IS - the end destination - 作:ジベた
20 五反田弾
「ここに弾が居るってことは、ずっと俺に隠してたってことですよね?」
福音の夜襲の翌日。
シャルが自分の本当の性別を告白した日の放課後。
俺はアリーナに向かわずに寮の自分の部屋に戻り、地下の司令室へと降りてきていた。
その俺の行動と理由は余裕で見破られていたらしく、この場には轡木さんと弾の2人がいた。
そう……昨日まで一般人だと思っていた五反田弾が居るのだ。
「一夏くんがIS学園に入ってからは、私も隠すつもりはなかったよ。だがこれは弾くんの希望だったのだ」
「弾が……? そういやお前、高校はどうしたんだ?」
白衣という見慣れない格好をした親友を見る。そういえば俺は弾の進路を具体的に聞いていない……
「すまねえな、一夏。高校に行ったなんて嘘だ。俺の最終学歴は中学ってことだな」
言葉だけ聞くと受験に失敗して嘘をついてたように聞こえてしまう。まるで冗談を言っている雰囲気を出す。弾が話を深刻な方向へ持って行かないようにするときの常套手段だ。
「で、そんな格好をしてISに関わってるのは、何故なんだ?」
何故、と問われた弾は眉をひそめる。言いたくないことなのか?
……ああ、俺だから言いたくないことなのか。
しぶしぶといった様子で弾は話し始める。今までのことを。やはり、始まりはいつも――
「千冬さんがいなくなって、お前が変わっちまったからだろうが」
7年前なんだな……
「確かに俺は千冬姉がいなくなって、自閉症のような状態だったらしいけどさ。その点で本当にお前には世話になった。だが、それがISにつながる理由は何だ?」
「俺なりに調べたんだよ。千冬さんさえ戻れば一夏も元に戻るはずだとな。俺は千冬さんの交友関係を漁ってみた。だが簡単なことじゃなかった。当時の俺ができたことなんて地道な聞き込みくらいで、加えて千冬さんはあまり人と関わらないタイプだったからな。で、俺は――」
「それでも諦めずに探し続け、篠ノ之柳韻の友である私の元にたどり着いたというわけだ」
弾の言葉に轡木さんが割って入り、引き継いだ。
「驚いたものだよ。私は篠ノ之束を保護するために、誰にも知られることなく彼女らを“引っ越し”させたというのに、当時小学3年生の少年にバレてしまったのだからね」
「灯台もと暗しって奴です。近距離の知り合いの家などという場所にいると敵は予想していなかっただけでしょう。逆に小学生が見つけられるような場所だったわけです」
俺が閉じこもっている間に、弾は篠ノ之家の人たちの居場所を突き止めていた……?
「ちょっと待て! そんな早い時期に知っていたのに、どうして俺に教えてくれなかったんだ?」
多少、怒鳴るような声で弾に迫る。しかし弾はそんな俺を強く睨み返してきた。
「お前流に言ってやると、俺に力が無かったからだ。俺は国家機密に匹敵する情報を知ってしまった無力な一般人でしかなく、殺されていても不思議じゃなかった。その俺に道を残してくれたのが轡木さんだった。秘密を隠すことと轡木さんたちに協力することを条件に解放された。束さんがアシスタントを欲しがっていたこともあって、俺はISの開発を学んでいったんだよ。俺が手に入れられる力だった。で、今は倉持技研って場所に在籍していて、一夏の専用機の開発責任者になってる」
力が無かった。その一言で俺は反論を失った。
中学の卒業式の日。俺はISに関わってしまった。そのときに外部に情報を漏らすなと徹底されたが、弾も同じように言われたのだろう。
知られてしまえば、危険に巻き込むことになる。
そんな立場に陥っても、弾は俺のために同じ学校に通い続けていた。自分の力を蓄えつつも、俺を気にかけてくれていたってことか……
「雪花も白式も弾がやってくれたってわけだ。雪花のときは、授業で習った“あるはずのもの”が無くて困ったもんだよ」
「そりゃあそうだろ。轡木さんが『一晩で仕上げてくれ』なんて言い出すんだぜ? むしろ『良くあそこまで持って行った』と俺を誉めてやりたいぐらいさ」
