第1話 28歳、疑念を持つ
俺は浅田 幸治郎。昨年の夏に他界した親父の跡を継いでボロアパートの管理人をしている。
だがシャレにならないほどにボロアパートなので住人が誰もいない。10室ある2階建てなのに。
だがそれならとっくに二束三文で売り飛ばしている。
なのに何故手放さないか。
それはその一室に俺の仕事場があるからだ。
俺の仕事は探偵。
と言ってもシャーロック・ホームズや蝶ネクタイの小学生の如く難解な事件を鮮やかに解決する様な探偵ではない。
浮気とか相続とか身内の相談とかを受け入れる民間人向けの探偵だ。その事務所をアパートの1階の一室に構えている。依頼は結構あり月に20件ほどだが1人で間に合う程の仕事なので仕事は1人だけだ。
と言ってもこのアパートから少し離れた家でも1人だが。
一人っ子だし母は生まれた時に難産で他界したし父は前述の通りだ。
だが1月に1度ほど、そうではなくなる日がある。
俺の事務所に時々艦娘が現れるのだ。
艦娘というのは知っている。自分はやっていないので詳しいことは分からないが艦隊これくしょんとかいうブラウザゲームに出てくるキャラクターたちの総称だ。
勿論このゲームは想像の産物であり画面の向こうの世界なはずなのだが。
そこの住人である彼女たちが時々なんの前触れもなしに現れる。
まるで梅雨に雨が降ることの様に当たり前に。
1度病院で検査したことがある。探偵が頭をやられてしまったとあればすぐに事務所を畳まねばならない。結果は正常だった。
そして狂った様に出てくる娘達の史実での進水日(誕生日の様なものらしい)や轟沈日(反対に命日の様なものらしい)を調べたことがある。全く関連性を見出せなかった。
塩の満ち引きに関係でもあるのかと思い1番近い海岸の干潮、満潮時刻も調べた。全く不規則だった。
もうこうなっては諦めるより他はない。誰か1人くるたびに警察に頼んで孤児院に送ってもらうことにした。ちょうど最近国立の孤児院が隣町にできたのでそこに入ってもらったそうだ。
後悔はない。そんなよくいる主人公の様に同棲だなんて俺にはコミュニーケーション的な問題でもできないし金銭面だってそんな養えない。
そんな28歳、独身、童貞の冴えない男の春。
今日は買い出しの日だ。浮気調査の為の盗聴器を買いに隣町の電気屋に行った。そういえばこの街であの娘達は生活してるんだな...。
そう思い行きがてらのコンビニで夕飯用のおにぎり3個を買う。
時刻は午後5時。いくら日が伸びたと行ってももうこの時間になるとあまり外出は控えたくなる時間だ。
そろそろ帰ろう。そう思い駅に向かう。
駅員『お急ぎのところ大変申し訳ありません。この電車は、隣の駅で起きた人身事故の影響で1時間ほど運転を見合わさせていただきます』
まじか。
運転見合わせは遅れるのは勿論その動き始めた後の電車が尋常じゃなく混んでいる。こんな時だけ全人類の人口が3割ほど減ってくれればいいのにと切に願う。
ドアの窓に叩きつけられる。顔から。脚もあらぬ方に曲がっている。
半ば強制的に夜の街を見せつけられる。そういやあの孤児院もこの沿線だったな...。
駅員『まもなく、◯◯、◯◯、お出口は右側です』
そんな音声と共にブレーキがかけられていく。
減速する視界の中に1つの灯りが漏れる大きな建物があった。
その例の孤児院だ。
そしてその光の中に認めた。いや、認めてしまった。
1人の女の子を殴りつける男の姿。
その後、駅に降りる人にもみくちゃにされても感覚が戻らなかった。
戻ったのは最寄り駅に着く直前だった。
フラフラになりながら家にたどり着き盗聴器を置いて椅子に座り込むと大きなため息を吐く。
あの女の子は?艦娘?俺が?送った娘?あの男は職員?どこの?あの孤児院の?
あそこの孤児院はまさか。
あの孤児院は何か秘密がある。そんなちっぽけな疑念があんなにも大きくなるなんて思いもしなかった。
天才、起動。