IS - the end destination - 作:ジベた
11 シャルル・デュノア
「シャルル・デュノアです。フランスからやってきました。日本は初めてなので少々不慣れな言動や行動があるかもしれませんが、大目に見てください。よろしくお願いします」
長めの金髪を頭の後ろで束ねている転校生、シャルル・デュノアがにこやかに挨拶をする。対照的にうちのクラスは静まりかえっていた。
誰が予想できた? 俺以外にISを使える男がいるなんてさ!
沈黙が気まずい。シャルルは気にしていないようだけど俺が気になる。うちのムードメーカーに助けを求めて俺は右後方を振り返った。
……鈴は両手で頭を抱えていた。クラスを晴れにする彼女が今、どんより曇り空だ。理由はわからないがアテにならない。
じゃあクラス代表の俺が口火を切るか。
「男……なのか?」
最前列の俺の姿を見たシャルルは、人なつっこそうな笑みを変えずに返事する。
「はい。君が織斑一夏くんですよね? IS学園にボクと同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入をすることとなりました。会えて嬉しいです」
ヨーロッパの人の全員がそうなのかは知らないが、セシリアと同様にシャルルの立ち姿は絵になる。背は男子にしては低い方だが、中性的な顔立ちと華奢に思えるくらいスマートな体型で、男の俺から見てもカッコイイ。
俺が憧れるカッコ良さは轡木さんのような渋い大人なんだけどな。つい目を奪われてしまった。
「きゃあああああ――――っ!!」
「な、なんだ!?」
前方以外の全てから、声が暴力となって襲ってきた。もう音で人を殴れるんじゃないかってくらいの大音量でクラスの女子が騒いでいた。
「男子! 2人目の男子!」
「織斑くんのときは出遅れたけど今度こそは!」
俺の時と反応が違う。俺はシャルルほど顔は良くないから仕方がないのかもな。……心を強く持つんだ、俺!
「はい、静かにしてくださいね。時間が無いのでデュノアくんとのお話は後でゆっくりとお願いします」
山田先生が手を叩くと、先ほどまでうるさかった教室が一瞬で静かになった。
……すごい。さすがはIS学園の生徒。教師という上官の言うことにはきっちりと従う。ほぼ全ての子がガタガタ震えてるけどどうしたんだろ? 寒いのか?
「すぐに屋外での授業なので準備してください。織斑くん、デュノアくんを案内してあげてください」
「了解です」
当然そうなる。女子がこの場で着替えるため、男子はアリーナの更衣室まで移動して着替えなければならない。
俺が席を立つとシャルルの方から近寄ってきた。
「織斑くん、初めまして。ボクは――」
「挨拶は後だ。教室は女子が着替え始めるから、俺たちはアリーナの更衣室に急ぐぞ」
「ふぇ?」
俺は間抜けな声を出したシャルルの手を取り教室を飛び出した。廊下も早足で歩く。
「待って、織斑くん! パーソナライズしてるなら着替えは要らないよ!」
シャルルの言うパーソナライズとは専用機の登録のことだ。専用機はその登録の際、ISスーツを量子変換し保存する。それによってISを展開させると自動的に服装がスーツと入れ替わるのだ。
「確かにそうだが、今は緊急時じゃない。できる限り事前に着替えて展開しておくべきだろ?」
専用機持ちの特権は良いこと尽めでなく、少々エネルギーを消費するという欠点つきである。こんなことはISの知識の初歩であるのに、なぜシャルルは着替えの必要がないなんて言い出したんだ?
