IS - the end destination - 作:ジベた
『クラリッサ。状況は終了だ。直ちに部隊を撤退させろ』
クラリッサ・ハルフォーフの駆るシュヴァルツェア・ツヴァイクへとプライベートチャネルによる通信が送られてきた。送り主は当然、ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長である。
『了解。撤退を開始します』
クラリッサは展開していた“枝”を収納し、セシリアたちから距離を取る。枝のうち4本はやられているが、他に被害は全くなかった。
「総員、撤退!」
クラリッサが指示を飛ばすことで周囲に散っていたティラール5機もクラリッサの後に続いていった。
◆◇◆―――◆◇◆
「ちょっと、アンタ! 逃げる気っ!?」
「鈴さん、ここは退いてもらいましょう」
撤退する黒いISを逃すまいと前に出ようとしていた鈴の肩をセシリアが掴む。彼女の目からは既に戦闘の意思が無くなっていた。
「どうしてよ!」
「凰さんは彼女たちの戦い方をおかしいとは思いませんでしたか?」
鈴の疑問にはシャルルが答えた。そして、それを鈴もわかっている。
「時間稼ぎだったんでしょ!? それくらいわかってる! でも、アンタたちはどうも思わないわけ? あたしら3人で倒しきれなかったのよ!」
敵はたった1機のIS。5機のトロポスの支援射撃があったとはいえ、ISの数は3対1だった。代表候補生が3人いて、倒せない。明らかに自分たちの実力不足だ。鈴はその事実を受け入れられない。
「仕方ないですよ。あのシュヴァルツェア・ツヴァイクは防御性能に特化している機体です。逃げに徹したあの機体をこの短時間で倒すことは、ヴァルキリークラスのIS操縦者を連れてこないと難しいでしょう」
「だけど……」
シャルルの冷静な分析。それも鈴は理解している。でも納得はできない。感情が内側で暴れていた。
シャルルにはわからない。そう思っている鈴は何も言えなくなった。
「鈴さん、デュノアさん。今、一夏さんから連絡がありましたわ。問題なく終わったようです。今日のところは引き上げましょう」
◆◇◆―――◆◇◆
シャルルは緊急の展開だったため、ISスーツに着替えていなかったがセシリアと鈴はそうではない。そのため、2人は更衣室へ着替えにきていた。
「鈴さん、今日のアリーナはどこかおかしくはありませんでしたか?」
2人きりになったところでセシリアは疑問に思っていたことを口に出した。鈴は首を傾げる。
「アリーナがおかしかった? どこが?」
「正確にはアリーナではなく、人がです。思い出してください。ゴーレムが突入してきた日のことを」
そこまで言って鈴は合点がいった。
「今日は……あたしたちしかいなかった?」
「そのとおりですわ。初めはわたくしたちが早すぎたからだと思っていたのですが、あれだけの戦闘をしている間に誰も姿を見せなかったのです」
IS学園の放課後は部活をする生徒も居るが、それは訓練機を借りれなかった者がやっているだけ。時間ある限りはISの自主訓練に時間を割くことが普通である。だからこその異常。そして、セシリアが気にかかっていることは他にもあった。
「箒さんが用事で席を外していたというのも偶然にしては出来過ぎている気がします。そして、トロポスが出現していても一向に先生方が来る気配がありませんでした」
「つまり、学園側で人払いをしていたってこと?」
「そう考えています」
既にセシリアと鈴は箒が学園の上層部に繋がりがあることを知っている。一夏との訓練の時間を削ってまでの用事に学園上層部が絡んでいると考える方が自然だった。
ここで逆に鈴が質問をする。
「その話を今する理由を言ってくれる? 多分、デュノアなんだろうけど」
「ええ。わたくしは彼を全く信用しておりません。一夏さんにも確認をとりましたが、まだ彼はトロポスを知らないはずなのです。ですが、今日の彼は――」
「かなり冷静だったわね。不気味なくらいに」
今日、セシリアはシャルルの狙撃によって助けられたのは事実だ。
だからこその違和感。
シャルルが異様に戦いなれているのだ。一夏以上というだけでなく、セシリアたち以上に。
