IS - the end destination -   作:ジベた

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05 打鉄・雪花

「一夏……私のために怒ってくれたのは嬉しいが、無謀じゃないか?」

「箒、お前までそんなこと言うのか。別に相手は歴戦の勇士でも、世界チャンピオンでもない同い年の女子だろ? 天と地ほどの差があるわけじゃない」

 

 セシリアとのクラス代表決定戦が決まった次の日の放課後、俺と箒は轡木さんに呼ばれて例の暗いエレベータを降りている。昨日は欠席していた箒だったが、今日はもう完全に回復していた。

 

 いや、完全回復なんてしてないか……

 箒らしい、意志の強い目にまだ戻っていないから。

 

 前回よりも長い距離を降りた俺たち。エレベータが開いた先は、巨大な空間が広がっていた。それこそドーム1個分ほど。

 

「いらっしゃい、一夏くん。驚いたかね?」

「はい、驚きました。IS学園では地下アリーナでの闇バトルが連夜繰り広げられているんですね」

 

 轡木さんがズルッとコケる。同時に「馬鹿かっ!」と箒が俺の頭を巨大なハリセンで叩いた。

 ……どこから出したんだ?

 

「冗談はさておき、ここはISの試験場ですよね? 何故地下にあるんですか?」

「この地下試験場を造ったのは束くんなのだ」

 

 束さんが試験場という場所を造った? それも誰かの目から隠れるようなモノを?

 

「一夏くんは世界にあるISのコアの数は把握しているね?」

「467個です。多分俺のはその中に入ってないんでしょうけど」

「そうだ。そして、それは一夏くんのISだけではない。実は箒くんのISも、束くんが箒くんのためだけに後から造ったものなのだ」

「つまり、この場所も箒のためだけに造ったってわけですか」

 

 箒がISを手にした経緯は、大学でいう裏口入学みたいなもの。表沙汰になると色々と面倒くさいことは目に見えている。一機でも多くのISを確保したい各国の関係者の目に止まれば、無所属のISをめぐって争奪戦が起きかねない。束さんは箒にそんな目に遭って欲しくないんだろうな。

 だったらISを渡すなよと言いたいが、あの人はあれで妹の箒を溺愛している。ISが欲しいという箒の願いを叶えてやりたかったんだろう。

 

「で、俺がここに呼ばれた理由は何です?」

 

 俺の問いには隣の箒が答えてくれた。

 

「馬鹿者! お前は練習もなしに明日の試合に臨むつもりだったのか?」

「そういや、そうだな」

 

 つまり今日はどこのアリーナも埋まってるから、秘密のアリーナであるここで練習しろってわけね。轡木さんも「ここを自由に使っていい」と補足してくれてるし。

 

「では一夏くん。是非とも頑張ってくれたまえ。期待しているよ」

 

 俺と箒がピットに向かおうとすると、やたら上機嫌な轡木さんが「忙しい忙しい」と言いながら去っていった。

 

 

***

 

 

 早速俺は赤い武者姿の箒と向かい合っている。

 

 ISネーム“打鉄・紅葉”。箒の専用機は日本製の防御型IS、打鉄のカスタム機だ。通常の打鉄の肩にある物理シールドの他に、非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)である2枚の物理シールドを追加した合計4枚のシールドを持ち、防御に特化した性能である。

 武装は両手にそれぞれ持った刀が2振り。それぞれ同じ長さであるが、ISだと問題はない。

 

「一夏、早く準備をしろ。私が用意している間、何をしていたんだ!?」

 

 何をすればいいか、わからなかったんだ。でも正直に言うと心配かけそうだし、あくまで余裕を持った回答をしておかねば。

 

「男は女と違って準備に時間はかからないのさ」

 

 俺は右手に籠手のようについている待機状態のISを頭上に掲げる。ポーズに意味はない。なんとなくだ。

 

「来いっ! 打鉄・雪花(せっか)!」

 

 イメージだけでいいから、名前を声に出すのも意味はない。でも呼んだ方がカッコイイじゃん?