「……うん。そうだね」
何やら必死に反論しようと思案していたシャルルだったが、言葉が出ずに落胆する。とても不本意そうだった。自己紹介のときには終始笑顔だったがここに来て崩れた。きっと俺と同じで女子ばかりで緊張していたんだな。
「ま、男同士だ。これからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」
「よろしく、一夏。ボクのこともシャルルでいいよ」
「わかったよ、シャルル」
シャルルの手を引いて歩く。名前の呼び方を変えただけで話し方もフランクになっていたのが嬉しかった。
***
さて、とりあえずアリーナに到着した。道中遭遇した女子の一団に追いかけ回されたため、俺もシャルルも息が上がっていた。
「な、なんだったの?」
「この学園は女子校育ちで溢れかえっているからな。同年代の男自体が珍獣も同然なんだろ」
「珍しいってことだよね? でもそれでどうして追いかけられるの?」
「俺に訊くな」
俺はアイドル扱いされているのだと思っている。まさしく“追っかけ”られたわけだしな。ただ、俺とシャルルが手をつないでることに異様な反応を示した一部の女子群だけは理解不能だ。
……シャルル、答えは自分で見つけてくれ。俺は見つけたくない。
「おっと、時間が少ないな。早いとこ着替えようぜ!」
追いかけ回されている間に時間が経ってしまったようだ。ってか、あの女子たちはちゃんと授業に出てるんだよな?
考え事はさておき、俺はさくっと着替えようと制服、Tシャツの順に脱ぎ捨てた。
「わぁっ!」
急に傍から叫び声が聞こえた。
「どうした、シャルル?」
「な、なんでもないよ」
シャルルの声が裏返っていた。俺から顔を逸らしたまま突っ立っている。
「何してるんだ? 早く着替えないと――」
「う、うん。わかったけど、一夏……こっちを見ないでね?」
「わかったから早く着替えろよ」
俺とて人の着替えをジロジロ見るような悪癖を持ち合わせているつもりはない。ただ――
「なんでシャルルがこっちを見てるんだ?」
「み、見てないよ!」
シャルルが両手を前に突きだして手を振る。もしかしてコイツも男慣れしてないとかバカな話はないよな?
とりあえず着替え終わった。シャルルの方は、と……
「さ、行こうか、一夏! 皆が待ってる!」
「着替え早いな! なんかコツでもあるのか!?」
首から上以外に肌の露出が全くないオレンジ色のスーツを着て、すでに更衣室の出口で俺を待っていた。
「そのスーツ着やすそうだな。どこの製品?」
「デュノア社のオリジナルだよ。ボク専用に造られたからすっきりして見えるのかもね」
ISスーツも専用か。俺もそのはずなんだが、自分のは少し雑な造りに見える。今、俺の頭の中を「隣の芝は青い」という言葉がよぎった。
「デュノア社? そういえばシャルルの名字って――」
「そう。ボクの実家だよ。IS関連の企業としてはそれなりに有名だと思うんだけど」
それなりなんてレベルじゃない大企業だった気がする。確かIS学園の訓練機であるラファール・リヴァイブもデュノア社製だった。
「そうか。シャルルの父さんは社長なのか。道理でなぁ」
「何が?」
「なんていうか、気品っていうの? 俺には全くない要素がシャルルにはあるじゃん? やっぱりいいところの育ちだと違うんだなって思ってさ」
「いいところ……ね」
俺が軽く言った言葉でシャルルの顔が曇る。俺は何かを間違えたらしい。俺が気まずく感じたことを悟ってか、シャルルはその顔に笑みを張り付けた。それが逆に俺の心に突き刺さった。
◆◇◆―――◆◇◆
――時は5分ほど前に遡る。
「マズいことになったわね……」
女子だけの着替え中、鈴がそんなことを言い出した。転校生の紹介のときから様子がおかしかった。箒は即座に鈴に問う。
「鈴、HRからおかしいぞ。一体どうしたというのだ?」
「そっか。箒が一夏といた頃は違っていたのね」
「何の話ですの?」
箒が鈴と話しているところにセシリアもやってくる。3人で輪を作ったところで鈴が語り出した。
「一夏はね、やたらと男友達と居たがるのよ」
「そ、それって……!?」
セシリアが顔を赤らめているのを箒は首を傾げて眺めていた。
「セシリアが何を想像したのかは知らないけど、多分違うわね。ただ、知っての通り、一夏は女性と必要以上に近づこうとしないのよ」
「そ、そうなのか!?」
知っての通りと言われたが箒は初耳だった。「あれ、知らなかったの?」と言う鈴の顔を見て、箒は勝手に負けた気分になった。
「話を戻すと、今のままだと一夏はあたしたちと距離を置こうとするってことね」
「確かに一夏さんならやりかねませんわね。女性は男性に護られるモノだという古い考えを捨てきれない方ですし」
「で、一番怖いのが、あたしが近くにいないところで一夏が“強く”なること。一言で強くなるって言っても方向性がわかんない。間違った方向に行きそうで不安なのよね」
鈴とセシリアの話についていけない。いつの間にか自分と一夏との距離が開いていて、その間に鈴とセシリアがいる気がする。
(いや、私だけが知っていることもある)
一夏とは共有している秘密がある。学園の地下アリーナ。そこには自分と一夏しかいない。“敵”の存在を知っている箒は自分だけは大丈夫だと思っていた。
「というわけで、今日の授業は結構大きな関門よ」
「どういうわけだ?」
「あたしたちがあの転校生よりも頼りになるってことを見せておけば、男女の垣根無く相談してくれるでしょ? さすがに一夏も一人では“敵”と戦えないと思ってるだろうしさ」
ここで箒は違和感を感じた。
IS戦闘が強ければ一夏が相談してくる?
