デヴィットの研究室から出てきた出久とメリッサは通路を歩きながらも、
「ちょっと……大丈夫? なんかさっきから嘘みたいに暗そうな顔をしていたけど……」
「だ、大丈夫です……。ちょっと……」
「そう……?」
出久は言えなかった。
デヴィットの視線がまるで研究品を見るような、ヴィランとは違うが利用したそうな視線をしていたことなど。
まして娘であるメリッサになど正直に話すなんてことは憚れるというものである。
だから曖昧にやり過ごすことにした。
「あ! それと今更だけど、貴女のことはなんて呼べばいい? ミドリヤさん? イズクさん?」
そうメリッサに聞かれた出久は少し考え込んで、するといつもの麗らかな顔の親友の顔が思い浮かぶ。
そして出た呼び名が、
「僕のことは……デクって呼んでください」
「デク? 変わったニックネームね」
「はい。とある友達にいい意味でそう呼ばれているので僕も前向きに受け入れているものでして」
「そっか。それじゃ私の事はメリッサでいいわ」
「はい、メリッサさん」
それから二人はエキスポ会場にやってきて、さまざまなパビリオンを見学しながらも、その技術力に驚きの表情をしながらも、
「本当にすごいですね。まるで夢の国見たいです」
「ふふふ。デクちゃんも気に入ってくれてよかったわ。大都市のようなところにある施設も大抵は揃っているの。だから退屈はしないかな? ただ、代わりに旅行ができないのが難点ね」
「そうなんですか?」
「うん。ここで暮らしている科学者や家族には情報漏洩の為に守秘義務があるから外には数々の申請をして許可がおりない限りは外に出れないの」
「はえー……やっぱり大変なんですね」
改めて、この人工の島は厳重なセキュリティで守られているのを実感した出久であった。
すると目の前に様々なヒーロー達が歩いているのを見て、
「すごい! カイジュウ・ヒーロー、ゴジロだ! あ、あっちには!」
と、ヒーローマニアの出久としては目の保養ともいうべき光景であり、メリッサはそんな出久の事を微笑ましい表情で見守っていた。
「最新のサポートアイテム紹介とか、サイン会とか色々あるみたいなの」
「さすがI・エキスポですね!」
来れてよかったーと心からそう思う出久であった。
「夜には様々な関係者を集めたパーティも……って、デクちゃんも出席するんだよね? マイトおじさまの同伴者なんだし」
「えっ……あ!」
そういう事かーと出久は納得していた。
していたのだが、まさかこういう場でのためにオールマイトが正装を用意しておいてくれと言っていたのかと悟る。
だが、出久はそこで考え込んだ。
まだあの“ドレス”を着る気が起きないというか……。
引子が出久がこの話をすると、すぐにオーダーメイドの緑のドレス(また尻尾穴完備)を出してきて試着した時にはあまりの恥ずかしさで倒れそうになった事を……。
ただでさえあがり症なのにドレスなんて……と、今から少し滅入っていたが、それでも顔には出さずに今はこの場を楽しもうと歩いていく。
そしてアイテムの展示コーナーへと入っていく二人。
そこで様々な体験をさせてもらう。
しかもメリッサの話ではここで展示されている最新のアイテムはほとんどがデヴィットが開発したものだという。
それで改めて天才開発者なんだなと思う出久。
「ここにあるアイテム一つ一つが世界中のヒーローたちの役に立つのを今か今かと待っているの……」
そう言いながらも愛おしそうにアイテム達を見つめるメリッサの横顔に、出久はそこからデヴィットへの憧れを感じた。
「お父さんの事を尊敬しているんですね」
「パパのような科学者になることが私の夢なの。だから私はアカデミーで頑張っているの」
「アカデミーに通っているんですか?」
「ええ。今は三年よ」
「I・アイランドのアカデミーと言えば、全世界の科学者志望たちの憧れの学校じゃないですか」
それで出久が思い出したのは雄英サポート科の発目明であった。
彼女ももしかしたらここに入れるくらいの実力は備えているのではないかと、強化靴を作ってもらえた出久は思う。
決して雄英高校がここより劣っているとは言わないけど、科学者からしたら夢の島だからだ。
きっと、知らないだけで発目も応募はしただろうと出久は思うのであった。
メリッサはそんな出久の賛辞の言葉に「私なんかまだまだだよ」と言いながらも、
「もっともっと勉強をしないとパパみたいにはなれないからね」
「僕も、オールマイトみたいになるために、もっと頑張らないと……」
メリッサに感化されたのか出久もそう言って拳を握りしめていた。
メリッサはそれで何を思ったのか、
「デクちゃんは本当にマイトおじさまの事が好きなのね。さっきの勢いもかなりあって驚いちゃったし……」
「あ、あれは……その癖みたいなもので……」
出久はそれで照れてしまっていた。
そんな出久の感情が現れているのか尻尾がフリフリと振られているのを見てメリッサは「分かりやすい͡子だなぁ」と感じて二人で笑いあっているところに、
「楽しそうやね、デクちゃん」
「う、麗日さん!? どうしてここにいるの!?」
なぜか出久と同様にヒーロースーツを着ているお茶子の姿があり、出久は盛大に驚いていた。
