オールマイトに「逃げなさい」と言われた
「……これで、よかったんだよね? イズクがこれ以上私のせいで辛い目に合わないために……。私の判断は間違っていなかったんだ……」
自分自身にそう言い聞かせて
そんな時だった。
その場に爆豪達が駆けつけてきた。
「出久!!」
「デクちゃん!!」
「……? あれ、なんで……」
それはそうだろう、個性訓練の施設から相当距離が離れていたのだから。
さすがに八百万の個性のおかげとは分からなかった。
「緑谷君! 無事だったんだな!」
「待て、飯田。…………お前は、緑谷じゃねぇな?」
轟の言葉に全員がハッとする。
「さっきのオールマイト達の言葉数を聞かせてもらっていたが、お前は緑谷じゃなくて、緑谷のうちに個性と一緒に宿る『フォウ』なんだな……?」
まさか先ほどの会話をこの六人に聞かれていたとは……。
自身の事なら別にばれても構わないのだが、ワン・フォー・オールの事もつまりはバレた事になる。
出久が後々苦労しそうなある意味厄ネタだろう。
それでどう返事を出そうか迷ったが、すぐに
「そうだよ。私はフォウ。イズクに宿っている意思だよ」
「そうか……、いま、緑谷はどうなっている……?」
「安心して。まだオール・フォー・ワンの洗脳の縛りが完全に解けていないから意識は覚醒していないけど、そろそろ目覚めると思う。私もイズクが目を覚ましたら内に引っ込むよ」
「そうか……」
それで全員は一応は安堵の表情を浮かべるが、そこで爆豪が新たな質問をする。
「それで、てめぇはこの件については出久に教えるのか……?」
「うーん……できれば隠しておきたいけど、きっといずれは知っちゃうと思うから、だから私の代わりにみんなが教えてあげてくれない? 何も知らずにいつの間にか解決していました、じゃイズクも納得しないと思うから」
「だろうな……まぁいいが。それと、もう一つだ。出久は、オールマイトの個性を引き継いでいるっていうのは本当の事なのか……?」
「そこも、聞いていたんだね……。うん、そうだよ」
「なんで、出久はその事を俺達に教えてくれなかったんだ……?」
「そうだぜ! 教えてほしかったよ!」
切島もそこで声を上げるが、一回
「それは、難しかったんじゃないかな……。この際だから話しちゃうけどこの『ワン・フォー・オール』という個性は私とは違って、オール・フォー・ワンの兄弟の人からイズクまで八代に渡って受け継がれてきたオール・フォー・ワンという脅威を倒すための力だし、今まできっと信頼を置ける人以外は秘密にしてきた力だと思うから。実際、イズクもオールマイトに『絶対に言ってはいけない。狙われるからな』と言われていたしね」
「そんな個性があるなんて……」
「驚きの内容だな」
「デクちゃんはそんな秘密を抱えていたんやね……」
全員がそれで出久の背中に背負わされている力と覚悟を悟る。
それを感じたのか
「できればイズクが起きても怒らないであげて……。そしてできればこの件に関しては今この場にいる全員の胸の内だけにして誰にも話さないで。ただでさえ私の個性でイズクはこれから大変な思いをするはずだし、この事まで世間に知らされちゃったら余計に今回みたいに狙われる事になっちゃうから……」
「…………ああ。わかったよ」
爆豪もそれでこれからの出久の苦労を考えて頷いた。他の五人も。
それを見れたのがよほど
「お願いね。あ、イズクがそろそろ目覚めるから私は内に引っ込むね」
そう言って
しばらくして目が開かれると瞳の色は緑色に戻っていた。
そして、
「あ、あれ……? ここは……あ! かっちゃん! それにみんなも! なんでここにいるの!? 僕は捕まっていたはずじゃ……」
そんな、どこか抜けた反応をしている本来の出久の姿を見れて全員はまたしても安堵の表情を浮かべる。
「デクちゃん!!」
我慢できなかったのか、お茶子が涙を流しながらも出久に抱き着く。
「麗日さん……ごめんね。なんか、心配かけちゃったみたいで……」
「いいんだよ……。デクちゃんが無事ならそれだけで……」
「うん……」
それを皮切りにして爆豪も含めて全員が出久に寄り添っていった。
しばらく話をしていって、フォウについて出久に話した。
「そっか……フォウが助けてくれたんだ……」
「ああ。それと今、オールマイトがてめぇを攫った奴らの元凶と戦っている……」
「オールマイトが!?」
それで慌てた出久はみんなとともに戦いが中継されているところまで急いで向かった。
そして、そこに映されている光景に絶句の表情になる。
そこにはボロボロの姿になっているオールマイトの姿があったのだ。
少し時間は遡って、
「俊典!!」
「ッ! グラントリノ!」
そこにグラントリノが遅れて駆けつけてきた。