一夏より後に発覚した“ISを使える男子”というよりも“ベテランのIS操縦者”としか思えなかった。
「さらに言いますと、今日の彼は本気で戦っていたのでしょうか? 鈴さんと一騎打ちしたときの彼ならば、シュヴァルツェア・ツヴァイクの守備を突破することなど雑作もないことだと思いませんか?」
「確かに、今日のデュノアは消極的だった気がするわね」
鈴の同意が得られたところでセシリアは考えていたことを実行することに決めた。
「今から一夏さんたちの部屋に行きましょう。まだわたくしたちに隠していることがあるはずです」
決意とともに拳を作るセシリア。それを鈴はジトッと睨んでいた。
「他意は無いでしょうね?」
「も、もちろんですわ!」
声が上擦っているため説得力は皆無だった。
***
IS学園、学生寮。
日が沈んだ後、LED照明が照らす廊下を、金髪の美女が抜き足差し足忍び足といった怪しい動作で移動する。
「ねえ、セシリア。寮の廊下なんだから堂々と歩きなさいよ。その歩き方って暗いとこじゃないと意味ないしさ。今から悪いことしますって宣伝して回ってるのと一緒よ」
「そ、そうですわね」
コホン、と一息をついてセシリアはピシッとした姿勢で歩きだした。
目的地は一夏とシャルルの部屋。次の角を曲がれば彼らの部屋があるはずだった。
セシリアと鈴の2人は廊下の角から顔だけ出して入り口の様子を見る。するとそこには一夏の姿があった。今から部屋に入っていくところだったようだ。ちょうど良かったと思い、セシリアは角から飛び出そうとする。しかし――
一夏の隣に銀髪の少女がいることを確認してセシリアは石化した。
「ちょ!? どうしてアイツが一夏の部屋に入っていくのよ!? どうして一夏がアイツを部屋に案内してんのよ!?」
鈴が叫ぶがセシリアの耳に届かない。その間に一夏とラウラが部屋へと入っていった。
(どういうことですの? わけがわかりませんわ!? まさかあの子も一夏さんを? でも一夏さんがわたくしたちを蔑ろにするなんて……)
「2人とも廊下で頭を抱えて、どうしました?」
いつの間にやら背後にシャルルがいた。明らかに怪しい2人を見ても、貴公子の笑顔は崩れない。むしろ心配してくれていた。
「ちょうどいいわ! デュノア! ちょっとアンタたちの部屋に入れてくれない?」
「へ? ちょ、ちょっと! 引っ張らないで!」
シャルルの顔を確認した後の鈴の行動は素早かった。パッとシャルルの右手を取り、強引に部屋まで引っ張っていく。もちろんセシリアも後に続いた。
「2人とも一体どうしたの!? とりあえず落ち着いて!」
造っていた口調が崩れるくらいにシャルルは混乱している。事情を話さずに勝手に入るのはマズいと気づいたセシリアが鈴の手を離させた。
「えーと、ですね。今、一夏さんが女性の方と2人で部屋に入っていくのが見えましたので、風紀的にそれはマズいのではないか、とわたくしは思うのです。ですから、検分させてもらいます!」
セシリアの説明は全然落ち着いたものではなかった。しかし、シャルルは理解してくれた。
「そういうことですか。一夏に限って間違いは起きないと思いますけど、お二人の安心のためにご案内しましょう」
疲れが窺える状態でもシャルルは笑顔でセシリアの要望に応えていた。
そして、扉が開かれる。
真っ先に鈴が中へと転がり込んだ。
しかし部屋の中は――
「誰もいない?」
「嘘でしょう!?」
中には誰もいなかった。確かに部屋に入っていったはずだというのに。
「まさかシャワー室に……!?」
居たら居たでセシリアは立ち直れないほどの精神的ショックを受けることになるのだろうが、今は一夏がどこに行ったのかが気にかかっていた。良かった、シャワー室にはいない。
鈴がベッドの下を探るも腕で×印を提示。他に隠れられそうな場所は無かった。
「おそらく、2人がボクと喋っている間に出て行ったのだと思いますよ」
シャルルの考察。今、最も現実的な解だろう。
「セシリア、他の場所に行くわよ!」
「そう……ですわね」
きっと答えは非現実的な解だと思いながらも、為す術のないセシリアは鈴に続いて部屋から出ていくことにした。
◆◇◆―――◆◇◆
いつもの暗いエレベータ。俺の部屋からの直通ができてからというもの、一人でしか使用したことがないのだが、今日は隣に人がいる。