お茶子はそんな出久の驚きの声に、しかしいつも通りに平坦な顔をしながらも、
「楽しそうやね」
「(二回言った!?)」
それで困惑する出久をよそにさらに現れる人達。
「コホン」と咳払いが聞こえて来たのでそちらに振り向くとそこには八百万に耳郎の二人もいた。
「緑谷さん、とても楽しそうでしたわね。まぁ女性同士ですからそこまで目くじらは立てませんけど……」
「緑谷、聞いちゃった。どういった仲なの?」
「え、えっとー……ここで知り合った人だよ。メリッサさんっていうんだ」
「「「へー……」」」
それでお茶子達は揃ってメリッサへと視線を寄こしていた。
「デクちゃん、お友達?」
「あ、はい。学校でのクラスメイトです」
メリッサにそう聞かれたので出久はすぐにそう答えた。
しかし、そこでお茶子は内心で焦りを感じていた。
「(私以外にデクちゃんの事を『デクちゃん』呼びする人が現れるなんて……! メリッサさんとは色々と仲良くなれそうやね)」
と、ウフフフーと挑戦的な笑みを浮かべているのであった。
それはまぁいいとして、
「今、僕はメリッサさんにI・エキスポを案内してもらっているんだ」
「そうなの。私のパパとマイトおじさまが―――」
「わ~~~~!」
出久は突然大声を上げてメリッサの言葉を遮って、三人から離れて小声でオールマイトとの同伴は内緒にしてほしい旨を伝えた。
よく分からなかったが、とりあえずメリッサも了承してくれたことに出久は感謝をした。
オールマイトの同伴者だなんてバレたら後が大変だからだ。
そしてメリッサは出久の事を気遣ってか、話題転換として、
「それじゃちょっとカフェでお茶でもしません?」
「いくいく!」
「それではご伴侶にさせてもらいますわ」
「なにかお勧めとかはあるの?」
と、良い感じに三人は食いついてきたのでなんとか話題逸らしは成功したことに出久は安堵の息を吐いていた。
それから五人でカフェでお茶をしていた。
そこでは職場体験での話とかで盛り上がっていた。
特にヒーローと一緒に活動できたことに関してメリッサはとても羨ましそうにしていたのが印象的だった。
出久は四人が盛り上がっている隣の席でなんとか落ち着いていた時だった。
「お待たせしました」
と、どこかで聞いたことのあるような声で顔を上げるとそこにはまたもクラスメイトの上鳴電気と峰田実の姿があった。格好はなぜかウェイター姿であった。
「上鳴君に峰田君!?」
出久の叫びに他の女子達も気づいたのか、なんでここにいるの?的な言葉を言っていた。
「エキスポ期間中の臨時バイトを峰田と応募したんだよ」
「ああ! 給料は貰えるし、エキスポ見学もできるし、なにより可愛い女子との出会いとかもできるからな!」
「あぁ、そういう理由なんだ……」
「それでな……緑谷、少しいいか?」
「おいらもいいか?」
「なに、上鳴君に峰田君?」
どこか神妙な顔つきをする二人に怪訝な表情を浮かべる出久。
「元・男子としてどこであんな可愛い子と仲良くなったんだ?」
「紹介してくれよー」
と、直接からんでこなくても、そんな二人の熱のこもった視線に出久はただただ困惑するだけであった。
実際、二人は出久にかなり接近しており、最近少し女性としての自覚も感じ始めている出久にとっては二人の顔が間近にあるのは気恥ずかしいのである。
そんな出久をよそにメリッサが八百万達に「彼らも雄英生?」と尋ねていた。
それを素早く聞きつけた二人は、
「そうです!」
「ヒーロー志望です!」
と、カッコつけていた。
だがそこにまたしても現れる人物の影が。
「こらー! 仕事中だというのに何を油を売っているのだね!? 引き受けた以上は労働に励みたまえ! そして最近流行りの悪質行為などをしたら雄英生としてはいられなくなるからな!!」
と、飯田がすごい勢いでやってきた。
「飯田君!?」
「飯田君も来てたん?」
「ああ。うちがヒーロー一家だからな。家族は予定があったし、復帰した兄さんも忙しそうだしで俺が代わりに来たのだ」
「飯田さんもですの?」
それで八百万も家族がI・エキスポのスポンサー企業の株を持っているために招待状を貰ったらしい。
そしてお茶子と耳郎も厳選な抽選の結果(女子達によるじゃんけん大会)で八百万と一緒に着いてきたそうだ。
「ホントはデクちゃんもじゃんけんに誘う予定だったんだけど、すでにここに来ることを決まっていたんやね」
「う、うん……ちょっとした筋で……」
汗を垂らしながらもなんとかそう返す出久であった。
聞くことろによると、他の女子達も別口ですでに来ているらしいとの事。一般公開で合流する手はずになっているらしい。
それならと、メリッサが「それなら、私が案内しましょうか」という鶴の一声によって、女子達はとても喜んでいた。
上鳴と峰田も便乗したそうにしていたが、そこでどこからか爆発音が聞こえてきて、
「な、なんだ!?」
見れば、どこかの会場で煙が上がっているみたいなので出久達はそちらへと移動することにした。
お茶子は 焦りを 感じていた。
そして男二人に迫られる出久って結構ピンチ?
女心も感じ始めているから尚更ですよね。
次回はかっちゃん達の登場です。