IS - the end destination -   作:ジベた

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14 AIC

「それにしてもテレーゼ。いつも突然日本に来るけど、IS学園に来たのは初めてじゃないですか?」

 

 IS学園の職員室。テレーゼに昼休みまで待ってもらった真耶は教員の事務室に彼女を案内した。

 理由は簡単。

 

「こらっ! アンタたち! 職員室前にたむろしない! 聞き耳立てない!」

「えーっ! だって――」

「だってじゃありません!」

 

 生徒が気軽に出入りできる場所ではゆっくり話もできない。ここならば他の教員が生徒たちを追い払ってくれるという判断だ。

 

「そういえば初めてだね。今日はラウラちゃんがIS学園に来る日だって聞いてたから、つい来ちゃった♪」

 

 赤みがかった茶髪の頭を自分でポンと叩きながらテレーゼはイタズラに成功した子供のように笑った。

 これで真耶と同い年なのだ。真耶が子供っぽい外見を気にして必死に大人であろうとしているのに対して、テレーゼはスレンダーな美女なのに中身が子供だった。

 見た目が逆だったらな、と真耶は本気で思う。

 

「テレーゼが他人を気にかけるなんて珍しいですね。同じドイツ人だからというわけではないですよね?」

「あの子は私と同じ遺伝子強化素体(アドヴァンスド)だから。どうしても気になってね……」

 

 テレーゼのあどけない笑みが一瞬で消え、憂いを帯びた顔に豹変する。その顔はかつて真耶と対峙したライバルのものに戻っていた。テレーゼの話の続きを真耶は黙って待つ。

 

「私よりも優秀だったのよ、あの子。それこそ他の遺伝子強化素体が失敗作扱いされるくらいにね。でも、あの事件が世界を変えた。変わった世界であの子は求められる存在になれなかったの」

「白騎士事件ですね。確かテレーゼは……」

「ええ。私もあの戦いに参加してた。あれを戦いと呼んでいいとは思えないけど。最前線で戦った遺伝子強化素体は皆死んでしまった。本国は公表してない。結局生き残った遺伝子強化素体は私と、戦闘に参加しなかったあの子だけ」

 

 遺伝子強化素体。

 人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた、ただ戦うためだけの存在。現在は研究所を取り潰された非人道的な研究の成果。

 白騎士事件を生き残り、本国に残った2名は共に女性であった。故に本国はIS操縦者として彼女たちを利用しようとした。しかし、

 

「変わった後の世界は私たちには厳しい世界だった。私たちに待っていたのはIS適性:Cという一般人以下の出来損ないの烙印だったのだから。戦うことしか知らない私とあの子は必死だった。役に立つためならばどんな難題でも引き受けた。それは手術だったり、訓練だったり……語ると長くなるから省くね」

「テレーゼにとってあの子は妹みたいなものですか」

「そんな綺麗なモノじゃない。運命共同体よ。遺伝子強化素体(わたしたち)が役に立つかどうかをどちらかが証明すれば良かった」

 

 今にも泣きそうなテレーゼの顔を見て真耶はいたたまれなくなった。一度聞いたことのある彼女の過去を無闇に掘り返すこともないだろうと話を変える。

 

「そ、そうだ! そういえば、テレーゼは日本に何の用で来てたんですか? さっきの口振りだと、ついでに寄ったという感じに聞こえたんですが」

 

 テレーゼの顔が急速反転して、また子供っぽい笑顔を浮かべる。

 

「実はアメリカに行ってたの。ほら、アメリカの第3世代型が私のISを参考にして開発してたでしょう?」

「そうでしたね。テレーゼの単一仕様能力を再現するとか。まさか協力したんですか!?」

「そんなわけないでしょ。駄作だったら壊してくるつもりだったの。やり直し!ってね。でも見ることもできなかった」

「え? どういうこと?」

 

 見ることもできなかった。その理由は真耶が想像したよりも恐ろしいものだった。

 

「盗まれたらしいの。しかも操縦者ごとね」

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 放課後の第3アリーナ。セシリアと鈴の2人が宙に浮いて待機していた。

 

「遅いですわね、一夏さん。着替えに時間がかかるようになったのは、デュノアさんが来てからではありませんか?」

「そうよ。男2人で何やってんだか。普通待つのは男女逆じゃないの?」

 

