IS - the end destination -   作:ジベた

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10 火輪咆哮

 速さは互角。手数は敵が上。ただし敵の攻撃力は低いようで雪花の紙防御ですら絶対防御が発動していない。皮膜装甲でなんとか凌げている。

 

「どうしたどうした! 前のてめえはこんなもんじゃなかったはずだ!」

 

 紫色のルー・ガルーがラッシュをかけてくる。敵は俺と同じで速さ特化のカスタム機なのだろう。今までゆっくりと流れていたIS戦闘の世界で、普通に動いているように見える。だから俺の反応も常人のそれと変わらない。少しずつじわじわとシールドエネルギーが削られていく。

 

「はあああ!」

 

 闇雲に刀を振るう。当然、敵は急停止からのバックで軽く回避してくる。

 

 落ち着かない。

 さっきの鈴の悲鳴を聞いてから気が気じゃない。

 速くコイツを倒して助けに行かないと!

 

『一夏さん!』

 

 焦る俺に個人間秘匿通信が送られてきた。セシリアだ。

 彼女は俺と会話することなく、ただ一方的に言葉を投げかける。

 

『鈴さんの心配はご無用。無事ですわ』

 

 俺の杞憂はセシリアの知るところだった。どうやらわかりやすいらしい。俺の行動にも出ていたんだろうな。

 格上の相手に余力を残して勝とうだなんて、敵を甘く見過ぎていた。

 

『セシリア、あのデカブツは任せる』

『ええ、お任せを。わたくしはセシリア・オルコット。わたくしにかかればアレはただの木偶人形だということを証明して差し上げます』

 

 それで通信は終わった。やっぱり彼女は強い。俺を目の前の敵に集中させるために、勝ち目があるかもわからない戦いも自信ありげに振る舞っている。俺がこの男に勝つと信じてくれている。

 俺は彼女たちを護れる男にはまだなれそうにないけど、せめて彼女の期待に応えられる男ではありたい。いや、あるべきだ!

 

 俺は刀を下段に構え左肩を前面に押し出す。もう盾の無い無防備な体勢……

 

「行くぜ! この狼野郎っ!」

 

 盾さえあればいつもの攻め手であるタックル。しかし今は盾が無く、無防備に突っ込んでいるようにしか写らない。

 

「な、なんだそりゃあ!?」

 

 敵の顔は見えないが、明らかに動揺している。

 盾も剣も前に出さない突撃。これは相手が格闘戦用の機体であるからできることだった。

 

 予想される敵の行動は4つ。

 俺の左に回避して後ろをつく。しかしこれは以前に俺の反撃に遭っている。おそらくはしてこない。

 俺の右側に回避する。

 正面から爪で攻撃してくる。

 そして、本命は俺から離れることだ。

 

 強気な口調に騙されやすいが、敵は恐ろしく慎重な男だ。過去の戦闘で俺が何をしでかすかわからないと思ってるはず。だから一度様子を見るだろう。

 離れてさえくれれば、うちの優秀な射手が敵を射抜いてくれる。

 

「へっ! やってやるよ!」

 

 敵は俺の期待を裏切り、真っ向から向かってきた。何の小細工もない爪による打突。

 ――(まま)ならないな。

 俺の方も、何も小細工は無い。薄い装甲しか無い左腕で敵の爪を受けた。

 

「イカレてやがるぜ、てめえはよぉ!」

 

 敵の爪は俺の二の腕に突き刺さっていた。俺は敵の腕を捕らえて逃がさまいとする。これで、捕まえた。

 

 ためらうな。これは生と死を分かつ分岐点。俺は……生きる!

