IS - the end destination -   作:ジベた

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43 織斑千冬

「気がついたか?」

 

 目を開けると、銀髪の眼帯少女が覗き込んできていた。幼いころからよく知っている運命共同体だ。遺伝子強化素体(アドヴァンスド)の中でも優秀であった彼女は年下であっても、かつては羨望の眼差しで見つめていた。あの事件が起きるまでは。

 

「あれ? 私、は……?」

 

 上手く体が動かない。その原因にはすぐに思い至る。いつも当たり前に傍にあったアウレオーレをどこにも感じない。それが意味することはただ一つ。

 

「あなたの負けだ。テレーゼ」

 

 今、ラウラが言ったとおり、テレーゼはこの最後の戦いに敗れたのだ。テレーゼが認識できなかった攻撃によってISコアを一撃で破壊されたらしい。世界の頂点を争うモンド・グロッソですらテレーゼを脅かす相手などいなかったというのに、この土壇場で超人が現れるとは思ってもいなかった。

 

「そっか。ラウラちゃんに負けたんだね」

「それは間違いだ。私の勝利でなく、私たちの勝利だからな。まだまだ私はテレーゼには適わない」

「ううん。だからこそ、私はラウラちゃんに負けたんだ」

 

 ラウラが首を傾げる。彼女は本心からテレーゼに勝てないと言っており、テレーゼもそれを理解しつつも自らの敗北を明言した。

 

「私と違って、ラウラちゃんには一緒に戦う仲間がいた。それはラウラちゃんの力だよ」

「そう……かもな。うん、きっとそうだ」

 

 テレーゼの補足にラウラは納得したと頷く。そこでラウラは一つ疑問に行き着いたようだった。

 

「テレーゼにもいるだろ? 私は認めたくないが……轡木創始という男が」

「創始様ならお願いすれば隣に立っていてくれるけど……多分一緒に戦ってはくれないわ」

 

 単純に創始の戦闘スタイルがテレーゼとは致命的に合わないからだ。だがラウラはそのことを知らない。だから次に訊いてくることは決まっている。

 

「ならば、なぜテレーゼは創始を慕っているのだ?」

 

 本当にわかりやすい。しかしその質問は創始のことを知らないからこそ出来るものだった。まずはそのことから教えなければならない。

 

「気にしなきゃいけないのはそこじゃないよ、ラウラちゃん。私が創始様を慕うことよりも先に、なぜ創始様が私を気にかけてくださったのかを気にして欲しいな」

 

 轡木創始という男は1に束、2に自分という男である。世界のあらゆることに興味を持つが、長く続かない。昔から好奇心を維持できるのは束が関わることだけだった。

 そんな創始がテレーゼを拾い上げたのは気まぐれだろう。彼とテレーゼはある部分で似通っていた。

 

「創始様は世界にISを認めて欲しかった。私は世界に遺伝子強化素体(わたしたち)が存在していいって認めて欲しかった。私と創始様は同じだったの」

「それでテレーゼは創始に協力したのか?」

「ええ、そう。私がブリュンヒルデになれたのは創始様の指導があってのことなんだから。そうやって私は世界に“私たち”を認めさせたの。今はその恩返し。私だけ望みを叶えるなんて公平(フェア)じゃないわ」

 

 これはおおよそ事実だ。世界と創始のどちらを選ぶかと訊かれれば答えは創始に決まっている。束を前にした創始からは想像できないが、どん底だったテレーゼを親身になって助けてくれたのは創始だった。気が乗らないと言いたげだった創始に無理を言ったのはテレーゼからだった。

 

「それで、私をこれからどうするつもりかしら?」

「どうもしない。今のあなたはISも無い一般人だ。ここで大人しく戦いが終わるまで寝ていればいい」

 

 もう訊くことは無いとラウラは立ち上がる。再び学園の防衛に戻るのだろう。テレーゼが敗れた今、一時撤退していたトロポスたちが学園に押し寄せているはずだった。そして、その後には“彼女”が控えている。

 

「待ちなさい。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 テレーゼは飛び立とうとするラウラを呼び止める。初めてちゃん付けをせずにラウラの名前を呼んでいた。もう彼女はテレーゼの妹分を卒業した。これはその卒業証書。

 

「必ず、生き残りなさい。相手が何であっても、絶対に諦めないこと。どんな結末でも決して自分を責めないこと。いーい?」

「あなたに言われなくてもわかっている。戦いが終わった後にでも私の武勇伝を聞かせてやるさ」

「そう。楽しみにしてるわね」

 

 笑うことが出来ただろうか。

 声は震えなかっただろうか。

 ラウラをちゃんと送り出すことが出来ただろうか。

 

 テレーゼにはラウラがどう受け取ったのかはわからない。ラウラは後ろを向いたまま「行ってくる」とだけ告げて飛んでいった。

 青い空を漆黒の機体が翔る。周りの仲間を指揮して戦う姿は、テレーゼには無かったラウラの強さを感じさせた。もう、彼女には過保護も道標も要らない。

 