「ほう。寮の部屋に連れて行かれたときは、私の本気の体術を見せることになるかもしれんと心配したが、まさかこのような仕掛けを施してあったとはな」
眼帯少女、ラウラはキョロキョロと狭い空間を見回していた。
ったく、人の気も知らないで気楽なもんだ。こっちはお前が何かしでかさないかとか、仏の轡木さんでも怒るかもしれないとかで、鼓動が高速化してるというのに。
特に会話をすることもなく、エレベータは地下司令室へと到着した。
「やはり、PICの応用か。通常のエレベータと違い、まるでGを感じない」
「そんなとこばっか見てないで、さっさと行くぞ」
観察を続けるラウラが動き出さないので、俺はラウラの手を取り歩きだした。
「……あ、うん。そうだな」
するとラウラは独り言のマシンガンを止め、素直についてきた。後ろを見るがラウラは顔を俯かせているため、顔色を窺えない。
圧縮空気の音が聞こえ、扉が開かれる。その先にはいつも通り、轡木さんが立っていた。
でも、いつもと明らかに状況が違っていた。
入ってきた俺たちを中心に銃を持った兵士が扇状に配置されていたのだから。
俺は即座に雪花を展開する。
「どういうことですか? 轡木さん!」
俺が刀を突きつけても轡木さんは全く動じない。その理由はすぐにわかった。轡木さんのすぐ後ろには……
あの“巫女”が控えていた。
「それはこちらのセリフだよ、一夏くん。君は何故彼女を連れてきたのだ? セシリアくんたちはまだ一般人の部類であるし、“ここ”の存在も知らないから問題はないが、彼女は軍の人間だ。私が彼女をこのまま帰すとでも思っているのかね?」
普段の包み込むような優しさが微塵も感じられない。なんて冷たい目なのだろう。これが轡木さんの本質なのか?
いや、これもおそらく“試練”だ。最初の箒のときのように俺を試している。何を試されているのかはわからないが、今は俺の言うべきことを言うだけだ。それがラウラをここに案内した理由でもある。
「帰すと思っています。だって、俺よりも轡木さんの方がラウラを危険人物じゃないと判断してるじゃないですか」
俺の返答で轡木さんの顔が変わる。興味深げに俺を見ながら顎の髭をさすっていた。
「どうして、そう思ったのだね?」
「明らかに人払いしてたじゃないですか。放課後の第3アリーナに俺とシャルル、セシリアと鈴の4人しかいない状況なんていくらなんでも出来すぎです。それにラウラの部下の潜入も気づいていて放置していたんじゃないですか? でなければいつまで経っても先生方がやってこない理由が説明できません」
「他の場所で戦っていたのかもしれないじゃないか」
「先生方ならそうなのかもしれない。ですが、一人だけ絶対に俺たちの所に駆けつけてくれる人間が来なかったんですよ。彼女は轡木さんの指示で救援に来なかった。そうだろ? 箒」
箒の名を呼ぶと兵士の後ろに隠れていた箒が姿を現した。
「すまない、一夏。私までお前を騙すような真似をしてしまった」
「気にするな、箒」
申し訳なさそうな箒だったが、彼女との話は後だ。今は轡木さんに訊かなければならない。
「轡木さん。今回の件はあなたが仕掛けた、ラウラたちを襲撃者役にした演習ですよね?」
俺の解答が正解だと言わんばかりに轡木さんは小さく笑う。
「そのとおりだよ、一夏くん。少々あからさますぎたかな?」
真剣な顔を崩した轡木さんを見て俺は一息をつく。しかし、ここにきて、黙り込んでいたラウラが俺の前に進み出た。
「轡木十蔵。私とあなたは協力関係になどない。私が織斑一夏を連れ去るとは考えなかったのか?」
あれ? グルじゃなかったの? てっきりラウラたちも含めて、全て轡木さんがセッティングしたものだと思っていた。
「君は有名人だからね。白騎士を追う黒ウサギ、ラウラくん。白騎士を追っている限り、君は我々の敵ではあり得ない。我々に不利益になる行動をする必要がないから泳がせた。一夏くんにご執心だったようだから、狙いは一夏くんだということも予想がつく。一夏くんの練習相手にはもってこいだと思った私は君たちが動きやすいように調整したのだよ」
つまり、轡木さんは、ラウラたちの襲撃を演習として仕立て上げたっていうことなのか!?
