IS - the end destination - 作:ジベた
「はぁ? タッグマッチ?」
「織斑くん、静かにしてくださいね」
「あ、すみません!」
俺は授業中であるにもかかわらず、つい大きな声を上げてしまった。
「そう、あたしとセシリアのチームとアンタと転校生のチームでやるわよ。実際の戦闘では1対1でないことの方が多いだろうし、連携をとる練習ってところね」
こそこそと鈴が続ける。授業中の私語は良くないが、言っていることは納得できるものだ。
俺は一人での戦闘しか経験していない。しかし、敵は複数で襲ってきているのだ。この先、一人では切り抜けない状況が出てくることは十分に考えられる。そうした状況で誰かと共に戦うときに100%の力を出すためには練習あるのみだ。
「わかった。じゃあ、練習する時間もあった方がいいな。模擬戦は1週間後ってところでどうだ?」
「は? 今日やればいいじゃな――」
「凰さんも静かにお願いしますね。そろそろペナルティを作りますよ?」
おっと、そろそろ流石の山田先生でも行動にでてしまうな。俺は鈴に「後で話をしよう」と目配せする。
……鈴は俺を見たまま惚けているが、理解してくれたのだろうか? ま、静かにしてくれればいいか。
***
「へー。それで来週に凰さんとオルコットさんの2人と試合することになったんだね?」
放課後。いつもの第2アリーナには俺とシャルルのみがいる。鈴たちは別のアリーナを使うことになっている。
鈴と話し合った結果、1週間後に鈴たちと試合することになった。それまでの間、互いの戦略がバレているのも変なので、別の場所で練習をすると取り決めたのだ。
……なぜか鈴は「やってしまった……」と後悔したような顔をしていた。アイツ、自分から提案してきたのにな。
「というわけで早速だがシャルル」
「何?」
「連携の練習って具体的に何すればいいの?」
わからないことは人に訊けばいい。俺が無計画に呼び出したことが露呈したにもかかわらず、シャルルは悪い顔をせず説明を始める。
「まずチームの編成から考えてみようか。例えば対戦相手の凰さんとオルコットさんはそれぞれ近接格闘型と中距離射撃型ではっきりと分かれるでしょ?」
「ああ。一応、鈴は射撃武器もあるけど、メインは格闘だな。攻撃力もあるし」
「そうだね。主力が格闘機体だということは、オルコットさんが相手を牽制しつつ凰さんが接近することが戦術の基本になる。これってオルコットさんの射撃の中を凰さんが進むことになるよね?」
俺は手をポンと叩く。
「ああっ! 味方の射撃を見てから避けるなんて馬鹿げてるよな。あらかじめ段取りを決めておくのか。鈴が通るコースをセシリアが把握してれば、その接近を阻む敵の行動だけに絞って妨害すればいいもんな」
「そうそう。さらに言っておくと、ワンパターンだと相手にバレバレだから複数のパターンを用意しておくんだよ」
つまり、互いができることを把握することが始まりか。
……ん? シャルルのできることを全て把握するのか、俺?
「なあ、シャルル。俺たちの場合はどうなるんだ?」
「別に難しくないよ。ボクたちのチームでのメイン火力は一夏のイグニッションブーストからの近接ブレードの一撃だからね。ボクがそれを援護する形になるのが基本かな」
流石は全距離汎用型。誰と組んでも相手に合わせることができるわけだ。だが、シャルルに任せきりで訓練として成り立つのだろうか?