 

「でやああああ!」

 

 俺は右手に持った刀を敵の脳天に大上段から振り下ろす。敵はガードするが、俺の刀は敵の頭部に届いた。ギリギリで停止した刀は、敵の装甲……左腕の爪と頭の装甲を真っ二つに割った。

 

「痛っ!」

「ちぃっ!」

 

 今更襲ってきた痛みで俺は左手を離してしまい、敵は舌打ちをしながら距離を開ける。

 

 狼男の仮面は外れていた。中から出てきた男の頬には縦に大きく傷がある。自然のモノとは思えない金色の瞳をした両目が不気味だ。ボサボサの長い赤髪はまるでたてがみのようで、狼というよりは獅子だった。

 

「肉を斬らせて骨を断つ、とかいう奴か。本気で実行するバカがいるとはな」

 

 獅子のような髪の男は額から血を流しながらも楽しそうに話す。戦い自体を楽しんでいるようだった。俺にはとても理解できない。

 

「さあ、まだ続けようぜ? てめえには刀が、オレには右の爪が残ってる」

『いいえ、無理です。直ちに撤退してください』

 

 なおも戦闘続行の意志を見せる男を諫める女性の声が聞こえてきた。敵の通信らしい。俺にまで聞こえる音量なのかよ。

 

「ふざけんな、カミラ! オレはまだやれる!」

『あなたの状態など気にしておりません。時間稼ぎがもう保たないのです。おそらくあと数分のうちに格闘のヴァルキリーがそちらへ向かってしまいます。急ぎ、撤退を』

 

 男はヴァルキリーという単語を聞き、恨めしそうにしながらも渋々腕を下げる。

 背を向ける前に、たてがみの男は俺に問いかけてきた。

 

「邪魔が入るようだ。勝負はお預けだな。ISを使える男、てめえの名は?」

「……織斑、一夏だ」

「織斑か……くっくっく、そういうことか」

 

 男は俺の名前、特に織斑の姓に反応していた。織斑なんて名字、そうそうあるはずもない。

 

「お前、千冬姉を知っているのか!?」

「オレに勝てばオレの知ってることは教えてやるよ」

 

 知らないとは言わなかった。コイツも千冬姉につながっている可能性がある? 俺もコイツに興味が湧いた。

 

「お前の名前は?」

「オレの名はメルヴィン。オレに倒されるまでせいぜい生き残ってくれよ。てめえを狙ってる人間なんて世界中のどこにでもいるんだからな」

 

 俺を狙ってる人間の一人であるたてがみの男、メルヴィンは天井に開いた穴から去っていった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 箒もセシリアも強かった。

 

 腕が残り一本になったゴーレムとはいえ、破壊力抜群のビーム砲は健在だ。それを箒は至近距離に張り付くことでビーム攻撃を防いでいる。

 敵は何度も箒と距離を置こうとしているが、セシリアの援護射撃によって進路を阻まれたゴーレムは動けずにいる。

 前衛と後衛の連携が見事だった。うまいこと相手のやりたいことを封殺している。

 

 惜しむらくは箒のISの攻撃力だった。物理型の近接ブレードはエネルギー系の兵器と比較してISのシールドバリアへ与えるシールドエネルギーの消費が大きいという特性があるが、金属系の装甲への効果は薄い。どんな素材なのかわからないが、ゴーレムの装甲はISの皮膜装甲よりも圧倒的に硬いため、近接ブレードが通っていなかった。

 

 セシリアもスターライトmkⅢとBTビットのビームで攻撃を当てている。

 金属系の装甲に展開されるシールドバリアは皮膜装甲のものと比べて弱く、エネルギー系兵器に弱いはずなのである。だが敵の技術は鈴たちが知らないような高いレベルのようであり、シールドバリアによってセシリアの攻撃の威力も大きく減衰されていた。

 

 今は箒とゴーレムが互いのシールドエネルギーを削り合う格闘戦になっている。一番の懸念はゴーレムのシールドエネルギーの容量だった。見たとおりの図体だ。予想されるエネルギー量は鈴たち3人の合計よりも大きいかもしれなかった。敵にもPICがあるため機動で使うエネルギー消費量も見た目ほど大きくない。