 ……これで心おきなく逝ける。

 

「創始様が私を世界一のIS操縦者にしてくれた。それはね、指導なんかじゃないの。改造だったの」

 

 独り言を始める。思い返されるのは白騎士事件の後に、研究所の命令で白騎士を追っていたときのことだ。白騎士を見つけたものの、テレーゼは斬り捨てられた。世界を呪う言葉を吐いた。一人残してしまうラウラのことを嘆いた。

 

『君は死にたくないんだね? 何故か良くわからないけど、僕も君を死なせたくなくなった』

 

 そこに差し伸べられた手をテレーゼは一生忘れられない。

 白騎士を追う敵であるのに、創始はテレーゼを助けた。

 身の上話を聞いてくれ、解決できる道も示してくれた。

 『僕としてはお勧めできないけど……』と言っていた姿はまるで別人のようだった。

 テレーゼは自ら創始に願い出た。

 『私を変えて』……と。

 

 その代償としてテレーゼは定期的に創始による検診を受けなくてはならなくなった。改造による副作用で不安定な体を維持するのに治療を受けなくてはいけない体になった。おまけに創始のISとテレーゼの体の維持が連動しているらしく、創始のISの停止がテレーゼの死に直結している。どう転んでも創始抜きにテレーゼがラウラと共に歩む未来はありえなかった。

 

「でも、そんな理由は関係ないか。今の私は創始様が居てくれたからあるの」

 

 この戦いで創始が死ぬことになれば、テレーゼは死に至る。それでも問題は無かった。元より、創始に生かされていた命だ。所詮は自己満足だが、結果が伴わずとも彼のために費やせたのならば本望だった。

 

 一つ心残りがあるとすれば――

 

「面と向かって言えなくてごめんね、ラウラ。元気でね」

 

 騙す形でラウラの前から消えることだけだった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 不思議な感覚だ。どう考えても防ぎきれない攻撃が目の前に迫っているにもかかわらず、今の箒には絶望の2文字が存在しない。リュジスモンの砲撃は大抵のISを一撃戦闘不能に追い込むだけの火力がある。エネルギー切れ間近のISでは操縦者を保護しきる保障のない凶悪な代物だ。だが、頭にあるリュジスモンの理解とは別に、箒には大丈夫だという確信があった。

 根拠などない。いつも通り、紅椿が教えてくれるだけ。絶対大丈夫だよ、とそう言ってくれている気がした。

 

「押し通るっ!」

 

 刀も拳も体より後ろに回す。己の体を盾にして箒は前へと進む。

 赤い閃光が当たる瀬戸際――

 

 箒の体は金色の光に包まれた。

 

 直撃を受ける。箒の体が直接ビームに晒され紅椿は絶対防御を発動した。箒の体には傷一つ付いていない。3秒ほどの照射の後、そこには無傷の箒がいた。

 

「そんなバカなっ!? 無傷だって!?」

 

 驚愕する創始。無理もない。おそらくは方舟に搭載してあるトロポスで最も攻撃力の高いものだ。それが効かないということは、今の箒に創始の攻撃は何も通らないことを意味する。

 箒は紅椿のシールドエネルギー残量を確認する。表示は狂っているとしか言えず、満タンであった。減っていないどころか最大値で振り切れている。どこから湧き出ているのかはわからないが、底なしのエネルギーだ。絶対防御が存在するISにおいて、これはアルマ・ウィースを上回る防御性能であるといえる。

 

 紅椿が箒に教えてくれるこの力の名は“絢爛舞踏(けんらんぶとう)”。シールドエネルギーを無制限に増幅するという単一仕様能力だ。コア・ネットワークを通じて任意の他ISにも同様の効果を発揮することができる。残り少なかった紅椿のエネルギーでもゼロでなければ瞬時に全快となり、効果中はエネルギーが実質減らない。ただし、効果時間は5分。5分後に紅椿はエネルギーを全て失う。

 

 一時的とはいえ、創始と立場が並んだ。あとはアルマ・ウィースを突破するだけ。5分しかないが、5分あれば十分だ。

 

「ハハハ……そういえば別に焦ることはないか。方舟のアルマ・ウィースは零落白夜が無い限り破られな――」

「それは幻想だ、轡木創始。貴様のその護りは決して絶対的なものでない!」

 

 箒は雨月と空裂を仕舞う。右手を高く掲げ、浮遊している右拳と左拳が箒の右手に合わさり始めた。形を変えた後に映る姿はさらに巨大になった右拳だ。そこには特大の龍咆が備えられている。

 

『頼りにしてるぞ、鈴』

『アンタこそ頑張りなさい。あたしは力を貸すだけよ』

 