敵?
「そうですわね。あの巨大トロポスにはわたくしたち4人全員の力で勝ったのですから。一夏さんの足を引っ張らなければ、並んで戦えますわよね」
「ちょっと待てっ!」
セシリアの相づちを聞いて、箒は違和感の正体がはっきりとわかった。
「セシリア、どうしてトロポスを知っているんだ?」
「一夏さんから聞きましたわ。ですから、箒さん。もうわたくしを仲間外れにしないでくださいな」
そう言ってセシリアが箒に微笑みかける。
箒には信じられなかった。一夏が他の誰かを巻き込んだことを……
「あの馬鹿者っ!」
「箒さん。わたくしからお願いしたのです。どうか一夏さんを責めることはやめてください」
「セシリア……」
セシリアに手をつながれ、箒は落ち着いていく。その2人の姿を眺めながら、口に手を当てた鈴がニシシッと笑う。
「それがアンタたちの隠し事? トロポスだかなんだか知らないけど、当然あたしも仲間に入れてくれるのよね? 色々と聞かせてもらうわよ!」
しまった、と気づいたときには遅かった。
箒もセシリアも、鈴が全てを知っていると勘違いしていた。情報はこうして拡散する。
◆◇◆―――◆◇◆
第2グラウンドに無事到着。ギリギリだったけどな。俺とシャルルは列の端に加わる。
「ずいぶんとゆっくりされていましたわね」
「まあ、シャルルに教えながらだったからな」
偶々隣になったセシリアが話しかけてくる。おや? 最近は無くなっていた棘が少々見え隠れしている。俺、また何かしでかしたか?
「じゃあ、今日からはISの格闘戦、射撃戦を訓練していきますね」
男組の合流を確認した山田先生が授業を開始する。1年生の4月下旬だというのにもう実戦訓練か。まあ、座学ばかりで良い操縦者が育成できるわけもないか。
で、この後の展開も大体読める。
「じゃあ、まずは専用機持ちの人たちに実演してもらいましょう。誰かやってくれないかなぁ?」
山田先生が指定すればいいのに変なところで謙虚な人だった。俺はやれと言われればそうするが、理由もなしに箒たちの内の誰かと戦うのは気が進まない。どうしてもぎこちない演舞になるだろうな。箒たちも俺と同じ思いに違いない。
「先生! あたしとデュノアくんでやってみていいですか?」
鈴が威勢良く挙手をしていた。俺は鈴のことを理解しきれていないのかもしれない。……今に始まったことじゃないか。
って、そういえばシャルルは専用機持ちなのか!?
