IS - the end destination - 作:ジベた
米軍基地の壊滅から始まったトロポスの全世界への同時攻撃、後に“黄昏事件”と呼ばれることになる大事件は織斑一夏を始めとするIS学園の者たちの活躍によって終結した。シャルロットがVAISから解放されたと同時刻に全てのトロポスが停止、自壊し、人々は目の前の脅威からは救われたのだ。
世界各地には大きな傷跡が残されている。この人的な災害に対して人々は怒りの矛先を探していた。首謀者である轡木創始、テレーゼ・アンブロジア両名の死亡が公表されても、人々の怒りが治まることはない。特定個人に当たれなくなった人々は、形のない女尊男卑を排そうとする団体が中心となってIS自体を排除しようという動きを強め始める。その対象に“篠ノ之束”が入ることも必然であったのかもしれない。IS学園も生徒の安全を留意して一時閉鎖となった。
しかし黄昏事件から3ヶ月後、世界はISに対する見方を変えることとなる。篠ノ之束が全世界に実験結果を公表したのだ。IS単独による低コストな大気圏の離脱を成し遂げたことで、宇宙までの心理的な距離が大幅に縮まった。世界の目は宇宙へと向けられることになる。
コアの技術も篠ノ之束は全て公開した。しかし、彼女の独自の理論を理解できる者がいなく、量産する体制には入っていない。妥協にはなるが、IS学園やトロポスで使われていた“一つのコアを動力として複数の機械を動作させる技術”が広まっていき、主にPICを利用した開発が進んでいった。
もうISには一切の武器が積まれていない。IS自体を無くそうとする動きも少数派となり、平和利用を望む声が広がっていた。
だからだろうか。ISは男も扱えるようになっていた。束が何かをしたわけではない。束がかけた制限が意味を成さなくなったことをISコアが理解したのかもしれない。それは同時に、ISが再び兵器として使われたときに、コアが再び人々に反旗を翻すと言っているようでもあった。
黄昏事件から1年後。人類と宇宙の距離が急速に縮まる中、IS学園は宇宙開発の拠点として、共学となり、大学院も含めた高等教育機関“IS学院”へとその姿を変える。
そうして5年の月日が流れた――
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織斑一夏 様
拝啓 すがすがしい秋晴れの今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
私が日本を離れてから2年が経ちました。初めの頃は言語の違いに戸惑
い、なかなか人と関わることができませんでしたが、もう今では慣れたも
のです。私には難しいことだと勝手に決めつけていただけで、人はその気
になれば簡単にわかり合えるのだと実感しました。
さて、こちらでは“ISによる大気圏離脱をした世界初の操縦者”の新
たな挑戦というものに注目が集まっています。正直なところ、私がその場
にいないことが悔しいのですが、致し方ありません。それぞれの未来のた
めにと違う道を歩き始めた私ですから、形にしてから会いに行きます。
これから益々冷えてくる季節ですので、お体には充分にお気をつけくだ
さい。
敬具
20XX年10月14日
篠ノ之箒
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「今時メールじゃなくて手紙とは、箒らしいと言えば箒らしいのかな」
俺は読み終えた手紙を丁寧に折りたたむ。中身は大した内容ではなかったが、しばらく音沙汰の無かった箒からの手紙だから大切にしまっておきたい。
箒はIS学院の高校教育分を修了したところでアメリカに留学した。今でも当時の俺が口走った内容を覚えている。『正気か!?』ってな。まあ、饒舌な英語でたたみかけられるという形で斬り返されてしまったのだが。あの時の箒の勝ち誇ったしたり顔を今でも忘れられない。