 右手に付けられた挙腕を創始に向け、箒は飛び出す。次々と変異を見せる紅椿に対して創始の顔にはもう余裕がない。慌てて召喚したトロポスはキャラパス。箒に対して壁を作るそのトロポスに箒は構うことなく拳を叩きつける。

 

 箒の突撃は止まった。創始の顔に安堵が浮かぶ。だがそれは長くは続かない。何かにヒビが入っていく音が聞こえる。それは紅椿の拳でもあり、灰色の壁でもあった。次の瞬間、灰色の壁が砕け散り、キャラパスをバラバラに砕いて箒は創始へと再び進攻を開始する。

 

 間を遮るものは何もなく、箒は創始を殴りつけた。創始の前の見えない壁が箒の攻撃を防いでいる。逆に攻撃している紅椿の拳に傷がつき始めた。その度に紅椿が壁にかける圧力が増大していく。自らへの衝撃を敵への攻撃に変換する単一仕様能力“火輪咆哮”だ。絢爛舞踏でシールドエネルギーが無制限となっている今、変換できる衝撃の量に上限は見えない。

 

「何なんだこれは!? 方舟の防御が追いつかない――!?」

 

 拳と盾のぶつかり合いが続く。少しずつ終わりの時間が近づく中で紅椿の龍咆は鈴ですら未知である領域に到達していた。

 

『はああああ!』

 

 箒と鈴が呼吸を合わせる。そして――

 

 方舟の護りは盛大に砕け散った。

 

「ハハハ……これはすごいや」

 

 半ば放心状態の創始。箒は追撃の手を緩めずに拳の形を組み直す。時間的にこの一撃で終わらせなければならない。雨月と空裂を呼び出し、頭上に掲げ、拳だったものを巨大な刀に作り変える。

 

「薙破ーっ!」

 

 真紅の刀は方舟の金の鎧を袈裟懸けに斬り裂いた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 俺は失意の底にいた。もう何もできることはなく、ただ白騎士に殺されるのを待つだけ。自分で答えを選ぶことを迷った俺に相応しい最期だ。そのはずだった。

 

 ……あれ? 動ける?

 

 気づいたら、俺は立ち上がっていた。地面に降り立った白騎士は左手の大剣を下げた状態のままこちらの様子を窺っている。白式のシールドエネルギーの残量を確認すると、不思議なことに満タンを差し続けている。体の奥底から戦うための力が湧きあがってきているのだ。

 

「まだ、俺に戦えって言うのかよ……」

 

 再び立ち向かう機会を与えられた。いや、与えられてしまった。俺はまだ千冬姉と斬り結ばねばならないらしい。もう無理だと諦められたのは気が楽だったのかもしれない。

 

『皆さんを裏切るつもりでしたら逃げればいいですわ。ですが、わたくしは知っています。一夏さんは最後には必ず、期待に応えてくれる方だと』

 

 俺の独り言に対して返事があった。プライベートチャネルの主はセシリア。こんな状況でも、彼女には俺のことはお見通しらしい。

 

『でもさ、俺は今回ばかりはダメそうだよ。どう言い聞かせても、千冬姉を殺すことなんてできない』

『では、わたくしたちが皆、死にますか?』

 

 セシリアはハッキリと言ってくれる。俺が何もしなければもっと多くの人が死ぬかもしれないと。

 

『俺と心中してくれ、って言ったらどうする?』

『そのおバカな頭を叩いて直しますわ』

『じゃあ、直った後の俺は何をすると思う?』

『それはわたくしにはわかりません。一夏さんが思った通りのことでしょう』

 

 俺が思ったとおりのこと、か。それがあれば今の苦悩は無いんだよ。

 答えが出ないまま呆けていると、セシリアが話を続けてきた。

 

『わたくしからは何も言えませんが、とある方から一夏さんに伝言を預かっております。聞かれますか?』

『あ……ああ』

 

 俺に伝言? こんなときに一体誰がそんなことをするんだ? セシリアを通さなければならない相手に心当たりがない。とりあえず内容を聞くことにした。

 

『それではお伝えします。……馬鹿者ぉっ!』

 

 セシリアの声が豹変する。箒に近い口調で怒鳴られ、俺はつい背筋を伸ばして畏まってしまう。

 

『お前には護る人ができたのだろう? 誰よりも護りたい人がだ。お前は私に護られるためにここまできたのか? 違うだろ! 過去に縋るな。お前の未来を勝ち取れ。お前は私がいなくてもやっていけるだけ強くなったはずだ』

 

 セシリアの言う“私”の正体にすぐに思い至る。でも、俺自身が聞けないのに、彼女は本当に“伝言”を受け取れているのだろうか。

 いや、真偽はこの際関係ない。これがセシリアの演技だろうと、俺は一つの思い違いを見つけられた。

 

 ……俺は千冬姉に護って欲しかったのか。

 