そしてまるで暴走しているように力を溜めているオール・フォー・ワンの姿を見て、
「……どういう状況だ? あのオール・フォー・ワンのイカレ様はなんだ……? 手短に教えろ」
「はい」
オールマイトは先ほどまで行われていたオール・フォー・ワンと
そして、
「そうか……。小娘は無事って事でいいんだな?」
「ええ」
「しかし……それでオール・フォー・ワンはああなっちまうなんて、哀れな姿だな」
「ええ。ですからここで決着を付けなければいけません」
「そうだな。俊典、まだ限界は来ていないな……?」
グラントリノはそう聞く。
まだ限界は来ていないとはいえ、一応は体が治っているオール・フォー・ワンを相手にするのだ。
それなりに保ってもらわないと困る。
オールマイトは笑みを浮かべながら、
「多少は大丈夫でしょう。感覚としましてはもうそれほど時間もないでしょうが、それでもオール・フォー・ワンだけでも倒します」
「そういう事を聞きたいわけじゃねぇんだがな……まぁ、いい。俊典、気ぃ、引き締めていくぞ!」
「はい!」
そして二人はオール・フォー・ワンを見る。
力を溜めていたのがようやく完了したのか、
「オールマイト!! 貴様を、この手で、葬る!! 僕の個性で!!……いや、僕の個性はなんだ? どう使えばいい? ええい、鬱陶しい……どんどんと知識が欠落して零れ落ちていくようだよ……。だが、これだけでも貴様に忘れる前に伝えなければいけないなぁ……!!」
「なにを……ッ!?」
「貴様が先ほど会っただろう死柄木弔はなぁ、志村菜奈の孫だ!」
「ッ!?」
それを聞いてオールマイトは一瞬にして表情を凍らせる。
グラントリノも顔を真っ青にしている。
死柄木弔が先代ワン・フォー・オールの継承者であり、オールマイトの師匠でもある『志村菜奈』の孫だという真実に……。
「う、嘘を言うな!!」
「今の僕の現状を鑑みて嘘を言える状況だと思えるかい……?あっ……そもそも、志村菜奈とは……死柄木弔とは……誰だ……? 僕にとって、どんな人なんだ……?」
「オール・フォー・ワン……」
オール・フォー・ワンはもう死柄木達の事でさえ、つい先ほどまで覚えていたのに記憶から欠落してしまったようだ。
これでもう改めて確かめる事が不可能になってしまった。
まだまだオール・フォー・ワンしか知らない真実がいくつかあるであろうが、もういずれは記憶をすべて欠落する運命にある彼には聞けようがない。
「ああっ! もう、どうでもいい! オールマイト! 貴様を倒せれば僕にとって他の事なんて些細な事なんだ!! 行くぞ!!」
オール・フォー・ワンらしからぬ自ら特攻をしかけてきたのだ。
それでまだショックが抜け切れていないオールマイトは素直に個性で強化された拳を頬に食らって吹き飛ばされてしまう。
「俊典!? ええい、今は真偽を確かめることも不可能なんだ! とりあえずはこの脅威を退ける事しかできないとは……!」
オール・フォー・ワンに個性による蹴りを見舞うグラントリノであったが、それもなにかの個性で防がれてしまう。
「無駄だよ! 僕は誰にも倒せない! さぁて、どの個性を使おうかな?……何が使えるのかな?……まるでビックリ箱だね。自分ですらなにを使うか判断できない」
「オール・フォー・ワン!!」
そう言いつつオール・フォー・ワンはなんとか立ち上がって向かってくるオールマイトに向けて無茶苦茶に色々な個性を使ってオールマイトを傷つけていく。
「ぐぁっ!?」
「ぐぅう!!」
それでまたしても吹き飛ばされる二人。
そしてオール・フォー・ワンは手をかざして、
「これは、使えるかもしれないね……」
なにかの力を溜めていくオール・フォー・ワン。
当然避けようとするが、
「避けてもいいのかな……? 君の後ろには助けを乞う人がいるよ?」
「ッ!?」
言葉通りにオールマイトは後ろを振り向くと瓦礫に埋まりながらも助けの言葉を出している人の姿があった。
グラントリノが助けようとするが、
「遅い!!」
ついに放たれた衝撃はオールマイトに向かって走る。
オールマイトは避けることもできずに直撃を受ける。
そして、
「まずは、惨めな姿を晒せ。オールマイト。これで僕とお相子だ」
そこには血だらけの拳を構えながらも、マッスルフォームからトゥルーフォームに戻ってしまっていてボロボロな姿のオールマイトが立っていた。
空には取材のヘリも飛んでいて、オールマイトの姿は全国中継に晒されてしまって困惑の言葉が各地で不安とともに伝播するのであった。
考えが追い付く前に忘れていくからある意味暴走状態とも言えるオール・フォー・ワンでした。
そして原作通りに全国中継されてしまいました。
ビックリ箱とは我ながら上手い例えだな、と。