「ハイパーセンサーにエラーが出てたのにか?」
「あほ。そのエラーはお前だから出てたんだよ。雪花だけじゃなくて、打鉄の時点でそうだっただろうが。結局ハイパーセンサーの機能を時間分解能に一極集中させても追いつかなかったんだからな。お前の言ってるあるはずのものってのはハイパーセンサー関係だろ? 例えば射撃用のセンサーリンクとかな」
言われてみれば、最初に打鉄を装着したときもエラーが出てたな。雪花の方が敵の攻撃を視認しやすかったのは、そのように調整されたからってことか。で、調整の結果、他の機能が無くなってしまっていた、と。
「じゃあ、白式でエラーが出てないのは、弾が俺専用のハイパーセンサーを完成させたってことなのか? 雪花の時よりも敵の飛び道具が見やすくなってる気がするし」
「そいつはISの自己進化機能の恩恵がでかいな。一応、お前のこれまでの全ての戦闘はモニターしていたんだが、こちらが手を加える前にISの方が答えを先に見つけていたんだ。俺はそれを形にしただけ。ついでに言うと、見える速度は雪花の時とあまり変わってないはずだぜ。敵の飛び道具が見やすくなったのは、知覚範囲が広がったからだ。おそらく、一夏が射撃武器を使った影響が出ているんだろうな」
シャルに銃を借りて撃ったときの話か。あまり意味なかったと思っていたのは俺だけで、ISの方が学んでいたんだな。
「少し話を戻すぞ。結局、今の説明だと、この2ヶ月の間黙っていた理由にはならないんじゃないか? しかも轡木さんにまで口止めしてたんだろ?」
俺の専用機の裏話で盛り上がっていたところに水を差されたからなのか、またしても本当に話したいことを誤魔化そうとしていたのか、どちらなのかはわからないが、弾は顔をしかめた。
それでもここまで来て話さない弾ではない。
「実はな、一夏。俺はお前がISを動かせると知ったとき、怖くなったんだ」
「怖い?」
「一夏のことだから、力を手に入れたら『自分が皆を護らなければ』とか思いこみそうだったからな。そして一度力を手にすると、より強い力の誘惑に負ける。最悪、自ら望んで改造人間にでもなっちまうんじゃないかって」
グサッ。心当たりあるぜ。轡木さんも小さく笑っている。
「いっそのことISから離れた方が一夏のためじゃないかと思ってた。でも、それは俺の杞憂だった。お前は
「それで昨夜はタイミング良く現れたんだな」
昨日、弾がIS学園に来ていたのは、俺に白式を渡すためだった。それが敵の襲撃とたまたま重なったんだ。
「一夏。今日から、お前のサポートは俺がする」
「白式の整備とかか?」
「ああ。俺がやらずに誰がするって言うんだ?」
「そうだな。お前だったら安心だ」
技術者としての腕前は既に確認済み。頼もしい相棒だった。よし、早速だが注文をつけるか。
「じゃあ――」
「あ、盾が欲しいってのは無しな。非固定浮遊部位を増やすような容量は残ってねえからな」
じゃあ、としか言ってないのに言いたいことがバレてる!?
って、容量が足りない?
「白式の武器って雪片だけだよな? あれってそんなに容量を食うのか?」
「雪片というよりも単一仕様能力がでかい。コアが成長すれば容量も空くかもしれんが、今はまだ無理だろうな」
「そういうもんなの?」
「俺も良くわかってないが、事実そうだ。今のお前のコアは竹刀を持ち始めた剣道部員とでも思ってくれ」
ああ。そのうち考えなくても振れるようになるってことね。ISの自己進化機能って人間みたいなもんなんだな。
「話は終わったかね?」
「あ、はい。俺が弾に訊きたいことはもう無いです」
「俺の方からも言いたいことは言いました」
俺も弾もすっかり轡木さんの前だということを忘れていた。……なぜか楽しそうだったので良しとしよう。
「さて、一夏くん。白式を手にした君にして欲しいことがあるのだ」
楽しげな顔から厳しい顔つきに変わる。そういえば弾の話では雪花の手配は轡木さんがしていた。白式も轡木さんが用意させたものと言える。
「君にIS学園の生徒会長になってもらいたい」
「へ?」
まじめな顔してこの人は何を言ってるんだ?