 護ると口にしながら、ずっとあの背を追ってきた。千冬姉に憧れて、俺自身が成り代わろうとしていた。それは全て、千冬姉が俺を護ってくれる存在だと自分の中で刻みつけるための行為だったんだ。いつか帰ってきたときに再びその席に千冬姉を座らせるために……

 

『誰かを護ると誓ったのなら、その意志と共に私を貫け!』

 

 シャルを救うと決めたのなら躊躇うなと告げてくる。俺がシャルを救う意志を貫き通すならば、千冬姉をこの手で討つことは必要だ。何度考えても、結論は同じになる。初めから千冬姉が言ってきたことにしか収束しない。

 

『……以上ですわ。差し出がましいことを言いますが、わたくしは一夏さんが何を選んでも、非難は致しません。心の赴くままにどうぞ』

 

 どれだけ経っても俺が一歩を踏み出すときは誰かに支えられている。それはこれからも変わらないのかもしれない。しかしおかげで俺のすべきことは定まった。

 

『ありがとう、セシリア』

『礼には及びませんわ。吉報を待っております』

 

 通信を切る。雪片を水平にし、切っ先を白騎士に向けた。

 

「これが最後だ。俺の意志を真っ向からぶつけるよ、千冬姉」

 

 氷燕を広げる。俺がすべきことは、ただ接近して雪片で貫くのみ。

 エネルギーを氷燕に溜める。具体的に何が起きているのか把握していないが、今の白式のエネルギーは底なしだ。だから小細工は要らない。

 

 俺と白騎士は同時に駆け出す。俺は雪片を突き出した体勢での突撃で、白騎士は左手の大剣を下段に構えていた。コンマ1秒に満たない世界での俺と白騎士による5度目の衝突。防御も回避も何も考えない俺の攻撃に対して、白騎士は雪片を迎撃するという選択をしてきた。雪片を恐れているということだろう。白騎士の剣をまともに受けてしまった雪片は――刀身の半ばで折れてしまった。

 

 だが俺の心は折れていない。雪片は元々刀身が2つ存在する刀だ。

 雪片を可変させ、エネルギーで構築された刀身を出現させる。

 零落白夜相手ではタブーであるエネルギーブレードだが、それは剣同士のぶつかり合いに限ったこと。攻性の零落白夜でなければこの刀身が折られることはない。

 

 

 俺は突撃の勢いを乗せたまま、白騎士の胸に雪片を突き立てた。

 

 

 ……しばらくその体勢のまま互いに動きを止めていたと思う。既に体感時間が当てになっていない。実際は一瞬の出来事だったのかもしれない。

 

「ごめん。ごめんよ、千冬姉」

 

 俺の位置からでも白騎士の背中から雪片の刀身が伸びていることが確認できる。白騎士をコアごと刺し貫いたのだ。VAISのコアを破壊したことが意味するものは、操縦者の死である。俺が、千冬姉をこの手で殺した。それが事実となるのは確定で、時間もかからない。

 

「……謝るのは私の方だ」

 

 白騎士の手から大剣が滑り落ち、石畳の上で金属音を奏でる。空いた左手は俺の頭に伸び、優しく撫でられた。

 

「私はお前を一人にしてしまった。お前が知らないことを隠し、自分の中だけで抱えて、最終的にはお前を一人残して飛び出した」

「でも、俺は千冬姉は間違ってないと思ってる。父さんたちが間違ってると思った人たちをどうにかしようとしたことが間違いであって欲しくない」

 

 一人残されたことは確かに寂しかったし、弾や鈴がいなければどうなっていたのか見当も付かない。それでも千冬姉の在り方を否定したくないのは正直な気持ちだ。

 

「だが、私が正しいことも無い。今、こうしてお前に私を殺させてしまった。お前を苦しめるだけだった。ダメな姉で……本当にすまなかったな、一夏」

 

 白騎士の仮面が砕け散り、千冬姉の素顔が現れる。今も肌身離さず持ち歩いている写真と同じ顔は行方不明になる前とあまり変わらないような気がした。

 

「卑屈になるなよ、千冬姉。俺は千冬姉に謝って欲しいわけじゃない。……どっちかっていうと褒めて欲しい」

 

 少し恥ずかしかったが正直な気持ちを言った。千冬姉は頭を撫でていた左手でそのまま俺の頭を胸に抱く。俺は腰を少し曲げながらも千冬姉のしたいようにさせた。

 

「いつの間にか、私が見上げるくらいに大きくなったのだな。こうして私が抱きしめるにも一夏が屈まねばならない」

「8歳のガキが15歳になったんだ。これくらい当然だよ」

「背だけの話ではない、馬鹿者」

 

 ずっとこうしていたかった。でも、時間はもう残されていないようで、千冬姉の左手が俺の頭から滑り落ちていく。

 

「千冬姉……?」

 

 雪片の刀身を消してから投げ捨て、崩れそうになる千冬姉の体を抱きかかえた。千冬姉を覆っていた白騎士は崩れ、ほとんど残っていない。足にも力が入っておらず、俺に全体重を預けてきていた。

 

「良く頑張ったな。流石は私の自慢の弟だ。誇らしく思うぞ」

 

 もう我慢しなくていいよな?