 なぜか着替えが遅い男組を待つ。最近はずっとそうなのだった。しかもまだまだ時間がかかる。

 

 ちなみに箒は用事があるらしく、参加しないと連絡があった。

 

「どうします? わたくしたちだけでも先に始めておきますか?」

「賛成ね。いっそのこと本気でやりあわない? あたしが負けて以来、やってないしさ」

「いいですわ。あなたを単一仕様能力ごと封じ込めて差し上げましょう」

 

 2人は試合の開始位置くらいの距離を開け、セシリアがスターライトmkⅢを呼び出す。「では」とセシリアが銃口を向けた瞬間、

 

『警告。ロックされています』

 

 セシリアのハイパーセンサーに熱源の反応があった。超音速の弾丸が飛来する。距離にして800m。アリーナの端から自分たちを狙う狙撃兵がいた。頭部まで含むシンプルな全身装甲のISらしきモノ。それは、

 

「トロポス!? なぜこのような場所に!?」

「なんでよ! セキュリティは何やってんの!?」

 

 以前アリーナを急襲してきた正体不明の“敵”。前回は強引にアリーナを突き破ってきていたが、今回は違う。奴らが使用する無人の戦闘機兵がアリーナに“潜入”していた。

 いや、無人ではなかった。ISのハイパーセンサーが敵トロポスから生体反応を感知している。

 人間の操るトロポス。セシリアの脳裏を紫色のルー・ガルーの姿がよぎった。一夏の戦闘を見ていて感じていた。アレは自分では勝てない、と。それが3機も銃口をこちらに向けていた。

 

「しっかりしなさい! セシリア! 代表候補生でしょ!」

 

 セシリアの震えを感じてか、鈴が檄を飛ばす。もしかしたら鈴も自分を鼓舞しているのかもしれないが、セシリアの震えは治まった。

 そうだ。国を背負う立場である国家代表、その候補生が性能でISに劣っているトロポスに恐れを抱いてどうする。

 

「データベースに照合……遠距離狙撃型トロポス“ティラール”ですわね。鈴さんが近寄れば、楽勝でしょう」

「セシリア。アンタが敵だったら、狙撃兵3機だけを戦闘に出す?」

 

 鈴の一言でセシリアはまだ自分が冷静になり切れていないのだと思い知る。無人機ならばともかく、相手は人だ。これは、近寄ることを誘っている?

 

「そうですわね……格闘型でも伏せておきますかしら。ですから射撃戦闘にします。敵の数が多いようですが、こちらは第3世代型IS。火力差を見せつけて差し上げましょう」

 

 BTビットを展開する。鈴も両肩に浮いている衝撃砲の口を開かせた。

 しかし、戦闘準備が完了といったところでピットから新手が現れた。

 

「ふむ。そこで飛び込まぬという判断は流石だ。いや、こちらが甘く見過ぎていただけか」

 

 黒いIS。またラウラが現れたのだと思っていた。しかし、形が似ていても右肩のレールカノンが存在しない。さらに言えば、ラウラと同じ眼帯をしているが、明らかに高校生ではない。

 

「ドイツの第3世代型IS!? しかも転校生じゃない!」

「データがありましたわ。ISネーム“シュヴァルツェア・ツヴァイク”。ドイツの代表候補生のシュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機ですわ!」

「いかにも。悪いが君たちには少々痛い目に遭ってもらう」

 

 シュヴァルツェア・ツヴァイクが高速で接近してくる。後方のティラール部隊は散開して、こちらを包囲しようとしてくる。ティラールがシュヴァルツェア・ツヴァイクを狙わないということは、このISはトロポスたちと同じ組織。

 

「鈴さん! そのISも“敵”ですわ! 遠慮なくやってしまってください!」

「言われなくてもそうするわよ! セシリアも周りの連中をどうにかしてよね!」

 

 役割分担はあっさりと決まる。セシリアにとっては数だけで攻めてくる敵の方がやりやすい。鈴にとっては一騎打ちの方が都合がいい。

 

「わたくしとブルー・ティアーズがまとめて相手をして差し上げます!」

 