「あの、俺まだ入学して2ヶ月ちょっとですよ? それにどうして生徒会長なんて話になるんですか?」
「そうか。まだ一夏くんは彼女に会ってないのだった。IS学園の生徒会長とは単純な役職名ではないのだよ。むしろ称号と呼ぶ方が相応しい」
生徒の長。称号。轡木さんの言わんとすることがわかった。
「つまり、IS学園の全校生徒の中で最も強いことを示せ、と?」
「その通りだ。そのための舞台もイベントとして用意してある」
司令室の巨大ディスプレイにそのイベントの内容が表示された。
およそ1ヶ月後。
IS学園に所属する専用機持ちの全生徒が参加するトーナメント。
試合方式は1対1。
純粋に単機の戦闘能力が競われる。
「わかりました。俺としては白式の力を試したいところだったので、ちょうどいいです。そうだろ、弾?」
「ああ、そうだな。しかし轡木さん。なぜ一夏を優勝させたいんですか?」
弾の質問に轡木さんは後頭部を掻きながら照れくさそうに答えた。
「今の女尊男卑の世の中に男性の強さを見せてやろうと思わないかね?」
マジかよ……そんな理由で俺を強くしたかったの!?
「ご尤もです。一夏、この大会、絶対負けられないぜ!」
え? 弾がやたらノリノリなんだけど。そんなに蘭に振り回されるのが嫌になったのか?
「じゃ、早速地下アリーナに行くぜ、一夏!」
「ちょ、待て! 引っ張らなくても行くって!」
なかば強引に弾に連行された。
◆◇◆―――◆◇◆
一夏と弾が去っていく姿を見送る轡木に近づく姿があった。
「あなたらしくない嘘でしたね。五反田くんはともかく、織斑くんは不審な顔をしてましたよ」
「なんだ。居たのかね、真耶くん」
暗い部屋の奥から現れたのはメガネをかけた真耶だった。彼女はズレたメガネを直しながら轡木に近寄る。
「生徒会長になる。それが意味するところは、国家代表クラスに並べということです。わかってますか?」
「もちろんだとも。でなければ、“彼女”が重い腰を上げてはくれないだろう?」
全ては“彼女”に立ち上がってもらうために織斑一夏という人材を育ててきた。VTシステムを積んだ亡国機業のISを打ち破るまでになった。彼ならば、敵に勝てると彼女に思ってもらわねばならなかった。
そのための公開試合。そして、踏み台となる相手として現生徒会長は申し分ない。
「時間があれば真耶くんが一夏くんに稽古をつけてやってくれないか?」
「職務に支障をきたさない程度で、地下アリーナであれば構いませんよ。彼は千冬さんの弟ですしね」
了承しつつ真耶はメガネを外す。するとメガネが輝きと共に消え、光が真耶の姿を包み込んだ。
光が収まり、そこに現れたのは“巫女”。
世界で5人のIS適性S。
格闘戦のヴァルキリー。
現在のIS学園における最強の女性。
「最終的には私に勝てるようでないと、亡国機業を倒すことなど夢物語にすぎん。その道の険しさをあなたと織斑に思い知らせてやろう」
くっくっく、と真耶は笑う。その顔は教師ではなく戦士。真耶が課す訓練は生半可なものではなさそうであった。
「ところで真耶くん。フランス政府とデュノア社には抗議文を送ってもらったと思うのだが、返答はあったかね?」
轡木の言う抗議文の内容は勿論、シャルロット・デュノアの性別の詐称についてである。真耶は普段の勤務態度には見られないような、面倒そうな顔で回答する。
「まず、フランス政府だが、シャルロット・デュノアは女性として代表候補性に登録しているとのことだ。実際に彼女の実力を見ればわかるが、シャルロット・デュノアは国家代表にも真似できない技術を習得しているほどの腕前。その技量を評価しているに過ぎないとしか返答が無く、男性だと言う話は聞いたことすらないそうだ」
フランスはシャルル・デュノアとしての彼女を知らないと否定した。これが事実か、偽装かは現状ではわからない。