 でも確か武装の呼び出しに関しては、初心者用の方法が名前を呼ぶことだったな。だが敢えて俺は武装の名前も叫ぶ。呼んだ方が(以下略)。

 

 右手の籠手が白い輝きを放つと、一瞬にして光の鎧を形づくる。徐々に光が失われると、俺の四肢には純白の鎧が現れていた。

 以前の武骨な打鉄と比較して、全体的に丸みを帯びた装甲となっており、スマートな印象だ。しかし打鉄のシンボルである(と俺が勝手に思っている)両肩の物理シールドはそのまま装備してある。ちなみに箒のカスタム機のようにシールドの増設はしていない。

 

 俺は近接ブレードを展開する。名前はまだ無い。

 

「さて、一夏。練習するとは言っても相手はセシリアだ。私とこのまま組み手を始めたところで役には立たないだろうな」

「どうしてだ?」

「タイプが違いすぎるのだ。私は防御重視の近接格闘型。セシリアは中距離の射撃型。私に勝てるようになったところでセシリアに対抗できるわけではない」

 

 ふむ……。中距離の射撃型ね。

 

「で、箒は近づけなかったってことだな」

「ああ。実は私はあのとき頭に血が上っていて、良く覚えていない点もあるのだが、私は複数のビーム銃に包囲されていた。次に目を覚ましたのは保健室だった」

 

 つまり、一方的にセシリアが射撃していただけの展開だったわけだ。そもそも1対1では機体相性から最悪じゃないか。

 まだ敗北を引きずっていて、未だに悔しそうな箒に俺は声をかける。

 

「別に箒が弱かったからじゃない。相手は機体の性能で勝っただけだ。それを俺が証明してやるよ」

「言うのは簡単だ! しかし相手の実力は本物だぞ!」

 

 わかってる。セシリアは俺と違って、数多くいるIS操縦者の中から選ばれた代表候補生だ。

 でも、俺は箒が弱いだなんて思われたままなのは嫌なんだ。

 

 箒が束さんの妹であることに胡座(あぐら)をかいているわけじゃないって、皆に知って欲しいんだ。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「はぁ」

 

 軽くため息をつきながら、金髪の少女、セシリアは自室への道をとぼとぼと歩く。

 その傍らに人はいない。

 むしろ人が居ても彼女のために道を開けていた。

 その理由はセシリアが隠そうともしていない不機嫌さにあった。

 

(何なんですの、あの男子は!?)

 

 織斑一夏。

 先月に突然流れた“世界で唯一ISを扱える男”のニュースにはセシリアも驚きを隠せなかった。

 

 筋力だけで女性より優位なつもりでいる野蛮な人間、というのがセシリアの持つ男性観だった。だから彼女はISは野蛮な男どもには使えないモノなのだと信じている。同時に『お父様ならばISを使えたはずなのに』とも思っていた。

 

 セシリアは今は亡き父の姿を思い浮かべる。父は一般的な家庭に育った普通の人間だ。特筆すべき技能があったわけでも、外見が特別に美しかったわけでもなかった。しかし優しい人だった。

 その父が名家であるオルコット家に婿入りした。母へのプロポーズの言葉は日本語に直すと『君を見ていられない。だから君の隣に居させてくれ』だった。セシリアから見ても強い母だったが、仕事をする母は疲れた顔が目立っていた。母の顔が安らいでいたのは父が隣にいるときだけだった。

 父は母を名家の重圧から助けたかったのだ。セシリアの想像でしかないが、結婚前の母は張りつめた糸のようなものだったのだろう。父の優しい強さをセシリアが知ったのは、3年前の事故の後のことだった。娘のセシリアを置いて2人で旅行に出た先での越境鉄道の横転事故。あっさりと両親は帰らぬ人となった。

 セシリアの元には莫大な遺産が残った。遺産と家を護るためにセシリアは必死で勉強した。その過程で受けたIS適性試験でA+がでた。父と母が護った家のためにならセシリアは何だってするつもりだった。彼女は代表候補生となることでオルコット家を護っている。

 

 初めは代表候補生としての義務からIS学園に入学するだけだった。しかし日本へと渡る直前に流れたISを使える男のニュースによって明確な目的が生まれた。女尊男卑社会となってしまった現在で、父のような強さを持った人がまだいるのかもしれないとセシリアは期待に胸を膨らませたのだ。それなのに――