 このままいけば、箒のエネルギーが先に尽きる。

 

「セシリア!」

 

 自分がやるしかない。鈴は射撃に集中していたセシリアに声をかけた。

 

「何ですの? あなたは早く外へ救援を呼びに――」

「あたしを奴の真上に運んで。アンタならできるでしょ?」

 

 鈴はセシリアの腰についているスカート状のアーマーを指さす。今の甲龍は移動に使うエネルギーすら惜しい。

 

「わたくしのBTミサイルに掴まって行く気ですの!?」

「ええ。お願い。このままじゃ箒が先にやられちゃう」

 

 箒の名前を出すことでセシリアも決心がついた。彼女も現状ではマズいことは気づいていたからだ。

 

「無茶はしないでくださいませ。先生方が来られるまで耐えられればいいのですから」

「うん。わかってる」

 

 セシリアの腰からBTミサイルが切り離される。鈴は右手で掴み推進機が下を向くように背負う。

 ――射出。

 鈴はアリーナの上方へと打ち上げられた。

 

(あたし打ち上げられてるシャトルみたい。……あ、どっちかっていうと途中で捨てられる推進機か。役割は逆だけどね)

 

 セシリアから『そこですわ』と指示を受けた地点で手を離す。軽く推進機を吹かし、静止する。そこはきっちりとゴーレムの直上だった。

 

『セシリア、いい仕事ね。バッチリよ。2人とも、奴をそこから動かさないでね』

 

 鈴は箒とセシリアに個人間秘匿通信で指示を送る。これから自分がすることを具体的に説明していないが、理解してくれている2人は共に『了解』とだけ返事をした。

 鈴は頭を下に向け――

 

 PICをカットした。

 

 始まる自由落下。IS戦闘では普段考慮しない重力を利用した加速。自然的に発生する力だ。消費されるシールドエネルギーなどゼロに決まっている。

 残ったエネルギーは右の龍咆に集中する。

 グングン迫る地上。

 そして、無数の眼を持つ黒い巨人。

 

 右腕の龍がその顎門(あぎと)を開き、手甲の中心に収納されていた球体が光を放つ。

 

「くらええええ!!」

 

 天からの不可視の咆哮が、巨人の脳天を直撃した。

 バキバキと鈍い音を立てながらゴーレムの頭部にヒビが入っていく。

 同時に甲龍の右腕の装甲も落下の衝撃に耐えきれずに割れ始めていた。

 

 PICをカットした落下による捨て身の攻撃は自らをも傷つけた。

 そして、その自らへの衝撃をも、攻撃に転換するのが甲龍の単一仕様能力。

 当たった瞬間よりも強大なエネルギーがゴーレムを襲い、頭部を上から貫通。そのまま胴体を貫いて鈴は地面まで落下した。

 

 アリーナ全体が衝撃で大きく揺れる。その揺れはゴーレムの進入のときと勝るとも劣らない……いや、勝っているものだった。

 

「勝った……のか?」

 

 直前まで傍で戦っていた箒が呟く。砂煙には巨人の影がうっすらと見えていた。それが鈴たちが見ている前でグラリと後ろへと傾き、重い音をたてて地面へと倒れた。

 

「ご無事ですか、鈴さん!?」

「大丈夫よ。あたしも箒も。ま、あたしのISはしばらく使い物にならないだろうけどね」

 

 心配するセシリアに元気な声を返した鈴が上半身だけを起こす。甲龍は最後の墜落の衝撃から絶対防御で鈴を護ったことで完全にエネルギー切れだった。原形をとどめている部位も右肩の衝撃砲のみ。後で国の方からお小言をいただくことになりそうだ。

 

「立てるか? 鈴」

「箒。あたしは大丈夫だから、アリーナの中で倒れてる他の人を先に運んであげて」

 

 箒から差し出された手。鈴はまだその手を取るだけの素直さが無かった。理由を付けて遠ざけてしまう。

 

(あの子が相手だと、どうもあたしらしくなれないのよね。それはともかく、一夏の方はどうなったのかしら?)