だが――シャルル・デュノアがメディアの表に出てきていないことは事実だった。IS学園はその成り立ちから、代表候補性や専用機の情報を勝手に外部に公開することはできない。そのことも計算されていたのかもしれない。
「次にデュノア社だが、否定ではなく謝罪だった」
「ほう。素直に認めたのかね」
轡木は意外だと言わんばかりに声を上げる。だが、真耶は首を横に振った。
「内容は、『我が社のテストパイロットが妄言を吐き、申し訳ない。今後、社員の教育を徹底する』などとバカげている。これを送り寄越した社員の妄言もどうにかしてほしいものだな」
轡木は開いた口が塞がらなかった。どう考えてもデュノア社の意向が無いはずはない状況で、彼らは責任を少女一人に押し付ける気だったからだ。社長令嬢の扱いではないどころではない。人間扱いされているようにも見えなかった。
「それで、轡木さん。彼女の処遇はどうするつもりだ?」
「彼女の望み通り、我々で保護する。フランスが関わっているのかは未だ不明瞭である上、デュノア社がなぜこんなことを仕掛けてきたのかも見当がついていないなど、不安要素しかないがね。現状はフランスとデュノア社についても様子見といこう」
「獅子身中の虫となりえるのに……か。あなたらしくないな」
真耶の言葉に轡木は肩をすくめて見せる。
「私らしくないことは自覚している。だが、彼女は一夏くんの友人なのだろう? 私はもう彼から大切な人間を引き離すことはしたくない。それだけだよ」
「そういうことにしておこう。轡木さんのことだから“こうなることを知っていてデュノアの転入を認めた”のだとしても正直に言うはずがないからな」
真耶の軽い追求に轡木は「手厳しいね」とだけ答えた。
◆◇◆―――◆◇◆
「ただいまー……って、今日からまた一人部屋だったな」
弾に連れられて向かった地下アリーナで、ただひたすらにイグニッションブーストを繰り返させられてヘトヘトだった。ついシャルが部屋にいるつもりで、自室に直通のエレベータではなく、わざわざ学園の廊下から帰ってきたのだった。
そういえば、あのときシャルには俺が壁から現れたことはバレてるんだよな。別に内緒にする事でもなかったか。
一人寂しく部屋に入る。真っ暗だったから明かりをつけ――
「お帰りなさいませ。ご飯にします? お風呂にします? それとも――」
「ラ、ラウラっ!?」
部屋の明かりをつけると、正座をしたラウラが待ちかまえていた。しかも、エプロン姿だ。他の衣類はこの位置から確認できない。
「せ、積極的なのだな。いきなり私を求めるとは……」
ラウラが恥ずかしそうにモジモジしている。彼女は太股の間に手を入れたが、その際にエプロンも股の間に吸い込まれ、ギリギリで隠れていた腰の肌色のラインがはっきりと見えてしまった。
って、見とれてる場合じゃねえ!
「いや、今のはお前が居たことに対して驚いただけであって、そういう意味で言ったわけじゃない」
「私は……要らない人間なのか……?」
ラウラがこの世の終わりのような顔をしていた。別にそこまで言ってないだろ!? 誰か、この過大解釈軍人娘のおつむを正常に戻してやってくれ!
……誰かなんて言わずに、クラス代表の俺がなんとかするか。ラウラも1年1組のクラスメイトだしな。
「要らないわけないだろ。ラウラは俺たちの仲間なんだからな。そういえばお前はまだクラスの連中と仲良くなってないよな」
「私はお前が居てくれればそれでいい。なぜあの小娘どもと関わる必要がある?」
「良くないな。俺はお前もクラスの一員として皆の中に入って欲しい。それが理由じゃダメか?」
「……ダメじゃない。努力する」
わあ、何だコレ? これが轡木さんにも不遜な態度をとり続けていた“黒ウサギ”!? 素直にコクンと頷きやがって。
コンコン。
ん? 来客か……
ハァ!? このタイミングでか!?