 

 やはり男はダメだ。自己紹介すらまともにできないようでは期待できそうにない。

 

 セシリアは期待していた分だけ落胆が大きかった。

 

(それだけでは飽きたらず、わたくしに勝負を挑むなんてどこまで考え無しなのでしょうか)

 

 クラス代表を決めるというHRの場を利用して、一夏が喧嘩を売ってきたのだということはセシリアもわかっていた。

 しかしわからない。自分に屈辱を与えるだけならば、山田先生の言うとおりに多数決で良かったのではないか?

 

 セシリアには一夏の意図が掴めなかった。

 

(たとえどんな目的を持っていようと、わたくしは全力で相手を倒すだけですわ。それでこそセシリア・オルコットなのですから)

 

 セシリアが自室の前に到着する。食堂からここまでの間で、セシリアと会話する人は誰もいなかった……

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 対決の時。

 場所は第3アリーナ。

 普段は練習する生徒で溢れている場所を試合ということで貸し切り状態となっている。

 

 セシリアとの対決を前にして、ピットには俺の周りに3人の人がいる。

 

「織斑くん、ISを展開してください」

 

 まずは山田先生。俺は山田先生の指示通りに打鉄・雪花を展開する。白い侍といった外見だ。

 

「気をつけてくださいね。セシリアさんは特殊装備を完全にではありませんが、かなりの練度で使いこなしています。織斑くんのISだとどのように接近するかが鍵になりますからね」

「自分なりにやってみますよ」

 

 担任からまさかのアドバイスだ。依怙贔屓(えこひいき)になるのではないだろうか? 後でこれを言い訳にされても困るのだが……ま、どうにかなるか!

 

「一夏くん。これが君にとって初めての対IS戦。そして初めての射撃型ISとの戦闘となる。今は勝ち負けよりも、経験という糧にすることの方が大事だ。思い切って戦ってきたまえ」

「はいっ!」

 

 用務員の格好の轡木さんが声をかけてくれる。服装だけでは威厳が隠せていない。良すぎる姿勢とか、話口調とか、もっと工夫しないと隠れませんよ!

 

「一夏……」

「箒、行ってくる」

「ああ。勝て!」

 

 そして箒。恥ずかしくて直接言えないが、この戦闘の勝利をお前に捧げる! 俺は開かれたハッチから飛び立っていった。

 

 

「あら。逃げずに来ましたのね」

 

 すでにセシリアは武装の展開を終了していた。2m近い銃を右手に持ち、空いた左手は腰に当てている。なんというかモデルさんがしてそうなポーズ? 俺にはよくわからないけどな。

 

『ISネーム“ブルー・ティアーズ”。操縦者“セシリア・オルコット”。中距離射撃型。特殊装備あり』

 

 特殊装備。つまりイメージインターフェースを用いた第3世代IS特有の兵器。第2世代以前でまれに発現していた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)という特殊能力の再現を目指して造られた兵器だったはずだ。

 ISは自己進化する。その過程で偶然生まれる単一仕様能力は造ろうと思ってできるものではない。しかしその能力は強大で、モンド・グロッソでは必須とまで言われていた。世界中の研究者たちが運任せで終わらせるわけはなく、日夜努力を続けている。その一端がセシリアのISに搭載されているわけだ。

 

「わたくしへの対策はできたのでしょうか? まだだとおっしゃるのでしたら、延期にしても構いませんわよ?」

「いや、せっかく山田先生が貸し切ってくれたんだし、この時間で決着をつけようぜ」

 

 そう言って俺は近接ブレードを呼び出す。……しまった、まだ名前をつけてなかった!

 

「射撃型のわたくしに近接武器だけで戦うつもりだなんて……こういうときは笑止千万と言えばよろしかったでしょうか? あなた、篠ノ之さんの二の舞になるおつもり?」

 

 二の舞って日本語知ってるなら、笑止千万もわかってるだろ! 多分、合ってるよ!