「俺がやることは近づいて斬ること……本当にそれだけでいいのか?」
「いいとは断言しないけど、それしか無いんじゃないかな。一夏は射撃武器を
そうなんだよな。だからわざわざ近接ブレードを投げつけたりしてるわけだし、今まではそれで相手の不意をつけていた。だがそろそろ通じないだろう。それもセシリアが相手だし。彼女が同じ失敗をするとは思えない。
「そうだ! 一夏も一度射撃武器を使ってみればいいんじゃないかな?」
「だから出せれば苦労はしないっての」
「ボクのを使えばいいよ。
シャルルが55口径アサルトライフル“ヴェント”を手渡してくる。
普通は他のISの装備を使うことはできない。ただし、使用者が許可を出した相手ならば使用が可能になるのだ。
俺は初めて銃を自分の手に取る。
それは妙な重たさを感じた。ISではPICがあるから重さなど感じないはずなのに。
「きっと今の一夏には射撃のイメージが足りないんだよ。まず、自分が思ったように撃ってみて」
シャルルがアリーナの設定をイジって射撃用の的を出してくれた。赤と白に交互に塗り分けられた多重の同心円である、いかにも的らしい的だった。
俺は銃を前に突きだし、引き金を引いた。
……銃弾はシャルルに命中した。
「一夏……わざとやってない?」
「いや、その……すまん」
ISを展開しているからそんなに被害がないとはいえ、きっと内心は怒っているだろうシャルルは笑顔を作っている。色々と申し訳がなかった。
これが箒や鈴だったら“お返し”があったに違いない。その方が却って気が楽だと思う俺は変なのかもな。
「まずは構えからやろうか。脇を締めて。それと左腕はこっち」
俺の後ろに回ったシャルルが射撃のレクチャーを開始する。俺とシャルルは20cm近くの身長差があるのだが、ISで浮いているから特に問題はない。手取り足取り教えてくれる。
「うん、その体勢で撃ってみて」
「おう!」
再び発砲。今度は何にも当たらずに飛んでいった。多分アリーナの壁にでも当たったかな。
……俺、下手すぎるだろう。
へこむ俺にシャルルが声をかけてくれる。
「ねえ、一夏。センサー・リンクはできてる?」
「あ、そういえばそんなのあるって聞いたな」
「やっぱり……」
俺の返答にシャルルが肩を落とす。
シャルルの言うセンサー・リンクとはハイパーセンサーと射撃武器との接続のことだ。ISは必然的に高速戦闘になるため、ハイパーセンサーによるターゲットサイトや周囲の環境情報が無いと当てることは至難の業らしい。
授業で習っていたのだが、シャルルに言われるまで忘れていた。早速、探してみるのだが――
「あれ? 無いぞ」
「え? 格闘専用のISでも普通は入ってるんだけど……」
そういえば、と思い出す。俺のISって確か起動時にハイパーセンサーがエラーを出していたはずだ。
「俺のは欠陥機なんだよ。神社で埃かぶってた奴だしさ」
「埃は関係ないと思うけど……考えてても仕方がないから、とりあえず撃ってみようか。まずはボクが狙いを付けてみるから、それで撃ってみて」
シャルルが後ろから俺の腕に手を添える。IS越しに密着するシャルルの体は華奢だ。本当に男子なのかと思ってしまう……
「一夏? もういいよ」
「あ、ああ。よし、引くぞ!」
トリガーを引く。
PICによって、火薬が炸裂する反動は感じない。でも、なんとなく“撃った”という感覚が残った。
そして、見事に的を射抜いたのだった。
◆◇◆―――◆◇◆
「鈴さん……これは一体どういうことでしょうか?」
ピキピキと青筋をたてながらセシリアが微笑む。目は笑っていない。
「好きなだけ蔑んでもらって構わないわ。あたしは自ら墓穴を掘ったんだから」
鈴はセシリアの怒りを受け入れながら、遠くを見つめていた。その憂いに満ちた諦め顔は逆に男らしい。
鈴のミスは一つ。単純に一夏を言い負かせずに、模擬戦が今日でなく一週間後になってしまったこと。正確には、一週間の間、放課後の訓練を一夏と共にすることができなくなったことだ。
結果、鈴が心配していた『一夏が男同士でつるむばかりになる』を後押ししただけとなった。
「わたくしが交渉すべきでしたわね……」
「そうね。こんなことになるなら、やらなきゃ良かったのかも」
提案者側のテンションはガタ落ちだった。
「まったく……私を仲間外れにするからこうなるのだ」
ため息をつく2人の元にもう一人IS乗りが現れる。
「箒さん? どうしてこちらに?」
「私は友人を仲間外れにするような非道ではない。一週間、こちら側の訓練に付き合おうと思ってな」
箒の言葉がセシリアと鈴に突き刺さる。嬉しさも半分あるから尚更たちの悪い嫌味だった。
「さ、今回は一夏に我々の力を見せつけるのだろう? 初志貫徹。一週間後に男子2人の度肝を抜いてやろうではないか!」
「ふふふ、そうだったわね。遠慮なくぶちのめす!」
箒の一声で鈴の闘志が蘇った。
「早速作戦を立てるわよ!」