 もう千冬姉は俺の顔を見れてないよな?

 少し、情けない顔するよ、俺。

 

 俺の胸の中で、もう立っていられない状態だっていうのに、千冬姉は凛とした声で俺のこれまでの戦いを称えてくれた。俺もこの人の弟であることを誇りに思う。

 

 俺はようやく、俺を認めてやれる。他ならぬ千冬姉のお墨付きだ。ありがとう、千冬姉。

 

「俺、最後までやりきるよ。護りたい人ができたんだ。ちゃんと千冬姉に紹介する」

 

 千冬姉に声が届いているだろうか。声に涙は混ざっていないだろうか。千冬姉には最後まで気づいて欲しくない。俺はもう大丈夫だから。

 

「楽しみに、してるぞ……泣き虫一夏」

 

 やっぱりバレていた。でも、今だけは許して欲しい。ちゃんと前を向くから、今だけは立ち止まらせてくれ。

 屈み込んで千冬姉を仰向けに寝かせる。手どころか表情一つ変わらない。その安らいだ表情が、また俺を後押ししてくれる。そう思うと千冬姉に恥じない生き方をしなければと自分を奮い立たせることができた。

 

 ふと、傍に落ちていた白騎士の剣が視界に入る。持ち主であるISが消滅したのに何故か今もその場に残っている。一度千冬姉をその場にそっと寝かせ、剣を拾いにいく。

 拾い上げると、白式が使用許諾(アンロック)の対象に入っていた。持ち主の無くなった剣を白式が勝手に量子変換(インストール)し始める。

 

「貰っておくよ、千冬姉。俺の戦いを見守っててくれ」

 

 剣を受け取った俺は、もう動かない千冬姉を負ぶって創始と箒が向かった先へと移動を始めた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 真紅の刀身が金の鎧を一刀両断にした。その亀裂は背中にまで及んでおり、コアも無事ではいられないだろう。残された鎧も次々と自壊していき、戦闘の終わりを告げていた。

 紅椿も5分が経過したことで薙破が自然消滅し、大半のシステムがダウンする。既に鈴と会話すらできない状態だ。だが、これは相打ちなどではない。創始は倒れた。箒と鈴の2人がこの戦いに幕を下ろしたのだ。

 

「これが……束の造ったISの力。ハハハ……僕なんて足下にも及ばないじゃないか」

 

 敗北したというのに創始は嬉しそうにその事実を受け入れる。箒はその物言いがやはり気にくわなかった。

 

「何がおかしい? 貴様は負けたのだぞ」

「そうだね。全世界が束にひれ伏す姿を見られないのは、僕の敗北だと言える。でも、君たちの勝利でもない。まだ何も終わっていないのだからね」

 

 まだ何も終わっていない。そう告げる創始には何か確信があってのことだと推察できる。このまま創始を殺したところで無意味であるかのような言い草だった。

 

「貴様が……トロポスの司令塔ではないのか……?」

「いいや。間違いなく僕が……正確には“方舟”が全トロポスの中心だったよ。ただね、重要なものほど、予備を用意しておくものなんだ」

 

 言われてみればその通りだった。潰さなければならない司令塔が一つだなどと誰も言っていない。そして、もう一つの司令塔はどう考えても――

 

「シャルロット、か?」

「さあ、どうだろうね。と言っても誤魔化せないか。その通りだよ」

 

 確かにまだ終わっていない。まだシャルロットが現れたという情報すら入ってきていない。てっきりこの本拠地にいるとでも思っていた。しかし、この期に及んで現れないことを考えると、彼女は別の場所にいる。

 

「もう“彼女”は僕の制御下を離れる。世界への不信と憎しみ、諦観に染まった彼女は全てを終わらせる。あの白騎士が近づくことすら適わなかった最強のISだ。人どころかISですら蹂躙し、殺戮の限りを尽くすだろう。その無限とも言える武力を以てすれば世界は7日も保たないさ」

 

 アハハと小さく笑う創始。身に纏う金の鎧は半分ほどが崩れ落ちていた。

 創始の言うことに誇張は一切ないと箒は感じている。それほどまでにシャルロットが米軍基地で見せた力は次元の違うものだった。“無限の軍事力”を体現したと創始が言っていたことにも頷けるところはある。ただし、これだけは言っておかなければならなかった。

 

「創始。貴様はインフィニット・ストラトスが超兵器という意味で付けられた名前だと言っていたな?」

「随分と大雑把に言ってくれるねぇ。大体合ってるよ」

「ならば覚えておけ。貴様の間違いを。姉さんにはそのような捻くれたネーミングセンスなど無いことを知れ」

 