冗談はさておき、箒は自分の道を見据えて歩き始めた。なんでも、工学分野を学びつつも通訳を目指しているらしい。束さんが海外の技術者と交流できていないことをなんとかしたいと思ったのがきっかけだったようで、セシリアの指導の甲斐もあってか箒の英語力は上達していた。尤も、日本語だけでなく英語も古風な堅い言葉になってしまったらしくて最初は苦労したらしい。1年以上何も連絡がなくて心配していたが杞憂だったようだ。彼女は今、自分の道を歩んでいる。そういう空白だった。
箒だけでなく、皆がそれぞれの道を歩き始めている。
セシリアは箒の留学に合わせたようにイギリスに帰っていった。向こうの名門の大学に入ったらしい。オルコット家の当主としての力を着々とつけているとも聞いている。時折送られてくるメールには結構な量の愚痴が綴られていた。
大学生ながら、ISの宇宙開発にも口出ししてるようで、愚痴の中にはそんな内容も見受けられる。最近のものだと『一人では疲れてしまいますわ』だったか。かと言って俺がどうにかできる問題じゃなさそうだった。返信でもそのことに触れずにいたのだが、最後のメールでは『わたくし、もう一度挑戦してみますわ! 今度結果をご報告いたします!』とテンションの高い内容が来ていた。人同士のことだから何もかも思い通りになるとは限らないけど、いつかは幸せを掴んで欲しいと切に願う。彼女の言う『今まで励ましてくれたパートナーに相応しい男性』とやらにも早いところ会ってみたいものだ。
あとIS学園を出ていったのはラウラだ。彼女だけは黄昏事件の終結直後にドイツ軍から帰還命令が出され、3年間すら共に過ごせてはいない。アラスカ条約の内容が改正され、ISに兵器を搭載すること自体が国際的に禁じられたのだが、それでも世界から戦争が消えたわけではなかった。ラウラは今もなお、その手に銃を握っているという。だが、ラウラ自身はそのことに不満を持っていなかった。休暇をとって俺たちの元に現れたラウラは『世界が軍のいらない領域に至るまで、私は抗い続けるさ』と胸を張っていた。クラリッサさんから聞いた情報によると、上の命令に対し喧嘩を売るような斜め上の方法を実行するものだから、副官として頭が痛いとのことだ。
「お、一夏! そんなところで何してんだ?」
「別に大したことはしてないよ」
たまたま通りかかった弾が声をかけてくる。相も変わらずロン毛に白衣という出で立ちのこの親友は、初めと違って正式に同じ学校に所属している。
俺が右手にある折りたたんだ手紙をなんとなく弾とは反対側に隠していると、俺の手から手紙が抜き取られていた。
「何を隠してるかと思えば、手紙じゃない。誰からかなーっと」
「おい、勝手に見るなって、鈴!」
弾と鈴は2人とも学院に残っている。弾は束さん直々に手伝えと言われて二つ返事で引き受けた結果だ。大気圏離脱に成功するまでは、自分が人であることを忘れるくらいに忙しかったらしく、その頃の弾を俺は見たことがない。当時のことを聞こうとすると、弾の目の前が真っ暗になるらしく、どのような修羅場が繰り広げられていたのかは推測するしかない。
一方の鈴はISに関わり続けている理由が俺にはわからないままだ。一度、それとなく聞いてみたのだが『なんとなく』みたいな返答しかなかった。彼女の『なんとなく』には、本当は明確な目的があるのはわかっているが、少なくとも俺に言うつもりはないということだろう。
鈴が勝手に手紙を広げる。
「なんだ、箒じゃない。ま、あの子も元気そうで良かったわ。あたしにも連絡を寄越せとは思うけど」
若干つまらなさそうな顔で俺に手紙を返してきた。俺はすぐに受け取って改めて丁寧に折りたたむ。
「おいおい、鈴。一体何を期待してたんだ?」
「別に。アンタには関係ないでしょ、弾」
「まさかとは思うが、一夏の浮気でも期待してたか? で、シャルロットと別れるのを虎視眈々と狙っていたお前――がぁ!?」
弾が廊下に沈む。俺の目には鈴が弾の腹を触ったようにしか見えなかったが、弾は苦しそうに腹を押さえてうずくまる。もしかして中国4千年云々の技だったりするのだろうか。鈴ちゃんってば、おそろしい子!