部屋には俺とラウラのみ。そしてラウラは俗に言う裸エプロンで俺に跪いている。
俺は何も悪くない。でも、俺が逆の立場だったら「ごゆっくり」と言ってその場を去るだろうなぁ。
さて、鍵は開けっぱなしだから居留守を使っても開けられてしまえばアウト。応対した方が運任せになりづらいだろうな。
問題は誰が来たか、だ。シミュレーションしてみよう。
箒。
「入るぞ、一夏」の一言でさっさと入室。裸エプロンのラウラを目撃。「こ、この不埒者ぉ!」の一言と共にマジモノの日本刀でばっさり。デッドエンド。
セシリア。
「今日はアリーナに居ませんでしたが、体の具合でも悪いのでしょうか?」とでも言って訪ねてくる。「大丈夫だ」と元気に応対したところで、扉を開けないことに疑問を持たれ、無情にも開放。裸エプロンのラウラを目撃。BTビットが俺を蜂の巣にする。デッドエンド。
鈴。
「入るわよ」と言って入室。裸エプロンのラウラを目撃。「よし、ころそう♪」とゼロ距離の龍咆を浴びせられる。デッドエンド。
なんか、俺って大ピンチ? 頼む! この3人ではありませんようにっ!
「一夏……居る?」
良かった。本当に良かった。この声はシャルだ。シャルならきっと……どうなるんだろう?
シミュレーション。
作戦:居留守。「いないのかな。じゃあ後でいいや」と言って去る。
よし、これだ!
ガチャッ。
「あれ? 空いてる」
Oh! 早速、予想が外れたぜ!
なんて思ってる場合じゃない。いくら相手がシャルでもこの惨状は見せたくない。
俺は慌てて入り口に走り、顔を出す。
「悪い。出るのに遅れた。で、どうしたんだ?」
「い、一夏こそどうしたのさ!? すごい汗だけど大丈夫?」
冷や汗だ。いろいろと最悪のパターンを想像していたせいだろうな。逆にバレる要因になりかねないとは、なんたる自滅。
「いや、運動した後でさ。ISを使わない、生身の運動もたまにはいいものだぞ?」
「そうかもね。ISのPICって宇宙空間の無重力に近いところがあるから、多用すると筋力が衰弱していくかも。ボクも気をつけようっと」
唇に人差し指を当ててシャルは考察していた。とりあえず部屋の中に意識が向かないようでなによりだ。
「で、何の用なんだ?」
「実は一夏に一言いいたくて……」
シャルが俺に一言? 何だろう?