 

 ゴーレムに勝利した鈴は今も戦ってると思っている一夏の姿を探した。その姿はすぐに見つけられた。雪の中にいたら見えないのではと思うくらい白いIS。白い侍の姿の一夏が鈴に向かって飛んできていた。

 

 全速力で――

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

『鈴! 鈴っ!』

 

 必死で個人間秘匿通信を飛ばしたが、全く繋がる気配はない。見れば鈴のISは使用不能の領域まで壊れている。コアネットワークにも異常が出ているのかもしれない。

 

 俺がメルヴィンの撤退を確認した直後に、アリーナが大きく揺れた。何をしたのかは見ていなかったが、鈴がゴーレムを打ち倒したようだった。

 

 だから皆、戦闘が終わったと思っていた。俺だってそうだった。

 でもそうじゃなかった。

 

 倒れているゴーレムの右腕が動いたのだ。

 

 右腕がゆっくりと持ち上がる。ほぼ無傷の2門の砲口の先には、ISの機能が停止している鈴がいる。ゴーレムには全く気づいていない。

 

 頼む! 雪花! 俺に鈴を助ける力を貸してくれ!

 

 推進機が悲鳴を上げてもなお、俺は加速を止めようとはしない。

 今の鈴があのビームを受ければ何もかも終わりだ。

 間に割り込んでもあのビームは俺では止められない。

 だから発射前に右腕をつぶさなければならない。

 

「間に合えええ!!」

 

 ゴーレムの主砲が赤紫色に光る。少し。あとほんの少しだ。間に合う!

 

 俺の刀の到達とゴーレムのビーム発射はほぼ同時であった。俺の刀が砲塔を貫いている。

 ゴーレムの右腕は逃げ場のなくなったエネルギーによって大爆発を起こし自壊する。そして俺はその爆発の余波を、全身を使って受け止めた。後ろにいる鈴に届かないように――

 絶対防御が発動している。それでもなお俺をガクガクと揺さぶる衝撃波が続く。

 

『シールドエネルギー残量ゼロ』

 

 雪花から伝わるその情報と、

 

『一夏!』

『一夏さん!』

「一夏っ!」

 

 俺を呼ぶ3人の声を聞きながら、俺は気を失った。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「では報告を聞こうか、真耶くん」

 

 薄暗い地下の司令室。その中央に立つ壮年の男性、轡木十蔵が、部屋に入ってきた山田真耶に説明を求めた。

 

「襲撃者は先日の篠ノ之神社を襲った敵と見て間違いないありません。確認されたトロポスはキャバリエ12機、ティラール3機、ルー・ガルー5機、それと、ゴーレムという新型が1機です。また、ルー・ガルーのうち1機は人が乗っており、織斑くんと戦闘後、撤退しています」

 

 攻めてきていた敵はアリーナにいたルー・ガルーのカスタム機とゴーレムだけではなかった。

 一夏たちが戦闘している中、教員たちが駆けつけられなかったのは他の敵と戦闘をしていたからである。IS学園には戦えない生徒の数の方が圧倒的に多い。そのため、キャバリエ一機でも放置してはおけないのだった。

 

「敵の狙いは、一夏くんと見てよさそうだね」

「はい。新型とルー・ガルーのカスタム機がアリーナに向かったのは織斑くんがいるためと思われます。他の場所に出現したトロポスは戦闘に消極的でしたし、時間稼ぎをされていると感じました」

「すまないね。君が専用機を使えればよかったんだが……」

「仕方がありません。公には私の専用機のコアは篠ノ之さんに譲ったことになっていますので……私たちと篠ノ之博士との繋がりを悟られる方が危険です。博士のきまぐれでコアが造られているということも知られるわけには行きません」

 