「ボクの方はいいですよ」
シャルルが瞬時にISを展開する。スーツと同じオレンジ色のISだ。形も見覚えがある機体であり、これは――
「ラファール・リヴァイブですわね。一夏さんたちと同じく大幅にカスタムしてあります」
セシリアの解説に頷く。打鉄と同様、訓練機としてIS学園に置いてある機体のカスタム機だった。
通常のラファール・リヴァイブは4枚の
背負うように付いているのはXの字の形をした推進翼。無数に推進機口が垣間見えることから、これ一つで上下前後左右の軌道をまかなえるのだろう。
また、装甲部分も全体的にスマートになっており、俺の雪花と似たようなカスタムの仕方だ。ただし、シャルルの機体はラファール・リヴァイブの肩部分にあった4枚の物理シールドが全て取り外されている。その点は俺の雪花と違っており、肩の物理シールドの代わりなのか左腕に腕部装甲と一体化したシールドがあるだけだった。逆に右腕は装甲らしい装甲は一切ない。
まとめると、俺と同じスピード重視のカスタム機だという印象を受けた。
「じゃ、早速始めよっか!」
好戦的な鈴に対し、シャルルは首を傾げていた。
「えーと、君の機体、甲龍は格闘型ですよね? ボクも格闘のみの方がいいですか?」
「アンタ……本気で言ってる?」
鈴の機嫌が曇り空。所により雷が落ちるでしょう。
気持ちはわからんでもない。今のシャルルの発言は挑発ともとれる手加減宣言だった。多分本人にそんなつもりはさらさらないのだろうが、鈴は気づかないだろうな。
「デュノアくん。凰さんもですが、できるだけ全力でお願いします。片方が絶対防御を発動したら終了とします」
「わかりました、山田先生」
シャルルと鈴が上空へと飛んでいく。さて、俺も観戦のためにISを展開するか。
俺が雪花を展開したところで、雪花からシャルルの機体の情報が伝えられてくる。
『ISネーム“ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ”。全距離対応汎用型』
特殊装備は無し。第2世代型ISってことだ。やはり俺の雪花みたいに急遽用意した専用機だからなのだろうか。
それにしても全距離対応汎用型って何だよ? やること決まってないってのを言い換えただけじゃないのか?
鈴とシャルルが距離を開けて向かい合う。互いの手には何も持たれていなかった。
「早く準備しなさいよ」
「ボクはいつでもいけますよ。始めましょうか」
「言うじゃない! 後悔しないでよね!」
鈴の肩の衝撃砲が口を開き、不可視の砲弾が射出される。初見ならば避けることは至難のわざだ。当然シャルルも避けることができていない。
金属が軋む音が辺りに響く。
しかし動かなかったシャルル本体に鈴の攻撃は届いていなかった。いつの間にか現れていた物理シールドが衝撃砲の行く手を阻んでいたのである。
「それではボクからも攻撃を始めさせていただきます」
シャルルを護っていた盾が瞬時に消え、いつの間にか右手には銃、55口径アサルトライフル“ヴェント”が握られていた。続く火薬の炸裂音。
「エネルギー兵器じゃなければ関係ない!」
鈴は両手の龍咆による見えない盾で前面を覆い、弾丸をはじきつつ距離を詰める。
――でもそれじゃダメだ、鈴!
この戦いを見ている人間の何人が気づいたかは知らないが、シャルルは発砲と同時に左手に持っていた
「きゃあああ!」
爆発した。意識の向いていなかった方向からの攻撃だ。避けることも防ぐこともできやしない。ただし、それで終わらないのが鈴だった。爆発の勢いを利用して、さらにシャルルに接近する。射撃型ならば致命的な間合い。
俺は目を疑った。
すでにシャルルの右手には近接ブレードが握られていた。そのままシャルルが高速で鈴に接近する。イグニッションブーストだ。2人は高速で衝突せんと交差する。
鈴は防御も考えない双手突きだ。対するシャルルは近接ブレードを上段に構えている。鈴の攻撃力が圧倒的に高いため、このままかち合えば鈴が押し勝つのは目に見えていた。
「え?」
おそらく俺と鈴の声は重なった。鈴の両拳の前に2枚の物理シールドが現れていた。シャルルが出したものだろう。鈴の龍咆に吹き飛ばされるだけの代物だが、一瞬の時間があれば良かったのだ。龍咆が盾に当たると同時にシャルルは鈴の胴体に近接ブレードの刃を命中させていた。カウンター気味に入ったこの一撃に対し、甲龍が絶対防御を発動。鈴が敗北した。