ここで、ラウラが突然ISを展開する。
「確かに私は織斑一夏を試した。そして、これまでの織斑一夏の戦闘データとも統合し、一つの答えを得た。轡木十蔵、貴様は織斑一夏を“第2の白騎士”に仕立て上げようとしているのではないか?」
ラウラがレールカノンを轡木さんに向ける。返答次第で撃つつもりだった。
俺はラウラが言ったことについていけず、轡木さんが口を開くのをただ黙って見つめていた。
「当たらずとも遠からず……と言いたいところだが、正解だろうね。私は一夏くんを強くするために様々な手を打っている」
轡木さんの肯定。それはラウラの引き金だった。
超音速の砲弾が放たれる。この至近距離だ。生身の人間が避けられるはずも、耐えられるはずもない。
しかし、轡木さんにまっすぐと向かっていた砲弾は、その軌道を変え床を抉った。叩き落とされたのだ。
薙刀の柄の先端。後ろに控えていたはずの“巫女”が瞬時に移動し、轡木さんを守っていた。
音がほとんど無い、綺麗すぎるイグニッションブースト。しかも直線軌道ではなく轡木さんの頭上を弧を描いて、だ。今の技術一つでもわかる。俺とラウラが2人がかりでも、この巫女の足元にも及ばない。
「生身の人間を撃つとは、正気か? ボーデヴィッヒ」
「ふん。第2の白騎士を造られるよりはマシだ。どんな罪でも被ってやろう」
ラウラと巫女の間に険悪な雰囲気が漂う。
元を辿れば、俺がラウラを連れてきたせい……だよな?
どうしたものかとオロオロしていると、意外な人物がラウラの頬をひっっぱたいていた。
「馬鹿者っ! 人を殺す方がマシなわけがあるか!」
箒だった。巫女の動きを注視していたラウラは箒に全く気づいていなかったようだ。
「なにを――」
「すぐにISを解除しろ。銃も下ろせ。全員だ!」
箒が辺り一帯に一喝。日本刀の目つきを振り回す。あまりの剣幕に俺とラウラはISを解除し、周りの兵士たちは銃を下ろして轡木さんを見つめていた。ラウラの武装解除を確認した巫女は轡木さんの後方へと下がる。
全員が武器を下ろしたところで、轡木さんがようやく口を開く。
「君たち、下がりなさい」
轡木さんの指示で巫女以外の兵士たちが司令室から退室していった。
そして、轡木さんはラウラに頭を下げる。
「誤解をさせたようで申し訳なかった。少々、君の情報網を甘く見ていたようだね。私は一夏くんを強くしようとしていることは認めるが、7年前の白騎士の再現をしようとは微塵も思っていない」
ラウラは鼻を鳴らしながら「それならばそうとわかりやすく言え」と文句を垂れていた。お前の早とちりもひどかったと思うぞ?
さて、そろそろ当事者の俺が置いてけぼりだ。もう訊いてもいいだろう。
「ラウラの追っている“白騎士”って何なんですか? どう聞いても普通のISではないですよね?」
言いにくそうにしている轡木さんの代わりにラウラが答えてくれた。
「ISという兵器を動かすためだけに存在する人間。言い換えると、生体兵器だ」
轡木さんの沈黙は肯定を意味していた。
全体的に悲痛な空気が流れている。
でも俺は――
「そんなことか」
軽く流した。すかさず、箒が俺の胸ぐらを掴む。
「一夏! 貴様! ちゃんとわかっているのか!」
「わかってるさ、箒。だって今の軍事力はISが全てなんだ。しかも数が限られている。ハードウェアの発展が限界を迎えれば、ソフトウェアをどうにかするしかなくなるのは道理だろ? 兵器ってのは護るために必要な力だ。だから――」
「だから、護るためならば何をしてでも力を手にすると、本気で言っているのか、貴様はっ!」
「ああ、そうだ」
瞬間、俺の頬と箒の右手の平が高い音を響かせた。俺の頬は赤く腫れあがり、箒の頬は流れた涙でベタベタだった。
「もう知るかっ! 廃人にでも何にでもなってしまえ! この分からず屋がっ!」
箒が司令室を走り去る。俺はぶたれた頬をさすりながら、見送ることしかできなかった。
しばしの沈黙。
それを最初に破ったのは轡木さんだった。
「一夏くん。今の君の発言は“人”が道を踏み外すときの言葉だよ」
「そうかもしれません。でも、その踏み外した人たちが世界には居るんでしょう? 俺はそいつらにどう立ち向かえばいいんですか? どうやって護りたいものを護ればいいんですか?」
力が無ければ失う。それが俺がこれまで生きてきて知った世界の姿だ。だから力を求めて何が悪い?