 ここから話すことは箒の解釈。しかしながら、束のことは創始よりもわかっているつもりだ。束が願ったことは“もっと単純なもの”であるはずだと箒は確信している。

 

「姉さんがISに込めた願いは昔も今も、これから先だって同じ。“無限に広がる宇宙(そら)”へと飛んでいきたいという想いだ。そして、もう一つ。それを他の人たちにも分けたかった。コア・ネットワークはそうしたつながりが欲しくて造ったんだ。そのつながりも一個人から見れば無限に見えるくらいに広がって欲しかったんだよ。だから慣れない英語なんかを使ったんだ。多くの人が見てくれるようにって」

 

 言葉にしてみて箒自身もこれでしっくりときた。“無限の広がり(インフィニット・ストラトス)”。人の行ける場所という意味でも、人同士の関わりという意味でも、狭いところに閉じこもって欲しくないという願いなのだ。

 白騎士事件が起きるまで箒は束に歩み寄ろうとしてこなかった。束もきっと箒とどう関わればいいのかわからなかったんだと思っている。その裏ではずっと気にしていた。今は互いに歩み寄れた。ISを通して……

 世界中が箒と束みたいに仲直りができれば、それはとても素晴らしいことなのだと思う。そんな小さい子供の夢見た理想を実現するためのISなのだ。

 

 断じて争いの道具などではない。

 

「くっくっく……何も知らない子供の理想だな。……本当に……みんながその理想を持っていたら良かったのにね」

 

 創始を覆う鎧が8割方消えていた。嘲笑する創始はそのまま真後ろへと倒れ込む。ほぼ同時に建物内部を覆っていた灰色の障壁も崩れ去った。その時である。

 

「そうくん!」

 

 部屋の中で最も高い位置から階段を駆け下りてくる姿が見えた。白と青のワンピースを着た女性は、ウサ耳のカチューシャが外れたことを気にすることなく、倒れた創始に駆け寄る。一心不乱といった様子の束には箒のことが目に入っていないのかもしれない。

 

「姉さん……?」

 

 箒は束の行動を見守っていた。自分との再会よりも創始を優先したことに若干腹が立ったが、束が何をしたいのかを知りたかった。……束が拳銃を創始に向けるまでは。

 慌てて束を止めようと足を踏み出すが、束の落ち着いた声が聞こえてきて箒は足を止める。

 

「そうくん。私たちはどうしてこうなっちゃったのかなぁ……」

「それは僕にもわからない。僕は束の造ったISを世界中の人に知ってもらいたかっただけだから。今もこうして束に銃を突きつけられてることが不思議で仕方ないよ」

「私はこんなの望んでないよ」

「束は優しいからね。ある種の劇薬を使わない限り、世界はISを認めないとわかっていながらも、否定してる。だから僕が代わりにやり遂げるつもりだっ――」

 

 銃声が反響する。至極冷静に引き金を引いた束からは何も前触れを感じられなかった。突然の出来事に箒はその場を動けずに見ていることしかできない。鎧の無くなった創始の腹部が赤く滲み、口の端からも血が垂れていた。

 

「本当は、もっと早くこうしなきゃいけなかったんだよね? そうくんがコアを貸してくれって言い始めたときに私が渡さなければこんなことにはならなかった。ちーちゃんが白騎士になることもなかった」

「ち……が、う……千冬は……自分から、望んだんだ」

 

 息も絶え絶えな創始が必死に言葉を紡ぐ。箒に対して向けていたような嘲笑が欠片もない創始の言葉には真摯さが感じられた。嘘でも言い訳でもない。そう思うのには十分だった。

 

「え……? どういうこと……?」

 

 束の声に動揺が現れる。箒が聞いたこともないような声音だった。何でも知っていた姉らしからぬ言動に箒も戸惑いを覚えた。

 純粋にわからないという束の疑問の答えは、創始から返ってこない。彼のISは右手に僅かに残っているだけであり、今も崩れ続ける鎧は彼の絶命までのカウントダウンに見えた。

 

「どういうことなの!? そうくんっ!」

 

 束は拳銃を投げ捨てて、目を閉じて動かなくなっていた創始の脇に座り込み肩を揺する。彼から流れ出る血は止まらず、血だまりが小さい池となり始めていた。金の鎧も残されていた右手の部分が砕け散り、彼のISの消滅がここに成立した。

 束は創始の体を揺らし続ける。もう返ってくるはずのない答えを求め続ける。もう見ていられなかった。箒は束の後ろまで歩いていき、彼女の肩を掴む。

 

「姉さん。もうやめよう。全部終わったんだ」

「いやだ! 私は知らなきゃいけないの!」

 

 箒の手は乱暴に振り払われた。ふざけながらも冷静である普段の姉と同一人物とは思えないほど取り乱していた。箒は、まだ姉のことを理解し切れていないのだろうか、と考え込み何も言えなくなる。

