【完結】猫娘と化した緑谷出久   作:炎の剣製

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更新します。


NO.092 残り火のワン・フォー・オール

 

 

 

取材のヘリに乗っているリポーターがその光景を見て、己の目を疑っていた。

だが、それでも伝えるものとして真実を伝えないといけない。

いま、目の前で起きている衝撃な光景を。

 

『み、みなさん……ご覧になっているでしょうか? あの、オールマイトが……姿がしぼんでしまっています!……私自身信じられませんが……これが真実の光景です……。あれは、果たして本物のオールマイトなのか……』

 

と、疑いもしないのにそんな事を呟いているのはもう仕事柄故だろう。

喋る言葉がところどころ震えている。

それは、映像を見ていた視聴者達も同じ心境であろう。

どこかしこで『偽物……?』や『あのガイコツ誰だ?』などと、オールマイトの真実の姿を知らなかった者たちからすれば当然の思いであった。

しかし、知っているもの……特に出久は違った。

出久の周りで驚愕の表情でその光景を見ていたクラスメイト達をよそに、

 

「そ、んな……オールマイトの、ひみつが……」

 

まるで放心しているかのようにそう独り言を呟く。

爆豪はそんな出久の言葉を聞き逃さなかったために、

 

「(出久……てめぇ、そんな事まで抱え込んでいたのか!?)」

 

出久の今までの学校でのオールマイトとの不審な行動を思い出していき、どれだけ胸に隠し事を抱えていたんだと今更になって爆豪は、出久の事を理解できていなかったことに悔しく思う。

だが、それでもこれからは俺が、俺達が出久を支えていかないといけないと、今はそう思うだけでオールマイトの映っている映像を凝視した。

 

 

 

 

 

 

「いい格好になったじゃないか、オールマイト。そんな姿を世間に晒してしまって今の思いはどうだい……?」

「…………」

 

オール・フォー・ワンはそう言ってオールマイトの事を笑いながらも話しかける。

しかし、それでもオールマイトの目は死んでいなかった。

トゥルーフォームに戻ってしまっていても、その眼光はいまだに衰えずにオール・フォー・ワンの事を睨みつけている。

 

「…………たとえ、身体が朽ちて衰えようとも……そして世間にその姿が晒されようとも……それでも私の心は依然『平和の象徴』だ! 貴様が奪ったと思っているだろうが、私はそれでもこの姿を恐れない! いずれはバレる……それが今来ただけの事だ!! 一欠けらでも奪えると思わない事だ!!」

「そうか……くそっ……即興の出し物では君の思いは奪えないという事か……惜しいな。僕の記憶の欠落がなければもっと君の事を苦しめれただろうに、もう出すものがないじゃないか……」

 

オール・フォー・ワンはそれでため息を吐く。

そして再度視線をオールマイトに向ける。

その視線は先ほどから何度もぶれていた。

目を過去に潰されてしまったために『赤外線』という個性でなんとか感じ取っていたが、その個性すらも忘れそうになっていて何度も視界が暗くなったりを繰り返しているのだ。

……時間がないと……そう感じ、オール・フォー・ワンは早めにケリをつける事を決めた。

 

「ああ……もう誰の事だか思い出せないが、君にとってのバッドな内容をこれ以上教えてあげられないのが実に残念ではあるよ」

 

まだ死柄木弔の事を覚えていたのならもっと丁寧にオールマイトに色々話していただろう、もうそれは叶わない出来事だ。

 

「……ならば、君を物理的に潰して命を奪ってあげようじゃないか!」

「くるか……!」

 

オールマイトもほぼ満身創痍……。

だが、背後から聞こえてくる『オールマイト……お願い……救けて……』という言葉を胸に秘めて再度今にも消えそうになっているワン・フォー・オールを燃え上がらせる。

 

「助けるよ……私はまだまだ『平和の象徴』としての役目を果たしきれていないのだから……」

 

オールマイトはまだ諦めていない。

そして民衆もまだオールマイトが負ける光景など見たくない。

ゆえに、声を張り上げて応援するという光景が各地で繰り広げられていた。

出久達も、その声を聞いて『頑張れ! 負けるな! オールマイト!!』と声を張り上げる。

 

「必ず救うよ! それが、ヒーローというものだ!!」

 

そして右腕を部分的にマッスルフォームにして立ち向かおうとするオールマイト。

オールマイトはその胸の内では師匠である『志村菜奈』の教えを思い出していた。

 

『限界だーって感じたら思い出せ。何の為に拳を握るのか……原点(オリジン)って奴さ! そいつがお前を限界の少し先まで連れて行ってくれる!』

 

そんな、いつか教えてもらった教え……。

 

「(そうだ! 思い出せ! もう、私には師匠の家族である死柄木弔は救える力はもう残されていないのかもしれない……それでも、今この場所で奴を倒して泣いている人達の涙を無くすことぐらいはできる!)」

 

その思いとともに最後の力を出そうと踏ん張るオールマイト。

 

「渾身、か……文字通り最後の一撃と見た……実はね。僕もそろそろ色々と限界のようでね、君の事すら忘れそうになっているんだよ……実に悔しい……あの猫にも仕返しをしたいところだが、彼女の名前ももう、思い出せないんだ……」