 今回、真耶も訓練機であるラファール・リヴァイブを使って戦闘に参加していた。しかし、訓練機に積んである武装は使いやすさを重視しているため、数の多い逃げ回る敵を倒すのにはどうしても時間がかかってしまった。

 

「一夏くんたちの様子は?」

「織斑くんと凰さんはしばらく休んでいる必要がありますが、他の生徒も含めて特に問題はありません」

 

 轡木は頭を掻いた。彼らの体調などすぐに別の人間に確認させた。聞きたいことは体調ではなく――

 

「一夏くんは、鈴くんやセシリアくんに事情を説明したいとは言っていなかったかね!?」

 

 轡木の中にずっと引っかかっていた。15歳のわりに現実を見据えていて、少年らしさをどこかに置いてきてしまったような少年が、初めて自分に反論をしてきた。まるで子供の反抗期だった。

 頭ごなしに否定したが、轡木はずっと気にしていた。自分の息子は現在、勘当も同然である。理由は考えの相違。一夏は息子ではないが、同じような過ちをしたくはなかったのだ。

 

 普段しっかりしている老紳士の狼狽ぶりを見て、真耶はふふふと微笑んだ。

 

「気にする必要はないですよ。織斑くんはちゃんとわかってくれています」

「そ、そうかね!」

 

 老紳士は心底嬉しそうな顔をした。その後で一つ咳払いをして、話を戻す。

 

「それで敵の新型の解析の方は?」

「無人機と割り切った設計でした。本体のサイズ、駆動部を見ても人型であって人が入るモノではないですね。あれはロボットと言った方がいい代物です。今回、代表候補生クラスが3人がかりで苦戦したのは事実ですから、敵のトロポスの技術レベルが向上していることは確実です」

 

 轡木の顔が歪む。今でこそ数がないISは大っぴらに兵器として使用されていないが、男性が使用できるIS並の強化スーツが量産されてしまえば、持ち直し始めた世界のバランスが崩壊する。

 そんな轡木の表情の変化を気にしつつも真耶は考察を述べる。

 

「ISに追いつくにはまだまだ技術力が足りていないと私は考えています。ただしアリーナの遮断シールドを打ち破った大型荷電粒子砲など本体以外に関しては我々の技術力を越えているモノもあります。IS学園の一部だけで対応するにはそろそろ限界がくると思われますが、いかが致しますか?」

「どうするもこうするも無いだろう! この問題はどこの国の力も借りるわけにはいかんのだ!」

「は、はいいいい!」

 

 いつも穏やかな轡木が声を荒げる。仕事モードだった真耶が崩れ、おどおどし始めた。

 その真耶の姿を見てなのか、落ち着きを取り戻した轡木が真耶に問う。

 

「束くんから連絡は無いのかね?」

「ありません」

「そうか……」

 

 轡木は天井を見つめた。

 いずれどこかの国がトロポスの存在を知るだろう。いや、もう知っているはずだ。

 歪なバランスの今の世界が崩壊する予感がしていた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「痛っ――!」

 

 全身を襲っている痛みで目が覚めた。俺は周囲をカーテンで覆われたベッドに寝かされているようだった。見覚えのある保健室のベッド。まさか俺もお世話になるとはな。

 俺が声を上げたからか、突如カーテンが開けられる。

 

「目が覚めたようだな。まったく……無理をするなといつも言っているだろうが」

 

 箒だった。さすがに怪我人には優しいのか、目つきは鞘に納まっている。

 俺は痛みを堪えて周りを見るが、他に人はいないようだった。なら、話ができそうだな。

 

「あれからどうなったんだ?」

「一夏が倒したあのデカブツで敵は最後だった。お前は敵の爆発に巻き込まれて気を失っていた。これ以外に知りたいことでもあるのか?」

「轡木さんたちから連絡は?」

「特になしだ。ただ、IS学園を直接攻め込まれたんだ。今後の対策を協議中といったところだろうな」

 