 4機のBTビットと自機でこちらの手数は5。対する敵はティラールが3機。手数も狙撃用ライフルが3。セシリアの敵ではない。

 セシリアを取り囲んで撃つティラール部隊だったが、セシリアは撃たれる前に射線から身を外して回避する。まるで段取りの決まっているダンス。それもそのはず。セシリアには敵の撃ちたい場所とタイミングが手に取るようにわかるのだ。

 

 余裕を感じさせる動きで避けながら、BTビットに指令を送る。セシリアの攻撃は面白いように当たっていた。トロポスには全方位の視界が存在しない。セシリアにとって、敵は死角だらけの的でしかなかった。

 そして、実感する。トロポスはISに遠く及ばない。以前に攻め込んできた紫色のルー・ガルーが特別だったのだ。

 

 だから何も怖くない。もうただの作業だ。

 

「セシリアっ!」

 

 あの黒いISがこちらに来なければ……だったが。

 

「あぐっ!」

「捕らえた」

 

 鈴が抑えこんでいるものと確信していた。それは信頼であり、甘えであった。

 

 黒いIS、シュヴァルツェア・ツヴァイク。黒い枝を意味するこの機体の背中から12本ものワイヤーが射出されていた。先端に刃がついている武装だ。本体から伸びる黒いワイヤーはまさに枝。その姿はまさに黒い樹木。

 ワイヤーブレードはPICと推進機により操縦者の任意の動きを見せる。有線のBTビットのようなものは、12本のうちの4本でセシリアの四肢を拘束した。

 

「セシリアを離しなさい!」

 

 鈴が衝撃砲を最大出力で放つ。しかし、黒いISは右手を鈴に向けるだけで、

 

「無駄だ。我らの“停止結界”の前では衝撃砲など何の役にも立たん。見えないだけが取り柄の大砲では色物の域を出ない!」

 

 衝撃砲をいとも簡単に止めた。打ち消されたと言った方が正確だろう。

 

「AIC!? まさかこんなにも甲龍と相性が悪いだなんて……」

 

 鈴が持っている攻撃手段は全て衝撃砲に頼ったものだ。射撃も格闘も衝撃砲しかない。しかし、AIC一つで衝撃砲の弾丸は止められ、接近すれば先に甲龍本体にAICを使用されてしまう。

 そして、状況は悪化する。

 

「さて、これは良い盾を手に入れたものだ。まだ向かってくるか? 中国の代表候補生」

 

 セシリアが引き寄せられ、鈴と黒いISとの間に入れられる。BTビットは射出しているが、今撃てば自分を盾とされてしまう。セシリアも不用意に動くことができない。

 

 もうダメだ。そう思ったとき――

 

「なっ――!」

 

 一発の銃弾が黒いISを襲っていた。完全な不意撃ち。

 

(今ですわっ!)

 

 敵が怯んだ隙をついてセシリアは4機のBTビットに指令を送った。ワイヤーを撃つ指令を。BTビットから放たれたビームはセシリアを縛るワイヤー全てを焼き切った。

 

「くっ! 一体どこから――」

 

 敵は周囲を確認している。しかし知覚範囲に優れるセシリアのハイパーセンサーは狙撃した人物を捕捉していた。

 

 オレンジ色の貴公子の姿を。

 

『オルコットさん、大丈夫ですか?』

『助かりましたわ、デュノアさん。一夏さんはどうしましたの?』

『一夏は別の場所に現れた敵と戦っています。一夏は一人で大丈夫そうでしたから、ボクはこっちの援軍ですね。ドイツのISがいるとは思いませんでしたが』

 

 一夏が戦っている敵は紫色のルー・ガルーでは、という不安がよぎる。

 だが今は一夏の心配をしている場合ではない。

 

「セシリア、デュノア! さっさとこいつら倒して一夏のとこに行くわよ!」

「はい!」

「わかりましたわ!」

 

 鈴の言うとおり、今は目の前の敵を倒さねばならないのだ。それができなければ、一夏の隣に立つ資格が無い。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

『データ照合。狙撃型トロポス“ティラール”。生体反応あり』

 

 雪花が敵の情報を俺に伝えてくれる。俺から400mほど離れた位置に2機のティラールがこちらに向けてスナイパーライフルを構えていた。

 

「轡木さんに、セキュリティが甘いって言っておかないといけないな」

 

