳴き声が『フォウ』って鳴くから『フォウ』なんてどうかな?』

『フォウ!』

 

なぜか猫……フォウは素直に受け入れていた。

なぜかって……そこではるか昔の飼い主の事を思い出していた。

もとの飼い主もそんな事を言って自分の事を『フォウ』と名付けていたっけ……と言う思いであった。

それでフォウは久方ぶりの癒しを出久に感じていたために心が癒される気持ちであった。

そんな関係が続いていく中で出久が毎日語る。

 

『今日はかっちゃんがね!』

『すごいんだよ、かっちゃんって!』

『かっちゃんはね!』

 

と、飽きることなくかっちゃんかっちゃんと楽しそうに話す出久を見てフォウは少しの嫉妬と羨望を抱くようになった。

それでもフォウは出久に抱きつく事でその感情を忘れるようになるくらいまでは出久になついていた。

 

 

 

 

……そして、運命の日。

いつも通りに出久がフォウのいる神社にやってきて、生命力が溢れているので食べる必要はないけど、それでも持ってきてくれた食べ物を食べている時だった。

一人のヴィランが現れて、そして結果……出久は重傷を負ってしまう……。

 

病院に運び込まれた出久を追うフォウはそこで今にも死にそうな出久の姿を見て、

 

『奪う事は出来るのに……いざこういう事態になったら助けることが出来ないなんて……』

 

と、出久の上で涙を流した時だった。

その時に初めてフォウは己の中にある力を悟る。

超常が発生して、もとからあった力以外にも新たにフォウに『個性』が宿っていたのだ。

その個性は『与える』という抽象的で曖昧な個性。

 

『なんでもいい! イズクを助けることが出来るならなんでもする!』

 

その願いが届いたのか分からないが、『与える』個性が発動したのだ。

だが、初めて使う力だったために暴走を起こしてしまった。

そして、フォウは結果……全生命力、全個性……己の魂さえも出久に与えてしまったのだ……。

出久の一部になったフォウは悟る……。

己の呪いを出久に引き継がせてしまった事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これが、私のすべて……ゴメンねイズク……ゴメンね!』

『フォウ……』

 

フォウの過去を追体験した出久は一時言葉を失っていたが、そこである事を思いつく。

 

『そんなに卑屈にならないで、フォウ。それにせっかく助けてくれたのに文句なんて言えないよ』

『でも……』

『それに……なら僕もフォウの償いを手伝うよ』

『えっ?』

『今まで奪ってきた生命力は僕の身体を治す事にも使えるけど、『与える』個性で人助けもできるんだよ?』

『で、でも……制御を誤ったら私と同じ事になっちゃうんだよ!?』

『うん。だからフォウは制御を手伝ってほしいんだ……二人で『与える』個性を制御すれば失敗なんてきっとない! いつ使い切るかは分からないけど、それまで一緒に生きていこう?』

『イズク!!』

 

もうフォウは泣いていた。

もし体があったら盛大に出久に抱きついている事だろう。

出久はフォウを非難する事も出来ただろう。

だが、それも踏まえてフォウの償いの手伝いをしていこうと決めた瞬間だった。

 

 

 




これにて出久(フォウ)の個性は全部出揃いました。


『生命力を奪う』
『それに伴う自動回復(オートヒール)
『猫の言葉を理解できる』
『五感強化』
『爪の伸縮自在』
『爪の硬質化』
『脚力強化』
『身体強化・怪力』
『叫ぶ事による衝撃波』
『炎術』
『変化』
許容量(キャパ)限界を無くす』
『与える』
『ワン・フォー・オール』


オールマイトだけでなく、オール・フォー・ワンとの繋がりも出来てしまいました。


鬼太郎のすねこすりから着想を得て今回の話が決まりました。


どうだったでしょうか……?少し強くしすぎましたかね?
呪いとも言える力ですから出久からは奪う事はしないでしょうけどねぇ……。

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