「嘘……でしょう……!?」
隣にいるセシリアが目を見開いている。俺も驚きを隠せない。代表候補生である鈴が一方的にやられてしまったことに対してではない。
「シャルルの奴、いくつ武器を持ってるんだ!? それに、いつ持ち替えてるんだ!?」
開始直後に物理シールドを展開。衝撃砲を防ぎ、即座にアサルトライフルで牽制の射撃を行いつつ、手榴弾を投擲。接近してきた鈴に対しイグニッションブーストで自分から近づき、近接ブレードで斬りかかる。その際に2枚の物理シールドを出現させて鈴の行動を阻害する。
この短い戦闘の中で6つの武装を使っている。それも呼び出し動作らしきものもなく自然と使い分けて、だ。汎用型と聞いて器用貧乏なのかと思ったがとんでもない。シャルルの技量にかかれば、あれは万能型だ。
強いというよりも、巧いといえる戦闘だった。
「デュノアくん、すごいですねー。そこまでの
「いえいえ。ボクなんてまだまだです。むしろ
山田先生がシャルルをひたすら褒めちぎる。俺はヴァルキリー級と呼ばれるIS操縦者の戦闘を見ていないから、先生の言ったことが事実か誇張かはわからないけど、俺も同じような感想を持った。
しかしな、シャルル。その返事は謙虚じゃなくて嫌みだぜ? 案の定、鈴が「じゃあ、負けたあたしは何なのよ! 能なしってこと!?」って喚いているじゃないか。後で愚痴を聞くのは俺なんだろうな、と遠い目をするしかなかった。
***
「え? シャルルは俺の部屋に来るんですか?」
授業後に山田先生に連れ出され、いつもの地下に来ていた。アリーナじゃなくて司令室(と俺が勝手に呼んでいる)の方だ。相変わらず人がいなく、中央に轡木さんが立っているだけである。
「デュノアくんも一人部屋ということにすると、男子優遇のように見られてしまうんですよ。IS学園は基本的に2人部屋で過ごしてもらっていますからね」
確かに今までは男子が一人だから俺が一人部屋でも違和感はなかった。しかしもう一人の男子が来たにもかかわらず一人部屋を維持したら、誰かに何かがあると感づかれるかもしれない。
と、俺はここで一つ思い出した。
「箒は? 確かアイツも一人部屋だったんじゃ……」
「箒くんが一人部屋だったのはトロポスの情報を極力外に漏らさないためだったのだが、もう必要なくなったのでね。彼女には今、ルームメイトがいる」
俺の問いには轡木さんが答えてくれた。やれやれと言いたげに肩をすくめている。俺は心当たりを訊いてみる。
「もしかしてこの間の事件が報道でもされたんですか?」
「何を言っているのだね? 君が教えたんだろう?」
俺が、教えた?
……ああ、そういうこと。セシリアが箒の部屋に移動したのね。
そこまでバレてるなら素直にやることをしよう。俺は気をつけの姿勢から体を折り曲げる。
「すみませんでした! 俺、勝手に話しちゃいました!」
しばらくの静寂。
その後、コツコツと足音が俺に近づいてきた。頭を下げたままの俺の肩がポンと叩かれる。
「私に謝ることではない。君が選んだ道だ。男ならば、その道を最後まで貫きとおしなさい。いいかね?」
叱られなかった。俺が顔を上げると、轡木さんは満面の笑みで迎えてくれた。
「はい!」
「では早速だが今後の話をしておこう」
俺の返事に対して深く頷いてから轡木さんは笑みを消して仕事モードに入った。
「まず、同室になるシャルル・デュノアくんには、ここのことは秘密にしておいてくれ」
「いいですけど、何故です?」
「彼はフランスの代表候補生らしくてね。ここまで言えばわかるだろう?」
つまり、
セシリアには口止めしてあるうえに信用できるけど、シャルルについては今日会ったばかりだから何とも言えない。悪い奴ではないと思うけど、トロポスの存在を知った後の行動は読めない。
これも話すかどうかは俺の判断だな。できれば同室の人間には事情を知っていてもらいたいけどな。
◆◇◆―――◆◇◆
「ああ、もうっ! 何なのよ、アイツ!」
箒とセシリアの部屋にて。彼女たち2人は茶をすすりながら鈴の愚痴を聞いていた。
「鈴、お前も茶を飲んだらどうだ? 少しは落ち着かねば話がまとまらぬだろ?」