 俺とシャルルは第3アリーナに入る前にトロポスに遭遇した。そして何故か轡木さんたちやセシリアたちに連絡がつかない。敵は2機だったが、俺はシャルルにセシリアたちの様子を見てきてもらうように頼んだ。人が操縦するトロポスとはいっても、“ヤツ”のような雰囲気は微塵も感じない。俺一人で十分に事足りる。

 

 俺は刀を構える。接近戦しかできないというアピールだ。しかしシャルルがいなくなってから、敵は一発も撃ってきていない。今の距離ならば、一方的に攻撃できるはずなのにだ。

 

 ――と、そこで上空より超音速で飛来する砲弾が見えた。当たれば雪花の紙防御くらい軽く打ち抜ける代物。最近、全く同じモノを俺は見た。

 

「シュヴァルツェア・レーゲン! ラウラかっ!」

 

 飛び退いて回避し、砲弾が地面を穿つ。見上げた青い空には一点の黒がある。右肩の大型レールカノンをこちらに照準している、銀髪で眼帯の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「自分から一人になってくれるとは好都合だ。……お前たちは他のISの介入の阻止に回れ」

 

 2機のティラールが「了解」と言わんばかりに敬礼をしてこの場を去った。これで俺とラウラだけがこの場に残ることになる。

 ラウラがトロポスに指示をした。ということはラウラは……“敵”?

 

「お前たちの目的はやっぱり俺なのか?」

「そうだ、織斑一夏。私と一緒に来てもらうぞ」

 

 マズいことになった。まさか敵がISを保有していると思っていなかった。それに彼女は代表候補生。もしかして、俺たちの“敵”は彼女の国なのか!?

 今になって自分の浅はかさを呪う。シャルルに居てもらえば良かった。

 俺はラウラのAICにどう立ち向かえばいいのか見当もついていない。

 

 だが戦うしかない。

 俺はここに居たい。

 ここにいれば、俺の探す強さが見つかるはずだから。

 

「断るっ!」

「いい返事だ。行くぞっ!」

 

 ラウラがプラズマ手刀を展開しつつ急降下してくる。前と同じく、接近戦を仕掛けてきた。俺はいつもと違って全速力で後退、つまり距離を取った。降りてきたラウラは地面スレスレで静止する。

 

「ほう。近接格闘型の癖に自分から距離を取るのか?」

「お前こそ中距離の武器がありながら接近してくる理由があるんだろ?」

 

 ラウラがやれやれだと言いたげに肩をすくめる。やはり俺の予想は的中のようだ。AICは近距離の相手にしか使えない。

 

「一度見せただけでAICの射程がバレているとはな。貴様は面白い男だ。それで、どうする? 貴様は近寄らねば私に手も足もでないのだろう?」

 

 ラウラの肩から6本のワイヤーが伸びる。その先端には片刃のブレードが対になってついており、その中心には銃口が見えた。PICの影響下にあるために自在に動く黒いワイヤーは、その先端を全て俺に向けていた。

 

「この程度で終わってくれるなよ?」

 

 ラウラが手をかざすと6つのビーム銃全てが一斉に火を噴いた。この程度の攻撃、セシリアのBTビットの包囲攻撃に比べれば避けることは容易い。だが、一つラウラは予想外の行動を取っていた。

 

「お前、狙って撃ってないな!?」

「当たり前だろう。イギリスのBTビットの包囲攻撃を完全回避した男に狙って当てられるなどと思ってはいない。まして、私のシュヴァルツェア・レーゲンのバヨネット(銃剣)の特色はその連射速度にある」

 

 6つの砲塔だけとは思えない無数のビームが俺を襲う。俺のいる辺りという面を狙った弾幕は、まさしく雨だった。

 いくら足が速くても、人が雨の中で濡れないためには“傘”がいる。俺は両肩の盾を前面に展開する。幸い、ラウラの射撃は一方向からしか来ない上に、連射速度重視のビームは雪花の盾でも容易に防ぎきれるレベルの攻撃だった。

 

「もらった」

 

 俺が盾を出すと同時に鼻を鳴らすラウラ。雨の発射音が続く中で、俺は“雷”の存在を忘れていた。

 

 轟音。

 

 しまった、と気づいたときにはもう遅い。ラウラの右肩の大型レールカノンが轟き、雪花の盾を一枚粉砕していた。さらに追撃のビームを数発浴びてしまう。

 

「くっ!」

「どうやらこのまま決着がつきそうだな」

 

 この状況はマズい。このまま逃げていても残り1枚の盾が破られた時点で俺の負けだ。

 打って出てもAICが待っている限り、接近戦でも勝ち目はない。

 

 刀一本でどうしろってんだよ!

