三日目の強化合宿。
それもなんとか乗り越えて一同は一息ついていた。
本日の全員で作る料理は肉じゃがである。
そんな中で爆豪は無言で野菜を捌いている。
なにやら昨日から近寄りがたい雰囲気であった爆豪に、空気を読んでか話しかける人は少なかった。
事情を知っている麗日・飯田・轟も機を見計らっているがどうにもうまくいかない。
「そ、その……かっちゃん」
だが出久だけは勇気を振り絞って率先して爆豪の隣にまな板を持って行って野菜を切り出していた。
「…………デク、なんだ?」
「その、昨日の件なんだけど……」
「…………」
そう切り出したはいいモノの爆豪はさらに鋭い表情になって野菜を切る速度を上げだした。
恐らくさっさと野菜を全部捌いてこの場から立ち去ろうとしているのだろう。
「聞いて、かっちゃん!」
それを出久も感じてか大声を張り上げる。
そしてそれを見ていた事情を知っている三人は固唾を飲んで見守っていた。
「ぼ、僕はかっちゃんの事……嫌っていないから! 洸汰君との件もきっとなんとかするから……だから!」
「…………分かったよ」
消え入りそうな声で爆豪はそう答えて野菜を切り終えたのか調理班に渡してその場を立ち去って行った。
そんな爆豪を出久はただ見送ることしかできなかったが。
「デクちゃん! その、なんと言えばいいか分からないけど、爆豪君とも話ができてよかったね。爆豪君もなんとか返事はしてくれてたし……」
「うん……」
「元気を出したまえ。いつもの元気がいい緑谷君の方がいいと俺は思うぞ」
お茶子と飯田がそう言って出久を慰めていた。
一方で轟は事情を知らない面々に対して説明をしていた。
「おい轟。緑谷と爆豪、なんか喧嘩でもしたのか……?」
「喧嘩っていうには微妙だけどな……まぁ、時間が解決してくれるだろうな……」
「まあ……それは大変ですわ。わたくしも後で緑谷さんに事情を聞いてみますわ」
「頼む」
そう言って轟も爆豪が歩いて行った方へと視線を向けて、
「(爆豪……あんまり緑谷に心配をかけんなよ……)」
と、思っていた。
まぁ、そんないざこざがあったが食事時には爆豪もいつの間にか帰ってきていたので一同はなんとか安心はしていたのだが、他の問題もあった。
「洸汰君……またいない。あそこにいるのかな……?」
食事時に洸汰の姿がなかったために出久は心配をしていた。
少し時間が経過して、食事も終わり、後片付けも終わったために、一同は広場に集合していた。
理由はというと……、
「お腹も膨れたし、洗い物も終わった。後は……」
「肝を試す時間だー!!」
芦戸が嬉しそうにそう叫んだ。
少し時間を遡ってB組の物間だけが食事後にブラドに連れてかれる光景を見て不思議に思ってもいたが、今はそんなことも忘れてはしゃぎにはしゃぐ。
だが、そこは雄英……そんなに甘くはなかった。
「あー……その前に大変心苦しいのだが、補習連中は……今から俺と補習授業だ」
「ウソだろ!?」
それはもう目が飛び出るのではないかと思う程に芦戸以下補習組は叫び声を上げて、だが相澤に問答無用で縛られて連行されていった……。
ただひたすらに「堪忍してくれ試させてくれぇぇぇ……」という無念の叫びが響いたのであった。
こうして芦戸、切島、瀬呂、上鳴、砂藤の五名は退場していった。
そんな光景を見て残念に思う残りのみんなも五人の分も楽しもうと肝試しの説明を受ける。
ただ、普段賑やかな面子が抜けたために空気が神妙になっているのには目を瞑るしかない。
常闇なんかは何度も「闇の狂宴……」と呟いている。