 

「滑稽になるかどうかはこれからの試合で全て決まるぜ。せいぜい機体の性能差で頑張ってくれ」

 

 俺のあからさまな挑発にセシリアはわかりやすくムッとした表情をつくる。

 

「機体の……性能ですって……?」

「そうだ。お前が箒に勝ったのは、お前の力じゃなくて機体の性能のおかげだろ?」

 

 怒髪天を衝く。左手を腰に当てていたポーズを崩して怒りを露わにしたセシリアは右手のスターライトmkⅢの銃口を俺に向ける。

 

「それは聞き捨てなりませんわ! わたくしが今の機体を得るに至ったまでの過程も知らないくせに!」

 

 確かに細かいことはわからない。でも、

 

「ま、血の滲むような努力をしたんだろうな。だからって箒の努力を否定する権利なんて無いだろ?」

 

 セシリアは専用機持ちとなるために努力してきたのだと思う。それゆえの誇りがあるのも理解できる。だが、彼女は箒のことを『ただ専用機を持っているだけの人』などと言いやがった。箒が専用機持ちであるために、束さんの妹という重圧に耐えるためにしてきた努力を否定したんだ。俺はそれを絶対に許さない。

 俺が睨むとセシリアは態度を一変させ、しれっと言葉を紡ぐ。

 

「結果が出なくては過程を誇るわけには参りませんわ」

 

 結果が全て。まだ子供の俺では認めたくないことだが、世の中の真実だろう。偉人の伝記が商品になるのは、結果を残した人物が生きた過程を、人々は知りたいと思うからだし。

 

 ということは俺は結果を出せばいいだけだな。

 

「だったら……俺がお前の努力を否定してやる!」

 

 俺の一言と同時に試合開始の鐘がなった。瞬間、俺に向いたままだったセシリアのスターライトmkⅢの銃口が発射の光を発しようとしているのがゆっくりと見えた。俺はすぐに横にスライドするように移動する。直後、光の線が通過していった。

 

「今のを避けましたの!?」

 

 セシリアの顔つきが変わる。生徒の顔から戦士の顔になったというべきか。俺は完全にナメられていたらしい。男をナメんなよ!

 

 発射後の隙に接近しようと、直角のターンをしてセシリアに向かう。そのセシリアの背にあるはずの4枚のフィン・アーマーが消えていた。

 俺は接近速度を急速にゼロにしてバックする。俺より前方を4本の光線が交差して通り過ぎていった。

 

「さすがに篠ノ之さんに教えてもらったようですわね」

 

 左手を口元に当てて余裕の笑みを見せるセシリア。本体と別角度から襲ってくる4本のビームは本体に近寄らせない目的を十分に果たしている。そして、4本のビームに気を取られていると――

 

「そこですわ!」

 

 本体からの本命の一撃をもらうことになるわけだ。銃を持った5人を相手にしているようなものか。しかも連携は完璧。ブルー・ティアーズは射撃だけで敵を封殺するコンセプトなのだろう。

 

 俺を包囲する4つの特殊装備は、位置をころころ変えながら俺を撃ち続ける。全方位が見えているから死角になど入られないが、いつ攻めればいいんだ、これ?

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「ふむ。一夏くんは逃げてばかりだね。彼は大丈夫なのかい?」

 

 ピットでモニターを見ていた轡木が怪訝な顔をする。彼の目には一夏の戦いぶりが消極的に見えたのだ。なぜならば、彼は一夏と敵の男との一騎打ちを見たことがあるからだった。

 

「轡木さんはわからないかもしれませんが、彼は今……とんでもないことをしていますよ」

 

 傍に控えていた真耶がズレたメガネを上げながら解説を始める。

 

「知っておられるとおり、ISは全方位を視界とすることができます。どう見えるのかは実際に体験してもらわないと絶対にわかりませんが、目の向いていない方向に意識を向ければ見えるものなのです。しかしながら、扱っているのは人間です。どうしても見ることができない死角がISには存在するのです。真上や真下、真後ろなどがそうです。オルコットさんは時折、そのような角度からの攻撃も混ぜているのですが、織斑くんは未だに被弾ゼロです」

 

 真耶の解説を聞き、轡木は「すごいじゃないか!」と我が子のことのように喜んだ。

 