「箒は実際に戦ってないからそんな風に落ち着けるのよ! ……お茶はもらうけどさ」
3人で一斉にズズッと音を立てて、フゥと一息をつく。
飲み終わったセシリアがテーブルに湯飲みを置き、話を始める。
「ラピッドスイッチ。イグニッションブースト。彼が持っている技能は恐るべきモノです。何よりも使用した武器の数が注目すべき所でしょうか」
「そうなのよ。普通、あんなに武器使う? ISは結局のところ、何かに特化した方が強いはずなのに」
「特化したのだろうな。多数の武器を使うことに」
鈴が2人の部屋に押し掛けてまで始めた話は今日の授業での模擬戦のことだった。
鈴は本気を出してはいなかった。しかし、それは単一仕様能力“火輪咆哮”を使わないという程度のこと。単一仕様能力のない相手に手も足もでなかったことは代表候補生としての沽券に関わる。
「どうするのよ。男でISまで強かったら、一夏との関わりが薄れていくわよ」
「鈴、それは無用な心配だ」
頭を抱える鈴の手を箒が取る。
「すでに私たちは一夏の抱える問題に踏み込んでいるのだ。“大切な人たち”の枠には入っている。だから蔑ろになどするはずがない」
凛とした目で鈴を見つめる箒。箒はわかってない。鈴が求めているのはただの友人でなく、隣に並ぶことなのだ。人生でも、ISでも、間違った方向に行かないように傍で見ていたいのだ。
しかし箒は恋敵。そこまで話す気になれなかった鈴は言い返すことはせず「そうね」と同意した。
ただ、この場には鈴の気持ちを理解している人間が一人いる。
「鈴さん。明日あたりにデュノアさんともう一度戦ってみましょう。今度はわたくしと2人で!」
「は? 2対1で?」
「まさか。一夏さんにも手伝ってもらって2対2でやってみましょう。わたくしとしては鈴さんとの連携の練習にもなりますし、わたくしたちの力を一夏さんに知らしめるいい機会にもなります。一石二鳥ですわ」
再戦。セシリアの提案はかなり魅力的なものだった。「おい、私は仲間外れか!?」と嘆く箒は置いといて、鈴はセシリアの手を握る。
「やってやろうじゃない!」
◆◇◆―――◆◇◆
「ここが俺の部屋だ。今日からは俺たちの部屋、だな」
「う、うん。そうだね」
シャルルを部屋に案内すると、シャルルはどこか落ち着きのない様子でキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「悪い、エロ本の類はないぞ」
「そ、そんなの探してないよっ!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるシャルル。うむ、予想通りウブな奴だった。
俺としてはこれぐらいの男子の方が付き合いやすい。恋愛どうこうの話になりにくいからな。そういう点では、弾はいちいちうるさかった。なぜアイツは俺に彼女を作らせたがっているんだ? 未だにわからん。
「え、とだ。俺が使ってるベッドは手前側のやつな。だからシャルルは奥のを使ってくれ。机も同じだ。他に訊きたいことはあるか?」
シャルルの使用する家具を説明し終わり、質疑応答に入る。
「あのさ、一夏。シャワーを使う順番なんだけど――」
「ん? そんなの特に決めなくていいだろ? 日によってまちまちだろうし」
「ダメだよ! 一夏が先に使ってボクが後。それでどう?」
急に声を張り上げるシャルル。何かこだわりがあるらしい。
「別に俺は構わない」
「ありがとう」
シャルルがはにかんで笑う。不覚にもドキッとしてしまった。俺にそんな趣味が――!? ねえよ!
「そういえば一夏は放課後にISの訓練してるんだよね?」
「ああ。箒、セシリア、鈴の3人と一緒にな」
「ボクも参加していいかな?」
くっ! チワワみたいな目で俺を見つめるな! そんなことしなくてもダメだなんて言わないから!
「もちろんOKだぜ。多分、俺は教わることばっかりだと思うけどな。例えばあの武器を高速で出すやつ」
「ラピッドスイッチのコツってことかな? うん、任せて!」
ラピッドスイッチって言うのか。しまう方はともかく、武装を出す方は是非とも習得したい。
ほら、ブレードでやれたら抜刀術みたいでカッコイイじゃん?
シャルルの訊きたいことはもうないらしく、俺は早速シャワーを浴びようとシャワー室に向かった。