 

 ……そうか、一本じゃなけりゃいけるのかも。

 

 作戦なんて呼べる作戦は立たない。しかし、やるしかない。イグニッションブーストで無理矢理にでも前に突き進む。

 

「やっとその気になったか。だが容易く近づけるほど私は甘くないぞ」

 

 ラウラがレールカノンを発射する。全推力を前進に使っている俺は避けられない。残った盾で砲弾を防ぎ、盾は木っ端微塵になった。傘を失った俺はさらに加速してビームの雨の中を進む。

 

「ふん。もう少し何かしてくれるかと期待していたが、買い被りすぎだったな。いくら速かろうとそのような直線軌道では、我がシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界を抜くことなどできん!」

 

 ラウラが右手を俺に向ける。AICだ。目に見えぬ網が俺をからめ取り、一切の身動きがとれなくなる。近距離の動かない的に当てることなど初心者でもできる。勝利を確信したラウラは最高火力であるレールカノンの銃口を俺に定めた。

 

 そこでやっとラウラは気づいたようだ。

 

「貴様、武器をどこにやった!?」

 

 俺は笑うのをこらえきれず、鼻で笑う。

 

「俺の刀? そんなものは投げ捨てたさ。最後の盾が壊される瞬間にな。今頃はお前の真上じゃないか?」

「なっ!?」

 

 ラウラが頭上を見上げる。ISだからそんなことはしなくても見えるとはいえ、やはり目の向いている方向が一番集中できる。

 

 “俺が投げた刀”なんて“存在しない”けどな。

 

 存在しない二本目の刀で血路が開かれた。

 今、この瞬間にラウラは俺から注意を逸らした。それはAICの解除を意味している。俺の体は呪縛から解き放たれ、瞬時に最高速度で接近する。

 

「うらああ!」

 

 俺の刀は一度量子変換して拡張領域にしまっておいた。そのタイミングはさっきも言ったように盾が壊される瞬間。無数の破片に紛れてラウラは気づかなかっただろう。

 

 無手で接敵に成功した俺は、両手を左の腰に持って行く。左手は鞘を掴んでいるイメージ。そして右手は刀の柄を握るイメージ。そのイメージのままに、刀を抜き放つ!

 

「ラピッドスイッチだと!?」

「抜刀術って呼んでくれ」

 

 シャルルの得意技、ラピッドスイッチ。俺はシャルルからそのコツを聞いていた。曰く、「あることが当然だと思うこと」。要するにイメージだ。セシリアもスターライトmkⅢを召喚するのにポーズを取っているが、あれも高速で呼び出すためのイメージを固めるために行っているのだろう。俺の場合はそれが鞘からの抜刀だった。

 

 何もない空間から抜き放たれた刀は、確実にラウラの横腹を捉えていた。

 

「ぐっ!」

 

 さすがは防御型。皮膜装甲も硬く、一撃では勝てない。返す刀でもう一撃――

 

「停止結界っ!」

 

 もう一撃は間に合わなかった。ラウラの右手が俺に向けられ、俺は身動きができなくなる。7つの銃口を向けられ為す術なし。万事休す。

 

 しかし――

 

 とどめを刺されると身構えた俺だったが、いつまで経っても衝撃が来なかった。

 

「くっくっく。あっはっはっはっは!」

 

 ラウラの高笑いが響く。実に楽しそうなラウラは俺に質問をしてきた。

 

「なあ、織斑一夏。貴様は“白騎士”か?」

「は? またそれかよ。お前は俺を何歳だと思ってるんだ? 当時の俺は8歳だっての! ってかお前も同い年だろ!」

「くっくっく。そうだな。だが私は思うのだ。7年前の私が、ISを使うお前と戦ったら、白騎士事件と同じ結果になるだろうとな」

 