轡木さんは悲しげに首を横に振った。
「今の君に何を言っても、私の言葉は届かないだろう。今日は帰って休みたまえ」
「え?」
「帰りたまえっ!!」
轡木さんの激昂。その怒鳴り方は演技でなく本気だった。
俺は逃げるように立ち去ることしかできなかった。
◆◇◆―――◆◇◆
一夏が出て行った後、轡木が右手で目を覆っていた。その行為はおそらく後悔によるもの。
5秒ほどそうしていたが、すぐに姿勢を正してラウラに向く。
「さて、君が聞きたいことは先ほどのモノで終わりかね?」
「いや、本題は別にある」
ラウラは片方だけの目で威圧する。
「貴様らの持っている“
「これは驚いた。まさか君がそこまでたどり着いているとはね」
轡木が目を丸くする。鎌を掛けただけだが、轡木の表情からラウラは本当に確認したい情報を得ることが出来た。
亡国機業。
軍部でも噂程度には聞いていた存在だった。第二次世界大戦中に生まれたとされているが、存在する目的は不明。確かに存在し、世界に影響を与えているにもかかわらず、探しても見つからない。亡霊のような組織。
現在、その標的がISに向いている。ラウラは白騎士捜索のためにシュヴァルツェ・ハーゼを動かして各国のISの動向を監視していたのだが、その過程でトロポスの存在を知るに至った。
亡国機業の名前が出たのは偶然の産物だ。無人トロポスの中に1機だけ有人トロポスがあったのだ。捕らえたその操縦者が残した言葉が「亡国機業」。その操縦者は、今は死亡している。
そして、ラウラが亡国機業を追う理由ができた。捕らえた男はラウラの知らない
まだ自分とテレーゼで終わりではない。その事実がラウラを突き動かす。
そして、今、不確定だった最後のピースが埋まった。
「7年前の白騎士。アレも亡国機業のモノというわけだな?」
「そのとおりだ。アレは日本を護ったわけではない。ISという兵器の広告塔だったのだよ」
ラウラが許せない存在である二つ。
自分たちに苦難を強いた白騎士。
自分と同じような存在を生み続ける亡国機業。
全て一つにつながっていた。
ラウラは踵を返す。
「やはり、
「ああ、これからもよろしく頼む。それと、一夏くんのことも見てやってくれないか?」
帰ろうとしたラウラが足を止める。轡木があまりにも一夏を気にしすぎていることが気にかかった。
「構わない。私はあの男を気に入っている。しかし、なぜあの男にこだわり続けている?」
「一夏くんの存在が、白騎士にたどり着くために必要だからだよ」
轡木の返答は理解しがたいものだった。ラウラは首をひねりながら、来たときと違うエレベータに乗っていった。
◆◇◆―――◆◇◆
ドアの鍵が開けられる。それは部屋の主が帰ってきたことを意味する。セシリアはすぐに彼女を出迎えるために入り口へと向かった。どうしてもすぐに聞きたいことがあったからだ。
「おかえりなさいませ、箒さ――」
早速問いつめようとしていたセシリアは絶句する。箒が顔面を涙でぐちゃぐちゃにして帰ってきたのだから。
「ど、どうしましたの!?」
セシリアの頭からは聞きたいことが全て吹き飛んでいた。今はボロボロになっている友人のことが気がかりで仕方がない。
「なん……でも、ない」
「そんなわけありませんわ!」
心配する自分を無視して横切ろうとする箒の肩を掴む。箒はその手を払おうとせずに立ち止まった。
「一夏が……私の知っている一夏では、なくなってしまっているんだ」
顔を俯かせたまま、ポツリポツリと箒は思いを打ち明け始めた。セシリアは開きっぱなしの扉を閉じて、部屋の奥へと箒を連れていく。
「聞かせてください。箒さんの知っている一夏さんのことを」
「一言で表すならば、一夏はヒーローだった。マンガやアニメみたいに悪を成敗するわけじゃなくて、言葉遣いが古めかしかった私と周りの人たちをつなげてくれていた“私だけのヒーロー”だったんだ」
「“私だけ”というところは全力で否定しておきますが、今もそうではありませんの?」