 特になし……ね。やはり轡木さんにとって俺は協力者でなく保護対象なんだろう。

 

「とりあえず、今日のところは休め。一夏がなんでもかんでもする必要はない。お前も鈴も無茶をしすぎだぞ」

 

 体を起こそうとしていた俺の額を箒が小突く。それで俺はベッドに寝かしつけられた。

 やり返されちまった……

 

「ではな」

 

 明かりを消して箒が立ち去り、保健室に沈黙が降りる。動けないし、何より眠い。このまま寝ちまおう。

 

 

 カラカラカラ。

 

 しかし、寝入る前に入り口が開けられる音がした。誰かは知らないが明かりもつけずに入ってくる人影が一つ見えた。

 

 ――まさか、俺を狙ってきた暗殺者!?

 

 暗殺者は言い過ぎだが、俺を狙う人間が忍び込んできたのかもしれない。マズいな。今は動けそうにない。

 侵入者はコソコソと俺のベッドまで近づいてくる。どうしよう? そう思っていると――

 

「きゃあ!」

 

 侵入者がかわいらしい声を上げて転んでいた。俺は一安心して声をかけることにする。

 

「どうしたんだ、セシリア」

「い、一夏さん!? 起きていらしたの?」

 

 俺が起きているとわかったセシリアはきびきびと動き俺のベッドの傍にあるイスに腰掛けた。

 

「そろそろお話をさせてもらえますか?」

 

 セシリアの顔はいつになくまじめな顔だった。今日起きた出来事から考えるに、セシリアが何を言おうとしているのかわかった気がする。俺は「ああ」と先を促した。

 

「トロポスとは何でしょうか?」

 

 轡木さん、最初っからセシリアに黙っているのは無理だったみたいだ。

 俺が想定していた彼女の質問は「今日の敵は何だったのか」だ。まさかトロポスという単語を出されるとは思っていなかった。

 ……もう巻き込んじまってるしな。

 轡木さんに悪いとは思いながらも俺は話すことにした。

 

「ISの量産を目指して造られた模造品らしい。宇宙での活動を目的としたISと違って完全に兵器として造られていることはわかっている。問題はどこの誰が造っているのかわからないことだ」

 

 最後に「少なくとも俺は知らない」とつくのだが、そこまでは言わない。

 

「それで一夏さんは、その敵に身柄を狙われているということですわね」

「ああ。ISを動かせる男を調べれば、トロポスとやらがよりISに近いモノになるんだろうぜ」

 

 俺がISを動かした日。そして今日。二度会った男、メルヴィン。一度目は遭遇戦という感じだったが、今日のは明らかに俺を狙ってきていた。

 おそらく今後も俺を狙ってくる。それをセシリアもわかっているだろうに――

 

「では一夏さんを全力で護らなくてはいけませんわね!」

 

 どうしてまだ関わってくる気なんだろうな? 危険なのはわかりきってるはずなのに。

 

「セシリア。前から思ってたんだが女尊男卑の考え方が強すぎないか? 少なくとも俺は女に護られて嬉しくはないぞ?」

「残念ながら、わたくしは一夏さんを喜ばせるために護るわけじゃありません。全てはわたくしがそうしたいからするだけです。あなたの意志は関係無いですわ」

 

 自分がしたいから……か。だったら俺がとやかく言えることじゃないな。もう「勝手にしてくれ」としか言えなかった。

 

「では勝手にいたします」

 

 セシリアがうふふと笑顔になる。窓からの月明かりしかない保健室に咲く花は昼とはまた違った美しさだった。

 そして――

 

「一夏さん。わたくしはあなたのことが好きです」

 

 惹きこんだ俺に不意打ちをしてくれた。

 

 なんなんだ、これ? もしかして何かの罰ゲーム? そうだと言ってくれ!

 俺が頭を抱えていると、セシリアは顔を赤らめながら話を続ける。

 

「鈴さんから話は聞きました。強くなるまで返事を待てとおっしゃったそうですわね?」

「あ、ああ」

 

 鈴の奴。俺の居ないところであの話をしやがったのか!