 

実に悔しそうにそう語るオール・フォー・ワン。

そこに遠くから炎が飛んでくるのを感知し避ける。

見た先ではエンデヴァーや他のヒーロー達が駆けつけてきていた。

 

「なんだ貴様……なんだ、その姿は!? オールマイトッ!!」

 

エンデヴァーが叫ぶ。

それもそうであろう、エンデヴァーは自身ではオールマイトを越えることはできないと悟って、息子の轟焦凍に後を託すしかないと心を鬼にして家族たちに接してきたというのに、その超える壁が今となっては瀕死の姿で立っているのだから。

 

「君は……誰だったかな?……そう、炎使い……名前を思い出すことができないが、邪魔をしないでくれないか? 観戦するだけならじっと見学をしていてくれ」

「黙れ、破壊者! 俺達は助けに来たんだ!!」

 

そこでエッジショットがオール・フォー・ワンに攻撃を仕掛けていた。

シンリンカムイが負傷したヒーロー達を確保している。

他にも虎がなんとか立ち上がってオールマイトが守った人を救助している。

虎は語る。

 

「オールマイト……我らではあなたの重荷をすべては背負えないかもしれない……それでも、少しでもいいから持たせてくれ……」

「虎……」

「そして、あの邪悪を打ち倒してくれ……みんなあなたの勝利を心から願っている。たとえどんな姿でも、あなたはいつまでもみんなの中ではナンバーワンヒーローなのだ!」

 

そしてこんな場所だから聞こえてこないというのに、この中継を見ている人々の自身を応援する声が聞こえてくるような錯覚をオールマイトは感じていた。

気持ちが暖かくなってくると同時に力がさらに漲ってくる感覚を味わう。

 

 

―――ワン・フォー・オール。そして、オール・フォー・ワン。

 

 

今は敵同士である。

だが、その言葉の本来の意味は、『一人はみんなのために(ワン・フォー・オール) みんなは一人のために(オール・フォー・ワン)』。

そういう意味が込められた言葉なのだ。

それならばと、ワン・フォー・オールを担うものとしてみんなのために頑張らねばならない、とオールマイトは最後の力を振り絞る。

 

「―――……煩わしい」

 

瞬間にして、オール・フォー・ワンの周囲に大量のエネルギーが発生して周りを吹き飛ばしていく。

そしてそれが形となってオール・フォー・ワンの右腕が人ならざる形へと変容していく。

 

「君を確実に殺すために、今僕が思い出せるうちの強化系の個性の掛け合わせで強化した拳で“君を殴る”!……もう、僕もこれが最後の渾身の一撃だろう。これを放ったが最後、僕もすべてを失うと察した……だから最後まで付き合ってもらうぞ、オールマイト!!」

 

そしてオールマイトへと向かって加速したオール・フォー・ワンが突っ込んでくる。

オールマイトもそれに迎え撃つために拳を放つ。

二人の拳が衝突して、凄まじい爆発が起こる。

だが、ここでもオール・フォー・ワンは抜かりがなかった。

『衝撃反転』という個性でオールマイトの力をそのまま返して捩り潰そうとしたのだ。

それでも、

 

「お、おおぉおおおお!!」

 

オールマイトは一瞬にして右腕の力を抜いて左腕に残っている力を移行させて膨らんだ腕で殴った。

それは、致命傷ではなかったために浅い打ち込みだったであろう。

 

「お互いに隠し芸があるが、これも最後のようだね! 力が入っていないぞ!」

「そりゃ……腰が入っていないからな!!」

 

オール・フォー・ワンの拳をいなしたオールマイトは、再度右腕に力を込めて振り切って丸腰のオール・フォー・ワン向かって今度こそ最後の拳を振りぬこうとしていた。

 

「おおおおおおおおおおおッ!!」

 

―――さらばだ、オール・フォー・ワン!……そして、さらばだ、ワン・フォー・オール!

 

「ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマッシュッッッッ!!!!」

 

渾身の叫びとともにオールマイトの拳がオール・フォー・ワンに突き刺さって、そしてついにはオール・フォー・ワンは倒れ伏したまま沈黙したのであった。

まだある意識の中で、

 

「(僕は……ぼくは……ボクは………………、誰なんだろうなぁ……もう、なにもかも分からなくて、どうでもいいなぁ……)」

 

ついに自身の事すら記憶から抜け落ちてしまって完全にオール・フォー・ワンと呼ばれた男は自我を失った。

 

 

 

それとは対照的に、オールマイトは震える腕を天に掲げながらおそらく最後になるであろうマッスルフォームになって勝利のスタンディングをした。

オールマイトの勝利に賑わう中で、出久はその光景を無言で見ながら、

 

「―――……行かなきゃ……」

「えっ……?」

 

出久はオールマイト達がいるであろう現場の方へと走り出していってしまった。

一同はそれで「緑谷!?」「デクちゃん!」と叫びながらも出久の後を追っていくのだった。

 

 

 




最後の力を振り絞ったオールマイトでした。
最後に出久はなにをしにいったのか……、待て、次回。
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