 ラウラが急にまじめな顔になる。やはりシャルルの予想通り、ラウラは白騎士事件に関わりがあった。

 当時のラウラはISなど持っていない。現在の価値観だと、IS無しでISに勝とうという方がおかしくないか? そりゃ7年前のラウラは今の俺に勝てないだろうな。それが俺じゃなくてもIS自体に勝てないし。

 

「誰だってISを使えば同じ結果になるだろ?」

「ならんさ。貴様は機体の性能差だけで、数の力を上回ると本気で思っているのか?」

 

 俺の答えをラウラは即座に切り捨てる。その目は出来の悪い部下を見る目だった。

 

「ドイツだけでなく、いくつの国の軍が参戦したと思っている? 軍の規模を貴様は把握しているのか? 今ISに使われている武装の一部は当時にも既に健在だった。ISで使用している第2世代の銃火器よりも高速な兵器もあったくらいだぞ? 例えハイパーセンサーなど無くても、数さえあれば当たる」

 

 ラウラの言いたいことがわかってきた。白騎士は、

 

「それら全ての攻撃を捌ききったってことか。そういえば、一般人にも無傷で消えていったって伝わってるしな」

「その通りだ。それはISの性能もあるが、何よりも操縦者の腕前によるものであることはISの操縦者ならば理解できるだろう?」

「それはわかるけどさ。なんで俺ならそれを再現できるんだ? さっきもお前のビームの弾幕を捌ききれなかったのに」

 

 ここでラウラは大きくため息をついた。

 

「貴様は自分のISの状態を把握していないようだな。そんなISでまともに戦おうという方がおかしい。日本製の第2世代型IS“打鉄”のカスタム機としか聞かされていないのだろう?」

「ん? そうじゃないのか?」

 

 いつの間にか俺の雪花の話になっていた。

 ……ってかどうして俺はラウラと普通に喋ってるんだ?

 

「私の目から見れば、それは改悪だ。いや、カスタマイズの途中といったところか。IS同士の対戦において、格闘が強力であることは過去のモンド・グロッソでも証明されているが、射撃に耐えきれずに敗北していく格闘機体も多々あったことを忘れてはならない。耐久力を犠牲にしてでも速さを上げるなど愚の骨頂だ。それを造った技術者の神経を疑うぞ。お前はそんな欠陥品で、しかも剣一振りでこの私に傷をつけたことの意味を噛みしめてだな――」

「あ、あのう……ラウラさん?」

「ん? どうした?」

 

 長々と話し始めたラウラの言葉を遮ると、ラウラが不思議そうな顔をする。無表情で首を傾げる姿はまるで人形のようだった。

 

「俺たち、戦ってるんだよな?」

「ああ、戦っていたな」

 

 いや、確かに俺の負けだから過去形でもいいのだが、何か腑に落ちない。

 

「撃たないの?」

「撃ってほしいのか? その欠陥品に」

 

 俺は「滅相もございません」と叫び、許しを乞う。やはり、ラウラは俺をどうこうする気が無いようにみえる。なんというか、最初にいたティラール2機を追い払った時点で気づくべきだった。ラウラは俺と一騎打ちを望んでいた。

 

 本気の俺と……。まるで俺を試しているかのように。

 

 そうだ!? ラウラがどうしてトロポスに指示を出していたのかははっきりさせないと。

 

「ラウラ、君は一体何者なんだ? どうしてトロポスに指示を出してたんだ?」

「私はドイツ軍特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”の隊長だ。他の肩書きなどない。それと、あれはトロポスというのか。あれは無人機だったものを鹵獲して私の隊の部下に使用させただけのことだ」

 

 鹵獲ということはラウラは俺たちの“敵”と交戦したことがあるということになる。つまり、ラウラは“敵”じゃないってこと?

 

「なあ、そろそろAICを解除してくれないか?」

「そうだな。一つ条件……というよりも頼みがある。本当は無理やり言うことを聞かせようとも思ったのだが、貴様の戦いぶりを見て気が変わった。聞いてくれるか?」

「内容次第だ。とりあえず言ってみてくれ」

 

 すると、ラウラはAICを解除した。俺が頼みを引き受けると決めてもいないのに離しやがった。

 それは俺が了承すると確信してのことだったのかもしれない。

 

「私を轡木十蔵に引き合わせてほしい」

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