プッシーキャッツの面々から少し汚い説明を終えて、そして行われる班分けのクジ引き。
結果は……、
一番・常闇踏陰&障子目蔵
二番・飯田天哉&轟焦凍
三番・耳郎響香&葉隠透
四番・八百万百&青山優雅
五番・蛙吹梅雨&麗日お茶子
六番・口田甲司&尾白猿夫
七番・緑谷出久&爆豪勝己
八番・峰田実
「なんでおいらだけ一人なんだよーーーーーー!?」
あゝ無常。峰田は渾身の男泣きをして地面に膝をつき何度も地面を叩いていた。
「クジ引きだから……誰かこうなる運命だから……」
「同情するなら女子をくれッ!!」
「ええーーー……」
尾白の慰めも、すでに血涙になっていた峰田には通用しなかった。
そんな一場面とは打って変わって、
「飯田とか……」
「なにかと縁があるようだね、轟君」
「あぁ……。まぁそれはいいんだが、不安って言えば不安な組み合わせもあるもんなんだな……」
「そのようだね」
飯田と轟はとある方を見る。
そこではバツが悪そうな顔をしている爆豪と、おどおどしていて猫耳と尻尾も垂れ下がっている出久の姿があった。
飯田と轟の胸中ではできればともに出久と一緒に組みたいという気持ちも少なからずあったが、それでも今現在の出久と爆豪の状況を鑑みるに良い事なのかもしれないと何も言わずに引き下がっている。
「あ、あの……かっちゃん……その、一緒になれて、嬉しいな……」
「あぁ……」
依然厳しい顔つきをしていた爆豪であったが、胸中では反対に「いよっしゃー!」と叫びを上げていた。
素直になれないお年頃なのである。
そしてそんな爆豪の胸中などお見通しとばかりにお茶子が少し怖い顔をして爆豪の肩を掴む。
「爆豪君……」
「ん?……うぉっ!?」
「デクちゃんに、なにかあったら、許さないからね……?」
「お、おう……」
さすがの爆豪も素直に返事をした。
いつも以上に威圧感のあるお茶子の笑みには逆らえなかったのである。
「ケロ。お茶子ちゃんも素直じゃないわね……」
蛙吹は一人呆れていたりした。
そんな組み合わせの中で肝試しが開始されて一組、また一組と森の中に入っていく。
B組のドッキリがかなり効いているのかいくつもの悲鳴が森の奥から響いてくる。
そして蛙吹とお茶子の組が入っていった後の事だった。
異変は静かに訪れていた。
なにかが焼けて焦げてるような臭いがすると思ったら森の奥から黒い煙が立ち上っているではないか。
そしてその異変は主に脅かす方のB組と中に入っていったA組の生徒達が一番被害にあっていた。
有毒の煙を吸って倒れる複数の生徒達……。
混乱する現場……。
そして、静かに狼煙を上げたヴィラン達。
「さぁ、始まりだ……地に堕とせ。ヴィラン連合……“開闢行動隊”!!」
荼毘は次々と森の木を青い炎の個性で燃やしながらもそう宣言した。
そしてまだ出発していない組とプッシーキャッツの虎とマンダレイは、何かの力で引き寄せられてしまい、殴打を受けて気絶してしまったピクシーボブとそれを引き起こした人物を見て表情を引き攣らせる。
「なんで……万全を期した筈なんだろ!? なんで……なんでヴィランがいるんだよぉ!!?」
峰田の叫びが全員の思いを代弁していた。
そして即座に出久の脳内では洸汰にも危機が迫っているかもしれない!という思いだった。
洸汰の秘密基地の方角へと振り向いて、
「―――――……!!(洸汰君!!)」
こうして楽しい行事になるはずだった肝試しは最悪の戦場へと変貌してしまったのであった……。
順番はこんな感じにしました。
やっぱり出久を先に向かわせると洸汰はほぼ間違いなくマスキュラーに殺されるので無難な組み合わせでしたね。