 恥ずかしさのあまり俺の顔は真っ赤になる。俺がこんなヘタレだってことがセシリアにバレるとは……

 

「今返事をしていただかなくて結構です。とりあえずわたくしが鈴さんに並びたかったということをわかってくださいませ」

 

 俺はひどいことをしていると改めて自覚させられる。たださ、待ってくれっていうのは正直な気持ちなんだ。

 セシリアは俺が言わずとも、鈴から聞いたために俺の返事を知っている。それでも礼儀として、俺の口から言っておこう。

 

「俺が好き……か。2人に好意を寄せられておきながら、はっきりと言えない弱い俺なんかを好きでいてくれてありがとう。鈴にもひどいことをしてるって自覚はある。でもさ、俺は怖いんだよ。大切に思えば思うほど、失ったときの絶望がさ。だから今は特別な誰かとは付き合えない」

 

 寝ている俺の左手をセシリアが両手で包み込むように取った。

 

「ではわたくしがあなたを強くするまでですわ。これから一緒に強くなりましょう、一夏さん」

「お手柔らかに。……と、そうだ!」

 

 俺はベッドの傍らに掛けられた制服をセシリアにとってもらい、内ポケットからデジカメを取り出した。

 

「セシリア。一緒に写真を撮ろうぜ」

「あら、わたくしがモデルの仕事もしていると知ってのことでしょうか?」

 

 そういえば代表候補生の中にはアイドルみたいに祭り上げられている人もいるって聞いたな。セシリアは確かに綺麗だし。

 

「そうだったんだ。関係ないけどな。これは俺の生態みたいなもんだ」

「生態……ですか。もう少しまともな言い方はありませんの?」

「言い方なんてどうでもいいよ。ちょっと寄ってくれるか?」

 

 俺が手招きするとセシリアの顔が近づいた。シャンプーの香りか、いい匂いが鼻をくすぐる。ってセシリア、風呂上がりかよ! 俺の視線は自然とセシリアの胸元に注がれていた。

 

「どうしましたの?」

「い、いや、なんでもない。じゃ、撮るぜ」

 

 俺は理性を総動員しながら、デジカメのボタンを押した。

 

 後で確認した写真には、赤い顔をした俺たちが写っていた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「状況はわかりました。こちらの進行状況はハイパーセンサーが80%、非固定浮遊部位が30%、可変近接ブレードが60%ほどです。非固定浮遊部位については完成が遅れそうなので、推進機の機能のみで一時的に完成としておきます。近々そちらへ調整に行くと思いますので、そのときはこちらから連絡します」

 

 高校1年生の歳の少年技術者が通話を切る。相手は轡木十蔵。内容は織斑一夏の専用機の催促だった。

 

「だから言ったんだよ。時間がかかるって」

 

 一夏の手に渡った打鉄・雪花は欠陥品だ。操縦者の反応速度についていけるように改造した結果、機体としてのバランスは崩壊している。一晩の突貫工事の結果なのだから仕方がないと言えば仕方がない。

 

「それにしても、さすがの一夏でも機体が悪けりゃ無理があるか。さあてと、仕事といきますか!」

 

 少年技術者は気合いを入れ直して作業に戻った。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「はぁ……。今日は転校生を紹介します」

 

 俺が復帰した初日の朝のHR。山田先生が疲れ切った顔で転校生がきたことを告げた。

 

「またですか? どうしてこのクラスばっかり……」

 

 俺がクラス全員の意見を代弁すると、山田先生がジト目で俺を見た。

 

「あなたがいるからですよ」

 

 納得。

 俺は申し訳なさに黙るしかなかった。

 ま、ここで黙ってなくても黙らざるをえなかっただろうけどな。

 

「失礼します」

 

 礼儀正しく入ってきた転校生は、男子だったんだから……

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