【完結】猫娘と化した緑谷出久   作:炎の剣製

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三日連続で更新します。
思いついたらもう執筆が捗っていた。


NO.078 走馬燈

 

 

 

『出久! おめぇ本当になにもできねぇな!』

 

「(あ……?)」

 

爆豪の意識は突然の過去の光景を見せられて覚醒した。

しかし体どころか手足すら動かせない、視界も暗い中で脳内に過去の光景だけがぼんやりと連想されていく。

 

『出久ってデクって読めるんだぜ?』

『かっちゃんすげー! 字読めるの?』

『読めねーの……?』

 

「(おい……やめろ……)」

 

爆豪は過去のそんな自分の犯した過ちを見せられて目を逸らしそうになる。

だが過去の映像はどんどんと進んでいく。

 

『んで、デクっってのは何もできねぇ奴なんだぜ!』

『やめてよー……』

 

出久がそれで泣きそうな表情になっていたのに、自身ときたらそんな視線に気づこうとも、気にもしなかった。

この時からすでに爆豪の出久いじりが始まっていたのだ。

 

『かっちゃんの“個性”、かっこいいなー。僕も早く出ないかなぁ……?』

『どんな“個性”が出たって俺には敵わねぇよ』

 

「(…………)」

 

まだこの時は出久の個性診断の結果が出ていない時だったから仲は良かったと思う、と爆豪は無言でその光景を見ていた。

そしてついにその時が来た。

 

『デクって個性がないんだって』

『ムコセーって言うんだって』

『だっせー』

 

同じ年代の子達がショックを受けている出久の事をバカにしていた。

そして幼少時の爆豪自身も出久の事をバカにしたような視線を送っていた。

さらにはこう思ってしまった。

 

《デクがいっちゃんすごくない》

 

それが拍車をかけて幼少時の爆豪は出久の事を本気でバカにしだす。

そして次第にいじめにもなりうるキッカケとなった出来事。

幼少時の爆豪が川に落ちた時だった。

普通に平気だったのに、出久はこう言った。

 

『大丈夫? 立てる?』

 

それが無性に幼少時の爆豪のプライドを抉った。

それからというもの爆豪は出久にきつい言葉をかけるようになっていった。

何度も出久を痛めつける光景が過ぎていく。

それでも出久は何度も爆豪の後ろをついてくる。

 

「(当時は鬱陶しかった……でも、デクからしたら必死だったんだな……。表情を見れば分かる。こんなクソガキな俺の事を見切りもせずに憧れ続けていてくれた……。なのに、俺は自分本位でそんなデクの視線にも気づこうともしなかった……)」

 

そんな拗れた一方的な関係が小学五年生まで続いていた時に爆豪は出久の事が少しわからなくなっていた。

無個性で迫害を受け続けていたのに、それでも学校にはしっかりと登校してきて毎日爆豪に「おはよう」と言ってくるのだ。

 

なんでそこまで平気でいられる……?

 

当時そう思っていた自分を殴ってやりたいとその映像を見ていた爆豪は思った。

 

「(そうだよ……。平気なわけがねぇ……ふとした拍子で折れてもおかしくなかったんだ……なのに、俺ときたら気づこうともしなかった……)」

 

そして場面は爆豪の心にトラウマを植え付ける事になる光景にやってきた。

出久がどこか古臭い神社にやってきていた。

そんな出久の事を陰から見ていた爆豪は出久とその猫とのやりとりを見ていただけだったのに、いきなり巷で噂になっていたペットなどを殺す猟奇殺人犯のヴィランが出久の前に現れる。

 

「(やめろ……見せるな……)」

 

映像の中では爆豪は陰で隠れて恐怖から震えているだけだった。

なのに、出久はそんなヴィランに猫を守るように立ち向かっていった。

爆豪は助けることもできたのに出久が切り裂かれていく光景をただただ恐怖で見ているだけだった。

 

「(見せるな! たとえ個性の影響だからってみじめな姿の俺を見せるな!!)」

 

だが、映像は止まらない。

ヴィランは立ち去った後には血まみれの出久の姿。

陰から出てきた爆豪はそれはもうみじめな表情をして呆然としていた。

その後に少しして助けを呼ぶ事ができたが、それでも助けられなかったという後悔がまだ少年の爆豪の胸を占める。

そしてトラウマとなって出久が傷つく光景を見れなくなった……。

 

「(見せるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)」

 

絶叫するもまた映像は続いていく。

出久はフォウのおかげで助かったものの、爆豪はそれからは出久と少し距離を置くようになった。

それでも脳内では安心もしていた。

無個性なんだから出久が傷つく光景なんて見ることはないだろうと……。

 

そして中学二年生になった。

進路希望の時だった。

まさか出久が雄英高校を志望していただなんて思ってもなかったために、

 

『デェクゥゥ!? なぁに考えとんじゃ!? 無個性のお前がヒーローになるだと!』

『そ、そうだよかっちゃん。僕も……やってみなきゃわからないだろ!』

『……そうかよ。まぁ前にお前が助けそこなったあいつみたいになるのが関の山だと思うがな』

『ッ!!』

 