◆◇◆―――◆◇◆
地下の司令室。一体、何のために造った空間なのかは不明であるが、その部屋の中央にはいつも通り壮年の男性が立っていた。
「ほほう。一夏くんとシャルルくんが鈴くんとセシリアくん相手にタッグマッチをするのかね」
「はい」
男性、轡木と話しているのは箒だ。最近の一夏についての話が聞きたいという轡木の要請でここにやってきたのだった。
「結構、結構。一夏くんを含め皆にはより高みに登りつめてほしいものだ」
轡木がうんうんと頷く。轡木が上機嫌だと判断した箒は自分が感じていた疑問をぶつけることにした。
「あのシャルルという転校生、一体何者ですか?」
轡木の顔が真面目なものとなる。だがそれは一瞬のことで、すぐに人の良さそうな笑みを浮かべる。
「一夏くん以外に男子がいて良かったじゃないか。箒くんとしてはライバルが少ない方がいいのではないかね?」
「轡木さん。はぐらかさないでください。彼は第2世代型ISのカスタム機で鈴を圧倒しました。機体の世代差をひっくり返すほどの実力者が何故今まで表に出ていなかったのです? 男子だから? それならば隠し続ける方が自然であるはずじゃないですか」
轡木の顔は変わらない。だがすぐに返事が返ってこなかった。箒はそれだけで、裏に何かあることを感じ取ることができた。
「箒くん。君は私から何を聞きたい?」
「今、一夏に一番近い場所にいる彼を信用していいのか。私が聞きたいことはそれだけです」
その質問くらいならすぐに返事が来ると思っていた。しかし、轡木は熟考し――
「それは君の目で確認したまえ」
答えを言わなかった。
◆◇◆―――◆◇◆
5月に入って一週間が経過した。授業が終わった放課後、貸し切られた第2アリーナに俺とシャルルが入っていく。
「きゃあー! 織斑くん、がんばってーっ!」
「デュノアくん、けがしないでねーっ!」
何故かギャラリーが多数。黄色い声援が嬉しいことは嬉しいのだが、注目されても困る。そもそも誰がアリーナを貸し切ったんだ?
と、ここでプライベートチャネルの通信が来た。山田先生だった。
『織斑くん。轡木さんが頑張れと伝えてくれとおっしゃるものですから、それだけ伝えておきます』
ああ、あの人なんだな。こんな舞台をセッティングした犯人は。山田先生もご苦労様です。
そして相手選手の入場。鈴もセシリアも相変わらずの装備だった。何か奇策でも使ってくるかと思っていたから拍子抜けだった。
「一夏、油断しないでね?」
「お、おう」
シャルルの奴、丁度いいタイミングで言ってくれるなぁ。確かに今、油断をしたかもしれない。気を引き締めよう! 俺は自分の頬をパシッと叩く。
「一夏、今日はアンタを泣かせてやるんだから!」
「一夏さんが勝ったときのわたくしのままではありませんわ。それを証明してご覧にいれます」
相手側も十分な気合いだ。いつもやる模擬戦と違い、試合って感じがする。
審判は箒。
「始めっ!」
戦闘開始。直後、俺に向かってセシリアのスターライトmkⅢから光が放たれる。やはり開始直後の接近を警戒していたようだ。俺は多少の余裕を持ってシャルルと反対側へと回避する。シャルルも同様に俺から離れるように動いたはずだ。
まず、セシリア対策として2人で固まらないことが挙げられる。近いと互いをフォローしやすい反面、広範囲の攻撃で巻き添えをくいやすい。今回の場合は、2人ともBTビットに包囲されると、俺が戦力外になる。1対2の射撃戦ではシャルルでも勝つのは容易ではない。というか無理だ。
さて、散ってしまえばBTビットの包囲は片方になるのだが……やっぱり俺か。鈴はシャルルに突撃している。2人はリベンジしたいだけなんじゃないのか? そう思ってしまう組み合わせだ。
『なあ、セシリア。やり返したいだけならタッグマッチじゃなくても良かったんじゃないのか?』
『そうでもありませんわ。一夏さんにチームの戦いというものを知っていただくことも一つの目的ですので』
セシリアはそう言うが、今のままだと前回の焼き回しだぞ。しかも今回は無理にセシリアを攻撃する必要はなく、避けているだけでも勝てるし。
……そうか。シャルル次第で避けているだけじゃダメになるのか。うーん、でもシャルルが鈴に1対1で負けるとは思えないんだよな。
『一夏さん。そろそろわたくしから本気で攻めさせていただきます』
セシリアからの通信。その後の彼女の行動は――
2機のBTミサイルの発射だった。
「は?」
この距離で当たるとは思えない。当然の如く、そのミサイル2機は俺に向かって来ず、俺を包囲しているビット4機の軌道に混ざる。
『おいおい、セシリア。これで何か変わるのか?』
『変わるでしょう? あなたはこの爆発を受けることができない機体なのですから』
ミサイル一機が包囲網から逸れ、俺に直進してくる。簡単な直線軌道だ。セシリアが操作して軌道を多少変えたとしても、俺に直撃させることなど――
そうか! セシリアの奴!