 真耶の解説がなくても箒には一夏のすごさがわかっていた。7年前、自分を護ってくれていた少年が、再び自分のために戦ってくれている。箒は胸が熱くなるのを感じていた。

 

「真耶くんならばどうだね? 元日本代表で、格闘部門のヴァルキリーとしては」

「私は織斑くんみたいなことはできませんよ。多分、この状況にならないです。格闘主体のISにとっては距離が開くことは対射撃戦で致命的ですから、ダメージ覚悟で開始直後から接近し続けることが私のセオリーですし」

 

 山田先生が致命的と言う状況。それが今の一夏だと聞いた箒の表情は険しい。

 

(一夏……)

 

 箒はただ見ているだけしかできない自分が歯痒かった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「いい加減に当たりなさい!」

 

 セシリアがムキになって集中砲火をかけてくる。しかしそう言われてもこれは真剣勝負。わざわざ当たってやる義理はない。俺は左手をあごに当てながら飛んでくるビームを避け続けていた。

 

 さて、どうしたものか……。

 

 回避に専念しているから避けれてはいるが、攻撃に行くとなるとどうしてもその軌道は読まれるし、俺も全方位を見ていられなくなる。そして一度捉えられると、連続してダメージを負ってしまいそうだ。

 

 このままセシリアのエネルギー切れを待つか?

 

 戦闘開始から10分が経過している。絶えずビームを撃ち続けるには限界が近いと思う。たださ――

 

 そんな決着じゃ納得できないよな。お互いにさ。

 

 真後ろからのビームをひょいと避ける。ISってすごいよな。どう考えても見えないはずの場所も見えてるんだぜ? 遠いところも拡大してはっきりと見えるしさ。さすがに壁に隔たれたピット内の箒の姿を見る事なんてできないけどな。それじゃ透視だろ? ISでも見えないモノは見えないっての。

 

 ……ISでも見えない?

 

 あるじゃないか! セシリアにとっての死角が!

 気づいたなら実行するのみ。

 セシリアのビームを回避しつつ、俺はその瞬間を狙う。

 いや、自分からその瞬間をつくるんだ!

 

 俺を挟んでセシリアとBTビットが一直線に並ぶその瞬間を!

 

 俺は回転をしつつレーザーを避けるとセシリアと反対方向に刀をぶん投げた。

 その刀はセシリアには見えていない。俺が攻撃したことがわからない。

 刀はまっすぐに標的であるBTビットを捉え、貫通。爆散した。

 

「え?」

 

 そしてセシリアが驚いているこの時間が得られる。爆風に耐え、高速で回転しながら吹き飛ぶ俺の刀を拾うために、エネルギーを推進機に集中させて爆発させ高速で移動する。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)。防御型ISである打鉄のままではできない加速方法。シールドエネルギーを爆発させた際の衝撃を移動に使うため、消費エネルギーがハンパない使いどころを選ぶ技だ。

 

 俺の専用機、打鉄・雪花。こいつははっきりと言えば、打鉄を高機動型に改造した機体だ。

 肩の物理シールドを除いた全ての装甲は必要最低限を残して削り、推進機を増設。シールドバリアに割くエネルギーすら減らし、機動力にエネルギーを割く超スピード型なのだ。おそらく一発の被弾が普通の打鉄と違って致命傷になりうる。まず間違いなく絶対防御が発動するからな。

 ちなみに武器は近接ブレード1本のみ。俺に銃は向いてないってことを技術者の方は良くわかってらっしゃる。

 

 アナログ時計の連続で動く秒針のように回る刀を近づいて取り、すぐに次の爆発を発生させ、一番近くにある右後方のBTビットへと飛ぶ。俺は勢いを殺さずにそいつを袈裟懸けに斬り抜いていった。俺が通り過ぎてからBTビットは青い稲妻を放ち爆発する。これで2機!

 

「迂闊でしたわ!」

 

 2機目を撃墜したところでセシリアはBTビットを一度戻す。俺はすかさず接近する。動転したセシリアがスターライトmkⅢとBTビットを一斉に撃ち放つが、合計3本の火線では俺の接近は阻めない。攻撃が掠るようなギリギリで避けながら接近。セシリアが目と鼻の先のところにまで迫る。全ての銃口は俺を見ていない。取った!