箒の知っている一夏。箒がヒーローという言葉を使ったのは初めてだが、セシリアも少しずつ聞いてきた話だった。今の話だけだと何が違っているのかがわからない。
「今の一夏は貪欲に力を探求する愚か者だ。アイツは誰かを護るためならば改造人間にでもなってしまう。千冬さんがいなくなったことを自分に力が無かったからだと思いこんでいるんだ。今になって鈴が何を心配していたのかがわかった」
箒は話しているうちに落ち着きを取り戻し始めていた。
セシリアが鈴と話していて気づいたことに箒も行きついた。
一夏は「男が女を護って当然」というような言葉を普段から口にしているが、女尊男卑に反対の意志を見せる一般的な男性とは決定的に違っている点がある。
自分がやらなければならない、というある種の脅迫観念だ。
さらに、自分には何も力がない、などと勘違いもしているから質が悪い。
鈴が言う“隣に立つ”と、セシリアの言う“支え合う”とは同じ意味を持つ。
自分だけでやらなければならないなんてことはない。
それを伝えるために、2人の代表候補生は己の腕を磨いているのだ。
「箒さん。あなたはそれを知って、一夏さんを見限りましたか?」
「そんなはずがないだろ! 一夏がああなってしまったのは……千冬さんだけでなく私もいなくなったからだ。……私のせい、なんだ」
壁に背中を擦りながら箒はその場にへたりこむ。セシリアはしゃがみ込むと、タオルで箒の顔を拭きはじめた。
「あなた一人のせいではありませんわ。ご自分を追い詰めないでください。一人で思い詰めないでください。わたくしも鈴さんも、今の一夏さんをどうにかしたいと思っているのですから、わたくしたちは仲間です」
「セシリア……」
箒はセシリアからタオルを受け取り、自分で顔を拭く。タオルが退けられた後、錆びついた日本刀に輝きが戻っていた。
「そうだったな。あの馬鹿者に思い知らせてやる。自分がどれだけバカかということをな!」
グッとタオルを握りしめる力強い拳を見て、セシリアはようやく一息をつくのだった。
◆◇◆―――◆◇◆
「やっぱり、俺はどこかおかしいのか」
思い起こされるのは、箒に泣かれたこと、轡木さんに怒鳴られたこと。2人とも本気だった。でも、俺も本気だ。現実的に考えて俺は弱い。その事実から目を背ければ、再び俺は大切なものを失う。
もし、ラウラたちが本当の襲撃者だったなら、俺が今ここにいることなどできていない。
今日は誰かに頼らないとダメだと思い知らされるだけの日だった。
ひどく気分が悪い。
さっさと寝てしまおう。今日のことを忘れるために……
いつもどおり、暗く狭いエレベータが自室へと到着する。後はすり抜けるように自室へと入ることが出来る。場所は2つのベッドの中間の壁だ。
良かった。もう今日は疲れて動きたくなかったから丁度いい。すぐにベッドに倒れこもう。
だから、部屋の中のことなんて確認しなかったんだ。
「い、い、いち……か……?」
「へ?」
俺は金髪の“美少女”の着替えに出くわした。上下ともに下着姿の彼女に釘付けになる。ウェーブのかかったブロンドは柔らかい印象。大きすぎず、小さすぎずくらいの膨らみの胸。その胸を実際の大きさ以上に見せている腰のくびれ。
「キャアッ!」
美少女が胸を隠すようにしゃがんで丸くなる。そこで我に返った俺は急速反転して壁の中に戻っていく。
「し、失礼しましたっ!」
ふぅ。
暗くて狭いエレベータで一人になってようやく落ち着いた。俺は別のエレベータに乗ってしまったのか。
しかし、冷静になった俺はそれを否定する。そもそも地下へのエレベータは2機しか存在していない。
一方はIS学園1階の廊下。もう一方は俺の部屋。いや……俺たちの部屋だ。
先ほどの美少女の姿を思い出す。金髪碧眼、髪型も縛っている髪をほどけばあのような感じになる。
結構、胸あったな。じゃなくて、胸の方はなにかしらの道具で隠せばいい。腰のくびれも同様だ。
導き出される結論は――
「シャルル……なのか……?」
俺はもう一度部屋へと戻る。そこには着替えを終えた“女子”がいた。