「あ、織斑くん。さっき篠ノ之博士が探してたよ」
「そうなの? わかった、ありがとう」
弾と鈴がバカをやってるときに通りかかった鷹月さんから束さんのことを聞き、俺はすぐに束さんの研究室へと向かうことにする。
「じゃあ、2人とも。俺は束さんのとこに行ってくる」
「また一夏が実験台にされるのね……いいぞ、もっとやれ」
「なんか最近俺も弾も扱いひどいよね!? ま、いいけど」
「一夏。これは鈴の照れ隠しなんだ。まったく、そろそろツンデレは卒業――」
わーお。ようやく復帰した弾だったが、今度はデコピンをもらってる。
……人ってデコピンで気絶するものだったっけ? 後ろに倒れたのに1回転してうつ伏せになってるぞ?
弾はうつ伏せに倒れたまま動かない。
「おーい、大丈夫かー、弾」
倒れ伏す弾に呼びかけると、手の辺りがピクピクと動いた。生きてはいるようだが返事は来ない。マジで何をされたんだ、これ?
「ちょ、ちょっとやりすぎたみたいね。アハハ……。あとはあたしが看とくから一夏はもう行きなさい」
「あ、ああ。今度から程々にな」
ばつの悪そうな顔をした鈴が乾いた笑いをする。何をやりすぎたのかは知らないが、深くツッコむのはやめておこう。俺の精神衛生上よろしくない。無難に諭してから俺は束さんの研究室に歩を進めた。
「あ、一夏! やっと見つけたよ」
道中、俺を指さして近寄ってくる人がいた。今日会うのはこれが最初。箒からの手紙に気を取られてて、会いに行くのが遅れてしまっていた。
「ごめんごめん。これ読んでたり、弾や鈴と話してたら遅くなった」
シャルだ。彼女だけが受けている講義の後である。いつも終わりの頃を見計らって合流しているため、今日いなかったことに対して怒っているのかもしれない。
俺は手紙をシャルに渡す。幸い、彼女は差出人の名前を見て納得してくれた。まあ、そんなしょうもないことで本気で怒るような子じゃないって知ってるけど。
「箒は、ちゃんと夢に近づいてるんだね」
「ああ。でも箒だけじゃない。俺たちもやることをやってるさ」
黄昏事件の後、轡木さんによってシャルの情報は全て隠された。白騎士の襲撃以降、シャルはIS学園の中で怪我の治療をしていたということにして、ラグナロクと呼ばれるVAISとは関係がないと改竄をしてくれた。轡木創始の父親ということで失脚したものの、今でも裏から手を回してくれていたりする。
シャル自身は、最初は納得していなかった。VAISとなったことに自らの責がないとは彼女は思っていない。母親を失った彼女が、創始を自分の意志で頼ったことだけは事実だったからだ。
だから俺はシャルに条件を提示した。ISが兵器でない世の中にするために、身を粉にして働くこと。轡木創始の具現化した兵器であったことの償いをするのならば、その逆を行なおうと言ったのだ。そして、束さんと弾の協力を経て、俺とシャルはIS単独による大気圏の離脱を世界で初めて実現させたのだ。
「じゃあ、早く博士のところにいくよ。大事な話があるってさ」
「そうだな。次の計画の草案でもできたのかもな。それを解読するのが第一の仕事というのがキツい。弾も呼んだ方がいいか?」
俺の右手をシャルが両手で引っ張る。顔を赤らめる彼女の顔は少し恥ずかしそうだった。
「困ってからにしよ? まずは、わたしたち2人でやろうよ」
「そうだな……よし、覚悟を決めた。いくぞ、シャル!」
俺は早足でシャルの隣に並んでから歩幅を合わせて歩き出した。
これまでそうしてきたように。
これからもそうしていくと誓って。
……千冬姉。少しずつだけど、千冬姉たちが願った未来に近づいていけるよう頑張っていくよ。
だからちゃんと見守っていてくれ。
俺たちの行く末を――
これにて完結となります。
好きなキャラ、好きなセリフ、好きなシーンなどありましたら感想で存分に語って欲しく思います。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。