「爆風だけでも当てる気か!?」
『ご名答。頑張ってくださいな。爆風の当たらないくらいに大きく避けてもらわないと』
まさか切り札を牽制に使ってくるとは思わなかった。
ブルー・ティアーズの戦闘スタイルはビーム射撃で敵の装甲を剥ぎ取った後に、高威力のミサイルで残りのシールドバリアを吹き飛ばすものである。そのセオリーを自分から崩してきたのだ。
俺はセシリアの言うとおり大きく避けざるを得ない。そこにBTビットのビームが飛んでくる。俺は初めてセシリアの射撃を当てられてしまった。
「くっ!」
「当たりましたわ!」
セシリアが宝くじにでも当たったかのように喜んでいる。絶対防御こそ発動しなかったが、シールドエネルギーが削られた。ひるんでもいられない。すぐにセシリアのスターライトmkⅢが火を噴く。かろうじて避けることに成功する。
「もらったーっ!」
『一夏っ! 危ないっ!』
セシリアの波状攻撃を瀬戸際で避けていたために気づかなかった。いつの間にか俺を包囲していたBTビットの数が減っていることに。
ビットはシャルルの方へ、そしてシャルルが相手をしていた鈴が俺に向かってきていた。
BTミサイルを牽制に使えるわけだ。フィニッシャーは自分では無いと割り切っていたのだから。これが、チーム戦なんだな。
スピード型の俺とパワー型の鈴。まともにぶつかり合ったら勝ち目なんてあるわけ無い。当然、衝突は避けるべきなのだが、BTミサイルを含んだセシリアの包囲が俺の移動の自由を阻害する。
セシリアたちの狙いは、最初に俺を落とすことだったというわけだ。
俺と鈴のISの機体性能差は歴然。防御重視の箒のISの盾すら吹き飛ばされているんだ。雪花の盾くらいなら紙屑も同然だろう。俺が鈴の攻撃を受けきれるはずがない。
ならばどうするか……?
受けきれない盾ならば、投げ捨てればいい!
「させるかよ!」
「それくらいお見通しよ!」
俺は右肩の盾を切り離し、鈴に向かってフリスビーのようにぶん投げた。俺の行動を読んでいた鈴は余裕の表情を浮かべながら盾をたたき落とす。
それでいい。
ただそれだけの時間が欲しかった。
「シャルルっ!」
「鈴さんっ! 危ない!」
俺が叫ぶのを合図にシャルルが拡張領域から取り出した武器を槍のように投げた。足の止まった鈴の背後への攻撃。セシリアの声で気づいた鈴は体を右にズラすことで回避する。投擲されたシャルルの武器はまっすぐに俺へと飛んできた。
先端にナイフが取り付けられた55口径アサルトライフル“ヴェント”が。
俺は軽くそれをキャッチする。シャルルの投擲は鈴への攻撃でなく、俺へのパスだったってわけだ。後はシャルルに教えられたとおりに構えて、撃つだけ。俺は鈴に銃口を向けて引き金を引く。
「アンタが銃!? 聞いてないわよ!」
鈴が不可視の籠手で前面をカバーする。……しかし、籠手には何も当たらず、俺の銃弾は明後日の方向に飛んでいった。
当たるわけがない。ただの囮だ。もう必要ない、と俺はアサルトライフルを投げ捨てる。対鈴において俺がやることはここまでだ。
あとは、がら空きの背後からシャルルがやってくれる。
イグニッションブーストでシャルルが鈴に肉薄。そして、左手の盾が弾け飛び、中にはリボルバーのように装填された杭が並んでいた。
無数にあるシャルルの装備の中で最も威力のある切り札。
第2世代兵器ながら、ISのエネルギーバリアを削り取ることのみに特化することで対IS戦における火力は第3世代兵器と並べてもタメを張る零距離射撃兵器。
69口径パイルバンカー“
「“
「はあああ!」
シャルルの左拳が振り向こうとしていた鈴のわき腹を捉える。シャルルが勝利を確信した笑みを浮かべた。仮面でない自然体の笑顔が印象的だった。
パイルバンカーの一撃。
「くうっ!」
鈴が苦悶の声を上げる。シールドエネルギーを削ってもなお残った衝撃が鈴の体にダメージを与えている。
これで終わらないのがグレー・スケールの特徴。リボルバー機構によって、次の杭が装填されることで連射が可能なのだ。
続けざまに響く発射音。
「鈴さんっ!」