 

 箒の制止を聞かなかった束は創始の体を乱暴に揺する。もう虚しいだけだと箒は思っていた。しかし――

 

「そうくん!」

 

 彼は目を開けた。束の“作っていない喜びの感情”を箒は初めて見た気がする。今の束は年不相応な一人の少女であった。

 創始の目の焦点が束に合う。束が求めている答えを言ってくれるのだろうか。だが、創始は箒の予想の斜め上をいく発言を繰り出した。

 

「あれ? 束だ。……いつの間にか、綺麗になったね」

「え――?」

 

 創始が瀕死とは思えないくらいにスラスラと話し始めた内容は束を絶句させるのに十分なものだった。彼の言う“いつの間にか”とはいつから見たことなのだろう。箒の中で最悪な仮説が出来上がる。同じことに束が思い至らないわけがない。

 

「泣きそうだけど、どうしたの? また誰かにひどいことを言われたの?」

 

 箒が倒した人物が誰だったのかがわからなくなってくる。それだけ、今の創始の言葉は純粋に束への思いやりで溢れていた。束が声に出せない間にも創始は続ける。

 

「大丈夫。僕がついてる。例え世界が認めなくても、僕だけは束が凄いってことを知ってるよ」

 

 先ほどまでの創始と似ているようで全く違う。世界のことなど気にせず、ただ束を見ている。そんな少年の告白だった。

 

「束は僕らの希望だからね……」

 

 束を希望と言った創始は再び目を閉じた。最後に言いたいだけ言った青年は清々しい笑顔で眠るように息を引き取った。全ての元凶であった男、轡木創始。死の間際に彼が見せた姿こそが“本当の彼”なのだろう。

 

「どうして……」

 

 束の口からようやく言葉が出る。今の彼女の思いを想像すると、箒の胸も痛くなってきた。

 

「どうして最後まで憎ませてくれなかったの!? ひどいよ! あんまりだよ! そうくんっ! ちーちゃんっ! 私、私……」

 

 創始の亡骸に束がすがりついた。彼はもうその口を開くことはないが、もう束は答えを欲していないだろう。千冬のことが吹き飛ぶくらいにショックを受けたのだ。箒もわかってしまったぐらいだ。束が理解できないはずがない。

 

 ――創始は、VAISになっていた。

 

 司令塔がウィスクムだという時点で箒はわかっていなければいけなかったことだ。ウィスクムに囚われた創始は、心の奥底にあった『束のISを世界に認めさせたい』という思いに突き動かされるだけの生体兵器となっていたのだ。7年前からずっと……

 全ての元凶は……創始自身が理性の効かない怪物と成り果てた“事故”だった。

 

「箒。これは一体……?」

 

 入り口に一夏が現れる。彼の戸惑いは当然のものだ。だが、箒は自分の口から全てを語る気にはなれなかった。それよりも一夏と話すべきことがある。

 

「千冬さんは、解放されたのだな」

「ああ。後はシャルを助けて終わりだ」

 

 簡単に言ってくれるが、何度も思い悩んだだろうことは容易に想像できた。それを口に出すことはしない。「そうだな」と短く言うだけにとどめておいた。一夏の中で決着がついているのなら、箒が口出しすることではない。

 一夏が束の元へと歩いていく。彼は千冬を背負っており、創始の隣に彼女を並べて寝かせていた。

 

「いいのか? 千冬さんと創始を並べて」

「千冬姉は創始を怨んでなかった。自分から白騎士になったんだ。あと、千冬姉は憎しみに染まった自分を創始と共に墓穴に埋めろって言った。創始を憎く思ってたんなら、そんなこと言わないと俺は思う。だから、これでいい」

 

 一夏は創始の城をそのまま墓標にするつもりのようだ。彼は千冬の体を寝かせた後、「ごめんね」と呟き続ける束へと歩み寄る。

 

「束さん。俺、結局千冬姉を殺してしまいました。すみません」

「いっくんは悪くない。全部束さんが悪いんだから、謝らないで。謝られる度に束さんのガラスのハートがブロークンだよ」

 

 無理に明るくしようとしてるのが逆に痛々しかった。箒の目から見れば、束には割れるだけの心の形が残っているのかも怪しいというのに。それは一夏も感じたのだろう。彼は束の両肩を掴んで、真摯に告げた。

 

「束さんは生きてください。千冬姉の分も。そして創始という男の分も。これからISを戦い以外の場で活躍させるんですから、俺たちを導いてください。それこそが、千冬姉が束さんを復讐に巻き込みきれなかった理由だと思うから……」

 

 束が一夏を突き飛ばして、顔を伏せる。目元からキラリと光る粒が下に落ちたのが見えた。

 