「朝はありがとう。一夏が“わたし”を迎えてくれた言葉は一生忘れないよ」
朝っていうと、シャルが本当の性別を明かした後のことか。でも、あれは俺のおかげじゃない。
「お礼は俺よりもセシリアたちに言ってくれ」
「うん。もう言ってきたよ。一夏で最後だったんだ。ボクはここに残って本当に良かったよ。皆……本当に優しいよね」
「ああ。大切な“仲間”だよ」
彼女たちは、護り、護られる、共に戦う仲間なんだ。
「よし、話は終わりだな。明日は普通にアリーナで訓練の予定だから付き合ってくれ」
……用件は終わりとばかりに、早々に話を切り上げようとしたのがマズかった。
「ところで、一夏? 何を隠してるのかな? ボクの思い違いだったら悪いけど、こういうとき一夏って部屋に入れてくれる人だよね? どうして今日は立ち話してるのかな?」
ですよねー。俺も俺らしくないって思ってるもんな。
「ラウラ」
「――っ!?」
シャルが挙げた名前にビクッと反応してしまった。その瞬間、シャルの怪訝そうにしていた顔が確信へと変化した。
「入るよ」
「……どうぞ」
有無を言わせぬシャルの迫力に、俺は覚悟を決めるしか無かった。だってシャルが笑顔の仮面をかぶらなきゃいけないほど怒ってらっしゃるのだもの。なんで怒ってるのかは全くわからないけどそれは些細なことだ。
オープン・ザ・ドア。
そこでシャルが目にしたものは……
「あれ? 誰もいないね」
「へ?」
振り返るとさっきまでいたはずの裸エプロンの姿は無かった。シャルが早足で部屋に入ってくると、シャワー室の中を確認し、そこにも人がいないようで首を傾げている。
あ、そっか。ラウラはこの部屋から地下への行き方を知っているんだったな。さすがに常識的にマズいと思ってくれたんだろうか。良かった、と胸を撫で下ろす。
「おかしいなあ。部屋にラウラがいなかったからここだと思ったんだけど……」
「シャルってラウラの部屋に移ったのか?」
昨日ラウラも一人部屋だって言ってたし、空いてたからちょうど良かったのかな。
「そうだよ。先に部屋で待ってたんだけど全然帰ってこなくてさ。もしかしたらと思ってここに来たんだ。……一夏にも会いたかったし」
「そうか。俺もシャルとゆっくり話をしたかったからちょうどいいや。茶でも入れるよ」
あの状態のラウラがここにいないのなら、シャルが部屋に来ることは歓迎すべきことだ。電気ケトルに水を入れ、お湯を沸かし始める。
「一夏もボクと話を?」
「ああ。実は今朝、シャルがいなくなっちまうと思うと怖かったんだ」
「ごめん……」
シャルは昨日までの自分のイスに腰掛けながら、申し訳なさそうに顔を俯かせた。俺は慌ててシャルの両肩を掴み、顔を上げさせる。
「違うんだ! いや、怖かったのは違わないけど、シャルは何も悪くない。今朝のは、シャルがそうしたかったんだろ?」
「う、うん」
シャルが考えた上でのことだ。彼女がしたいことを無視してまで俺の意見を通す必要なんて無い。俺のわがままで彼女の顔が曇るのなら本末転倒だし。
「そういえばずっとわからないでいるんだが、どうして女であることを言ったんだ? ま、自分から言ったから皆も受け入れてくれたんだろうけどさ」
「えーと……どうしても言わなきゃダメかな?」
「い、いや。別に、強制はしてない、ぞ」
その上目遣いは卑怯だ。訊く気が完全に削がれた。シャルの様子を見るに、理由はどうも恥ずかしいことらしい。
しかし、全く言わないつもりはないらしく、彼女は小声でボソボソと呟く。
「ちゃんと女の子でいたかったんだ。一夏と約束したしね。ちゃんと覚えてる?」
約束……か。昨日のことだし覚えていて当然だろ。ちゃんと着飾ったシャルの姿を見るよ。
「覚えてるぞ。昨日と同じ場所じゃなくてもいいから、いつか服を見に行こう」
「うん! でさ、一夏。IS学園の行事予定に臨海学校があるでしょ? 実はボク、水着持ってないんだ。それで、今度一緒に買いに行って欲しいんだけど……」
「あ、そういえば俺も水着用意してないな。じゃ、今週末にでも行くか!」
「いいの!? 絶対だよ!」
シャルが文字通り飛び跳ねて喜んでいた。これぐらいならお安いご用だぜ。彼女は軽快なステップで俺の部屋から出ていった。
「ふぅ。やっと寝れる」
ここ最近の精神的疲労がハンパない。俺はベッドに倒れ込んだ。このまま寝れる。
『織斑、直ちに地下アリーナへ来い』
……プライベートチャネルか。頭の中であの“巫女”の声がするけど、今日はもう寝かせてください。
『織斑一夏。来なければ、貴様の部屋に裸エプロンのボーデヴィッヒが居た映像を校内にバラマいてやろう』
「それはやめてください! ってかこの部屋って監視されてるんですか!?」
俺は飛び起きてすぐに地下に向かった。