「お前の相手は俺だ、セシリア!」
チームメイトの危機にセシリアはBTビットをシャルルに回し始めた。俺と雪花がこの隙を逃すはずなどない。全ての推進機にエネルギーを充填し、一気に爆発させて瞬時に加速する。セシリアが気づいたときにはもう遅い。すれ違いざまにセシリアの胴を切り抜いた。前回と違ってまだセシリアのエネルギーは残っている。俺は急速反転して再び斬りかかる。
「インターセプター!」
セシリアはスターライトmkⅢを捨てて、ショートブレードを展開していた。名前を呼んではいるが、前より断然速い。しかし、
「武器があったところでっ!」
明らかに扱い慣れていないセシリアの剣を打ち払い、袈裟懸けにとどめの面を繰り出した。
『セシリア・オルコット、シールドエネルギー0』
審判の箒がセシリアの敗北を告げる。俺たちの勝ちだ。俺はシャルルの方を見た。その瞬間、箒が新たな情報を告げる。
『シャルル・デュノア、シールドエネルギー0』
「何だって!?」
立っていたのは鈴だった。あちこちの装甲がボロボロながらも、あの状況をひっくり返したのだ。
『シャルル? どういうことだ?』
『切り札は向こうにもあったんだよ。彼女は受けたダメージを倍以上にして返すことができるみたい。多分、彼女にもう戦うだけのエネルギーは無いとは思うけど、気をつけてね』
そういえば、俺は鈴がゴーレムを倒した方法を知らない。龍咆の攻撃力だけじゃなく、別に秘密があったのか。
「見た!? 転校生! これがあたしの実力よ!」
鈴が残っている俺をガン無視してシャルルに指を突きつける。息を荒くさせながら必死で言うことなのだろうか? シャルルが「流石は代表候補生ですね。感服しました」と微笑みかけると鈴はフフンと鼻を鳴らしていた。
『なあ、セシリア。やっぱり鈴はシャルルに仕返ししたかっただけなんじゃないか?』
『彼女も代表候補生として譲れないことがあったのは事実でしょうが、本意は別にありますわ。鈴さんが気にしていたのは、一夏さんがわたくしたちへの後ろめたさから離れていってしまうのではないのかということです。それが一番わたくしたちにとっては辛いことなのです。だから一夏さん。女だからと避けないで、わたくしたちを頼ってください』
『……もちろんだよ』
今、やたらと鈴が力を鼓舞している理由がわかった。
鈴は俺に必要とされたかったんだな。
鈴はシャルルよりも頼れるんだってことを俺に伝えたかった。
それでこんな試合を組んだ。
俺を甘く見過ぎじゃないか?
この一週間、シャルルだけと練習していて気が楽だった。それは間違いない。さらに言えば、他の誰と訓練しているときよりも俺の上達が早いことも実感している。
だが、シャルルの方が頼りになるからなんて理由で鈴と縁を切るはずがないだろう?
俺に笑顔を戻してくれたアイツをいらないなんて言えるわけがない!
それとも、昔の俺はそんな薄情な奴だったのだろうか……
ならば、言える。今の俺はそんなに弱くない!
『鈴、俺の負けだ』
『はぁ? まだアンタは戦え――』
『話は最後まで聞け。俺たちの負けとは言ってない。すまなかった。明日からまた訓練の相手をしてくれるか?』
鈴がファイティングポーズを解く。
『あったりまえじゃない! 次はいい気になってるアンタのその顔を歪ませてやるんだから!』
慎ましい胸を張り、ビシッと指を突きつける鈴。これでこの試合は終了で良さそうだ。そろそろピットに戻るとしようか。
ギャラリーがちらほらと帰り始め、アリーナ内のシャルルたちもそれぞれ帰って行く。
そんなときだった。
『警告。後方に熱源』
俺はすぐさま振り返る。飛んできているのは砲弾。避けるのは間に合わず、左肩に残っている盾で防ぐ。だが、威力が高く、衝撃が俺に伝わってきた。
誰だ?
砲弾が飛んできた方向を注視する。俺はトロポスの襲撃だと思っていた。
でも、違った。少なくとも今まで相手にしてきた“敵”とは違う。そこに居たのは黒いISを纏った銀髪の少女だった。
「覚悟しろ! 白騎士ーっ!!」
ウサギの耳のような装甲をつけた少女が俺に向かって飛んできた。