 

「甘いですわ! ブルー・ティアーズは6機あってよ!」

 

 セシリアのスカート状のアーマーの突起が分離し、直接俺に向かって突撃してくる。銃口が見えないから油断していた。

 これはミサイルだ!

 直撃は避けられない!

 

 俺を爆発の衝撃が襲った。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「一夏っ!」

 

 激しい閃光と爆発音。

 モニターに映し出されたそれを見た箒は叫んだ。

 

 一夏のISは極端に脆い。

 

 箒は誰がこんなISにしたのだと文句を言ってやりたかった。案の定、一夏は危機に陥っている。

 

「大丈夫ですよ、篠ノ之さん」

 

 同じく一夏のISの脆さを知っている真耶が落ち着いた声で箒に話しかける。

 

「忘れてませんか? 織斑くんのISには丈夫な盾があるんですよ」

 

 モニターには、黒煙の中から飛び出した白い侍の姿があった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 俺は煙の中から飛び出し、目の前にあったセシリアの銃を斬り落とした。セシリアは使えなくなった銃を俺に投げつけるが、俺は軽く上半身を右に逸らすだけで避け、更に前へと進む。

 

「あれでも、ダメですの!?」

 

 セシリアの声はもう金切り声になっていた。多分、あのミサイルがセシリアの切り札だったのだろう。確かに十分な威力だった。打鉄自慢の盾が2枚とも粉砕されちまったからな。だが、それだけだ。

 接近した俺に対し、セシリアは右手を上げて叫ぶ。

 

「インターセプ――」

「遅いっ!」

 

 武装の名前を叫ぼうとしていたセシリアの胴を打つ。ブルー・ティアーズの絶対防御の発動を確認したところで、決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者――織斑一夏』

 

 

***

 

 

 最後の攻撃の衝撃で地面へと落ちていったセシリアを追って、俺は地面に降り立った。ISを着けたまま大の字に寝ているセシリアの目には涙が浮かんでいた。

 

「わたくしの負けですわね。しかも完敗ですわ」

 

 女の涙は卑怯だと思う。絶対に許せないと思っていた相手でも、俺は今罪悪感を感じてしまっている。

 

「何を言ってるんだ? 俺だってボロボロだぜ?」

 

 彼女をフォローするようなことを言ってしまった。ま、事実だけどな。俺の打鉄・雪花の装甲は肩の盾が全てと言っていい。それを失ったのだから、勝負は僅差で俺の勝ちであったというだけだった。

 

「それでも負けは負け。あなたの言うとおり、わたくしはただブルー・ティアーズの性能で戦っていただけでした。いいえ、その性能を活かし切れてすらおりませんでしたわ。……わたくしの力不足です」

 

 目に溜まっていた涙が横に流れ落ちていった。

 

「お前の今までの努力って何だったんだろうな?」

 

 俺の心ない一言でセシリアの涙が加速する。でも言い返してこない。元を辿れば自分の発言だったからだ。

 

「侮蔑の言葉って意外ときついだろ? 場合によっては日本刀なんか目じゃないくらいの切れ味を持ってるんだぜ? 俺はお前にそれを知っておいてもらいたかったんだよ。自分の努力を否定されて、イヤだなって思ったならさ。箒に謝って欲しいんだ」

 

 言いたいことは言った。しかし、つい言葉を重ねてしまう。これも女の涙のせいか?

 

「この一件でお前は色々と辛い言葉を受けるかもしれない。クラスメイトに、あるいは本国の人間に。そんなときは俺に恨み言をぶつけてくれて構わない。いくらでも受け止めてやる。度が過ぎる奴には代わりに殴りに行ってやる」

 

 やっぱり俺は女性の涙に弱いな。言わなくていいことばっかり口に出ている。

 

 セシリアの涙を拭ってやると、もう涙は流れていなかった。これ以上言うことが無かった俺は、半ば放心状態のセシリアを置いて踵を返し、箒の待つピットへと戻った。

 

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