「(なに、口走ってんだ俺……あの猫を助けた時のデクはまぎれもなくヒーローだったのに……バカかよ!? デクの表情に気づけよ!!)」

 

映像の中の出久の表情はとても必死だった。

捨てきれないヒーローになりたいという出久の儚い夢。

だというのに、

 

『諦めろデク。お前じゃ誰も救えねぇ……それに、またあんな思いはしたくねぇだろ……?』

 

追い打ちをかける爆豪。

 

「(なんでだよ! もう救っていたっていうのに……俺は目を逸らしていた……)」

 

そしてある意味運命の瞬間。

 

『何でてめぇが!! っていうかなんだその姿!?』

『なんでって……君が助けを求める顔をしていたから!!』

 

周りのヒーロー達が相性の悪い個性だと、助けが来るまで待とう、と傍観している中でまだ無個性だと思い込んでいた出久が爆豪のもとへと無謀にも駆けてくるそんな姿。そして個性が発動して駆けてくる中で性転換していく出久。

客観的に見て分かる。

本当にあの時、体が勝手に動いていたんだ、と爆豪は感じた。

 

「(デク、お前は本当に……)」

 

そして流れていく雄英高校での生活。

個性把握テスト……。

戦闘訓練……。

放課後の宣言……。

USJでの自身の出久が脳無に傷つけられてトラウマを刺激されて暴走してしまった光景……。

雄英体育祭……。

職場体験でベストジーニストの手によってトラウマの原因を探ってもらった時……。

出久の口から教えてもらった真実……。

期末試験で協力してオールマイトに立ち向かった事……。

そして……、

 

 

最後の光景はヴィランによって腕を飛ばされてしまい、出久と洸汰がすごい泣きそうな顔になって叫んでいる光景……。

そして訪れる闇……。

 

「(これが走馬灯って奴だったのか……? 俺は、死ぬのか……?)」

 

そんな自分の事なのにどこか他人事のように感じている浮遊感。

走馬灯が終わったことでどんどんと眠気が酷くなってきて、とうとうヤバいと感じた時だった。

 

『かっちゃん!』

「(ッ!!)」

 

出久の自身を呼ぶ声とともに様々な表情が濁流のようになって爆豪の脳内に流れ込んできた。

それで薄くなってきていた意識が急激に再び覚醒した。

 

「(そうだ! こんなところでくたばってる場合じゃねぇ! 俺が死んじまったら絶対デクは泣く! 俺はデクが傷つく光景を見たくないからデクが無個性だったのをどこかで安心していた……、でももうデクは無個性ではなくその身にとてつもない運命を背負っちまった。誰かが支えてやんねーといけねぇ!!)」

 

その思いとともに爆豪は叫んだ。

 

「(こんなところで終われねぇよ!! 終わってたまるかーーーーー!!)」

 

 

 

―――……瞬間、爆豪の脳内でなにかが『カチリッ!』と音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――……ちゃん! ………ちゃん!」

「―――の、……ちゃん!」

 

どこかで誰かが何度も自身に向けて叫んでいる声を聞き、爆豪は重たい瞼をなんとか開けた。

そして映った光景は大量の大粒の涙を流しながらも自身の千切れた右腕と肘部分をなんとか個性で治そうと必死の表情になっている出久の姿だった。

洸汰も隣で必死に事態を見守っている。

 

「…………()()……」

 

爆豪の口から『デク』ではなく『出久』という言葉が漏れて、出久と洸汰はハッとした表情で爆豪の顔を見てくる。

 

「かっちゃん!」

「爆破の兄ちゃん!」

 

二人はとても嬉しそうな顔になっていたのは言うまでもない。

 

「俺は……」

「かっちゃん……よかった……でも、まだじっとしてて……。まだ腕がなんとか繋がっただけで神経とかは復元ができていないから……」

「ああ……それで……」

 

爆豪はまだ肘から先が感覚がないのをそれで悟った。

 

「……というか、復元って、なにげにすげぇな……。それとあのクソ野郎は……」

「なんとか倒せた……ついカッとなっちゃって本気の大猫モードで捻りつぶしちゃった……」

 

アハハ……と泣きながらも苦笑いの出久。

爆豪はそれで顔を傾ければ白目になって壁に埋まっているマスキュラーの姿が映った。

 

「そうか……出久……すまねぇな、役に立てないで……」

「そ、そんなっことないよ!……それよりも、さっきから……その……なんで名前で呼んでくれるの……? 嬉しいけど……」

「なんでだろうな……まぁそんな事は今はいいじゃねーか……」

「そ、そう……?」

 

爆豪はなんとか笑ってごまかしまだぼんやりとしている頭でそう言葉を零すだけであった。

そんな爆豪の普段とは違った珍しい態度に出久はただただ顔を赤くするだけであった。

 

「…………ケッ」

 

そしてそれを見ていた洸汰は子供心になにやらもやもやするものを感じていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――この時、爆豪は……自身に個性とは別に未知の力が宿った事にまだ気づかないでいた。

自覚するのはまだ先の事である。

 

 

 




うっわぁ……ベッタベタな展開。でも悪くない。
マスキュラー、ごめん……。
蛇足でもマスキュラー視点書いた方がいい?

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