「ごめん、いっくん。でも、今は何も見ないで。後でちゃんとするから。今は、今だけは……」

「わかりました。行こう、箒」

「ああ」

 

 一夏に促され、箒は彼と共に屋外へと移動する。出口を潜る際に、後方からは、やりきれない思いを叫ぶ姉の声が聞こえてきていた。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 とある亡国機業のトロポス輸送艦にて――

 

 全機出払った後にもかかわらず、取り残されている朱色の機体の姿があった。ドレスのようなシルエットをした無駄の多そうな機体は中に人が入っているとは思えないくらい微動だにせず、その時を待っていた。

 

「指揮個体“方舟”の消滅を確認」

 

 人形のように静止していた機体に火が点る。ふわりと浮き上がり、周囲に8本の剣を展開した。

 

「方舟より、全トロポスの指揮権を受諾」

 

 与えられた文章を読み上げるかのように淡々と言葉を発する。そこに操縦者の意志があるのかはわからない。

 

「“ラグナロク”起動。人類の殲滅を開始します」

 

 それは誰の願いだというのだろうか。轡木創始か。それともシャルロットか。あるいは誰も望んでいないことなのかもしれない。しかし、“ラグナロク”が人類を滅ぼすために動き出したことは事実である。

 

 ラグナロクが輸送艦の外壁を突き破り、海から空へと飛び出す。青々とした空が瞬時に夕焼け空へと変化した。移動を開始したラグナロクが向かう先には――IS学園がある。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

『一夏さん! 大変ですわ!』

 

 箒と2人で創始の庭園を歩いて、束さんが気を取り直すのを待っていた俺だったが、慌てた様子のセシリアから通信が来ることで顔を引き締める。

 

『どうしたんだ?』

『シャルロットさんが見つかりましたわ。現在、IS学園より南東100km地点の洋上をIS学園に向けて航行中です』

『わかった。すぐに向かう』

 

 俺自身が待ち望んでいた情報だった。であれば、俺は直ちにIS学園に引き返さねばならない。ただ、少し心配事があった。

 

「箒、ここはお前一人で大丈夫か?」

 

 ここには束さんがいる。もしここに敵が押し寄せたら、箒一人で束さんを護らなくてはならないのだが、今の紅椿は戦闘するだけの力が残っていないらしい。しかしながら、大丈夫かと聞いて大丈夫じゃないなどと答える奴じゃなかった。

 

「一夏。私を舐めてはいないか? この篠ノ之箒、雑兵ごときに敗れるほど軟弱ではない」

「そうだったな……束さんと、千冬姉たちを頼む」

 

 聞き方を間違えたとはいえ、ここまで言ってくれた箒を信頼しないと罰が当たりそうだ。俺は行かなくてはならない。箒の気遣いをありがたく思いつつ俺はIS学園に向けて飛行を始めた。

 

 箒の姿が見えなくなり、海と空の青で視界が埋まる頃になってから俺は通信を再開する。

 

『セシリア。現状は?』

『わたくしも細かいところは存じません。ただ今向かっている最中ですが、ブルー・ティアーズの推進機の大半が壊れていますので時間がかかります。尤も、辿り着いたところで、わたくしは役に立ちませんでしょうが……』

 

 確かに斜陽世界が俺の言ったとおりの能力だとしたらブルー・ティアーズは何もできないだろう。ならば、彼女にはIS学園よりもあちらに向かってもらった方が良さそうだ。

 

『じゃあ、セシリア。お前は箒と束さんの迎えに行ってくれないか?』

『いいですわ。ただし、一つだけ約束して欲しいことがあります』

『あんまり無茶は言わないでくれよ』

 

 彼女の要求するものはおそらく大したことではないだろう。だからこそ、応えてやりたいと思えるのだが、そこまで言う必要はないかな。

 

『必ず、一夏さんが生きて――』

 

 俺がセシリアの言葉に耳を傾けていると、唐突に通信が途絶えた。それだけでなく、俺の周囲の景色が青から黒に変貌している。真っ暗闇だ。通信が切れたことと因果関係のありそうなこの闇は、おそらく何者かによって作られたもの。

 

「ハッハーッ! ようやく見つけたぜ! 織斑一夏ああ!」

 

 ……どうして“奴”がここにいる?

 ミズキという少女と共に海に消えていったはずの亡霊が俺の行く手を遮っていた。

 右腕は人の体の原型を留めていない。肘から先が巨大な剣となっており、武器と右腕が一体化している。

 その他に目立った変化はない。相も変わらず紫色の機体であるし、トレードマークの赤いたてがみのような髪と金色に光る目は健在だった。

 

 メルヴィン。

 奴は生き残っていた。

 もう亡国機業は影も形も残っていないというのに、奴は俺の前に立ちはだかる。

 

 俺を見つけたメルヴィンは、前回のような慎重さの欠片も無いがむしゃらさを伴って俺にまっすぐ向かってきた。

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